スズキ・ジムニーXC(4WD/4AT)/メルセデス・ベンツG550(4WD/9AT)
かけがえのない本物 2019.07.18 試乗記 誕生以来、オフロード第一の姿勢を守り続ける「スズキ・ジムニー」と「メルセデス・ベンツGクラス」。より快適なクルマが存在する今日においても、ファンに厚く支持される両モデルの試乗を通し、今も昔も変わらない“愛され続けるクルマ”の条件について考えた。乗り心地はいいの? 悪いの?
(前編からの続き)
最高出力422psを発生する「メルセデス・ベンツG550」の4リッターV8ツインターボと、同じく64psのジムニーの0.66リッター直3ターボを始動する。もちろん、ひとりで同時に2つのエンジンを掛けるのは不可能だから、ジムニーはwebCG編集部のバイパー堀田氏(以下、VH氏)が担当する。
知り合いに、PCでSafariを立ち上げた時のデフォルト画面が『webCG』になっているほどクルマが好きなデザイナーがいて、毎日さまざまな新車インプレッションを読みあさっている。そんな彼から「Gクラスとジムニー、書く人によって乗り心地がいいとか悪いとか、意見がわかれているんだけど、ホントはどっち?」というメールが来たことがある。個人的な見解だと、この2台のオフロードでの圧倒的なパフォーマンスを経験して、さらに従来型と比較すると、オンロードでの乗り心地は上等ということになる。2台とも、フルモデルチェンジによって星 一徹がサリーちゃんのパパになったくらい乗り心地は丸くなった。
特にクロカンや軽自動車を偏愛するVH氏に至っては、「Gクラスもジムニーも、乗り心地は完璧です」などとのたまう。ただし、名は体を表すというか、マイカーが初代「ダッジ・バイパー」というVH氏は、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)への耐性が極端に高いという事実を考慮しなければならないが。
一方、ヤワでナンパなFFベースのSUVと単純に比べると、ジムニーやGクラスの乗り心地は新品の「リーバイス501」のようにゴワゴワしているし、運転にもちょっとだけコツがいる。ただ、乗り心地がどれくらいゴワゴワしているかというとこれが微妙で、1時間、2時間と試乗していると、まさにリーバイス501のように身体になじんでくる程度のゴワゴワ感だ。だから、朝イチで乗り始めた時には気になった乗り心地も、お昼ご飯を食べる頃には気にならなくなってしまう。
といったような事情で、この2台の乗り心地への評価はわかれるのだと考える。
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新しいステアリング機構のありがたみ
メルセデス・ベンツG550のアクセルペダルを踏むと、カクカクした外観とは裏腹に、スーッと滑らかに加速する。2450kg(試乗車はAMGライン付きで2460kg)という超ヘビー級ではあるものの、わずか2000rpmで610Nmもの大トルクを発生するエンジンのおかげで、出足は軽い。
面白いのは、「重いモノを力ずくで動かしている」という従来型の無理やり感がなくなり、あたかも車重が軽くなったかのように感じる点だ。実際、車重は軽くなっているのだが、それ以上に新採用の9段ATが大きく貢献していると見た。
交差点を曲がる時にさえ「よっこらしょ」と声を出しそうになった従来型のドンくささは霧消し、スムーズになった(といってもこれが普通だが)。ボール循環式のステアリングを、一般的な乗用車と同じ電動アシスト式のラック&ピニオンに改めた効果だ。
ラック&ピニオンに切り替えることで唯一心配だったのは、悪路でステアリングから伝わる衝撃(キックバック)がデカくなるのではないかということだった。けれども悪路で新型と従来型を乗り比べた時の取材メモを読み返すと、むしろ新型のほうがキックバックは抑えられていると記されている。自動化に対応できることも含めて、ラック&ピニオン化のデメリットはひとつも見あたらない。
「丸くなったな~」と思いながら首都高速に上がると、おおっ、なるほどと思わされた。
依然として“先読み”は必要だが……
市街地で遭遇するぐらいの不整だと気にならないけれど、首都高速の路面のつなぎ目を乗り越えると、メルセデス・ベンツG550は主にリアから「どんっ」という突き上げを感じる。跳ねるほどではないから不快ではないが、SUVの乗り心地が軒並みまろやかになった今日この頃、気になる程度の衝撃ではある。
Gクラスは、左右のタイヤに大きな高低差が生まれるような悪路でもしっかりとタイヤを接地させることを目的に、リアの足まわりは固定式のリジッドアクスルを引き継いだ。一般的な乗用車の独立懸架方式と比べると、やはりオンロードではアシの動きに融通が利かない感覚が残る。
人間も小さな段差、例えば階段を下りる時は右足、左足と、左右を独立して動かす。ただし、高い段差から飛び降りる時は両足をそろえて、同時に着地する。たとえとしては悪いけれどそんな感じで、これがゴワゴワ感の正体ということになる。
一方、独立懸架方式のダブルウイッシュボーンに刷新されたフロントサスペンションのおかげで、オンロードでの操縦性は格段に向上した。ワインディングロードでステアリングホイールを切っても、かつてのようにワンテンポ遅れて車体が反応するようなことはない。
ただし、最近のスポーティーなSUVと違って基本は安定志向だから、自分から喜んで向きを変えるタイプではなく、「自分、不器用ですから」とあくまで真っすぐ走りたがる。このあたりの操縦にはクセがあり、コーナーの先を読んで早めに操作を開始するなど、ちょっとしたコツが必要だ。
クルマとのコミュニケーションが面白い
Gクラスの走りに「なるほど」と思っていると、ジムニーから降りてきたVH氏が、「ジムニーは前後ともリジッドを維持したままこれだけ乗り心地が改善したんだから、前輪を独立懸架に改めたGクラスは日和(ひよ)ってますなぁ」と毒を吐いた。もちろん冗談なんだが、だったら「Gクラスは前輪を独立懸架にしたのにあれだけの悪路走破性能を維持して立派だ」という言い方もできるのではないだろうか? てなことを考えながら、ジムニーに乗り込む。
まさに大人と子どもほども体格差がある両車だが、Gクラスからジムニーに乗り換えてびっくりするのは、こちらにも重厚でしっかりとしたフィーリングが備わっていることだ。軽自動車なのに軽い感じがしない。ステアリングホイールにはしっかりとした手応えがあり、4本のタイヤが正しい角度で路面と接していることが伝わってくる。室内が静かで、ガタピシという低級な音が皆無であることも、しっかりとしたクルマに乗っているという印象につながる。
乗り心地をGクラスと比べることに意味はないけれど、同条件で2台を直接比較できたのは面白い経験だった。というのも、同じくらいのゴワゴワ感だったからだ。ヤワでナンパなFFベースと比べると、突き上げがちょっとばかしキツめだけれど、それもしばらくすると気にならなくなる程度。ただし、コーナーで真っすぐ行きたがったり傾いたりするクセは、ジムニーのほうが少し強い。したがって、それらのクセを御するためのコツをつかむには、ジムニーのほうがいくぶん時間がかかる。
面白いのは、クセを御してコツをつかむという行為が、知的なゲームみたいで楽しいことだ。だから、何も考えずに安楽に目的地まで連れて行ってもらいたい、というようなドライバーには不向きで、それはGクラスにも共通して言える。それでも、やはりオンロードでの扱いやすさだけを見ると、Gクラスはフロントを独立懸架にしただけのことはある。ま、ジムニーはプロフェッショナルユースを第一に考えた、正真正銘の働くクルマということなのだ。
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夢を見させてくれるクルマ
パワートレインに関しては、どちらも文句ナシ。G550のV8ツインターボと9段ATの組み合わせは、ゼロ発進からほとんど変速ショックを感じさせずに高速域まで巨体を引っ張る。ジムニーの直3ターボも、回せばうるさいけれど、低回転域からトルクのツキがいいから、普通に乗るならそんなに回す必要はない。4段ATも上手にチューンされていて、変速ショックが小さいうえに、キックダウンも俊敏にこなす。
100km/hでの高速巡航では、250rpm刻みのタコメーターの針が3750rpm付近を指す。このときの室内は、そこそこエンジンノイズが入ってくるけれど、特定の周波数が効果的に遮音されているのか、気に障る音質ではない。
悩ましいのは4段ATにするか、5段MTにするか。これは、MT派の筆者でさえATに傾いているということである。ATでも気分よく走ることができるのだ。もし買うことになったら、最後の最後までMTにするか、ATにするかで悩むことになりそうだ。
同じ条件でGクラスとジムニーに乗ってみると、価格もサイズもパワーもまるっきり違うのに、というかクルマ界の両極なのに、印象がよく似ている。悪路を走破する機能を第一に考えるという軸にブレがないことが、その理由だろう。SUVブームに寄せてやろうという、計算高いところがない。だから、そこから生まれるゴワゴワ感も操縦に必要なクセも、デメリットではなく個性やキャラクターだと思えてくる。
実際にこの2台を手に入れても、その悪路走破性能を100%引き出す機会はほとんどないだろう。けれども街中で300m防水のダイバーズウオッチを眺めると意識が大海原に飛んで行くように、マウンテンブーツを履いて駅の階段を登ると山の記憶がよみがえるように、ちょっとした夢を見ることができる。
この2台に乗って感じるのは、こと趣味のクルマに関しては「いいクルマ」なんて求められていないということだ。いいクルマであることよりも、納得できる味わいがあることや、そのスタイルに感情移入できることが大事で、それは80’sや90’sのちょっと古いクルマが人気を博していることとつながっている。
だれが乗ってもよく走る「いいクルマ」は、カーシェアリングでシェアすればいいのだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・ジムニーXC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1725mm
ホイールベース:2250mm
車重:1040kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:4AT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:96Nm(9.8kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)175/80R16 91S/(後)175/80R16 91S(ブリヂストン・デューラーH/T)
燃費:13.2km/リッター(WLTCモード)
価格:184万1400円/テスト車=210万7134円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万0142円)/パナソニック エントリーワイドナビセット(13万5918円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット+USB接続ケーブル(7398円)/ドライブレコーダー(3万7260円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:8623km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:364.4km
使用燃料:30.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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メルセデス・ベンツG550
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1985×1975mm
ホイールベース:2890mm
車重:2460kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:422ps(310kW)/5250-5500rpm
最大トルク:610Nm(62.2kgm)/ 2000-4750rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113V M+S/(後)275/50R20 113V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:7.9km/リッター(JC08モード)
価格:1593万円/テスト車=1715万4000円
オプション装備:designoレザーエクスクルーシブパッケージ(122万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1万1024km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:350.3km
使用燃料:49.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.1km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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