待ってました! のスポーツカー
新型「アルピーヌA110」に言いたいこと
2018.08.31
デイリーコラム
すばらしいけど「なんだかなあ」
新しい「アルピーヌA110」は、まさに”21世紀のワンテン”である。1960年代、70年代に、オリジナルのA110を購入したオーナーが夢見た「未来の愛車」の姿が、そこにある。
オリジナルA110の魅力は、ラリーフィールドからそのまま駆けてきたかのようなむき出しのスポーツ性に宿るのだが、裏を返せば、狭く、小さく、うるさい。時代が下れば、エアコンがないという、ムチャな不満を感じる人も出てくるだろう。私だ。
だから、余裕ある室内。スムーズな走り。前後に用意されるラゲッジルーム。そして空調設備。そうしたスペックをそろえたニューアルピーヌは、あらまほしきA110そのものといっていい。当然、旧型(と呼ぶべきか?)オーナーはもろ手を挙げて賛成する……かというと、ことはそう単純ではない。
ご存じのように、スポーツカービジネスは難しい。デビュー当初はメディアに引っ張りだこになり、販売店ではカタログがよくさばけ、クルマ好きの間では話題になるけれど、実際の販売台数は……、という例が少なくない。なにより数字がモノをいう大企業(=自動車メーカー)にとって、スポーツカーという車種は「敬して遠ざける」が吉な存在だ。
だからこそ大衆車メーカーであるルノーが、まったく新しいスポーツカーを、しかも懐かしいのれんを掲げてリリースしたことは、文句なしにすばらしい。自動車メディアとそれに関わる人たちが、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)、最大限の努力で広報に努め、無条件に感動的な試乗記を発表することは、むしろ義務といえる。
一方、(元)オリジナルA110のオーナーとしては、少々複雑だ。少なくとも、四半世紀をアルピーヌA110(メキシコ製)と過ごした自分の場合、新世代アルピーヌのニュースに接するたび、ちょっぴりやるせない気分になったことを告白せねばならない。
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ボディーの仕立てはこれでいいか?
まずひっかかったのが、「いまさらレトロモデルかよ」ということである。こうした予想された批判に備えて、ルノー/アルピーヌは、「かつてのA110が『もしそのまま作り続けられていたなら』を想定してデザインしました」という魅力的なストーリーを用意した。
なるほど。でも、A110後の歴代アルピーヌモデルや、なによりA110と覇を競った時代にはライトウェイトスポーツだった「ポルシェ911」が、その後どのように肥大化……失礼、さらなる高性能化を図るために体格が立派になっていったかを見れば、メーカーの言葉をそのまま信じるのは無邪気に過ぎよう。
「全然違うデザインですよ」と、デザイナーの方はおっしゃるかもしれない。「かつてのA110とはエンジンのマウント位置が違うから、プロポーションが根本的に異なります」と。でも、それは専門家ならではの欺瞞(ぎまん)だと思う。RRからMRのプラットフォームに変えながら、「よくぞここまで似せましたね」というのが本当だろう。
次にひっかかったのが、新型が、あまりにデカくて、重いということだ。「これだから素人は!」という舌打ちの音があちらこちらから聞こえてきたような気がしますが、それはともかく、お値段3分の1の「マツダ・ロードスター」が、オープンボディーという軽量化に不利な条件ながら、990~1010kgにウェイトを抑えていることを考えると、フルアルミモノコックを採用しながら1110kgというのは期待はずれ……というのは言い過ぎとしても、「もう一声!」と感じた人は多かったんじゃないでしょうか。
実は、新型アルピーヌA110の車体外殻に、マツダ・ロードスターはすっぽり収まる。A110、意外に大柄。大きいから重くなるからアルミで重量増を抑える。本末転倒じゃね?
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パワーアップ戦略が想像できる
「ミドシップレイアウトは、どうしても車両寸法が大きくなりがち」。そんな擁護の声が挙がるかもしれない。でも、ニッポンには、「トヨタMR-S」という、世界に誇るべき(だけど大ゴケした)ミドシップスポーツがあったではありませんかッ!
全長×全幅=3895×1695mmのコンパクトなサイズ。コンベンショナルなスチールボディーながら、軽量1020kg。ミズスマシのような軽快な走りは、いまも私の胸の中でさんぜんと輝いている(本当)!! 直接比べるべき相手ではないけれど、それにしても、ニューアルピーヌ、ちょっと冗長じゃありません?
はい、そうです。新生アルピーヌA110のライバルは、いうまでもなく「ポルシェ718ケイマン」。A110が、2420mmのホイールベースに4205×1800mmのボディーを載せ、一方の718は、2475mmに4385×1800mm。うーん、近似値。(車重は、アルピーヌのほうが320kgも軽い!)
つまりルノーは、ケイマンユーザーに照準を合わせ、久々のブランニュースポーツをポルシェ方式で育てることにしたわけだ。パフォーマンスアップを小出しに繰り返すことによって、「最新が最良」と顧客を説得し、教育する。新A110が、最高出力252psの1.8リッターターボという、このクラスのスポーツカーとしてはなんだか中途半端なエンジンでスタートしたのも、後の過給圧アップ、そして排気量拡大、さらなるターボチューン……と、アウトプット向上を見越してのこと(予想)。
同じようなディメンションの718ケイマンは、365psの2.5リッターターボを積んでいるから、アルピーヌのシャシーも、さらなる強心臓を受け入れる余地があるに違いない。新型アルピーヌの(オリジナルA110を見慣れた目には)なんだかヌボーと大きな車体からは、長いモデルライフを保証するロードマップが透けて見える、気がする。
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スーパーデザイナー、かく語りき
結局、パトリック・ルケマン氏がいけないのだ。世紀をまたがるようにしてルノーのデザイン部門を統括したスーパーデザイナー。初代「トゥインゴ」(フレンチ「シティ」!? でも好き)、ミニバンのクーペというブッ飛んだコンセプトの「アヴァンタイム」(個人的に好物)、「メガーヌII」(クリフカットっぽいリアガラスがラブ)といった、クルマに詳しい人ほど口をあんぐりと開ける、アバンギャルドなモデルを次々と市販化させた人物だ。
正確な年月は忘れてしまったが、ルケマン氏がデザイン部門を率いていた時分、インタビューさせてもらったことがある。ひととおり聞くことを聞いた後、「時にアルピーヌはどうなっています?」と水を向けると、「もちろん考えています」と即答。こちらが「ニュービートル」やBMWの「MINI」を例に挙げて、新世紀のアルピーヌについて探りを入れると、「そうした後ろ向きのデザインはしません」とキッパリ。「クルマのデザインは、未来を向くべきだ」といった趣旨の話をされました。
感動したなァ。なにしろ、前出のクルマを、実用&大衆車として販売させた人である。すばらしいデザインをする、ことはもとより、それらを次々と実際に買えるカタチに結実させる。並大抵のことではない。氏の誠実かつ熱心な姿を前にして、どんな未来的なアルピーヌが登場するのか、心底ワクワクしました。
さらに、「『ロータス・エリーゼ』が出てきたとき、『やられた!』と思ったのではないですか?」と質問すると、顔を紅潮させて膝をたたき、「そのとおりです。あれがアルピーヌになるべきだった!」と大笑い。アルミの骨組みを接着剤で組み立ててFRPボディーを載せるという、革新的な生産工程とボディー構造を持つライトウェイトスポーツ。しかも丸目4灯。「コレに『A』マークが付いていたらなァ」と嘆息したアルピーヌファンも多かったことだろう。実は、ルケマン氏もそのひとりだった……。
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新型も乗れば「目からウロコ」
あれから幾歳月。実際に販売店に並ぶことになったアルピーヌA110は、全体に手堅いアプローチを採った、ビジネス面での正解を狙ったクルマだった。将来の発展性とユーザーの快適性を確保したシャシーに、エンジンを横置きしたミドシップレイアウト。外観は、ルノーのスポーツアイコンたるA110を模したもの。
FF車のエンジンを乗員に対して前後逆に置く。つまり後方に配置することでミドシップを成立させる手法は、ダンテ・ジアコーサ技師が半世紀ほども前に「フィアットX1/9」で成功させた。以来、メーカー、ブランドを問わず、手軽なミドシップスポーツをつくるにあたっての常とう手段となっている。コンパクトカーにRRレイアウトを復活させるほど“攻めた”クルマづくりをするフレンチメーカーが、アルピーヌを復活させるにあたっては、なんとも月並みな手段を踏襲したものだ。
あれやこれやで、そんなスポーツカーは「酸っぱいに決まっている!」と思いながら試乗に臨む。実際、ステアリングホイールを握ってみると、うーむ、これほどスイートなスポーツカーは久しぶりだ。助手席との距離は適度に保たれているし、左足の置き場はあるし、ドライビングポジションは適切。事前に、前後の荷室に撮影機材を収納することもできた。乗り心地は穏やかで、それでいて速い。なにより40度に迫ろうという異常な暑さの中、涼しい車内で鼻歌交じりでドライブできる。新しいアルピーヌA110、すてきじゃありませんか! だいたい、21世紀のニューモデルを、モータースポーツと日常使いとの境が曖昧模糊(もこ)としていた時代のクルマを基準に頭の中で比較するなんて、バカじゃないの?
新しいワンテンのいちファンとして(←ヲイヲイ)、大小2種類の心配がある。小としては、今後さらなる高性能化に従って、にょきにょきと羽が生え、アゴが延び、フェンダーが張り出して、せっかく成立させたクリーンなフォルムが崩れてしまうこと。
大の方は、実用メーカーのスポーツカーにありがちなことだが、次第に開発の手が止まり、気がつくと店(たな)ざらしになっていて、いつのまにか”プアマンズ・ケイマン”と呼ばれるようになっていること。
どうか、どちらも杞憂(きゆう)に終わりますように。新しいアルピーヌに幸多かれと、祈らずにはいられない。
(文と写真=青木禎之/編集=関 顕也)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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