ポルシェ911ターボカブリオレ(4WD/7AT)
王者の貫禄 2014.07.17 試乗記 520psの怪力を誇る「911ターボカブリオレ」に試乗。動力性能だけに傾注しないその姿勢に、ライバルに対するポルシェの「答え」を見た。時代で変わる「ターボ」のイメージ
「911」のラインナップにおける「ターボ」の位置づけ。それはポルシェ側からみれば一貫していたとしても、われわれユーザーサイドからみればさまざまな捉え方があってもおかしくはない。
例えば僕のようなスーパーカーブームの洗礼を浴びた者からすれば、最も象徴的な「930」世代を指して「ターボ=究極」と頭のどこかで思っている。それでなくてもコントロールの難しい911の、しかもターボを御するには針に糸を通すようなドライビングスキルが必要であって、ターボにはそこに到達した者のみに許される特別な世界が用意されている。単にカッコいいからと生半可な腕前で手を出す代物ではない。と、ある種の腫れ物的なイメージといってもいい。
これが「964」から「993」の世代でポルシェに憧れた向きであれば、ターボにはもう少しマイルドな印象を抱くかもしれない。それはコーナリングマシンとしての「RS」の復活に加え、993世代からは4WDを用いるなど、ターボがスタビリティー指向をより強めたようにみえたからだ。水冷世代になれば、RSの実質的な後継ともいえる「GT3」のレギュラー化もあってその意向はさらに加速。水平方向にラインナップを広げる911ファミリーにあって、4WDが定着したターボはラグジュアリーGT的なポジションを固めていったようにうかがえる。
洗練された乗り味と盤石のスタビリティー
ピンでも強固にすぎるというのに、それが束なった日にはかなう相手が見つからない。そう思われていた911の鉄壁布陣に突破口を開いたクルマがあったとしたら、それは日本の「日産GT-R」だろう。当然のように911をライバル視するどころか、公然と「997ターボ」を比較参考車として開発に同行させ、彼らのホームであるニュルブルクリンクであからさまに優位を証明した。
それは数字上の話とはいえ、911を取り巻くサポーターには看過できない事態である。もちろんポルシェにとっても歴史的敗北の借りは返さないことには収まらないだろう。シャシーが完全刷新されて991型となったターボが内に秘めたるは、言い訳なしのGT-Rに対する勝利であったことは想像に難くない。
そのためにポルシェは、新しいターボで単に動力性能や運動性能を高めるだけでなく、日常性の洗練にこそ手を尽くしたはずだ。それはひと転がりめから鮮やかに伝わってくる。991ターボの乗り心地はあらゆる500ps級のスポーツカーはもとより、そこらのスポーツセダンをも相手にしないほど穏やかだ。単にロールやピッチがうまく抑えられているだけでなく、サスペンションはストロークの微小域から減衰がしっかりと働き、本来ならコツコツと伝わってくるだろう路面のアタリもクニュッと柔らかく丸め込む。物騒な扁平(へんぺい)タイヤを履いていながらわだちなどの外乱をものともせず、粛々とフラットに突き進んでいくスタビリティーは標準の「911カレラ」にも勝るかもしれない。その安心感は単に四駆というだけではなく、サスペンションの巧みなチューニングによるところも大きいはずだ。
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リアエンジン+フラット6の味は健在
四駆といえば駆動配分を巧みに制御しての尋常ならざるコーナリング性能を思い浮かべるだろう。もちろん991ターボにも、ポルシェが持てる駆動制御技術のあらかたが惜しみなく投入された。が、以前サーキットで試乗した際には、いびつなグリップ力が車体をねじ曲げるようなコーナリングフォースとは無縁であることに驚かされた覚えがある。もちろんそこらの山坂道では限界などまるでうかがわせないわけだが、ワインディングロードを流す程度であれば911の個性、つまりリアエンジンらしい蹴り出し感を余さずに伝えてくるほど駆動制御の介入は慎重だ。その自然なドライブフィールからは、彼らが単に速さをがむしゃらに追求したのではなく、それ以前に守るべき911らしさを念頭に置いたセットアップを心掛けたことが感じられるだろう。
先代にあたる997後期から投入された新しい直噴ターボユニットは、フラット6らしいドスの利いたエキゾーストサウンドをしっかりとトップエンドまで響かせつつ、回転数の高まりに比例し努めて線形的に、その激烈な火力をタイヤへと伝えている。これが「ターボS」になると、出力感は若干ピーキーになり吹け切る寸前までしっかりパワーを乗せてくる印象があるが、全域で使いでのある柔軟な500ps超を実現しているという点では、ターボの存在意義も捨てがたい。いずれにせよ、ほとんどのドライバーは、そのとんでもない速さを物足りないと思うことはないだろう。
積極的に“屋根なし”を選んでいい
全天候型といえば、かつての911にはもっとも不釣り合いな形容だった。が、991ターボにはそれがしっくりと当てはまる。雨の高速道路を走るにも、よほど非常識な扱い方でもしない限りはフロント側のグリップ不足を感じることはない。仮にそんな中を突き進むことになったとしても、水漏れやバタつきは無論皆無で、さらに侵入音すらクーペと遜色ないほど抑えこんだほろ屋根の出来の良さも、このクルマの大きな特長だ。
911といえばその剛性感を味わううえで、クーペでなければ話が始まらないという印象が強いが、こと991世代に関しては、予算が許せば積極的にカブリオレを選ぶべきだとすら個人的には思う。仮に屋根開きであっても、完璧な超高速移動体というターボの趣旨を濁すことはほとんどない。どころか、余力を湛(たた)えたこの姿こそが、GT-Rに対するポルシェの回答であることは誰の目にも明らかだろう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ポルシェ911ターボカブリオレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4506×1880×1292mm
ホイールベース:2450mm
車重:1665kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:520ps(383kW)/6000-6500rpm
最大トルク:67.3kgm(660Nm)/1950-5000rpm ※オーバーブースト時:72.4kgm(710Nm)/2100-4250rpm。
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.9リッター/100km(約10.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:2360万円/テスト車=2484万6000円
オプション装備:ブラック/プラチナグレー 2トーンレザーインテリア(10万9000円)/電動可倒式ドアミラー(5万5000円)/スポーツクロノパッケージ(82万6000円)/カラークレスト ホイールセンターキャップ(3万円)/シートベンチレーション(19万3000円)/フロアマット(3万3000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4270km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:329.5km
使用燃料:41.8リッター
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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