第695回:誰もが知る有名なニックネームで呼ばれる名車5選
2022.06.20 エディターから一言 拡大 |
当たり前のことながら、すべての市販車にはつくり手の授けた車名がある。しかし一部のクルマでは、ファンやメディアの間から自然にニックネームが生まれ、多くの人が正式な車名は知らずとも、そのニックネームだけは覚えている……という事態に陥ることがままあるようだ。そうした誰もが知るニックネームがつけられた名車を5モデルセレクトしてみた。
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初代フィアット500:トポリーノ
1936年に発表された元祖「フィアット500」は、近代フィアットのテクノロジーを構築した名匠、ダンテ・ジアコーザ博士の出世作。また、イタリアのベーシックトランスポーターの歴史的傑作でもある。
車体サイズをこの時代における自動車テクノロジーの限界まで小型化し、ヨーロッパで最も維持費の安いクルマとされたが、技術的には単に大型車を縮小するのではなく、サイズに見合った新機軸を取りまとめて設計した世界初のコンパクトカーであった。
そしてこの小型フィアットの成功を決定的なものとしたのが、ダンテ・ジアコーザ自身もデザインワークに携わったといわれるモダンで愛らしいボディー。このかわいいスタイリングから「トポリーノ(Topolino)」というニックネームで呼ばれることになる。
トポリーノとは、イタリア語でハツカネズミのことを示すが、実は1928年のアニメーション映画「蒸気船ウィリー」で世界的スターとなったミッキーマウスも、イタリアでは「トポリーノ」と呼ばれる。
たしかに、当時のイメージカラーだった赤/黒のツートンにペイントされた500トポリーノを見れば、ミッキーマウスのカワイイ姿が浮かんでしまうのは必定だろう。
フォルクスワーゲン・タイプ1:ビートル
第2次世界大戦勃発の前年にあたる1938年、時のナチス政権の国民車「KdF」としてデビューした「フォルクスワーゲン・タイプ1」は、戦後間もない時期から生産が再開され、悲しい序章を吹き飛ばすかのようなヒットを獲得。そのフォルムから、旧西ドイツでは「ケーファー(Käfer=カナブンやカブトムシなどの甲虫類)」という愛称で呼ばれるようになっていく。
もっともドイツでは、戦前の1930年代から流線形を取り入れた小型車全般を指してケーファーと呼ばれていたが、なかでもフォルクスワーゲンだけが後世まで大成功を収めたことから、それがいつしかフォルクスワーゲン・タイプ1の同義語となっていったという。
1940年代末からアメリカへの輸出が始まると、安価な実用車であるはずのタイプ1は母国ドイツから遠く離れたアメリカにて、独自の文化を形成することにも成功。北米をはじめとする英語圏では「ビートル」として大衆に受けいれられた。
その「ビートル」から波及したのか、わが国でも「カブトムシ」、イタリアでは「マッジョリーノ(Maggiolino:甲虫)」と呼ばれたいっぽう、フランスでは「コクシネル(Coccinelle:テントウムシ)」の名で知られているようだ。
フランスでの事例はさておき、こうして世界に通じる愛称となった「ビートル」だが、それはあくまでファンや世間が授けた自然発生的なニックネームであり、メーカーとしてはこの名称にさしたるアクションを起こしてはいなかった。けれども1998年にデビューしたFWDの復刻版では、フォルクスワーゲン社が自ら「ニュービートル」と正式に命名し、それは2011年に代替わりした後継モデル「ザ・ビートル」にも継承されることになる。
これは、自然発生の愛称がメーカーの正式名称となった珍しい例のひとつなのだ。
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フェラーリ365GT 2+2:クイーンメリー
1967年のパリモーターショーにおいて世界初公開された「フェラーリ365GT 2+2」は、「250GTE 2+2」および「330GT 2+2」の系譜を継ぐ4シーターフェラーリ。またエレガントにして堂々たるラインは、1950年代末に登場した「スーパーアメリカ」の系譜を継ぐ「500スーパーファスト」の後継車としても存在感を示していた。
ホイールベースは2650mmで330GT 2+2から不変ながら、前後、特にリアのオーバーハングを大幅に延長することで得た全長は4980mm。これは4840mmの330GT 2+2より140mmも長く、さらに言えば現在の「GTC4ルッソ」よりも60mm長い。量産型のフェラーリとしては史上最も長いこの全長を、1960年代中盤までピニンファリーナのチーフデザイナーだったアルド・ブロヴァローネが見事に生かし、伸びやかで優美なプロポーションを形成していた。
そしてこの巨大さとエレガントなスタイリングから、365GT 2+2のデビューと同じ1967年に退役し、北米カリフォルニア州ロングビーチの港に停泊されることになった豪華客船にちなんだ「クイーンメリー」というニックネームがアメリカの自動車専門誌『ロード&トラック』によって紹介され、その後メジャーになるのだ。
ところで、フェラーリ365GT 2+2のボディー架装は、同じフェラーリでもスポーツモデル中心に担当していたスカリエッティではなく、(ほぼ)全モデルのデザインを引き受けていたピニンファリーナが自ら担当。それまでにも、スーパーアメリカなどゴージャスなグランツーリズモを製作してきた実績を誇るピニンファリーナは、インテリアでも本革やウッドパネルをふんだんに使用したほか、パワーステアリングやパワーウィンドウを標準で装備した最初のフェラーリともなっていた。
これらのゴージャスな装備と雰囲気もまた「クイーンメリー」のニックネームの由来となっていたのは、間違いのないところだろう。
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スバル360:てんとう虫
1958年にデビューした、軽自動車のパイオニア的存在。高度成長期の日本にモータリゼーションをもたらす功労者となった「スバル360」は、当時のファンや一般の子どもたちからも「てんとう虫」の愛称で呼ばれていた。
これは、フォルクスワーゲン・ビートル(タイプ1)の愛称「カブトムシ」あっての「てんとう虫」、昭和30年代に日本でも輸入が始まっていたビートルにあやかった命名とも思われがちだが、実際のところ、ビートルとスバル360は「似て非なるもの」とも思われる。
20世紀最高の自動車エンジニアとして認められたフェルディナント・ポルシェ博士が開発したビートルのスタイリングは、チェコのタトラで技術陣を率いていた盟友ハンス・レドヴィンカの影響を強く受けつつ、1930年代に世界的流行となった流線形を独自の方法論でリファイン。リアエンジン+後輪駆動の基本レイアウトこそスバルにも影響を与えた可能性は否めないが、鋼管バックボーンフレームとフロアパンを組み合わせたプラットフォーム式フレームが採用されていた。
いっぽうスバル360は、設計者である百瀬晋六が、第2次大戦前・戦中の旧中島飛行機で培った航空機テクノロジーを四輪自動車に転用したような、フルモノコックの車体構造を採っていたのが大きな特徴だった。
すべて曲面で構成され、ファストバック風のテールを持つこと、そして、ともにかわいらしいことなどが似通った結果として、大きな「カブトムシ」に対して「てんとう虫」と呼ばれたとみて間違いないのだろうが、実は技術的な出発点がまったく異なるものだったというのが、自動車のテクノロジー、そして自動車史の面白いところと感じてしまうのだ。
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日産スカイライン:ハコスカ/ケンメリ/ジャパン
わが国の自動車界を代表する人気ブランド「スカイライン」もまた、かつては世代ごとのニックネームが授けられていたことで知られる。
その由来は、自動車のCMがテレビや新聞、雑誌などで、今よりもずっと大々的な展開が行われていた時代ゆえに、それぞれの時代のCMコピーが直結していた。
たとえば3代目C10系の「愛のスカイライン」はその形状から現在「ハコスカ」と呼ばれているが、4代目C110系はCMの「ケンとメリーのスカイライン」から「ケンメリ」、5代目C210系はキャッチコピーの「スカイライン・ジャパン」から「ジャパン」の愛称で知られていた。
加えて「BUZZ(バズ)」と名づけられたユニットが歌う「ケンとメリー~愛の風のように」なるCMソングは、ケンメリのデビューした1972年にシングルレコードとしてリリースされ、オリコンチャートで一時は19位にランクされるという、当時のCMソングとしてはけっこうなヒットとなっている。つまり当時のスカイラインは、文字どおり「バズっていた」のだ。
ところで、今や「HAKOSUKA」名でアメリカを中心とする海外でもすっかり有名になってしまったC10系についてだが、亡父が日産系企業に勤務していたことから、子ども時代(1970年代)に大の日産ファンだった筆者の記憶が確かならば、一般のファンの間で「ハコスカ」と呼ばれるようになったのは、後継のケンメリやジャパンなど、世代ごとにニックネームがつけられるようになった1970年代後半以降のことであり、70年代前半の現役時代には、前述のCMキャッチコピーから「愛のスカイライン」と呼ばれることが多かったように覚えている。
つまり、流麗なコークボトルラインを前面に押し出したケンメリに対して、角張った武骨なスタイリングから命名されたそれは、後継モデルとの比較によって誕生したニックネームであることは明らかであろう。
(文=武田公実/写真=武田公実、RMサザビーズ、フォルクスワーゲン、フェラーリ、スバル、日産自動車/編集=櫻井健一)
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武田 公実
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