第15回:ここにきてソフトウエア戦略を発表したトヨタ自動車の狙い
2021.09.14 カーテク未来招来 拡大 |
日本を代表する自動車メーカーのトヨタが、ソフトウエアの開発とコネクテッド化に関する戦略を発表! ……自動車を構成する要素としては、いささかマニアックなこの分野について、彼らがわざわざ発表会を催した理由とは? そして、そこで語られた内容とは?
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ソフトの開発に3000人の陣容で臨む
トヨタ自動車は2021年8月25日に、「トヨタのクルマづくりへのこだわりと未来への挑戦」と題し、ソフトウエア開発とコネクテッド化の取り組みに関するオンライン記者発表を実施した。
なぜトヨタが、このタイミングで「ソフトウエアとコネクテッド」という専門的な分野に関する会見を開いたのか? 筆者の勝手な推測では、このところ最大のライバルである独フォルクスワーゲン(VW)が、ソフトウエア事業への傾注を喧伝(けんでん)していることが大きいと思われる。この連載でも3回にわたりVWの戦略について紹介(第12回・第13回・第14回)したが、そのなかでもソフトウエアに関する発表の比重が、存外に大きいことが印象的だった。そうしたライバルの動きに、トヨタとしてもなんらかの情報発信をする必要に迫られたのではないか、というのが筆者の邪推だ。
特に「トヨタがVWを意識している」と感じたのは、今回の会見で登壇した山本圭司氏が、「(トヨタ自動車は)グループ内のソフトウエア開発会社であるウーブン・プラネットや、トヨタコネクティッドと連携し、グローバルで3000人規模の開発体制を構築。全世界でソフトウエアの開発を進めていく。海外を含むグループ全体では、1万8000人の規模になる」と発表したことだ。
トヨタがソフトウエア開発の陣容について明らかにしたのは、筆者の知る限り今回が初めてであり、この数字自体、重要なファクトではある。加えてもうひとつ重要なのが、この「3000人」という“規模感”だ。というのも、VWは社内のソフトウエア開発の陣容について、現在は3000人規模であり、これを2025年には5000人規模に増強する考えを打ち出しているのだ。「社内の陣容はVWに匹敵し、グループ全体でははるかにしのぐ陣容ですよ」というメッセージを、トヨタはこの数字に込めたかったのではないか。
ソフトウエアも“手の内化”
もうひとつ、筆者がVWを意識しているのかな? と思ったのが、ソフトウエアやコネクテッド技術も“手の内化”を進めるという発言である。トヨタはこれまで、ECU(電子制御ユニット)や半導体、電池、さらには燃料電池についても内製化……彼らの言うところの手の内化を進めてきた。技術をブラックボックスとせず、原理原則を理解するために手の内化を進めることが、これまでのトヨタの基本姿勢であり、その延長線上でソフトウエアやコネクテッド技術についても自社開発を進めていくと、山本氏は明言したのだ。
うがった見方かもしれないが、わざわざ手の内化を強調したこの発表についても、VWが「2025年までにソフトウエアの自社開発比率を10%から60%以上に引き上げる」と宣言したことを意識しているのではと、筆者には感じられた。
それにしても、なぜ今トヨタやVWは、ソフトウエア開発という自身が門外漢だった分野に取り組もうとしているのか。これまで完成車メーカーは、ECUに組み込むソフトウエアのほとんどを部品メーカーに外注していた。これは、エアコンならエアコン、変速機なら変速機という具合に、部品(あるいはシステム)ごとにECUが組み込まれていたからだ。そうしたクルマの構造では、サプライヤーが部品とECU、そしてECU上で部品やシステムを制御するソフトウエアを一体のものとして開発するほうが、効率がよかったのだ。しかし、これからは状況が変わる。今後は部品やECUというハードウエアと、ソフトウエアの分離が進んでいくことになる。
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統合ECUがソフトとハードを分離する
今回の発表でも、それに関連する発言があった。「ウーブン・プラネットが開発している車両ソフトウエアプラットフォーム『Arene(アリーン)』は、ハードとソフトを分離し、現在のすり合わせ開発を見直す」「これによりソフトウエア開発はより生産的になり、品質も向上し、開発のリードタイムも短くなる」「Areneによってユーザーに新しいアイデアをいち早く届けるとともに、製品化の醍醐味(だいごみ)を共有できる仲間を世界中で増やしていく」等々……。これらの発言を理解するには、そもそも「Areneとはなにか」を理解する必要があるだろう。
先ほども述べたように、これからの自動車は、エアコンや変速機といった構成要素一つひとつに個別のECUが備わる構造から、「統合ECU」と呼ばれる少数の高性能なECUが、さまざまなソフトウエアを並行して動作させる構造に変わっていくとみられている。
ひとつのECUで複数のソフトウエアを動作させることは、スマートフォンではすでに当たり前に行われていることだ。ただ車載のソフトウエアには、スマートフォンのそれと比べて格段に高い安全性・信頼性が求められる。例えば統合ECUのソフトウエアプラットフォームでは、ひとつのECU上に複数の「仮想のECU」を構成し、個々の仮想ECU上で別々のソフトウエアを動作させることになるのだが、仮にひとつのソフトが不具合を起こしたり、ウイルスに侵されたりしても、他のソフトには影響を及ぼさないことが求められる。そうした自動車独自の要求を満たすソフトウエアのプラットフォームが、トヨタが開発を進めているAreneである。
現在はエアコンや変速機といった部品とECU、制御ソフトは一体だが、統合ECUとAreneの登場により、将来的にはECUと制御ソフトがハードウエアから分離されることになる。これが「ハードとソフトが分離される」という意味だ。
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購入後にクルマに新機能を追加できる
統合ECU上では仮想のECUの数を増やすことができるので、その上で動作させるソフトウエアも後から追加できる。つまり、クルマもこれからはスマートフォンのように、ソフトウエアの追加によって機能を増やせるようになるわけだ(ハードウエアに寄らない機能に限るが)。
例えば、ドライブモードセレクターにメーカーが新規に製作した走行モードを設定したり、デジタルメーターに新しい表示デザインを追加したり、インフォテインメントシステムに自動運転中に楽しむゲームをダウンロードしたり……といったことが、これからのクルマでは可能になる。当然、これを実現するためにはArene上で動作するソフトウエア(アプリ、と言ったほうがイメージは近いかもしれない)を供給する、プロバイダーが必要だ。山本氏が「製品化の醍醐味を共有できる仲間」と表現したのは、このプロバイダーのことだ。
今回の発表では時間が限られていたこともあり、Areneについての詳しい説明はなかったのだが、少なくとも「トヨタも他社に負けずソフトウエアにまじめに取り組んでいますよ」というメッセージは伝わってきた。欲を言えば、次回の発表ではより分かりやすく、言葉だけでなく実例を交えて、トヨタの取り組みを紹介してほしい。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=トヨタ自動車、デンソーテン、ダイムラー、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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