第214回:最高だぜ!! 田舎のフェラーリ
2021.08.30 カーマニア人間国宝への道目をつぶって乗ろう!
実を言えば、新型「コルベット」には一生乗るまいと思っていた。なぜなら、エクステリアの印象が、あまりにも悪かったからである。
そりゃまぁ、一般の皆さまが眺めれば、フェラーリも新型コルベットも、見分けがつかないことでしょう。「どこが違うの?」とおっしゃることでしょう。
でも違うんです! コルベットのルックスは、田舎のフェラーリなんですぅ!
「田舎だろうが都会だろうがフェラーリはフェラーリだろ」
そう問い返されるかもしれませんが、それじゃアナタ、本物のプレスリーと田舎のプレスリー、似たようなもんと言えますか? 言えませんよね、田舎のプレスリーは吉 幾三さんですから。
大GMのカーガイたちが精魂込めてつくり上げた、夢のミドシップ・コルベット「C8」。それに罵詈(ばり)雑言を浴びせるなんて、あまりにも寝覚めが悪い。これはもう、見なかったことにしたほうがいい。もちろん触ったり乗ったりもしないほうがいい。コルベットについては何も書かずにそっとしておこう! そう思っていたのです。
しかし、担当サクライ君よりメールが届いた。
「新型コルベットにお乗りになりますか?」
……どうしよう。
よし、目をつぶって乗ろう! 目を開けるのは運転席に座ってからだ! それならいいだろう!
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ほぼ完璧なミドシップスーパーカー
いつものように、サクライ君は午後8時にわが家にやってきた。もちろん夜である。あたりは暗い。暗いからコルベットがよく見えない。よかった。そのうえで薄目を維持し、コルベットの全体像を見ないように努めながら運転席に乗り込んだ。
目を開けば、コックピットはフツーにカッコいい。特にカッコいいのは四角いステアリングと、センターコンソール部のずらりと並んだエアコン操作ボタンである。インテリアにはフェラーリっぽさはない。かといって以前のコルベットのような大味さもない。つまり無国籍で、どことなく日本車っぽい。なんだか落ち着くなぁ……。
エンジンスタートボタンを押す。V8 OHVが「バオ~~~ン」とほえたが、すぐ静かになった。私は燃費計をリセットし、首都高へと向かった。
首都高永福ランプの上り坂で、ステアリング上の「Z」ボタンをON。今回の試乗車は、すべてが最強になるよう「Zモード」が設定されており、OHVの咆哮(ほうこう)が高まる。合流でアクセル全開!
「ズボボボボボボボボボ~~~~~!!!!」
す、すばらしいサウンドやんけ! なんて気持ちいいんだぁ~~~~~~!!
行数に限りがあるので一気に結論をば。
新型コルベットは、エクステリア以外はほぼ完璧なミドシップスーパーカーでありました。それでこのお値段(1180万円~)はスゲエ!
しっかりしたシャシーがもたらす、望外の乗り心地に癒やされながら首都高を流せば、かすかに響くOHVの重低音が実に心地いい。ステアリングのキレも実にちょうどよく正確。そして、あらかじめ2速までシフトダウンしたうえで、アクセルを床まで踏み込めば、現代のスーパーカーにおいて最高の快楽がさく裂する!
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オッサンでも全開にできる
なぜコルベットの全開が最高の快楽かといえば、あまり速すぎないのに、音や振動が最高に個性的で気持ちイイからである。加速が良すぎると、加齢により快楽より恐怖が勝ってしまうし、加速自体も一瞬で終わってしまう。つまり気持ちよくない! どんなに「フェラーリ812スーパーファスト」のV12がすばらしくても、あんなもん、公道で味わい尽くせますかって!
でも、コルベットならそれができる。パワーはたったの502PS! しかも車両重量がけっこう重い(1670kg)から、加速は意外なほど穏やか! アクセル全開で楽しめる時間がそれだけ長い! 私が「458イタリア」から「328GTS」に乗り換えた理由もまさにソコ! 中高年が乗るスーパーカーは速すぎちゃダメ! 新型コルベットはオッサンの快楽ゾーンど真ん中だった!
私は断言する。エンジンの快楽度に関しては、世界の現行スーパーカーのなかで、新型コルベットが一番であると。その快楽を、しっかりしたボディーやミドシップのトラクションが、120%受け止めてくれるので、オッサンでもためらいなく全開にできるのである。
ああ、これでカッコが458みたいだったら……。GMにはもうひと踏ん張りしてほしかった。ここまでフェラーリっぽくするならば、田舎のフェラーリじゃなく、まんまフェラーリみたいにしてほしかった。
いやもちろん、そのまんま458にしろとは言いません。もうちょっとパネル面がシンプルで滑らかだったら。もうちょっとシワ(エッジやエグリ)が少なかったら。つまり、もうちょっと458っぽかったら最高だったのにぃ!
ちなみに新型コルベットのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm。458イタリアは4527×1937×1213mm。コルベットのリアのトランクを削ればほとんど同じっしょ!?
辰巳PA到着時、燃費計は、8.1km/リッターを示しておりました。さすが気筒休止システム搭載! 458はどんなにゆっくり流しても6.4km/リッターくらいしかいかなかったヨ! 恐るべしアメリカンOHV。
(文=清水草一/写真=webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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