期待しているけど不安もある?
webCG随一のアメ車オタク 新型「コルベット」を語る
2019.09.16
デイリーコラム
ネット上はお祭り状態
2019年7月18日の世界初公開からもう2カ月も過ぎているというのに、依然として新型「シボレー・コルベット」(以下C8)旋風が止まらない。
YouTubeでは、スマホ片手のインフルエンサーによる“コルベット動画”が林立し、気の早すぎるお歴々による「Z06」や「コンバーチブル」の妄想情報&創作CG画像がネット上を飛び交っている。『webCG』でも、当該ニュースとギャラリーの公開直後から「新型」「コルベット」という検索ワードで来訪する読者数が急上昇。新しい情報などないというのに、最近までその状態が続いていた次第である。
それにしても、ブロガーさんやインフルエンサーさんによる情報発信のスピードの速さよ。メーカーのオウンドメディアもどんどん充実しているし、自動車ネタを活計にしているわれら専門メディアは、令和の御代(みよ)をどうやって生きていけばいいのでせうね……。
なんて難しい話はどうでもよい(よくないけど)。今回のテーマは、ミドシップ化やその他もろもろの変革により、侃々諤々(かんかんがくがく)、喧喧囂囂(けんけんごうごう)を巻き起こしている、新型コルベットについてである。
他人のふんどしなうえにまた聞きの情報で申し訳ない。元webCGデスクにして現『CAR GRAPHIC』編集長の竹下元太郎氏から聞いた話なのだが、故小林彰太郎氏は自動車を評価するうえで、“合目的性”を非常に大事にしていたのだとか。……ひょっとしたら“合目的適正”だったかもしれないけど、とにかく、ユーザーがそのクルマを買った目的をどこまで果たせるか、クルマがユーザーの期待に沿うものになっているかどうかを重視する、ということだったのでしょう。
では、シボレー・コルベットの“目的”、ユーザーがこのクルマに寄せる期待とは、どんなもんなんでしょう?
アメリカで唯一の“スポーツカー”
皆さんご存じの通り、世界最大のスポーツカー市場を擁するアメリカだが、長年にわたり自前のスポーツカーはコルベット以外存在しなかったし、現在も存在していない。
もちろん、かつては「コブラ」に「フォードGT40」、最近じゃ「ダッジ・バイパー」「サリーンS7」、そして新生「フォードGT」と、かの地の自動車史をひもとくと、さまざまなハイパフォーマンスカーが飛び出してくる。ただ、それらはバックヤードビルダーが手がけたいささかカルトなシロモノだったり、レース前提のホモロゲーションモデルだったり、超高額の少量生産モデルだったりして、一般ユーザーがおいそれとガレージに収められるようなものではなかった。ちまたのクルマ好きが「いつかはわが家に……」と夢を託せるクルマは、やっぱりコルベットだったのである。
第2次大戦の帰還兵が英国からMGやら何やらを持ち帰り、かの地にスポーツカー文化が根付いてこのかた、2019年までずーっとこの状況なのだ。アメリカ人にしてみたら、ジャガーやらポルシェやらといった鼻持ちならない舶来カーのハナを明かせる唯一の存在がコルベットだったわけで、いってみれば愛国的(“右”って意味じゃないよ?)クルマ好きの心のよりどころ。スポーツカー界のアメリカ代表。渡辺敏史氏の言葉を借りると、「アメリカの魂」なんである。スポーツカーとしてのその目的は、いってみれば「アメリカのプライドを守ること」なのだ。
コルベットの走りがヌルいはずがない
では、そんなパトリオットたちにとってのインターセプター(迎撃機)が、週末のドラッグスリップや自動車雑誌の評論なんかで外来種に負けるようなことがあったらどうなるか? 沽券(こけん)にかかわるなんて甘々な話ではない。コルベットの敗北はアメリカの敗北なのだ。
排ガス規制による“冬の時代”が過ぎてこの方、このドメスティックなスポーツカーがパフォーマンス至上主義路線を突っ走り続けているのは、そういう背景があるからだ。どっかのRRのスポーツカーと同じで、背負ってるもんの重みが違うのである。
ここで、最新のC8に話を戻す。今回、同車の開発を主導したのは従来モデルのときと同じくタッジ・ジェクター氏だった。長年にわたりコルベットの世話を焼き続け、“現代版ゾーラ・アーカス・ダントフ”なんて言われるほどに、走るの大好き、速いクルマ大好きな御大が、それを理解していないはずがない。
ついでに言うと、彼がコルベットの開発に携わり始めたのは1993年。C5の開発が始まるあたりからだ。サーキットにおいてGMがワークス活動を解禁し、C5、C6がALMSやルマンなどで勝利を重ね、それに伴いグローバルでの売り上げを伸ばしていった“コルベット近代史”と、御大は歩みを共にしている。今日において世界に通用する高性能スポーツカーに求められる要因を、彼は熟知しているはずだ。その点においても、記者はモダンなスポーツカーとしてのC8のパフォーマンスについて、「氏がツボを外しているはずがない」と確信しているのである。
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速けりゃいいってもんじゃないでしょ
かように、いっこのアメ車好き&ウンチク好きとして、C8を無責任に信頼している記者ではあるが、じゃあ不安に思っている点がまったくないのかというと、さすがにそんなことはない。なにせ、現存するスポーツカーとしては世界最古の銘柄にして、自動車大国アメリカの誇りなわけである。勝ちゃあいいわけではない。美学ってもんが求められるのだ。
実際、コルベットは今までずっと、そういうクルマであり続けてきた。先述したパフォーマンスへの執念や、“国で唯一のスポーツカー”という希少な立ち位置に加え、旅グルマに必須のうすらデカいトランク(本当にデカかった……)、ロングノーズ・ショートデッキのスタイリング、またしても渡辺敏史氏の言葉を借りるところのアメ車的旅情感、そしてフツーのクルマ好きでも頑張れば手に届く価格設定などなど。こうしたもろもろの要件が、ある種の抽象的な不文律を形づくり、コルベットに特別な記号性というか情緒を与えてきたのだと思う。
それがどういうものかを言葉で説明するのはムズカシイし、そもそも日本人のワタクシが「アメリカ人にとってコルベットとは~」なんて語ったところで説得力がない。ないのだけれど、例えば小説『失踪』(ドン・ウィンズロウ著)の主人公の愛車が、父の残した1974年式コルベット スティングレイじゃなくて「ポルシェ911」あたりだったらどうだろう? 雰囲気ぶち壊しじゃあるまいか。百歩譲って「デ・トマソ・パンテーラ」あたりだったとしても……いや、なおのことぶち壊しだな。
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ミドシップでもDOHCでもいいんだよ
記者が気にしているのは、そうした情緒や記号性が、C8にも受け継がれているかということなのだ。プレスリリースの情報だけで予断を下すのは浅はかだが、それでも駆動レイアウトのミドシップ化に、コイルオーバーサスペンションやデュアルクラッチ式ATの採用と、C8はこれまでのコルベットから何もかもが変わりすぎている。C6やC7のときと違って、事前情報で安心できないのである。
実際のところどうなのかは、このモデルが晴れて日本に導入され、実車に触れてみないと分からないのだが、それでもファンがつい不安を口にしてしまうのもむべなるかな。やはり保守的な信奉者としては、C8もまた「“コルベット”であってほしい」と願わずにはいられないのだ。
記者はクルマの進化を否定するつもりはない。むしろ大歓迎だし、鈍感なのでエンジンの搭載位置が前でも後ろでも全然気にならない。ただ、コルベットがプアマンズフェラーリになるのだけは絶対ダメだ。記者はとにかく、コルベットにはアメ車の流儀で天下を狙うクルマであってほしいのである。
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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