MINIクーパー クラブバン(FF/6AT)
乗りこなせれば達人級 2013.07.28 試乗記 おしゃれアイテムとしての完成度が高いMINIのラインナップに加わった、2人乗車の「クラブバン」。このクルマをおしゃれに乗りこなすには、高いスキルが必要か?ベースは「MINIクラブマン」
ルームミラーに目をやると、見慣れない情景が映っていた。視界は整然とした格子で区切られ、コックピットがクルマの後部から隔離されていることがわかる。どこかで見たことがあるような気がして思い当たったのは、アクション映画に出てくる護送車だ。ワルモノを後ろに乗せて刑務所まで運ぶミッションを与えられた運転手が見る映像である。映画ならばこの後ワルモノの仲間に襲撃されて大変なことになるのだが、もちろんそんなことは起きない。格子は荷室と運転席を分けるただの中仕切りで、「MINIクラブバン」の実用性を高める重要なアイテムなのだ。
ややこしいが、クラブバンは「MINIクラブマン」の派生モデルである。8つものモデルバリエーションを誇るMINIブランドの中で、シューティングブレークの位置を担う。オリジナルMINIにもこのバージョンはあって、単に「バン」と名付けられたモデルもあった。今ではさすがに「MINIバン」という名前は採用しづらいので、クラブマンと語呂を合わせることにしたのだろう。
クラブマンは、ハッチバック版のMINIのホイールベースを80mm延長し、後席のスペースを拡大したモデルだった。リアハッチを観音開きのドアに替え、右側に隠しドアを設けることによって乗降性を向上させている。クラブバンでも、この機構は継承された。違うのは、乗車定員である。リアシートをなくして荷室を拡大したので、乗れるのは2人だけだ。さらに、リアクオーターウィンドウをボディー同色の樹脂パネルで埋めているのが外観上の大きな特徴となっている。
実用的でスポーティー
一見して「商用車だ!」と感じたのは、試乗車の色に大きな原因があるだろう。クリームがかった白は、車種を問わずビジネス用のクルマの標準となっている色なのだ。ほかに淡いブルーと黒が選べるので、そちらならば違う印象になるはずだ。観音開きドアの意匠も手伝ってか、クラシカルな雰囲気も漂う。
クラブマンが3つのグレードを展開しているのに対し、クラブバンは「クーパー」のワングレードだ。122psの1.6リッターNAエンジンに、6ATの組み合わせとなる。運転席に収まれば、インテリアはいつものMINIの世界だ。大きなセンターメーターが存在感を示し、全体に円を基調としたデザインが施されている。iPhoneと連携してナビ機能をもたせる「ナビゲーションパッケージ」が装着されていたが、専用のアダプターがまだiPhone 5に対応していないのは残念だった。
好天のもとで三浦半島の海辺を流し、雨の中で秩父の山中を走った。条件が異なっても、どちらも走りの印象はよかった。ごく常識的なチューンだから乗りにくさを感じることは一切ないが、十分な速さがある。安楽にクルーズするのに不満はなく、乗り心地もハッチバックに比べてやや落ち着いているように感じる。そのあたりは延長されたホイールベースの恩恵かもしれない。さらに50mmホイールベースの長い「MINIペースマン」は着座位置の高さも相まっていわゆるMINIの乗り味とは一線を画していたが、クラブバンは俊敏性を保っている。
加速時には意外なほど勇ましいエンジン音が車内を席巻する。気持ちのいい音だから、まったく不快ではない。山道に乗り入れた時は、「SPORT」ボタンを押すべきだろう。エンジン、ステアリング、シフトタイミングの制御が変更され、スポーティーな走りを支援してくれる。もちろん、シフトをマニュアルモードにしてパドルを使うのがオススメだ。「MINIクーペ」のようにクルマと人がひとかたまりになって疾走する感覚はない。あくまで実用的なクルマとしての機能を押さえた上でスポーティーさも味わえるという、オールマイティーな仕立てである。
荷室はMINI史上最大!?
リアクオーターがふさがれていることで後方視界には多少のハンディがある。乗り始めに一度だけ車線変更でヒヤリとしたこともあったが、慣れれば問題はない。観音開きドアのせいでルームミラーには格子の後ろの真ん中に太い仕切りができてしまい、これも少々目障りではある。ただ、雨の日はそれもほほえましい光景に変わる。左右から真ん中へ同時に動くワイパーが、拝むような動作でかわいらしいのだ。
クラブマンがベースなので、4人乗りの痕跡が残っている。センターコンソールの後部にはエキストラのカップホルダーが備わる。左右の小物入れもそのままだ。クラブマンでは便利だった小さな「クラブドア」は、荷室へのアクセスにはほとんど寄与しない。あってじゃまになるものではないし、すべてを作り変えるよりも流用したほうが安上がりになるはずだ。
クラブバンの一番のウリは、MINI史上最大をうたうラゲッジスペースだ。クラブマンの260リッターに対し、860リッターと圧倒的な容量を誇る。ただ、実はクラブマンの後席を倒して荷室を最大化すると、930リッターとなってクラブバンを上回るのだ。おそらく、仕切りのネットがあることで前後の長さが短くなってしまうのだろう。使い勝手を考えると、実際にはクラブバンの積載能力が優れているのは確かだ。よく見るとネットは台所の道具掛けに似ているから、100円ショップでフックなどを買えば活用できそうだ。
クラブバンを、純然たる商用車として使う人は多くないだろう。そもそも4ナンバーではなく、乗用車登録なのだ。「ルノー・カングー」のように、オシャレ系の商売に使うのはアリかもしれない。ネットで仕切られていることだし、荷室に犬を載せるのもいいだろう。ただ、乗車定員が2名ということで、どうしても用途は限られる。
ペースマンに乗った時、MINIのおしゃれアイテムとしての完成形だと感じた。しかし、難度の高さではクラブバンははるかに高い位置にいる。リアクオーターには外観をカスタマイズできる広大なスペースがあり、そこをどうアレンジするかにセンスが問われるだろう。クラブバンを乗りこなし、使いこなすには、高いスキルが必要だ。ハードルは高いが、このクルマの魅力を十全に引き出して自在に操ることができれば、「クルマおしゃれ達人」を名乗ってもいいと思う。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
MINIクーパー クラブバン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3980×1685×1440mm
ホイールベース:2545mm
車重:1220kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター 直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:122ps(90kW)/6000rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/4250rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84V/(後)205/45R17 84V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:14.2km/リッター(JC08モード)
価格:282万円/テスト車=372万7000円
オプション装備:Mintパッケージ(12万円)/アロイホイール コニカルスポーク<シルバー>(25万円)/スポーツレザーステアリング(3万円)/マルチファンクションステアリング(3万5000円)/ランフラットタイヤ(1万8000円)/アラームシステム(7万円)/インテリアサーフェス<ピアノブラック>(3万5000円)/スポーツボタン(3万円)/シートヒーター(5万2000円)/助手席エアバッグ解除キー(8000円)/パークディスタンスコントロール(6万円)/アダプティブヘッドライト(4万円)/ホワイトターンシグナルライト(1万4000円)/ナビゲーションパッケージ(14万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1492km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(4)/山岳路(3)
テスト距離:558.2km
使用燃料:52リッター
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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