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スズキ・スイフト ハイブリッドMZ(FF/CVT)

極められた普通 2024.03.06 試乗記 鈴木 真人 スズキのコンパクトハッチバック「スイフト」がフルモデルチェンジ。メカニズムの目玉は新開発の1.2リッター3気筒エンジンだが、燃費性能が改善した一方で、パワーとトルクは先代モデルよりもちょっぴりダウンしている。果たしてドライブした印象は?
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スポーティーだけじゃない

試乗車が新型スズキ・スイフトと聞いて喜んだが、トランスミッションがCVTと知って少し落胆。せっかくならマニュアルに乗りたいと思ったのだ。悪い癖である。スイフトはスポーティー、だからワインディングロードに持ち込んでキビキビ走りたい――なんだか短絡的で、パブロフの犬のようだ。

スズキとしては、こういう発想こそが困りものだったのだろう。スポーティーというのはもちろんほめ言葉なのだが、そこが強調されすぎると購買層が限られてしまう。スイフトはコンパクトカーというジャンルで「トヨタ・ヤリス」「ホンダ・フィット」「日産ノート」などの強力なライバルたちと戦わなければならないのだ。幅広いユーザーに向けてアピールすることが大切である。

自分も含め、スポーティースポーティーとなんとかの一つ覚えのように言い続けてきた自動車メディアも反省しなければならない。スイフトはグローバルに展開する戦略商品であり、累計販売約900万台を誇る基幹車種なのだ。スポーティーだけが取りえではない。プレス資料には「エネルギッシュ×軽やか 日常の移動を遊びに変える洗練されたスマートコンパクト」がコンセプトだと記されている。いい意味で“普通”であることを追求しているのだ。テーマは「脱スポーティー」である。

すでに試乗した人たちに印象を聞くと、誰もが称賛の言葉を発する。でも、どこがよかったのかを話してくれない。「普通にいい」と言うだけなのだ。加速がいいとかハンドリングがキビキビしているといった具体的な表現をしてくれなくて閉口した。なぜみんなボキャブラリーが乏しいのかといぶかしんだが、乗ってみたら分かった。普通にいいのである。

今回の試乗車は新型「スズキ・スイフト」の最上級グレード「ハイブリッドMZ」。車両本体価格は216万7000円で、オプションを含めたこの試乗車の総額は256万1130円。
今回の試乗車は新型「スズキ・スイフト」の最上級グレード「ハイブリッドMZ」。車両本体価格は216万7000円で、オプションを含めたこの試乗車の総額は256万1130円。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3860×1695×1500mm。先代モデルと同様、5ナンバー枠に収まっている。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3860×1695×1500mm。先代モデルと同様、5ナンバー枠に収まっている。拡大
プラットフォームなどは先代モデルから引き継いでいるが、フロントまわりのデザインはガラリと新しくなった。チリを大きくしてボンネットがクラムシェル型であることを強調している。
プラットフォームなどは先代モデルから引き継いでいるが、フロントまわりのデザインはガラリと新しくなった。チリを大きくしてボンネットがクラムシェル型であることを強調している。拡大
ヘッドランプはカバーがボディーからはみ出しているかのように膨らんだユニークな形状。これが未来感を生み出している。
ヘッドランプはカバーがボディーからはみ出しているかのように膨らんだユニークな形状。これが未来感を生み出している。拡大
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万人受けで賛否両論のデザイン

「普通にいい」というのは、現在ではほめ言葉である。以前はマイナスのニュアンスがあったが、21世紀になってから意味合いが変わったらしい。普通であることが「欠点がない」というように受け止められ、広く評価されることから「すごく」「とても」という強調の用法が生まれていったようだ。新型スイフトが「普通にいい」と評されれば、開発陣の意図は成功したことになる。

ボディーサイズは先代とほとんど同じで、5ナンバーを守った。コンパクトカーの普通である。日本の交通事情に合わせた最適サイズということだ。最小回転半径も4.8mと変わらず、開発陣は取り回しのよさがこのクルマにとって大切であることを理解している。試乗したのはマイルドハイブリッドモデルで、車重は950kg。軽量であることも重要な性能の一つだ。

エクステリアデザインも普通になった。これは、必ずしもほめることにはならないかもしれない。先代モデルはある種の異形ともいえる特異なフォルムで、熱狂的な支持を集めた一方で食わず嫌いも生んだと思う。新型はよくまとまっているものの、突出した個性はない。スポーティーに振ったヤリスやゆるふわ系のフィットに比べ、万人受けする普通を狙っているように見える。

インテリアはポジティブな普通志向である。見やすくて使いやすく、適度にタイトな囲まれ感が心地いい。ダッシュボードやドアトリムはほぼ全体が硬質な素材なのだが、デザインの工夫で上質感が演出されている。ブラックとアイボリーの構成に、シルバーのラインで変化をつけた。ピアノブラックは最小限で、カメラマンにはありがたい仕様である。

この試乗車のボディーカラーは「バーニングレッドパールメタリック」とブラックのツートン。スズキ車としては極めて高額な9万9000円のオプションカラーだ。
この試乗車のボディーカラーは「バーニングレッドパールメタリック」とブラックのツートン。スズキ車としては極めて高額な9万9000円のオプションカラーだ。拡大
アイボリーの樹脂パーツをふんだんに使ったインテリアは明るく開放的な雰囲気だ。エアコンの操作パネルやセンタースクリーンはドライバー側に8度も傾けられている。
アイボリーの樹脂パーツをふんだんに使ったインテリアは明るく開放的な雰囲気だ。エアコンの操作パネルやセンタースクリーンはドライバー側に8度も傾けられている。拡大
従来型のシートはお尻から座るとサイドサポートがすぐにつぶれてしまったが、新型ではウレタンに芯が入ったかのようにしっかりした。サイズにもゆとりがある。
従来型のシートはお尻から座るとサイドサポートがすぐにつぶれてしまったが、新型ではウレタンに芯が入ったかのようにしっかりした。サイズにもゆとりがある。拡大
全長4mを切るサイズながら、後席にも大人が余裕をもって座れる。ヘッドクリアランスもたっぷり。
全長4mを切るサイズながら、後席にも大人が余裕をもって座れる。ヘッドクリアランスもたっぷり。拡大

加速感とエンジン音がシンクロする

パワートレインを一新したのは普通ではない。新開発の1.2リッター直列3気筒エンジンを採用している。エントリーグレード以外にはISG(モーター機能付き発電機)とリチウムイオンバッテリーが組み合わされていて、加速をアシストするとともに燃費向上にも貢献。エンジン本体も燃費性能を重視していて、WLTCモード燃費は24.5km/リッターとなっている。

燃費エンジンといわれるとパンチがないのではないかと心配になる。実際に最高出力や最大トルクの数値は先代よりダウンしているのだ。でも、なぜかパワー不足は感じなかった。もちろん、目の覚めるような加速を楽しめるわけではない。気持ちがいいのは、アクセルを踏んだ際にクルマが意図と同じ動きをするからだろう。加速感とエンジン音がうまくシンクロしているのだ。

CVTも新開発で、エンジンとの相性がいいようだ。街乗りでスムーズであるだけでなく、ワインディングロードでも活発に走る。シフトパドルが装備されているが、Dレンジでも十分に楽しい。加速では着実にエンジンのパワーバンドを効率的に使い、小気味のいいレスポンスがリズムを生む。コーナリングではシャキッとした動きが心を躍らせる。スポーティーを強調していなくても、やはりスイフトはスイフトだ。

メーター内に示されるエネルギーモニターを見ていると加速時にはモーターが作動しているのが分かる。燃費には効いているのだろうが、体感できるほどのアシストではない。下り坂では回生機能ですぐに容量が満杯になるぐらいの小容量で、こまめに介入して効率を高めているのだろう。実用的な表示とは別に、トルクとパワー、アクセル開度、横Gを示す機能もある。やはりスポーティーさを求めるユーザーに向けてのサービスなのだろうか。

新開発のZ12E型1.2リッター3気筒エンジンは最高出力82PS、最大トルク108N・mを発生。下位グレードの「XG」以外はマイルドハイブリッド(3.1PS/60N・m)付きだ。
新開発のZ12E型1.2リッター3気筒エンジンは最高出力82PS、最大トルク108N・mを発生。下位グレードの「XG」以外はマイルドハイブリッド(3.1PS/60N・m)付きだ。拡大
最上級グレード「ハイブリッドMZ」には9インチのディスプレイオーディオが標準装備で、ナビゲーションは全方位モニターとセットで選べる(13万3100円)。スクリーン自体はどちらも変わらない。
最上級グレード「ハイブリッドMZ」には9インチのディスプレイオーディオが標準装備で、ナビゲーションは全方位モニターとセットで選べる(13万3100円)。スクリーン自体はどちらも変わらない。拡大
全方位モニターはご覧のとおりのくっきりクリアな高画質。予算が許せばぜひ選びたいところ。
全方位モニターはご覧のとおりのくっきりクリアな高画質。予算が許せばぜひ選びたいところ。拡大
スマートフォンのワイヤレス充電器は4万9830円とちょっと高額。アイボリーの部分に見えているのは全方位モニター&ナビゲーションとセットのCD/DVDスロット。
スマートフォンのワイヤレス充電器は4万9830円とちょっと高額。アイボリーの部分に見えているのは全方位モニター&ナビゲーションとセットのCD/DVDスロット。拡大

Z世代の価値観を意識

プラットフォームは先代を引き継いでいるというが、細かいチューニングが施されているのだろう。山道のコーナーでは軽やかなのに、高速巡航ではこのサイズとは思えぬ重厚感すらある。乗り心地も優秀で、悪名高い西湘バイパスの連続段差を難なくこなした。バタつくことなく、巧妙に振動を吸収している。「脱スポーティー」のもくろみはいい着地をしたと思う。

単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた新開発の衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートII」を全車に採用するなど、先進安全装備も充実した。これは、もう一つのテーマ「Z世代への訴求」を意識した改良だという。Z世代とはデジタルネイティブな若者たちで、ブランドにはこだわらず事前にしっかり情報収集してモノを選ぶそうだ。バブル世代のオヤジにはZ世代の気持ちは分からないが、彼らの価値観がクルマを進化させるならいいことである。

多様性を大切にするのもZ世代の特徴だ。宮藤官九郎脚本のドラマ『不適切にもほどがある』では、昭和から令和にタイムスリップした阿部サダヲが「俺の価値観も認めてくれよ! それが本当の多様性」と叫んでいた。スイフトはスポーティー命というファンの期待を裏切らず、快適性と実用性を求める新たなユーザーにもアピールできる仕上がりになっている。

スイフトについて話していて、うっかり「スイスポ」と発音してしまうことが何度かあった。スイフトといえば「スイフトスポーツ」でしょ、という思い込みからまだ逃れていなかったことをおわびしなければならない。「普通にいい」ことの素晴らしさが、まだ身にしみて分かってはいないようである。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

アダプティブクルーズコントロールや車線維持支援システムは全車に標準装備。センサーには単眼カメラとミリ波レーダーを使う。
アダプティブクルーズコントロールや車線維持支援システムは全車に標準装備。センサーには単眼カメラとミリ波レーダーを使う。拡大
メーターパネルはセンターにカラーのマルチインフォメーションパネルをレイアウト。スピードメーターとタコメーターは針式で、後者は1000rpmごとの目盛りが立体的になっている。
メーターパネルはセンターにカラーのマルチインフォメーションパネルをレイアウト。スピードメーターとタコメーターは針式で、後者は1000rpmごとの目盛りが立体的になっている。拡大
後席使用時の荷室容量は265リッター。奥行きはソコソコだが、深さで容量を稼いでいる。
後席使用時の荷室容量は265リッター。奥行きはソコソコだが、深さで容量を稼いでいる。拡大
荷室の左側面にあるラゲッジランプ。なんということはない装備だが、スライドスイッチで消したりつけたりできるのが意外に便利。
荷室の左側面にあるラゲッジランプ。なんということはない装備だが、スライドスイッチで消したりつけたりできるのが意外に便利。拡大

テスト車のデータ

スズキ・スイフト ハイブリッドMZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3860×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:82PS(60kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:108N・m(11kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1100rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:24.5km/リッター(WLTCモード)
価格:216万7000円/テスト車=256万1130円
オプション装備:ボディーカラー<バーニングレッドパールメタリック×ブラック2トーンルーフ仕様車>(9万9000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション スズキコネクト対応通信機装着車(13万3100円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン、スタウト>(1万7820円)/ワイヤレス充電器(4万9830円)/ETC2.0車載器(4万6640円)/ドライブレコーダー<前方録画用>(4万7740円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2727km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:473.8km
使用燃料:28.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.8km/リッター(満タン法)/18.6km/リッター(車載燃費計計測値)

スズキ・スイフト ハイブリッドMZ
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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