フォルクスワーゲン・ティグアンTSIハイライン(FF/6AT)
ライバルは身内にあり 2017.03.09 試乗記 8年ぶりにフルモデルチェンジしたフォルクスワーゲンのコンパクトSUV「ティグアン」。同社の生産モジュール「MQB」をSUVシリーズとして初めて採用したティグアンは、どのモデルよりも「ゴルフ」を思わせる、折り目正しいクルマに仕上がっていた。装備が充実した「TSIハイライン」グレードに試乗した。トゥーランやパサートよりゴルフっぽい
新しいティグアンはまるで背の高いゴルフだ。カタチは異なるが、乗った印象は非常によく似ている。ティグアンは、「ゴルフ」「ゴルフトゥーラン」「パサート」同様、フォルクスワーゲンの新しい前輪駆動(FWD)車用プラットフォームであるところのMQBを使って開発された。だから似ていて当然なのかもしれないが、なぜかトゥーランやパサートに乗ったときよりも、ゴルフっぽいと感じさせた。
新型ティグアンは端正なデザインをしている。ヘッドランプとフロントグリルが一筋に連なるフロントマスクが印象的だ。リアにはゴルフとのファミリーであることを強調するようなデザインのコンビランプが採用された。ボディーサイドにフォルクスワーゲングループが得意とするシャープなキャラクターライン(こんなにペキッと折り目を付つけられる自動車メーカーは少ない)が配置され、その高さに合わせてドアノブが配置されている。ゴルフ同様、デザインのどこにも人をびっくりさせるような部分はないが、「どうだ、ガイシャだぞ!」と人に見せつけたい人が買うブランドではないので、それでいいと思う。
全長4500mm(先代比+70mm)、全幅1840mm(同+30mm)、全高1675mm(同-35mm)と、長く、広く、低くなった。ホイールベースは2675mm(同+70mm)。つまり、全長が長くなった分はすべてホイールベースの拡大に充てられているわけだ。当然、室内空間は広くなった。特にリアシートに座った時の膝前あたりの余裕が先代とは大きく違った。ちなみにリアシートは前後に180mmスライドするので、荷物の量に合わせて、室内空間と荷室容量の配分を変えることができる。荷室はスクエアで使いやすい。左右部分はわずかながらにえぐられており、未確認ながら経験上申し上げるとキャディーバッグ真横積みもOKのはずだ。
その走りに死角なし
冒頭に述べた「ゴルフっぽい」とは、ほぼどこにも落ち度のない乗り心地とハンドリングを指す。1.4リッター直4ターボエンジンは最高出力150ps/5000-6000rpm、最大トルク25.5kgm/1500-3500rpmと突出したスペックはもちあわせないが、いわゆる“トルクのつき”がよく、踏めばスッとクルマが前へ出てくれる。ブレーキをリリースしてからクリープが始まるまでに一瞬の間がある(ときもあるし、ほとんどそれを感じないときもある)のはやや気になるが、発進時を除けば変速ショックはほぼ感じられない。全域で静粛性も高い。ブレーキもよく利く。ステアリングを切ればクルマは素直に曲がり始める。すべてにおいて教科書的だ。
このエンジンにはACT(気筒休止システム)が付いている。負荷が小さく、回転数が1400-4000rpmの範囲にあり、かつ130km/h以下で走行中というのが気筒休止の条件だ。メーター表示によればしょっちゅう休止しているという表示が出ている。ただ、今回の試乗での燃費は、11.4km/リッター(車載燃費計データ)と期待ほどではなかった。
快適な乗り心地
乗り心地はとてもよい部類に入ると思う。街乗りでは、もう少し足まわりのセッティングがソフトなほうがいいと感じる人もいるかもしれないが、高速道路では、だれもが段差などによって生じる揺れの収束の速さに感心するはず。昔ながらのゴルフの振る舞いそのものだ。
ダンパー減衰力、シフトプログラム、パワーステアリングなどの設定を「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」の4モードから選べるドライビングプロファイル機能が付いている。「シフトは積極的に低いギアを選んでほしいけれど、ステアリングは軽いほうがいい」とか「エコモードで走らせたいが、エアコンはよく効くほうがいい」など、自分の好みが4モードに当てはまらない人は「カスタム」モードを選んで、項目ごとに設定を選ぶこともできる。
ライバルはゴルフ
日本仕様のティグアンは現状FWDのみの設定だ。本国にはもちろんフォルクスワーゲンが「4MOTION」と呼ぶ4WD仕様も存在する。4WDがないことをどう考えるべきか。4WDとFWDが両方設定されている場合、FWDのほうが売れる。今や一部のモデルを除けばSUVだからといって悪路に強いという要素はほとんど期待されていない。加えて、スタッドレスタイヤの進化はとどまるところを知らず、無理、むちゃをしなければFWDでも雪上を安全に走らせることができる。毎冬積雪するという地域にはまた別の考え方があるだろうが、輸入車がよく売れるのは都市部だ。となるとFWDに絞ったほうがビジネスの効率が高いという判断なのだろう。一抹の寂しさを禁じ得ないが、理解はできる。もちろん、あとから4WDが追加される可能性もあるが。
このほか、アダプティブ・クルーズ・コントロール(渋滞時追従システム付き)、レーン・キープ・アシスト、レーン・チェンジ・アシスト、リア・トラフィック・アラート、それにプリクラッシュブレーキなど、予防安全デバイスはほぼ全部載せで備わる。
FWD専用ということもあって、新型ティグアンはゴルフと迷うクルマではないだろうか。荷物が多いならティグアン、コンパクトなほうがよければゴルフ。でもそう考えると、ティグアンTSIハイラインの433.2万円は、ほぼ同じ装備を備えた「ゴルフTSIハイライン コネクト」の346.9万円に比べ、割高な印象を受ける。4WDでこの価格を、というのは求めすぎだろうか。
(文=塩見 智/写真=田村 弥/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ティグアンTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1840×1675mm
ホイールベース:2675mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100V/(後)235/55R18 100V(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:16.3km/リッター(JC08モード)
価格:433万2000円/テスト車=512万5800円
オプション装備:テクノロジーパッケージ(30万2400円)/レザー&パノラマルーフパッケージ(43万2000円) ※以下、販売店オプション フロアマット プレミアムクリーン(5万9400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3080km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:156.6km
使用燃料:13.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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