第432回:公道で「アイサイト・ツーリングアシスト」を体験!
先進の運転支援システムの“現状”と“課題”を考える
2017.08.12
エディターから一言
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「WRX S4」「レヴォーグ」の改良モデルから導入が進められている、スバルの最新運転支援システム「アイサイト・ツーリングアシスト」。より緻密になった加減速の制御と、強化された操舵支援機能を、渋滞の首都高速道路で試した。
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先進の運転支援システムを公道で試す
記者は今、夏休みでにぎわう東京・六本木ヒルズにいる。日本屈指の複合商業施設にして、IT長者やら若手実業家やらが夜な夜なパーティーを開いているという、勝ち組の都だ。
これはすごい。武蔵野の小市民としては、アウェー感がハンパない。
なぜに常日頃より清貧を貴ぶ記者が、こんな肌の合わぬ地に赴いたのかというと、スバルの「アイサイト」に採用された新機能、アイサイト・ツーリングアシストを公道で試すためである。
スバル好きの読者諸兄姉はすでにご存じやもしれぬが、8月の11日から20日までと、26日・27日の2日間、スバルはこの地で一般ユーザー向けにアイサイト・ツーリングアシストの体験試乗会を催している。で、厚顔にも「私たちの分ぐらい、試乗枠は残ってますよね?」という念を恵比寿駅東口の方向(スバル本社がある)へ送っていたところ、スバルが「……興味があるのでしたら、どうぞ」と申し出てくれたのだ。
ここでちょいとアイサイト・ツーリングアシストについておさらいすると、ようするにこれは、操舵支援機能付きの前走車追従クルーズコントロール(以下、ACC)である。他社製品でいえば、日産の「プロパイロット」やメルセデスの「ドライブパイロット」あたりとやっていることは同じだ。もちろん、他社のそれに対する違いやこのシステムならではの特徴もあるのだが、詳しく書いているとそれだけで文字数がエラいことになるので今回は割愛。気になる方は、日本自動車研究所(JARI)のテストコースでの試乗リポートや、アイサイト・ツーリングアシストの発表ニュースなどを参照してください。
操舵支援以外にも見どころがある
それにしても「スゴいな」と思うのは、自社最新の運転支援システムを一般ユーザーに、しかも公道で試してもらおうというスバルの大胆さだ。しかも、試乗コースは首都高速のC1(飯倉)→レインボーブリッジ→湾岸→9号(福住)間を往復するというもの。Rのキツいコーナーはあるし、分岐&合流も多く、イジワルなドライバーによる割り込みも情け容赦ない。この手の運転支援システムを試すには、かなり難度の高いコースである。
六本木ヒルズ・ノースタワーの前、レヴォーグやWRX S4の展示スペースで受け付けを済ますと、案内に従って試乗車の待つ地下駐車場へ移動する。記者に供されたのは、1.6リッターのレヴォーグだった。同乗スタッフの指示のもと飯倉の高速入り口へとクルマを向かわせた記者は、首都高速に乗ると早速アイサイト・ツーリングアシストを起動した。操作方法はカンタンで、通常と同じ手順でACCを作動させた後、ステアリングホイールにある“ハンドルマーク”のスイッチを押すだけ。これで晴れて、自慢の操舵支援機能が作動するというわけだ。
ただ、渋滞する首都高速で感じた新型アイサイトの長所は、操舵支援機能の仕上がりより、むしろストップ&ゴーのスムーズさだった。車間距離や車速管理の自然さ、減速から再加速に移行する際の唐突感のなさ、前走車に続いて減速を始めるタイミングの取り方などなど。このあたりの操作は、多分、ワタクシよりうまい。同乗スタッフに聞いたところ、これも従来型から改良されたポイントなのだとか。また、完全停車しても3秒以内であれば自動でリスタートするようになった点も◎。試乗時の首都高速が適度に混んでいたこともあって、ズボラな記者は大いにその恩恵にあずかった。
運転支援なの? 自動運転なの?
さてさて。ようやく肝心の操舵支援機能についてだが、公道で試した今回は、JARIのとき以上に、その介入度合いが大きく感じられた。「どのくらい?」と尋ねられるとうまく説明できないが、言葉としては「操舵支援」というより「自動操舵」といった方がしっくりくるくらいだ。
例えば、2号線と分岐・合流する一ノ橋JCT。往路ではイジワルにもまったくステアリングを操作せずに進入したのだが、アイサイト・ツーリングアシストは難なくそのコーナーをクリアして見せた。進入時こそ「そんな舵角で大丈夫か?」という感じだったが、途中で何度か修正舵をいれ、車線をキープして見せたのだ。なるほど、なるほど。変にソーイングしながら走るドライバーより、よっぽど上手だ。
また、JARIでは感じたステアリングのカクつきも低減されていた気がする。スバルのスタッフは「あの時から改良はしていませんよ。フフフ……」と言っていたが、ホントにホントかいな?
加減速を伴いながらのコーナーでも、舵の保持はしっかりしているし、修正舵の量も的確。欲を言えば修正なしに一発で、それこそ一筆書きでコーナーをクリアできるようになればいいんだけど……などとメモをとって、記者はハタと気づいた。それって“自動運転の評価”じゃん。アイサイト・ツーリングアシストは、あくまでドライバーのステリング操作を前提とした運転支援システムのはずだ。
記者は大いに混乱した。なにせこのシステム、実感としてはもう、自動運転の領域に片足突っ込んでいるのだ。事実、法定速度に従った試乗では、飯倉-福住間のコーナーをすべて“クルマ任せ”でクリアすることができた。ときどきその挙動におぼつかなさを覚えることはあったものの、記者がハンドルを操作したのはホントに車線変更や分岐・合流の時だけだった。
進化したがゆえに直面する、新しい課題
さすがに、交通の流れに沿った車速では、すべてのコーナーで“自動操舵”というわけにはいかなかったが、それでも操舵支援の介入は量・タイミングともに自然で、運転を非常にラクなものにしてくれた。スバルがアイサイト・ツーリング“アシスト”と称する以上、こっち側が当該システムの本来の姿であり、正しい使い方なのは間違いないだろう。
しかし、ここまで操舵機能が進化してしまうと、これを“プチ自動運転”みたいに認識する人が出てくるんじゃないの? 運転に対するドライバーの領分とクルマの領分の線引きはどこで、それを随時、どうドライバーに理解させるかは、こりゃもう現実問題だろう。
例えば、ドライバーに対する「ハンドルを握ってください」という警告。これまで記者は、ステアリングに手を添えている状態でも発生するこの警告に「ウルサイなあ。ちゃんと握ってるじゃん!」と思い、「いいかげんトルクセンサーをやめてタッチセンサーを取り入れるべき」なんて考えていた。しかし、今回の試乗で考えが改まった。理由は、逆説的だけどアイサイト・ツーリングアシストが結構キツめのコーナーも自動でクリアしてしまったからだ。
操舵支援機能の限界が上がれば上がるほど、その機能がカットになったときのドライバーの負荷は増す。「谷町JCTでのC1→3号線」のような急カーブの最中に操舵支援がオフになったとき、ステアリングに“ちょん”と触れているだけのドライバーに、とっさのハンドル操作はできないだろう。
さらに言えば、操舵支援機能がオフになる兆候を感知したら、ドライバーに「システムが切れそうだけど、ちゃんとハンドル握ってるよね!?」と事前に念を押す警告機能があってもいい。ドライバーとしても、いきなり機能が切れるより心の準備ができていいはず。今回の試乗で、ゆいいつ明確に感じたアイサイト・ツーリングアシストの要改善ポイントがこれだった。
やはり、これまでと同じ自動車のインターフェイスでまかなうには、最新の運転支援システムはできることが増えすぎた。一定速走行しかできなかった時代のクルーズコントロールと一緒という“旧態依然”の操作方法も含め、そろそろ機械と人間が運転をシェアする時代の、あるべきインターフェイスを真剣に考えないとイカンですね。
(文=webCG ほった/写真=webCG、スバル)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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