メルセデス・ベンツC180アバンギャルド(FR/7AT)
新時代の「小さな高級車」 2014.09.30 試乗記 「アジリティ&インテリジェンス」をコンセプトにフルモデルチェンジした「メルセデス・ベンツCクラス」。Dセグメントのベンチマークはどのような進化を遂げたのか。「Sクラス」をぎゅっと凝縮
先日、マイナーチェンジを受けた「フォルクスワーゲン・ポロ」を試乗して、これは亀戸餃子だ! と直感した。「直感した」なんて書くと何かすごい発見のようですが、そんなに大げさなことじゃないですね。「これは亀戸餃子だ! と思った」に訂正します。
亀戸餃子とは東京の下町、亀戸に本店があるギョーザ屋さんで、食べ物のメニューはギョーザのみ。席に座ると黙って2皿がテーブルに置かれ、おなかの案配に応じて1皿ずつ追加する。つまり1000円支払おうが1万円を支払おうが、「味」は変わらない。変わるのは「量」だけだ。
ポロも同じだ。兄貴分にあたる「ゴルフ」と比べても、基本的な「味」は変わらない。変わるのは「サイズ」だけだ。
で、メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」も、やはり亀戸餃子だった。見た目も中身も陸の王者「Sクラス」をぎゅっと凝縮。「クルマは大きいほど高くてエラい」というヒエラルキーをブチ壊した。
大きいサイズが必要な人やゆったり乗るのが好きな人は、少し余分にお金を支払って「Eクラス」やSクラスを買う。小さいほうが好都合な人はCクラスを賢く選ぶ。ポロやCクラスの登場は、自動車産業におけるちょっとしたターニングポイントだ。
ただし、メルセデス・ベンツCクラスに関しては、ひとつ確認しておきたいことがあった。初めて乗ったC200アバンギャルドのAMGラインには、このセグメント(つまり「BMW 3シリーズ」や「アウディA4」「レクサスIS」など)で初となるエアサスペンションが備わっていたことだ。
フンワリしなやかから、ビシッとスポーティーまで、臨機応変に性格を変えるエアサスのおかげでラグジュアリーな乗り味が成立しているのではないか。普通の金属バネ仕様でも、「Cクラス=亀戸餃子」は成立するのだろうか。
それを確認するために、エアサスではなく普通の金属バネの「メルセデス・ベンツC180アバンギャルド」を連れ出した。復習しておくと、「C180」とは1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載し、アバンギャルド仕様はノーマルのC180より10mm車高が低められている。
金属バネには、メルセデス・ベンツが「セレクティブ・ダンピングシステム」と呼ぶ仕組みを備えたダンパーを組み合わせる。この油圧式ダンパーは、走行状況に応じてオイルの流量を機械的に変えて減衰力を調整する、可変式ダンパーだ。滑らかな路面では油圧抵抗を下げてしなやかに動き、ハードコーナリングなどで大きな入力を受けるとビシッと引き締まる。
敏しょう性もなかなか
都心部を走りだして、正直なところエアサス仕様で感じた“魔法のじゅうたん”的な感動は受けなかった。エアサス仕様がレッドカーペットの上を滑っているのだとしたら、こちらは畳の上を行く感じで、路面の細かなざらざらが伝わってくる。
ただしこれはあくまでエアサス仕様との比較であり、単体として見れば、乗り心地のレベルは高い。鋭い突起状の路面の不整を乗り越えても、タイヤが受けたショックはドライバーに届くまでに角を丸められている。
そしてショックの角が丸められるだけでなく、ショックを吸収した後の車体の揺れがすっと収まるさまも見事だ。前述の「セレクティブ・ダンピングシステム」が機能しているのだろう。
メルセデス・ベンツみずから「アジリティコントロールサスペンション」と呼ぶだけあって、敏しょう性もなかなかのものだ。ステアリングホイールを操作する時、自分の脳が発した指令がきっちり前輪に伝わっている感覚がうれしい。だから、別にキュンキュン曲がるというわけではないけれど、クルマと一体になって走っている実感が得られる。
これには、路面とタイヤがどのような関係で接しているかが手に取るようにわかる、ステアリングホイールの手応えのよさが一役買っているのだろう。
この機敏な動きに貢献しているのが、ホイールベースが80mm長くなったにも関わらず重量が軽くなったことだろう。ボディーシェル素材に占めるアルミの割合は約50%とのことで、ホワイトボディーは先代より約70kgも軽くなっている。つまり素材選びからして上級モデルに見劣りしない。
といった具合に、金属バネのC180アバンギャルドであっても、もっと大きいモデルを食ってしまう“下克上”的性格を秘めていることがわかった。
乗り心地とアジリティーにばかり目がいってしまうけれど、黙々と仕事をしているパワートレインも非常に完成度が高い。
実用エンジンのかがみ
ターボのアシストがあるとはいえ、このボディーが1.6リッターのエンジンで走るのか、疑問に思われる方も多いだろう。でも、走るのだ。
正直に言えば、試乗を始めるまではちょっと足りないだろうな、と思っていた。けれども市街地、高速、山道と試乗を進めるうちに、エンジンの存在を忘れていた。
これはいい意味でも悪い意味でもあって、必要なぶんだけ仕事をするけれど、決して存在を主張しないエンジンなのだ。足りないとも感じないかわりに、めちゃくちゃ気持ちがいいとも感じない。実用エンジンのかがみだ。
気付かないうちにしっかり仕事をしているパワートレインの陰には、磨き上げられた7段ATの洗練があることも見逃せない。
「メルセデス・ベンツC180アバンギャルド」には、心が震えるようなエンジンだとか、魔法のじゅうたんのような乗り心地だとかの“ぜいたく性能”はない。けれども“実用性能”は、いまの自動車に求め得る最上のものだ。しかも試乗車は「オプションのレーダーセーフティパッケージ」を装備していたので、安全性でも現代の最高レベルにある。
タコが自分の足を食べてしまうように、CクラスがEクラスやSクラスを食ってしまわないか、心配になるほどだ。
ある程度の年齢になって、おいしいものを少しだけ食べたいという気持ちがわかるようになった。クルマも同じで、コンパクトだけど上質なものに乗りたい人は少なからずいるはずだ。
そういう人のための「小さな高級車」というアイデア自体は昔からあったけれど、必ずしも成功を収めたとは言い難かった。新しいCクラスやポロに乗って、その理由がわかった。技術が足りないから、小さな高級車はできなかったのだ。省燃費と力を両立する小排気量エンジン、コンパクトでありながら効率よく働くトランスミッション、まるでひとクラス上のモデルのような懐の深さを持つ足まわりなど、「小さい=安っぽい」を覆す技術が進んだ。
これから、いよいよ本当の意味での小さな高級車の時代が来る。Cクラスに乗りながら、そんなことを思った。
(文=サトータケシ/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC180アバンギャルド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1810×1435mm
ホイールベース:2840mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:156ps(115kW)/5300rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)225/50R17 94W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:17.3km/リッター(JC08モード)
価格:467万円/テスト車=566万1800円
オプション装備:メタリックペイント(8万6400円)/レザーエクスクルーシブパッケージ<パークトロニック+アクティブパーキングアシスト[縦列・並列駐車]+キーレスゴー+プライバシーガラス[後席左右・リアウィンドウ+シートヒーター[前席]+ヘッドアップディスプレイ+ハンズフリーアクセス[トランク自動開閉機構]+自動開閉トランクリッド+本革シート+エアバランスパッケージ[空気清浄機能、パフュームアトマイザー付き]+メモリー付きパワーシート[助手席]>(71万円)/レーダーセーフティパッケージ<BASプラス+リアCPA+PRE-SAFE+PRE-SAFEブレーキ[歩行者検知機能付き]+アクティブレーンキーピングアシスト+アクティブブラインドスポットアシスト+ディストロニック・プラス[ステアリングアシスト付き]+チャイルドセーフティシートセンサー[助手席]>(19万5400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4628km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:319.3km
使用燃料:27.3リッター
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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