第44回:「認証が厳しすぎるってことはないですか?」 小沢コージがダイハツの不正問題で国土交通省を直撃!
2024.01.24 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ今後のダイハツはどうなるのか?
ご存じ、2023年12月20日の小沢の誕生日に突如発覚したダイハツ大不正問題。同年4~5月に軽めのジャブ程度の不正は発覚してましたが、今回こそ本丸。なんせ新たに国内外の64車種、25の試験項目で174件の不正行為が見つかったわけで、その後の立ち入り検査でもさらなる14件の不正が発覚。国内向けは合計46車種で156件、その後再開の5車種を除き、現在国内ほぼ全車が出荷停止中で、トラックばかりとはいえ3車種も型式指定の取り消しが決まったわけですから。
とはいえ素朴な疑問はそもそもの不正があって今や売ってもいないのに「まだほとんどのクルマを走らせていい」という現実や今後ダイハツにはどんな厳しいシナリオが待っているのかという点。
そこで小沢は年始の忙しい時期に……と恐縮しつつも、国土交通省 物流・自動車局 審査リコール課の蛯原勇紀 自動運転技術審査官(総括)を直撃(取材は型式指定の取り消し決定前)。予想外のぶっちゃけトークをさせていただき、大変勉強になりました。ってなわけで今後のダイハツ、どうなりそうなの?
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そもそもなぜ公道を走っていいの?
小沢:今回は年始も早くからありがとうございます。どこから聞こうか悩みますが、そもそもきっかけは2023年4~5月の海外向け車両と「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」の不正からです。あれから7カ月、なぜ12月20日まで引っ張ったんですか。
蛯原:引っ張ったというより5月に報告があり、第三者委員会で検討しますと。そこから全車種、過去生産分を含めて網羅的に調べた結果、7カ月かかって12月20日に報告がありました。
小沢:一部のユーザーにとってはもっと早く情報が欲しかったと思います。僕自身5月には受注開始するはずだった新型「ムーヴ」がここまで出なかった理由がやっと分かったという感じで。
蛯原:どの車種でどんな不正があったかはもちろん単発で分かりますが、それより一番の問題は不正の根っこはなんなのか、経営陣がどれだけ関与していたのかという点。それらを体質を含めて調査してもらっていたので(時間がかかりました)。事象+背景、原因も合わせて、パッケージとして報告してもらう必要がありました。
小沢:確かに。それがないと罰を考えるばかりで今後の再生に結び付かないですよね。それに不正を分かった順に小出ししても「またかまたか」で無駄に信頼性を失うばかりで、まとめたほうが僕はいいと思いました。「当面運転しても大丈夫」というステータスもユーザー視点からは最初に言うべきだし。
蛯原:おっしゃるとおりです。
小沢:とはいえ一番の疑問は、認証不正をした車両なのに「まだ公道を走り続けていい」ってなんなの? と。第三者委員会では外部認証機関のTUVで確認をとったとか、ダイハツ社内で再度確認してるからOKっていうけどなんだそれ? と。そこがユーザーの正直な疑問だと思うんです。
蛯原:おっしゃるとおりだと思います。自分がカンニングしたのに、もう一回自分でテスト受けたら受かってます! と言っているのに近いと思うので。今回は安全と安心、気になる点は両方だと思うんですが、特に安全のほうは国交省がこれから不正のあった車種について全部確認試験をやります。
小沢:やはりやるんですね。
蛯原:国としてはダイハツ側の主張を知ったうえで全車種試験を国の機関でやりますと。ただし現行で28車種ありますので、それなりに時間はかかりますし、どういうふうにやるか。国交省はあくまでも安心安全を見る部署で、基本(国の)経済面は見ない部署ではありますが、現在車両の生産を全部止めていますし、それはそれでサプライヤーさんも含め、経済に大きな影響が出ると思うので。その結果はまた公表いたします。
小沢:一般的に分かりやすい不安な点はエアバッグの不正ですよね。起動にタイマーを使っていたって話で、社内でOKだといっても本当に事故ったときにエアバッグが開くのかと。
蛯原:可能性でいえば国が確認するまでゼロとはいえません。でも、われわれも報告書を精査しておりますが、それほど危険はないと考えられます。
小沢:なるほど。国交省さんもそういう感覚なんですね。
蛯原:今回はセンサーの開発が間に合わないから暫定的にタイマーを付けた。ただし実際に売られている車両にはセンサーが付いている。それからTUVというしっかりとした第三者機関で見ているという前提はあるし、安全上大きな問題が出るかというとおそらく出ないだろうと。
そもそもの認証の存在意義
小沢:となるとですね。ここからが大変に失礼かつ素朴な疑問なんですが、国土交通省の認証を通ってないのに安全だってことは、そもそも現状の認証そのものが過剰というか、厳しすぎるってことはないんでしょうか?
蛯原:認証が過剰かって、クルマづくりのルールはご存じだと思いますけど、国連のUNレギュレーション、つまりほとんど国際基準で試験のやり方も含めて決まっています。そういう意味で型式認証という手続きはヨーロッパと一緒です。アメリカは少し違っていて、排ガスは事前認証ですけど、安全は事後認証という特殊なやり方で、そこが過剰かっていわれると……。今回は認証そのものではなく、そのやり方のなかでうまくすり抜けられた部分であり、不正という部分なのかなと。
小沢:とはいえスイマセン、普段思ってる疑問をぶつけさせていただくと、2016年のスズキの燃費不正の時にもあったんですが、あれは本来惰行法という方式で、実際に新車を走らせて走行抵抗値を測り、燃費を算出する必要があった。しかしスズキは不確定要素を排除するためにあえて空力やタイヤの転がり、ブレーキの引きずり抵抗を測り、合算して抵抗値を算出して燃費を測った。それがダメってことで罰せられたわけです。しかし実際に測ってみたら当初のカタログ値よりよかった(笑)。
シミュレーション測定のほうが逆に正確なのでは?
小沢:要はあくまでも実際に測らなければいけないってことなんですけど、例えば最近の話でいうと「日産セレナ」のカタログ燃費って結構甘いんですよ(カタログ値として追い込み切れていない)。それってなんでって開発陣に聞いてみると「認証担当ドライバーがヘタクソなんだよ」って言うんです。だから本来の性能よりも悪い計測結果になる。
蛯原:(笑)
小沢:もちろん実際に測って燃費や安全性を決めたい気持ちも分かります。それこそが本当のリアルだと。ただ今やシミュレーションが発達している時代に、全部が全部そこまでやる意味はあるのか。逆に不確定要素を増やしてはいないかと。マジメな話、大変失礼だとは思うんですけど、衝突実験もどんどん合理化されているじゃないですか。スーパーコンピューターのシミュレーションでほとんど済んで、実際のテストは最後に1回やるだけでOKだと。そうやって認証試験も一部は省力化すべき部分もあるのではないかと。いかがでしょうか。
蛯原:その観点からのご指摘はわれわれもメーカーさんもずっと意識していて、国際基準の見直しは随時行われています。小沢さんがおっしゃったように惰行法の話も当時のスズキさんは技術的には確からしいやり方をとったんですけど、ルールでは惰行法じゃなきゃダメと決まっていた。そのルールがある以上、それ以外でやったらダメですね。
小沢:もちろんそのとおりだと思います。
蛯原:それよりルールをもっと合理的で確からしいものにしたければ、そもそも国際基準と国だけではなく、自動車メーカーさんとも一緒につくっているルールですので、そのなかで言えばいいじゃないですかと。
小沢:それがまさに聞きたかったことで、失礼なハナシ、最近の自動運転の決めごとなどは相当柔軟になってらっしゃるけれども、今回そこがうまくいってなかったってことはないのかと。今回のダイハツの不正を見るとほとんどが時間切れ、時間切れって話じゃないですか。
例えば第三者委員会の報告書で、とある衝突試験では本革ステアリングで申請をしていて、それをウレタンステアリングでやってしまったと。で、やり直す時間がないからウレタンのデータを出した。でも、僕なんかからするとウレタンステアリングも本革ステアリングも結果はさほど変わらないように感じますし、例えば係数をかけるなどしてもっと柔軟にできないのかと?
蛯原:できますよ。最初から「より重いモノ、より厳しい素材でやります。だから同等以上の性能を発揮できます」と申請時に言っていただければいいだけの話。単純にそれを怠った。本当にしようもないレベルのミスです。
小沢:そこは国交省が厳しすぎるとか、モノを申せない雰囲気があるってわけじゃないんですか?
蛯原:それはないのではないか、と思います。どこのメーカーさんも同じようなことをやっておられて「厳しい」とおっしゃるのなら分かるのですが、そういう声は出ていない。そんなことをしているのはたぶん……。報告書の中にも書いてありましたけどある意味、ダイハツさんには認証というものをしっかりと基準、あるいは試験方法、あるいは手続きを守ってやるんだという規範意識が欠けていたんではないのか。上層部も認証というのは最後の最後で、あくまでも販売日ベースの逆算スケジュールを守るのがマストで、認証は一発で合格するに決まってるんだろ! と。その意識が欠けていたのではというのが報告書の内容ですし、われわれも「そうじゃないのか」っていうのが立ち入り検査で感じた部分です。
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法の中身は時代に合わせて変わっている
小沢:すいません、僕は官僚体質みたいなのがどこかに残ってないかが心配で。もう1つだけお聞きしたいのですが、確かに今回、認証制度自体に問題はなかったのかとメーカーの開発者にあらためて聞くと、ホンダの人も日産の人もみんな「ない」っていうんですよ。古い決まりはほとんどない。すでに国際化されている。
ただ1つだけ輸入車ブランドに聞いたら火薬のテストでエアバッグに関するものは国交省が担当、ドアヒンジに関するものは経産省が担当していて説明が二度手間だと。最近、高級スポーツカーでヒンジの爆破テストをする車両があったそうで、そこに関しては手間だったと言っていました。これはどうでしょう?
蛯原:う~ん、そこは国交省の保安基準に入っていなかったのかもしれません。実はそういう話はわれわれにとっても大変ありがたくて、去年燃料電池車に関して法律が変わったんです。「トヨタ・ミライ」などに積んである水素タンク、あれってもともと車両は国交省の保安基準の範囲ですが、水素タンクは経産省の高圧ガス保安法だったので面倒だという話があったんです。
小沢:まさに同じような話です。
蛯原:それが去年の法改正で燃料電池車は国交省が全部見るカタチに変わりました。
小沢:なるほど。どんどん合理化しているんだと。もしかしたらスイマセン、ヒンジの爆破担当も今は変わってるかもしれないです。
蛯原:よくいわれるのは道路運送車両法という法律で、車両の安全はそれで見ているんですが、最初は昭和26年にできたんですね。その歴史だけみて「古いルールでずっときている」と勘違いされている方が一定数おられますが、中身はどんどん変わっていますので。日本のメーカーであれば自工会さんと、輸入車だったらJAIAさんと、われわれ審査・リコール課はずっとコンタクトをとっています。1つだけ言うのであれば、われわれはまさに審査とリコールの両方を担当していますので、厳しくやるべきときは厳しくと思っています。ただ、不合理だと思っている部分、無駄だと思われる部分の相談については随時受け付けていますから。逆にメーカーさんやインポーターさんには、国がこうなっているって思われないようにしなければと今回お話を聞いてあらためて思いました(笑)。
小沢:う、大変恐縮です。
(文=小沢コージ/写真=ダイハツ工業、小沢コージ/編集=藤沢 勝)
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小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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