第371回:「スバル360」などの名車にイッキ乗り!
スバルのクルマ作りの歴史を学ぶ(前編)
2016.10.13
エディターから一言
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「スバル360」に「スバル1000」「レオーネ」、初代「レガシィ」と、往年の名車に一斉試乗! 富士重工業(スバル)が60年を超えるクルマ作りの歴史を紹介する“歴史講座”を開催した。会場となったスバル研究実験センターから、イベントの様子をリポートする。
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往年の名車に試乗するまたとないチャンス
突然ですが、自慢話していいですか?
読者諸兄姉の皆さまは、スバル360やスバル1000を運転したことはありますか? 私はあります。というか、先日試乗してきました。スバルが催した同社の歴史セミナーに、なんとクラシックカーの試乗プログラムが含まれていたのですよ。長年にわたり旧車趣味をこじらせている私ですから、いまなお思い出すたびに「ぐふふふふ」という笑いがこぼれてしまいます。
なんでスバルは、このタイミングで、こんなステキな取材会を催したのか? いつもお世話になっている広報のO氏&I氏いわく、どうやら来年、社名を「富士重工業」から「SUBARU」に変更するにあたり、あらためてスバルのなんたるかを知らしめたい。より広く、自分たちがどんなメーカーであるかを知ってほしい。という思惑があるようです。
もっとも、スバルにどんな思惑があろうと私のモチベーションには関係ナシ。「このイベントは、中島飛行機武蔵製作所の跡地(の近所)で暮らしている私への、神様からのプレゼント」と勝手に解釈し、カメラ片手に栃木県のスバル研究実験センターを訪れたのであります。
なお、説明不要のこととは存じますが、中島飛行機とは富士重工業の前身となった航空機メーカー。来年はその創立100周年にあたります。
さて、セミナーはまず、スバルの自動車開発の歴史を学ぶ“座学”から始まりました。
マイクを握ったのは「スバル1000にあこがれて富士重工業に入社し、主にレオーネから開発に携わった」というスバルOBの大林眞悟氏、車両研究実験総括部部長の藤貫哲郎氏、新型「インプレッサ」のプロジェクトゼネラルマネージャーである阿部一博氏のお三方。そこで特に印象的だったのが、人気を博した4代目レガシィの開発について、藤貫氏が「大失敗」と述べたことでした。
気持ちだけではクルマは作れない
4代目レガシィといえば“100kgの軽量化”をはじめ、従来モデルからの大幅な進化によって市場から高評価を得たモデルだったはず。しかし開発は一筋縄ではいかなかったようで、藤貫氏は「ボディー剛性を上げるべきか、下げるべきかなどで現場は混沌(こんとん)としていた。今は単に剛性を上げる、下げるということではなく、非線形の変形をなくしていくのが良いとわかっている。当時は、志は高かったけど技術力がついてきていなかった」と述べています。
さらに、話を継いだ阿部氏いわく「こうした技術の混沌があったから今がある」とのこと。「2002~2003年にも、『NPF(ニュープラットフォーム)』を投入しよう、CVTを搭載しようという動きがあったが、2年やって、試作車を作る直前でつぶれてしまった。当時は悔しかったが、今考えると、技術の裏づけなしに考え方だけをベースにクルマを開発していたと思う。つぶれてよかった」
今日のスバルには、こうした開発の歴史から得た「気持ちだけではダメ。技術の裏づけが必要」という認識が根底にあるようです。新型インプレッサの研究開発に際し、1000分の1秒単位で足まわりの動きやボディーの変形などを測れる計測器を導入したのも、そうした考えに基づいてのことだとか。過日の「スバルグローバルアーキテクチャー」の説明会を思い出すに、人間の感覚を軽視してデータに頼るというわけではなく、人間が無意識に感じた違和感のもとを探ること、言葉で説明するだけでは伝わりにくい感覚を数字によって“見える化”し、皆で同じ認識を持つことが目的のようです。
藤貫氏の「今の時代、自動車の開発には数百億円かかる。職人の直感だけでなく、数字の裏づけが必要」という発言は、スバルを「職人かたぎなメーカー」とだけ思っていたころの自分なら違和感を抱いたでしょうが、こうした話を聞いた後だとすっきり腹に落ちました。
スバル秘蔵の4台に試乗
その後、エンジンの変遷などに関するマニアックな講義を受けてから、いよいよヒストリックカーの試乗へ。ちなみに、今回の座学は全部合わせて80分でしたが、スバル社内での「勉強会」では、3~4時間の歴史講座を経てから試乗とあいなるとのこと。今回の趣旨とは関係ありませんが、社員向けにもこうした機会を設けているあたりに、スバルの人材育成に対する姿勢を感じます。
試乗会場に到着すると、用意されていた車両は「スバル360DX」(1968年)、「スバル1000 2D DX」(1967年)、「レオーネ クーペRX」(1971年)、「アルシオーネ2.7 VX」(1989年)の4台でした。本当はジョルジェット・ジウジアーロがデザインを手がけた「アルシオーネSVX」(1991年)や、懐かしの乗用ワンボックス「ドミンゴ4WD GX」(1987年)にも乗れる予定だったのですが、お天気、時間、クルマのご機嫌など、もろもろの問題があり、その2台は取りやめとなってしまいました。
私の試乗は、まずレオーネ クーペRXから。座学コーナーで大林氏は「スバル1000のいいところを受け継げなかった」「ずっと『こうじゃない』と思っていた」と辛口に評していましたが、実車はどうなのでしょうか。
外観は、うむ。アメリカのマッスルカーを思わせるスタイリングがイケています。まあ、当時の国産クーペはみんなこんな格好をしていたようですが。運転席に座っても、目前にずらりと並んだメーター類にやる気があおられます。
“普通”に運転が楽しめる
同乗するスタッフから「フロントヘビーでステアリングも重いので、気をつけてください」というアドバイスを受けつつ、いざ出発。すぐにエンストするのではと危惧していたエンジンは意外と粘り、癖があるのではと警戒していたトランスミッションも別段気難しいところはなし。クラッチはミートの位置もストロークも違和感がなく、すんなりと切ったりつないだりできます。
それにしても、ツインキャブのエンジンのビート感が勇ましい! 一般道を模したとおぼしき「商品性能評価路」を走っていると、なんだかアシも当時のクルマとしては硬めな気がします。実はこのRXというグレード、今で言うところの「スペックC」的な体育会系のモデルなのだとか。ブレーキも当時としては先進的な4輪ディスク! なのに、助手席のスタッフに「コーナーではいつもより手前からブレーキを踏んでいってください」と言われてしまうあたりに、流れた歳月の長さを感じてしまいました(笑)。
懸案だった重ステは……確かに重いです。フロントヘビーも言われればそう感じますが、長年ポンコツの「ローバー・ミニ」に乗ってきた自分からすれば、どちらもなんてことはありません。「思っていたより普通に走れる。というか、今乗っても普通に運転を楽しめるクルマじゃないの?」と、良くも悪くも拍子抜けしてしまいました。
一方で、キョーレツに時代を感じたのが、次に試乗した「スバル1000」でした。
(後編へ続く)
(文=webCG ほった/写真=富士重工業、webCG)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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