ホンダは将来、電力供給会社になる!?
EV普及の革命児「Honda Mobile Power Pack」に注目
2019.07.12
デイリーコラム
イメージの描けるEV構想
ホンダのこれからの企業姿勢、最新技術、近未来のモビリティーなどをメディアに紹介する「Honda Meeting 2019」が、埼玉県和光市のホンダ技術研究所で開かれた。
同社の「2030年ビジョン」「カーボンフリーテクノロジー」「交通事故ゼロ社会の実現に向けて」といったトピックが並ぶなか、個人的に最も興味を引かれたのが、モビリティーの電動化に焦点を当てた「Honda eMaaS・コネクテッドサービス」についてだった。なぜなら「そこにモノがあった」から。
抽象化された高度な思考が苦手なリポーター(←ワタシです)にとって、小型ロボット「P.A.T.H.Bot」、小型電動キャリアーの汎用プラットフォームの活用例「3E-B18/3E-C18」、シニアカー「ESMOコンセプト」、電動スクーター「PCXエレクトリック」など、具体的なプロダクトをじかに見られるのはうれしい。
ホンダとしては、再生可能エネルギーを用いた循環型の、持続可能な社会システム「Honda eMaaS」を構想しているのだが、そうした“大きなハナシ”は、Honda Meeting 2019全体の内容とともに、別の機会に報告させてください。今回は、より卑近な(!?)「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」について。
結局はバッテリーの問題
今も昔も電気自動車(EV)の主要な課題として、「航続距離が限られる」「充電に時間がかかる」「価格が高い」が挙げられる。加えて「購入後の劣化が心配」を入れてもいいかもしれない。言うまでもなく、いずれもクルマ本体というより、バッテリーの問題である。そのため、自動車メーカー(および関連会社)は、既存のバッテリーの性能向上はもとより、まったく新しいタイプのバッテリー開発に心血を注いでいる。
一方、バッテリーの性能が限られるなら、「運用でカバーしよう」というアプローチもある。充電済みのバッテリーを用意しておいて、使用中のバッテリーの残り電気が乏しくなったら、「バッテリーを丸ごと交換する」という方式である。
10年ほど前、東京・虎ノ門で実証実験が行われた、バッテリー交換式のEVタクシーを覚えている人がいるかもしれない。残り電気が心細くなったEVタクシーは、バッテリー交換ステーションに行く。使用済みバッテリーはクルマの底部から落とされ、代わりに充電済みのバッテリーが交換ステーションから提供され、装着される。もちろん全自動。作業に5分とかからない。コロンブスの卵的なトライアルで、「その手があったか!」と大いに感心させられたが、結局、普及には至らなかった。
充電ステーションに大がかりな設備が必要ということもあったが、技術的に日進月歩なバッテリーをメーカー横断的に規格化して、なおかつ交換方式に応じた車台を開発しなければいけないことに、メーカーサイドが難色を示したと聞いている。
入れ替えできて、持ち運べる
ホンダが提案するモバイルパワーパックは、いわばバッテリー交換式EVタクシーのコンパクト版で……と書くといきなり将来が危ぶまれるので、電動アシスト付き自転車のバッテリーを大幅に拡大強化したもの、と解釈したほうがいいかもしれない。サイズはグッと大きく重たくなるが、取り外して持ち運び可能だ。モバイルパワーパックを、個人の所有物ではなくユーザー間で共有する、という構想もある。
例えばコンビニエンスストア、郵便局などに、家庭用冷蔵庫サイズの充電ステーションユニットを設置してもらう。ユーザーは、残り電気が少なくなったパワーパックを持ち込んで充電ユニットに飲み込ませると、代わりに充電済みのパワーパックが吐き出される。ユーザーはラブレターや請求書を郵送したり、ついでにガムや飲料水を購入したりした後、充電済みのパワーパックを片手に提げて、郵便局やコンビニから出ていく。パワーパックの使用状況はIDナンバーで管理され、使われた個数に応じて、後日、銀行口座から代金が引き落とされる……と、そんなストーリーが考えられている。
昨2018年に、ハイブリッドタイプに続いて、純電動式のスクーター、PCXエレクトリックが発表された際には、「そもそも搭載能力が限られるバイクを電動化する意味があるのか」といぶかしんだものだ。いかに車体が軽いとはいえ、航続距離はバッテリー容量に比例するのだから。なるほど、ホンダはスクーター単体ではなく、モバイルパワーパックを用いた社会システム全体を視野に入れていたのですね。
ホンダは、フィリピンのロンブロン島では、風力発電の余剰電気をパワーパックに蓄える実証実験を開始。また、インドネシアのバンドン市では、バッテリーの稼働状況を集中管理するシステムの実証を準備中だ。二輪用のバッテリーや充電ユニットは、四輪のそれらと比べてサイズも予算もコンパクトだから、環境問題に苦慮する東南アジアの国々でも展開しやすいのだ。
社会のインフラになりうるシステム
バッテリーの普及と、それに伴うコスト削減に必須の「規格化」については、今年4月に、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの二輪メーカー4社による、電動バイク普及を目的とした協議体が立ち上げられた。いち早くバッテリーパックや充電ユニットを開発したホンダは、「モノがあるのはウチだけですから」と、主導権を握る自信を見せる。今後、バッテリーの技術革新をどう取り入れていくのかという課題は残るが、全体に小回りが利く特質を生かして対応するだろう。
ホンダでは、前述の通り、バイク以外でも多数の電動製品を検討している。対象とされる電動モデルによって、つまり必要とされる出力に応じてモバイルパワーパックの使用個数を調整する。シニアカーなら1個。バイクなら2個。ホビー用のバギーなら4個といった具合。限られた施設内の移動に使うモデルには、ハーフサイズを用意する。逆に、一時的に大きな電力が必要なシティーコミューターには、ハイブリッド車用のリチウムイオンと組み合わせて使うといった応用編も考えられている。バッテリーパックの汎用(はんよう)性を上げることが、普及のカギとなるのだ。
開発者の方々と話していて「おもしろいなァ」と感じたのが、「ホンダは電力会社にもなる」というフレーズ。電線を通じて電気を供給する代わりに、バッテリーパックを介してエネルギーを売るという視点だ。モバイルバッテリーパックをリースにして、ハードウエアそのものではなく、その利用状況に課金する。自動車メーカーとして、革新的なビジネスモデルといえましょう。
この手の充電済みバッテリー交換スタイルは、ひとたびバッテリーが長足の進歩を遂げたあかつきには、「あんなことを考えていた時期もあったよね」と懐かしく思い出す対象になってしまうかもしれないけれど、直近では、地に足がついた堅実な方法だ。期待して見守りたい。
(文=青木禎之/写真=本田技研工業/編集=関 顕也)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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