第173回:「ジャガーFタイプ」が公道を行く ジャガーとランドローバーの最新技術を試す
2013.03.29 エディターから一言第173回:「ジャガーFタイプ」が公道を行くジャガーとランドローバーの最新技術を試す
自動車メーカーが、モーターショーで発表するコンセプトカーや新技術などを、事前に一部のメディアに体験させることが時々ある。ジャガー・ランドローバーは3月のジュネーブモーターショーでいくつかの新しい試みを発表したが、筆者はプレスデイ前日に、レマン湖畔の特設会場でそれらに乗ることができた。
“しつけられた速さ”が印象的な「Fタイプ」
まずは、「ジャガーFタイプ」。Fタイプは2012年10月のパリモーターショーで発表されていたが、マーケットへの納車はまだ先で、関係者以外は誰も運転していない。したがって、ジャガー関係者の運転するFタイプの助手席に乗って、湖の周辺を走るにとどまった。
ナンバープレートが付いて、現実世界で眺めるFタイプはとても特徴的だ。同じジャガーのスポーツカー「XK」などはボディーのすべての面が柔らかな曲面と曲線で描かれていたのに対して、Fタイプはところどころに鋭いエッジを配していて現代的な感じがする。
インテリアでまず目を引くのは、センターコンソール。コンソールの左右の“峰”の高さが非対称で、ドライバー側だけが低くなっているのがユニークだ。インテリアデザイナーは、ドライビングを妨げることなくドライバーを包み込むようなコクピットを造り上げたかったのだろう。
もう一点、横から見ていて気付いたのは、パドルとエンジンスタートボタンが渋いマットゴールドなこと。この種の操作部分の色はシルバーと相場が決まっていたものだが、センターコンソールの造形と併せて新しい雰囲気を醸し出すことに成功している。
Fタイプのエンジンは、V6スーパーチャージドが2種類、V8スーパーチャージドが1種類用意されているが、乗ったのは495psを発生するV8スーパーチャージド搭載モデル。限られた時間と場所だったのでその実力のホンの片りんしか感じることはできなかったが、よくしつけられた速さだった。
また、10秒台前半と思われる幌(ほろ)の開閉時間の短さにも好印象を抱いた。
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滑らかで素早い「イヴォーク」の新型9段AT
続いては、発表されたばかりの「レンジローバー イヴォーク」用9段ATのハンドルを握ることができた。
現行のイヴォークの6段ATは2013年後半をもってすべてこの9段ATに置き換えられるという。ZF社と共同開発され、ランドローバー社は車両テストと堅牢(けんろう)性について担当した。「9HP」と呼ばれる。6段ATは「6HP」だ。横置きエンジン用に特化して設計されたというから、いずれ「フリーランダー2」にも搭載されることになるのだろう。
開発に携わったランドローバー社のチーフプログラムエンジニア、デイヴィッド・ミッチェルは次のように語った。
「9段ATは最も効率的、かつ技術の面でも先進的です。これまでの6段ATよりも燃料消費とCO2排出量を10%削減しています」
ギアが3段増えたのにもかかわらず重量は7.5kg軽減され、全長もわずか6mm長くなったにすぎない。カットモデルを見ると、ここに9段が収まっているとは思えないほどコンパクトにまとまっている。小ぶりなトルクコンバーターが印象的だ。2枚のドグクラッチ、“インテリジェントネスト”と呼ばれるギアセットの使用などにより、コンパクトなサイズを実現したという。
6HPとの外見上の違いは見当たらない。1速のギア比が低められたことによって、発進は2速からと説明を受けたが、もちろん「D」モードを選んで走りだすので自覚することはない。1速から発進するのは、ランドローバー各車が標準装備する走行制御システム「テレインレスポンス」で、オフロード走行用の3つのモードを選んだ場合に限られる。
効率の向上と併せた9段化のもうひとつの目的が、これだった。1速をローギアード化することによって駆動力を増やし、悪路での走破性とドライバビリティーを向上させる。トレーラーなどのけん引や高地や急勾配での走行にも役に立つ。
イヴォークのような横置きエンジンで悪路走破性を高めるのに9段化するというのはコロンブスの卵的なアイデアで、ZF社が共同開発したというのもうなずける。世界的に増加しつつある横置きエンジンのコンパクトSUV用に少なくない数の供給が見込めるからだ。
さて、走りだした印象だが、素早い変速とショックの少なさが印象的だ。ハンドル裏のパドルを使ってのマニュアル変速でもその感触は変わらない。スロットルペダルを強く踏み込んだ場合や強めに減速した場合の、1段飛ばしの“スキップシフト”の際にも滑らかで素早い。
レマン湖畔の赤信号で止まったら、アイドリングストップ機構が作動した。現行イヴォークの弱点のひとつがこれで解消したことになる。9HPの変速の滑らかさと素早さは狙い通りのものだった。これに乗ったら、他のATが古くさく感じられることだろう。次回は、ぜひオフロードで試してみたい。
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オフロード四駆とモーターは相性がいい
次に運転したのが「EVディフェンダー」。7台製造されたプロトタイプで、ランドローバー社の長期的な電化戦略の一端を担ってはいるが、市販化の予定はない。同社ヘッド・オブ・アドバンストリサーチのアンソニー・ハーパーは開発のキッカケについて次のように語った。
「ほとんどのEVは都会での使用を前提として、都会で開発されます。これを『オールテレインでできないか!?』と考えたことが始まりです」
南アフリカの野生動物保護区のレンジャー用として使用することでも開発を進めている。音がしないので、ライオンやキリンなどに近づくのに気付かれにくいから都合がいいのだ。いいテスト場を見付けたものだ。
出力94bhp(70kW)および30.6kgm(330Nm)の電気モーターと、蓄電量27kWhの300ボルトのリチウムイオンバッテリーが搭載され、航続距離は約80km(50マイル)以上。低速走行のオフロード使用では最長8時間充電せずに走行可能。7kWの急速充電器を使えば4時間、3kWのポータブル充電器では10時間で充電が完了する。「ディフェンダー」の4WDシステムとデフロックを備え、最新のテレインレスポンスシステムも搭載している。
つまり、航続距離と充電時間という現在のEVが抱えている宿命的な問題を除けば、今でもフィールドに飛び出していけるほどの完成度を持っているのである。
実際に走りだしてみても、EV独特の発進時の力強い加速で、大きなディフェンダーを軽々と押し出していく。勇ましい排気音の代わりに聞こえてくるのは、地下鉄のような「ウィーン」というモーター音だけだ。トランスミッションが存在しないので、スロットルペダルの踏み方だけで加減速をコントロールしなければならない。トランスミッションが存在しないということはリバースでも前進と同じスピードが出るので、野生動物から逃げなければならない時にも好都合だろう。
駐車場に模擬的に設営された深い轍(わだち)のセクションに挑んでみた。前のEVディフェンダーは右後ろのタイヤが宙に浮いて、辛うじて3輪で立っている状態だ。
それにビビる必要もないほどに、EVディフェンダーで深い轍の連続を楽々とクリアすることができた。EVのモーターとバッテリーは極低速域でも太いトルクでネバるようにして走るので、悪路にはピッタリだということがよくわかった。テレインレスポンスを組み合わせたEVディフェンダーは、本物の悪路で抜群の走破性を示すに違いない。急な下り勾配でのヒルディセントコントロール使用時もエネルギーを最大限に回生することができるから、オフロード四輪駆動車は本質的にEVに適しているのかもしれない。
さらにEVディフェンダーの可能性が広がるのは、渡河性能だ。バッテリーとモーター、コンバーターなどが完全防水なので、現行のエンジンを搭載したディフェンダーよりも渡河水深限界が深くなり、800mmにも達している。吸排気の心配がないからだ。
EVディフェンダーには大きな可能性を感じた。バッテリー性能が向上した際に得られるものはオンロードモデルよりも大きいのではないだろうか。引き続き改良を見守りたい。
(文=金子浩久/写真=金子浩久、ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

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