ランボルギーニ・ウラカン テクニカ(MR/7AT)
魂の解放 2023.10.16 試乗記 ランボルギーニが誇るV10エンジンが、間もなくその役目を終えようとしている。つまり「ウラカン テクニカ」に積まれた最高出力640PSのユニットを楽しめる時間は残りわずかということだ。「これが最後!」とばかりにレブリミットまで味わってみた。ランボルギーニがつくった世界
箱根ターンパイクのキンギョと呼ばれる駐車スペースで、ランボルギーニ・ウラカン テクニカに乗り換えた。着座してシートベルトを締め、センターコンソール中央にあるミサイルの発射装置みたいな赤いカバーを上に跳ね上げて、ヘキサゴン(六角形)のスターターを押す。グオンッ! と背後の5.2リッターV10自然吸気ユニットが爆裂音を発して目をさます。ドアの内張りはカーボン製で、ドアレバーは存在しない。代わりに赤いヒモが付いている。忘れがたい同様の方式は964型「ポルシェ911カレラRS」だ。あれはめちゃんこ乗り心地がハードだった……。ただ、カーボンと赤いヒモを除くと内装はターコイズブルーの差し色が効いていて、むしろ華やかである。スマホを置く場所もないところは潔い。
慎重にスタートする。といってギアボックスは7段DCTだから、エンストの心配は要らない。ギアチェンジの際のあれこれも。ただアクセルペダルに載せた右足に力を込める。ウラカン テクニカはごくフツウに走りはじめる。
乗り心地ははっきり硬い。硬いけれど、ターンパイクの路面は良好だから、ものすごくスムーズで軽快に感じる。でもって、アクセルをもうちょっと踏み込む。タコメーターの針が4000rpmを超えると、パフォオオオオオオオオオッ! というエンジン音が室内にとどろく。比較的静かだった世界が一変する。それこそ世界がひっくり返るほどに。耳の奥が痛い。ご近所から苦情が絶対来る。ああ。なんたるエンタメ! 4000rpmから先は非日常の世界。フェスです。ということをウラカン テクニカは明瞭に伝えてくる。ああ。これぞランボルギーニ。これぞスーパーカー。なんてすてきなんだぁ。
こういうのがお好きなんでしょ。というお客さん向け。わかってるなぁ、ランボは……。と思ったけれど、そうではない。ランボルギーニが非日常の世界をつくった。その突き抜けた非日常の世界に熱狂する人たちがいた。そういえば、ランボは今年で60周年。ああ。おめでたい!
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ストリート重視のテクニカ
取材チームはウラカン テクニカでターンパイクをのぼり、伊豆スカイラインへと向かった。あいにく霧が濃かった。Uターンし、私はひとり、ターンパイク方面に向かってしばし走った。時に4000rpm以上回しながら。
ウラカン テクニカは2022年4月にランボルギーニが発表した「公道とサーキット、2つの世界でベスト」をうたう過激なウラカンである。5.2リッターV10は、レースカー直系とされる「ウラカンSTO」と同じで、最高出力640PS/8000rpm、最大トルク565N・m/6500rpmを発生する。
サーキットを出自とするSTO同様、RWDを採用しつつも、STOよりストリート重視で、ポジション的にはウラカンEVOとウラカンSTOの中間に位置づけられる。
外観の見過ごせないお色直しもいくつか施されている。ウラカンEVO比で全長が6.1cm長くなっているのは、フロント両サイドに設けられた、Y字を寝かせた造形と新しい空力処理のためだろう。Yの部分は黒い樹脂製で、本当は新しい旗艦「レヴエルト」のようにDRL(デイタイムランニングライト)でやりたかったにちがいない。それでも新世代ランボ共通のアイコンになっている。
Y型のすぐ下に、縦に細長いエアスクープ、別名オープンスロットが設けられてもいる。フロントのタイヤまわりにいわゆるエアカーテンをつくって空力抵抗を減らす仕掛けだ。
リアのウィンドウを垂直型に変更してもいる。狙いは後方視界の改善で、バーチカルリアウィンドウの採用はウラカン初となる。同行したスタッフによれば、従来よりよく見えるという。
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路面に吸いついているかのようだ
エアロダイナミクスの見直しにより、ウラカン テクニカはウラカンEVOのRWD比で、リアのダウンフォースが+35%、空気抵抗は-20%を達成している。ランボルギーニは電動化を進めることで2025年までにCO2排出量を半減すると明言しているから、自然吸気V10のウラカンの余命もそう長くはないはずだ。しかして、今回の改良はウラカンの全モデルにも適用されそうに思える。要注目ではあるまいか。
ウラカンSTOとテクニカとの違いはシャシーのセッティングにある。「アニマ」と呼ばれるドライビングモードのモード名にも表れている。STOの場合、「STO」というモデル名がそのままデフォルトで公道用、「トロフェオ」がドライ路面のサーキット用、もうひとつ「ピオッジア」(イタリア語で「雨」)という雨用の3つからなる。
テクニカのアニマは標準型ウラカンと同じ「ストラーダ(道)」「スポルト」「コルサ(レース)」で、電子制御システムのプログラムが異なる。
余談ながら、STOと書くたびに「スペース・トルネード・オガワ」という小川直也の必殺技を私なんぞは浮かべる。変形の体落としで、受け身がとれない。ウラカンのSTOは「スーパー・トロフェオ・オモロガート」の意なので、無関係である。当たり前ですね。
タイヤはSTOゆずりの「ブリヂストン・ポテンザ スポーツ」で、サイズも同じく前:245/30R20、後ろ:305/30R20という超偏平を装着している。とりわけフロントは、静止状態でもホイールが削れはせぬかと心配になる。このスーパーウルトラ偏平タイヤのおかげもあってなのだろう、ステアリングに、大地にかみつきながら、あるいは路面に吸いつきながら走っている、みたいな手応えがある。後輪駆動だけれど、全然怖くない。私的にはドリフトができる技量もないので、スローイン・ファストアウトに徹する。それでも、気分はスーパーマン。モーレツな前後Gと横Gを感じながら、思い出すと、脳内にジョン・ウィリアムズのテーマ曲が流れてくる。
スーパーマンにも歌姫にも
タコメーターのメモリは8500rpmからレッドゾーンになっていて、5.2リッターV10は回転を積み上げるにつれ、前述したように鼓膜が痛いほどの音圧、女性ソプラノもかくやの美声でもって朗々と歌いあげる。
低速では路面の凸凹を伝える乗り心地は、速度が上がるほど素晴らしくなる。切れ味がある乗り心地。なんて表現が成り立つのかどうかは不明なれど、軽快で、スムーズ。V10もまた乗り心地同様の軽快さとスムーズネスでもってドライバーを情感の世界へと誘う。かつてのBMWの「M5」「M6」のV10も滑らかではあったけれど、あちらはやっぱりサルーン用ということでしょうか、もうちょっとまろやかだった。
ウラカン テクニカのV10はもうちょっと小排気量の、具体的には4リッターぐらいの軽快さでもって回転する。音の粒々がより緻密で、より滑らかで、より澄んでいる。伝説の歌姫マリア・カラスの舞台を鑑賞している。おそらくそういうのにも似た快感で(たぶん)、オペラの観客と決定的に違うのは、私は流れる景色と前後横Gのめくるめく快感に身を委ねていることだ。と同時に、歌のオクターブを自在に操っている。作曲もしている。オペラをつくっている。女性ソプラノで歌っているのはウラカン テクニカだけれど、ウラカン テクニカは私で、私が歌姫。しかも、気分として私はスーパーマンで、空を飛んでいる!
アニマをスポルトに切り替えると、4000rpm以下でもボリュームが上がり、音圧の変化が小さくなるせいか、おかげで耳の痛さは取れる。アクセルオフでエンジンがゴボゴボ、レーシングエンジンさながらのサウンドを奏ではじめ、8500rpmめがけてアクセルを踏み込むと、グオオオオオオオオオオオッ! と加速し、アクセルオフで、うううううううううううううッと泣き、ギアが何速に入っているかは知らねど、クオオオオオオオオオオッというソプラノで絶叫する。
カーボンセラミックのブレーキは利きすぎるほどの安心感がある。だから、安心して踏む。後輪操舵が付いていることは感知できないほど自然に作動する。8500rpmまで回し切ったとき、魂が解放されたと思った。
(文=今尾直樹/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカン テクニカ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4567×1933×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1700kg
駆動方式:MR
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640PS(470kW)/8000rpm
最大トルク:565N・m(57.6kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:14.5リッター/100km(WLTPモード)
価格:2999万2916円/テスト車=3981万5366円
オプション装備:ダーククローム&カーボンツイルパッケージ(82万1810円)/リアビューカメラ(24万5740円)/エレクトリックエクステリアミラー(12万2980円)/レザーパイピング&ダブルステッチ入りフロアマット(7万6890円)/スタイルパッケージ<ハイグロスブラック>(33万1430円)/バイカラートリム<レーザーグラフィック>(19万5910円)/リアの「Lamborghini」ロゴ<シャイニーブラック>(7万5350円)/ライブリー2シャイニー<ブラックルーフ+リアボンネット+ウイング+サイドミラー下部>(173万2170円)/「Damiso」20インチホイール<ブロンズダイヤモンドカット&ブラックセンターロックナット>(82万8520円)/スポーツシート<バイシェル>(87万5710円)/アディショナルアルカンターラパーツ<ルーフ+アッパーダッシュボード>(15万0590円)/ヴィジブルカーボンリアボンネット<シャイニー>(60万2580円)/ボディーカラー<Blu uranus>(159万6540円)/ブラックCCBキャリパー(15万3560円)/カーボンドアパネル(69万1460円)/ドアパネル(13万8160円)/フロアマット(23万0450円)/ロワダッシュボード(7万6890円)/シート(43万0210円)/ステアリングホイール(23万0450円)/トンネル&コンソール(13万8160円)/アッパーダッシュボード(7万6890円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1373km
テスト形態:ロードインプレッション、トラックインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:349.2km
使用燃料:64.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.4km/リッター(満タン法)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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