さようなら「アウディTT」! ドイツが生んだ美と先進のコンパクトスポーツ
2023.06.16 デイリーコラム多くのフォロワーを生んだ革新的デザイン
数あるアウディのモデルのなかから、心に残る一台を挙げるとしたら、私の選択は迷わずコンパクトスポーツの「TT」だ。特に1998年に誕生した初代TT(参照)は、限定モデルの「TTクーペ クワトロスポーツ」を2年ほど所有していたり、また、「TTロードスター」を半年近く知人から預かって楽しんでいたりしたこともあって、個人的に思い入れがあるモデルである。
一番の魅力はその際立つデザイン。虚飾を排したドイツ流デザインを採用しながら、円をモチーフとしたルーフラインや、くっきりと張り出したホイールハウスがとても新鮮で、その後、この要素を取り入れたニューモデルが世界中で生まれたことからも、TTの登場が自動車業界にどれほど大きなインパクトを与えたかが理解できる。
ディテールの美しさもTTの魅力である。TTのロゴが記されたアルミのフューエルリッドをはじめ、コックピットを彩るアルミのエアベントやセンターコンソールも、クルマに乗り込むたびに私の目を楽しませてくれた。ロードスターに装着される野球のグローブを模したレザーシートもユニークだった。
一方、初代の初期型はリアスポイラーのないすっきりとしたデザインを採用していたが、それが原因で高速走行時の安定性に問題があることが発覚。これに対応すべく、固定式のリアスポイラーとスタビリティーコントロールが装着されたのを覚えている人もいるだろう(参照)。初代TTは同じフォルクスワーゲングループの4代目「ゴルフ」と基本設計を共有し、FFと「クワトロ」と呼ばれる4WDを用意。新しモノ好きの私としては、「TTクーペ3.2クワトロ」に、アウディとして初めてデュアルクラッチギアボックスが組み合わされたのも、見逃せないポイントである。
これを超えるデザインのクルマを生んでほしい
2006年には初のフルモデルチェンジにより、2代目TTが登場した。初代に比べると横から見たときの丸みが薄れたものの、特徴的なホイールハウスやフューエルリッドのデザインが受け継がれたのがうれしいところ。それ以上に注目したいのが新たに採用したボディー構造で、同社のフラッグシップサルーン「A8」に用いられる「ASF(アウディ スペース フレーム)」技術をアレンジし、アルミとスチールとを効果的に組み合わせることで軽量化と高剛性化を実現していている。驚いたのはソフトトップを備えるTTロードスターを運転したときのことで、オープンカーとしては実にボディー剛性が高く、当時、所有していた「ポルシェ・ボクスター」よりもしっかりとしていたのには嫉妬すら覚えたものだ。また、モデルサイクル途中には、アウディ伝統の5気筒ターボを搭載する「TT RS」が登場。ユニークなエンジンサウンドを発しながら力強く加速する様子に心が躍った。
現行モデルの3代目TTは2014年にデビュー(参照)。2代目のイメージを色濃く残しながら、よりシャープなエクステリアを手に入れたのが特徴である。見た目以上に進化したのがその基本設計で、フォルクスワーゲングループの横置きエンジン用プラットフォーム「MQB」に、前述のアルミとスチールのハイブリッド構造を持つASFを組み合わせることで、ボディーの軽量化と高剛性化をさらに高い次元で両立している。インテリアでは、センターディスプレイを排し、あらゆる情報をメーターパネルに集約した「アウディ バーチャルコックピット」を搭載したのも、3代目の特徴である。
いずれの世代もアウディデザインの魅力が強く感じられるTTだが、驚きという点では初代は頭ひとつ抜けた存在だった。残念ながらこの3代目でTTは終わりを迎える(参照)が、そのデザインは今後も語り継がれるだろうし、電気自動車の時代にそれを超える新しいアウディデザインがファンを魅了してくれることを願うばかりだ。
(文=生方 聡/写真=生方 聡、アウディ、newspress/編集=堀田剛資)
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◆関連ニュース:「アウディTT」の四半世紀におよぶ歴史を締めくくる特別仕様車が登場
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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