第775回:主役はやっぱり「Honda 0」! 世界最大のIT見本市「CES 2024」に見たクルマの未来
2024.01.18 エディターから一言 拡大 |
世界最大級のエレクトロニクスとITの見本市である「CES 2024」。コロナ禍明けに久しぶりに新春のラスベガスを訪れたところ、自動車メーカーの参加が減るなかで大きな存在感を放ったのはホンダであった。注目の次世代電気自動車(EV)や、会場で見かけたAI、ソフトウエアなどの革新技術をリポートする。
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自動車メーカーの主役はホンダ!
CESは非常に規模が大きいイベントだ。「コンシューマー・エレクトロニクス」という家電関連の展示会をルーツとし、より高度に、より広範囲にとスケールが拡大してきた歴史を持つ。そのため参加企業数が多く、会場も非常に広大だ。
ざっくりいえば、ラスベガス・コンベンションセンターはメイン会場のTech Eastだけで日本の東京ビッグサイトの2倍ほども広さがある。そして、それ以外にもTech West、Tech Southと2つの会場があるのだ。日本でいえば、東京ビッグサイトだけでなく隣のお台場と東雲(しののめ)にも展示場が用意されているようなもの。そこでプレスデーの2日を合わせて、合計6日間にわたってさまざまな記者会見が実施される。
基本的にはB to Bのイベントのため、来場するのはメディアやメーカーをはじめとする各業界の関係者のみ。子供連れで遊びに来るエンタメではなく、大真面目なビジネスの場となっているのだ。
そんな巨大なイベントではあるけれど、今年のCES 2024に関していえば、自動車メーカーの参加は少なかった。しっかりと大きなブースを構えていたのは、ホンダとソニー・ホンダモビリティ、メルセデス・ベンツ、ヒョンデ、キアといったところ。そのなかで特に注目度が高かったのは、新しいEVブランド「Honda 0(ホンダ0)」シリーズを発表したホンダだった。
ホンダ0は、2040年にモデルラインナップを100%電動化すると宣言したホンダが、そのけん引役となる市場へ向けて投入する、グローバルなEVシリーズだ。発売は2026年と予告されている。「0(ゼロ)」という名前には「原点」や「出発点」の意味が込められており、ホンダの電動化にかける思いの強さをひしひしと感じる。またホンダ0の立ち上げに合わせて、ホンダは1981年以来、つまり43年ぶりに「H」エンブレムのデザインも改定(参照)。新しいEVラインナップには新しいエンブレムが付けられるという。
独自技術で軽さ、広さ、走りのよさを追求
ブランドの立ち上げとともに披露されたモデルは、「SALOON(サルーン)」と「SPACE-HUB(スペース・ハブ)」の2台。これはシリーズ全体のイメージを伝えるコンセプトモデルであり、実際に2026年に登場するモデルとなるのかは未定だという。特にスペース・ハブは、いまだ量産化が了承されていないらしい。この2台になったのは、「ひとつはスポーティー、もうひとつは実用性の高さ」と、ブランドの特性の両極を提示する狙いがあったようだ。
低床のEV専用プラットフォームに、ホンダ得意のMM思想(マンマキシマム・メカミニマム=人のためのスペースは最大に、機械のスペースは最小に)、そしてステア・バイ・ワイヤ技術を掛け合わせることで、広い室内と低重心、軽量さを実現する。現時点でも業界平均より100kgも軽く、2020年代後半には300㎏もの軽量化を目標に掲げている。また開発者いわく「テストコースでの走りは、相当にイケてます」とのこと。ホンダらしいキビキビとした走りが期待できそうだ。
ちなみに、ホンダのEVラインナップはこの0シリーズだけではない。中国では、すでに「e:N」シリーズを展開しており、また日本では軽自動車ベースのEVの発売も予定している。つまり、世界各地で並行して進むプロジェクトのなかでも、特に広くグローバル展開し、しかも最上位に位置するのが0シリーズになるという。
ホンダのブースに飾られる2台のコンセプトモデルは、非常に強い存在感を放っていた。デザイナーいわく「サイド面を立てているのが特徴」だとか。確かに、サルーンは全体がクサビ形ではあるものの、それでもサイドが立っているため箱のような形をしている。面には力が満ち満ちと詰まっているような張りがあり、ノーズは尋常ではないほど短い。従来のクルマとは一線を画す意欲的なデザインだ。この果敢さこそ、ホンダらしさなのではないだろうか。2026年の市販が非常に楽しみだ。
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ソニーとホンダのコラボ「AFEELA」は地道な進化
ソニーとホンダが共同開発する「AFEELA(アフィーラ)」も、より進化した「アフィーラ プロトタイプ2024」が発表された。2023年に発表されたモデル(参照)と比べると、変化は非常に少ない。サイドミラーがカメラから普通のミラーになったこと。前後バンパーにあったディスプレイが、フロントのみになったことくらいだろうか。
しかし開発自体は着実に進化しているようで、スペックも発表されている。寸法は全長×全幅×全高=4915×1900×1460mm、ホイールベース=3000mm。パワーユニットは前後車軸それぞれに最高出力180kW(約245PS)の永久磁石型同期モーターを搭載する電動4WDで、搭載されるリチウムイオン電池の容量は91kWh。自動運転レベル3を実現する先進運転支援システム(ADAS)を備えるという。
フロントのディスプレイは色を変えるだけでなく、メッセージや情報を表示することもでき、人とクルマのコミュニケーションに貢献するという。またインストゥルメントパネルの全面をおおうパノラミックスクリーンは、各走行情報や映画などのコンテンツを表示するだけでなく、AR(拡張現実)ナビ機能も備える。ステアリングが上半分をカットした「YOKE(ヨーク)ステアリング」となっているのは、より画面を見やすくするためだ。
車体だけなくシートにも数多くのスピーカーを備え、体が音に包まれるような「360°リアリティーサウンド」が楽しめるという。デモを体験してみたけれど、小さな音量でも体の芯まで響くような迫力を感じた。さすがソニー! とうならされる音響体験だ。またシミュレーターでのドライブでは、走行時のサウンドも耳にできた。サウンドは任意に変化させることができるらしく、これも楽しみのひとつとなりそうだ。
プレスカンファレンスでは、マイクロソフトと組んで対話型パーソナルエージェントを開発中であることも明かされた。さらに車内で楽しめるアプリのプラットフォームを社外にも公開しているという。つまり、ソニー以外にもさまざまなクリエイターによるアプリが楽しめることになりそうだ。
見た目だけでいえば変化はわずかなものだけれど、その中身は着々と2026年のデリバリーに向けて熟成されているようだ。デビューが待ち遠しい一台といえるだろう。
技術的なトレンドはAIとSDV
また今回のCES 2024であちこちの展示を見て回るなか、何度も耳にしたのが「AI」と「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)」という2つのキーワードだ。AIは、そもそも会場の建屋の壁にでかでかと「AI for All」とあったように、自動車だけでなくイベント全体でもテーマのような扱いになっていた。
自動車関連でいえば、例えば対話型の音声アシスタント機能の実現のためにAIを用いるという。先述のとおり、ソニー・ホンダのアフィーラはマイクロソフトとシステムを共同開発するというし、フォルクスワーゲンは音声認識のソフトウエア会社セレンスと手を組み、ChatGPTを利用する対話型音声アシスタントを導入すると発表している。インテリアなどを手がけるマレリも、AIを用いたバーチャルアバターを車内で活用するアイデアを提案していた。未来のカーライフでは、クルマに話しかけるのが定番になりそうな勢いだ。
またAIは対話だけでなく映像認識にも利用できる。ソニー・ホンダでは、アフィーラのADASにAI技術を使い、2026年の自動運転レベル3実現を目指しており、またホンダ0シリーズも、AIをはじめとする知能化技術の革新により、一般道でのハンズオフ走行を含む自動運転システムの実装を目指している。
もうひとつのキーワードであるSDV、これはクルマの価値をハードウエアだけで見るのではなく、ソフトウエアも併せて考えようというもの。ハードはそのままでありながら、ソフトウエアをアップデートすることで価値を高めていくことができる。通信で車載ソフトウエアを更新できるOTA(Over the Air=無線によるデータの送受信)が実用化されたこともあって、自動車メーカーだけでなくサプライヤー各社も、ソフトウエア開発に本腰を入れてきているようだ。
ソニー・ホンダのアフィーラが車内で楽しむアプリ開発に力を入れるのも、SDVのひとつといえるだろう。
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次世代LiDARやデジタルデトックス、水素など新提案も続々
大きなうねりではなくとも、気になる技術展示は数多く存在した。例えば、ヴァレオが2025年に市場投入するという次世代LiDAR「SCALA 3」だ。LiDARとはレーザーの照射によって障害物の有無や距離などを検知するセンサーで、ヴァレオの製品はかつてホンダが自動運転レベル3を実現した「レジェンド」(2021年)に採用されていた。しかし、そのLiDARは第1世代のものであり、解像度は4万4000画素、見える距離も60mしかなかった。それに対して第3世代のSCALA 3は、1250万画素で200m先まで見ることができるという。まさに圧倒的な差である。このLiDARがあれば、停滞していた自動運転技術の進化に光明が差すかもしれない。来年、再来年の自動運転の盛り上がりに期待を持たせる技術だった。
次に面白かったのが、マレリによる“デジタルデトックス”という提案だ。「車内に使われるディスプレイがあまりにも多すぎる。だからこそ、逆に使わないときはディスプレイをしまう」というもの。これまではいかにディスプレイを増やすかに苦心してきたが、果たしてそれが必要なのか? という鋭い指摘だ。サプライヤーであるマレリの提案は、どの程度、自動車メーカーに受け入れられるのか? ぜひ注目だ。
また自動車電動化の流れは、当然のことであるけれど、EV以外にもさまざまな展示・発表で見て取れる。今回のCESでは、水素関連の技術をあちこちで目にした。ボッシュは燃料電池パワートレインの量産開始を発表しただけでなく、水素を燃やす水素エンジンにも力を入れていると明かした。今年(2024年)の後半には、ボッシュの技術を使った水素エンジンの量産もスタートするというのだ。
コロナ禍の前に取材したときのCESでの話題は、もっぱら自動運転であり、その次が車両の電動化だった。しかし今回の取材では、EVにAIにSDV、新世代LiDARに水素と、さまざまな技術トレンドが林立していた。自動車技術はいつまでも力強く前進し続ける。そんなことを強く感じさせる取材であった。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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