ランボルギーニ・カウンタックLP500S“ウルフ・カウンタック”
現在進行形の“伝説” 2017.03.29 スーパーカークロニクル スーパーカーブームの主役は「カウンタック」。そのまた頂点に君臨したのが、当時「LP500S」と呼ばれたこの“ウルフ・カウンタック”である。現オーナーの元でオリジナル状態に戻された“赤いオオカミ”が、三十余年のときを超えて、いま再び咆哮(ほうこう)する!石油王ウォルター・ウルフの特注モデル
カウンタックの最高位。ウルフ・カウンタックは「ミウラSVR(イオタ)」と並んで、ブームの頂点に君臨した“ザ・キング・オブ・キングス”である。
生まれはオーストリアだが、カナダで名をなした石油王(その他、F1チームオーナー、建設業やたばこ、軍需産業でもその名を上げた)のウォルター・ウルフが特別に造らせた一台、と簡単に語られることが多い。けれども物語はもう少しドラマチックだ。ウルフ・カウンタックは、単なる金持ちの気まぐれ特注モデルなどではなかった。
このスペシャルなカウンタックを語るとき、ウルフ以外にもうひとり、重要な人物に登場してもらわなければならない。
ジャン・パオロ・ダラーラ。レーシングカー・コンストラクターとして、後に世界で最も成功した人物になる前の、それは若き時代の話だった。
1960年代半ば、ランボルギーニの黎明(れいめい)期にエンジニアとして加わり、ミドシップカー「ミウラ」を世に送り出したダラーラだったが、レーシングカー製作への野望を捨て切れず、一度ならず二度もサンターガタを去る。その後、ランボルギーニ社は創業者の手を離れ、セカンドオーナーの元で再建を図るわけだが、そのとき再びダラーラ(すでに自らの会社ダラーラ・アウトモビーリを設立)は社外の技術コンサルタントとして猛牛チームの一員となった。与えられた仕事のひとつが、フラッグシップであるカウンタックのエボリューション。
重いエンジン、パワー不足、細いタイヤ、プアなブレーキ、そしてエアロダイナミクスの欠如。「カウンタックLP400」は弱点だらけだ。ダラーラはそう考えた。それらを克服しようにも、当の会社にはどれほどの研究開発予算もない。妙案が友人ウルフとのコラボレーションだった。
ウルフはそのときすでに大富豪であり、フランク・ウィリアムズとヘスケスF1チームを共同で運営しさえしている。もちろん、ダラーラはそのプロジェクトのメンバーであった。しかもウルフは有名なカーコレクターであり、フェラーリも大好きだがランボルギーニも好みで、特に「ミウラSV」の大ファン、しかしカウンタックLP400のスタイルとパフォーマンスには不満たらたら、であったらしい……。
後のランボを方向付けた“猛牛の始祖”
ウルフのような“カーガイ”の注文(=文句)に応えることこそ、ランボルギーニのフラッグシップのあり方だとダラーラは考えた。結果的にウルフ・カウンタックの、このド派手なイメージがランボルギーニ社のその後のイメージを決定づけ、現在に至ったことを考えると、このクルマこそ現代の猛牛の始祖であり、ダラーラの慧眼(けいがん)ぶりを物語る。
かくして、ウルフのスペシャルオーダーに応えながら「カウンタック エボリューション」の開発を進めるという一石二鳥のプロジェクトが始まった。LP400をベースに、「ストラトス ラリー」用に開発された、とも、ミウライオタSVR用にオーダーメイドされた、とも言われるピレリP7をブラーボホイールに巻いて履き、黒の前後スポイラーとオーバーフェンダーをまとって、ランボ社R&D部門専用の仮ナンバー380を付けた赤い開発車両が、サンターガタ郊外を走り回る。後のウルフ・カウンタック1号車、すなわち撮影車両そのものだ。5リッターエンジンの搭載は定かではない。ただし、エンジンがパワーアップされていたことは確かである。
1人の成功者の欲望と、1人のエンジニアの野望が生み出したモンスター。その開発が順調に終わったであろうことは、後の「LP400S」を見れば明らかだ。無事役目を終えた赤い開発車両には化粧直しが施され、ウルフの元へと晴れて納車される。その後、ウルフには別の青い2号車、さらにはLP400Sベースの3号車が仕立てられ、1号車(と3号車)ははるばる日本へ渡ってきた。映画『蘇る金狼』のなかで、松田優作がドライブするシーンは、あまりにも有名だ。
一度は破滅的なコンディションに落ちたが、現在は、スーパーカーパーツとメンテナンスで有名な、アウトモビーリ・ヴェローチェの岡戸代表の手によって、丁寧にウルフ時代の様子へと復元されている。運転席のサイドシルには、ウルフのスペシャルオーダーである旨を金色のプレートが語り、室内にはF1用のパーソナル製超小径ステアリングホイールと4点式シートベルト、340km/hフルスケールメーターが……。性能とドライビングファンを重視したウォルター・ウルフの雄たけびが聞こえるようだ。
ウルフ・カウンタックには、70年代のスーパーカー中のスーパーカーでありながら、次の世代、すなわちパフォーマンスとエアロダイナミクスを重視した現代に至るスーパースポーツカー時代への萌芽(ほうが)が、すでに見受けられるのだった。
(文=西川 淳/写真=小林俊樹/取材協力=アウトモビーリヴェローチェ/編集=竹下元太郎)
※初出『webCG Premium』(GALAPAGOS向けコンテンツ)2011年春号(2011年4月1日ダウンロード販売開始)。再公開に当たり一部加筆・修正しました。
車両データ
ランボルギーニ・カウンタック LP500S “ウルフ・カウンタック”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:MR
エンジン:5リッターV12 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:--ps(--kW)/--rpm
最大トルク:--kgm(--Nm)/--rpm
タイヤ:(前)--/(後)--

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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