スバルWRX S4 2.0GT EyeSight(4WD/CVT)
「速さ」という呪縛 2014.10.21 試乗記 「インプレッサ」の名を外し、新たなスポーツセダンとしてスタートを切った「スバルWRX」。直噴ターボエンジンとCVTを搭載した「S4」を借り出し、その実力を探った。インプレッサじゃありません
「『インプレッサ』って書かないでくださいね。これ、インプレッサじゃありませんからね」
朝っぱらからどっこらしょと乗り込んだと同時に、編集部のHくんからぶっすりとくぎを刺された。取材の日程や段取りを決める幾度かのメールのやりとりで、僕がしきりにこのクルマのことをインプレッサと連呼していたのが気になっていたのだろう。そう。恥ずかしながらも白状すると、このクルマがスバル的にはインプレッサと非なるものであることを知ったのはこの時だった。じゃあWRXってなんなのさと思ったら、それ自体が車名であるという。すなわち「スバルWRX」という銘柄のモデルであり、その下に「STI」と「S4」の2種類が設定されていると。
「このS4は直噴2リッターのターボにCVTの組み合わせで、STIの方は昔からの『EJ20』に6段MTの組み合わせなんです」
マンガの決闘シーンになると必ず現れる解説くんのように、テキパキとクルマの成り立ちを説明してくれるHくん。てぇことはこのS4ってえのは、「レヴォーグ」のセダンみたいなもん? と問うてみると「まぁそうっちゃあそうなんですが、スバル的にはそうは言われたくないみたいですね」と煮え切らない答えが返ってきた。要するに、現状スバルのセダンは「インプレッサG4」とこのWRX、そして「レガシィB4」が用意されていると。そしてステーションワゴンは「レヴォーグ」と「レガシィツーリングワゴン」が用意されていると。察するに、次期型以降のレガシィはいよいよ米国主導のフルサイズDセグメントとして昇格させて、日本ではレヴォーグとWRXをレガシィ相当としてこれから売っていこうというのだろうか。となるとレガシィの名前は国内ではどういう扱いになるのだろうか。それ以前に、スバルの生産規模でここまでモデルを細分化する意味はなんなのよ?
釈然としない僕に傍らのHくんはスマホを駆使しつつ追い打ちをかける。
「ちなみにこれ、インプレッサG4と全長15mmしか変わんないですね。ホイールベースは5mm、全幅は55mm広がってますが」
……それって結局インプレッサみたいなもんじゃん。
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パワートレインは合格点
全長4595mmの全幅1795mmで、ホイールベースは2650mm。インプレッサに例えることを避けるとすれば、S4のディメンションは先代の「アウディA4」にほど近い。素直にみれば、日本で扱うにギリギリ程よい車格のセダンである。一方で、搭載される「FA20」型フラット4は直噴ターボにより300psを発生。トルクも40.8kgmと、V8を積んでいた当時の「アウディS4」にも比肩しそうなほどだ。あ、それでS4か! みたいなボケは絶対書かないでくださいよ……と傍らのHくんは心配しきりである。
それに組み合わせられるトランスミッションはレヴォーグと同様、スバル渾身(こんしん)の縦置き用CVT=リニアトロニック。そういえばアウディはマルチトロニックやめちゃうらしいね……と話し始める頃にはH君もかなりイライラしている風だったので、黙って試乗に専念することにした。
くだんのCVT。そのフィーリングに関してはS4のポテンシャルにほぼほぼきれいに寄り添っている。気になったところといえば、走り始めの食いつきが敏感でじんわりとしたスタートには若干アクセルワークを気遣うこと、全開時の加速感に例のグニュッとした伸び感がつきまとうこと……くらいだろうか。疑似的に設けられた6段のステップは適切で、マニュアルライクな運転ではシフトダウンによるエンブレ効果もまずまず望めるなど、サーキット走行級の負荷でも与えない限りは十分スポーティーに振る舞ってくれる。耽美(たんび)的MTシンパには相いれないところはあるにしても、印象的CVTアンチを納得させるに十分なものを持ってはいるようだ。
そしてわざわざSTIを別途で用意しているくらいなのだから、S4の役割が運動性能と上質感の融合にあるとするならば、静粛性の高さもCVTを使った恩恵ということになるだろう。もちろん巡航時の使用回転数の低さは、燃費の向上にもつながっている。自慢のアイサイトはレヴォーグと同様の最新フェイズが採用されているが、その優秀な前車追従クルコンを使っての高速巡航では、100km/h前後の速度で15km/リッター付近の数値を示していた。WRXを名乗るかつてのクルマたちとは雲泥の差だ。
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狙いどころが狭すぎる
ところが、総じて上質に仕立てられたパワー&ドライブトレインに対して、足まわりの印象はといえば、はっきりと硬い。特に街中をノロノロとはいずりまわる低速域ではささいな凹凸のみならず、マンホールの踏み越えまでも逐一拾っては車体を細かく揺すり続ける。ガツンとくる初っぱなのインパクトはなんとか角を丸めるも、その後の上屋の正直な動きをみるに、ダンパー以前にバネやスタビライザーといった金物の設定値が必要以上に高そうな印象だ。それを受けるボディーも相当強靱(きょうじん)にしつらえたがゆえに入力のいなしどころがない。スポーツセダンというよりはいかにもスポーツカーでございという曖昧さのない乗り心地である。
そこから速度域を上げていけばさすがに全体のライドフィールは丸く収まってくるも、ようやくしんなり走り始めたかと思う速度はおおむね100km/h前後。つまりそこから向こうにS4の本領は待っている。強引に負荷を掛けても身をよじらせるようなそぶりも見せず、姿勢をフラットに保ちながらピターッとコーナーを抜けていくサマをみるに、その限界は相当に高いことは十分に察せられる。箱根でいえばターンパイクなんかをズバズバ上がっていけば、じっくり粘り倒すその動きにほれぼれすることだろう。
が、STIが傍らにあると聞けば、果たしてこのフォーカスの狭さはなんなんだろうという気にもなってくる。せっかく別立てで売るのであれば、使っている時間の圧倒的に長い低中速域から上質な乗り心地を目指すべきではないだろうか。それでは300psを支えられないという話ならば、本末転倒もいいところ。パワーを切り捨てたぶん低回転域からのトルクをよりフラットなものとしてCVTの特性との親和性を高め、その上でサスセットの方向性を再定義すべきではないだろうか。
正直な印象として、S4の位置づけは周囲のスポーツセダン、そしてスポーツカーまで対象の裾野を広げて見ても、その総合的能力は中途半端に古い。クルマ自体の良しあしという以前に、一体スバルはこのWRX S4というクルマをどういうコンセプトで作りたいのか。ライバルとすべきだろうクルマたちのポジションと、WRX STIが傍らにあるという前提を押さえていれば、より扱いやすさと乗り心地に配慮した全天候型GTという落としどころが見えてくるはずだ。ともあれ、速いという価値に引っ張られすぎ。それがゆえにごく普通のスバル車、それこそインプレッサG4辺りがもっている素直さや優しさがそがれているところが、つくづく惜しいと思う。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
スバルWRX S4 2.0GT EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.2km/リッター(JC08モード)
価格:334万8000円/テスト車=343万9800円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万2400円)/オールウェザーパック<フロントワイパーデアイサー+スーパーUVカットフロントドアガラス+はっ水加工フロントドアガラス>+ウエルカムライティング&サテンメッキドアミラー<フットランプ付き>(6万4800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2124km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:311.1km
使用燃料:34.4リッター
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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