レクサスCT200h“バージョンL”(FF/CVT)/“Fスポーツ”(FF/CVT)【試乗記】
ドライバーズ・レクサス 2011.01.27 試乗記 レクサスCT200h“バージョンL”(FF/CVT)/“Fスポーツ”(FF/CVT)……474万3100円/469万3650円
最もコンパクトなレクサスとなる、新型ハイブリッド専用モデル「CT200h」がデビュー。さっそく、その仕上がりをチェックした。
「プリウス」とは別モノ
「CT200h」の運転席に着き、あたりを見まわす。低めの天井、弛緩(しかん)した運転姿勢を許さないタイトな居心地、径が小さく握りが太いステアリングなどなど、レクサスが初めて作るCセグメント車「CT200h」のテーマのひとつが、「スポーティ」であることは容易に理解できる。“乗り出し価格”で400万円級になるこのクルマが投入されるのは、CセグメントはCセグメントでも、よりアッパーな「アウディA3」や「BMW1シリーズ」などがいるところ。程度の差こそあれ、基本的に“走れるクルマ”でないと、存在感を発揮しづらいセグメントだ。
そんな「CT200h」の“運動神経”だが、ドライブトレインはスペック的には「トヨタ・プリウス」と同じ、すなわち99psの1.8リッターのアトキンソンサイクルエンジンに82psのモーターを組み合わせ、システム全体としては136psを発生するにすぎないと聞けば、誰もがちょっとは「大丈夫?」と不安になることだろう。
しかし、「ドライブモードセレクト」と呼ばれる最近はやりの走行パターン別の統合制御装置を介在させ、ハイブリッドシステムの駆動電圧を最大650Vまで昇圧(通常時500V)することにより、「プリウス」とはひと味違う太いトルクとレスポンスに富んだ加速フィールを得ている。
実際に乗ると、モーターが過給器的に働いている感覚である。SPORTモードを選ぶとグイッと別物の力強さを見せる。これまで「ハイブリッドは走らない」というイメージが頭のどこかにあったのは事実だが、こういうハイブリッドカーが出てくると、そのイメージもちょっとずつ変わっていくのだろうな、と感じずにいられない。
そして、エンジンのパワーを受け止めるシャシーもけっこう“速い”。「プリウス」とは、まったくもって別物といっていい。
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三車三様の美脚
ロック・トゥ・ロックで2.7回転のステアリングは、切り込んだときの反応がとてもシャープだ。ノーズがクッとコーナーの内側を向き、気持ちいいことこの上なしである。また、いかにもレクサスらしく、ロール方向の姿勢変化を抑えたセッティングになっているので、ステアリングを切れば切っただけグイグイと曲がっていく。「CT200h」は誰もが、等しく、速く走れるクルマだ。
もっとも最初期の「IS」(特にバージョンS)などに比べると、「CT200h」ではこれでもだいぶ足まわりを動かすセッティングになったと思う。かつてはロールなどほとんど感じさせず、容赦なくスパッと切れ込むようなところがあった。しかし「CT200h」では、ステアリングを切ってからロールが徐々に発生し、クルマがターンインに及ぶという一連の動作が、よりリニア、かつ自然に感じられるようになっている。レクサスのハンドリングも、時代とともに少しずつ味わいが変わってきているようである。
ハンドリングの良さは、当然のことながら一番引き締まった足まわりを持つ「Fスポーツ」が最も顕著だが、ちょっとマイルドなセッティングになるそれ以外の17インチタイヤ装着車(「バージョンL」では標準、「バージョンC」ではオプション)でも、十分に堪能することができる。
それに対して、「バージョンC」で標準装備となる16インチタイヤでは、もうちょっとロールさせる方向でチューニングされているので、17インチ仕様ほどのフットワークの良さはない。しかし、こちらはこちらで乗り心地の良さが引き立ってくるので、捨てがたいものがある。
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パーフェクトな新人?
とまあ、引き締まった足まわりがもたらす走りがあまりにいいものだから、走りの話ばかり書いてしまったが、環境性能(つまり燃費)の良さもかなり期待できそうである。
「ドライブモードセレクト」で「ECO」や「NORMAL」を選んでいるときはもちろん、「SPORT」を選んでいるときですらスロットルを閉じれば即座に回生モードに入るし、穏やかな走りに転じれば待ってましたとばかりに頻繁にエンジンを止め、モーターのみで走行する。
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またこれだけスポーティな走りを実現しながら、「Fスポーツ」にしても乗り心地が下品に硬くなっていないのが、素晴らしくも不思議なところだ。高いボディ剛性のおかげであろうことは容易に想像できるが、きっとフロント(サスペンションストラット間)とリア(サスペンション後部のフロア下)に装着された「パフォーマンスダンパー」がイイ仕事をしているのだろう。首都高の突起など、かなりきつい不整をボコンと通過しても、不快な振動が残らず、なめらかにやりすごしてしまう。
ダイナミックな加速を披露したかと思えば、ハイブリッド車ならではの高い環境性能もしっかり確保されている。また、操る面白さを備えていながら、洗練された乗り心地も置き去りにされていない。レクサスが「CT200h」でやろうとしていることはとても幅広く、Cセグメントの後発として、面白い“石”を打ったと思う。
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あと残す課題はひとつ。「CT200h」が愛されるクルマになれるかどうかである。愛されるクルマとは、完璧なクルマと、必ずしも同義ではない。さすがのレクサスにとっても、これはかなりの難問にちがいない。
(文=竹下元太郎/写真=峰昌宏)

竹下 元太郎
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