大卒初任給は22万円余り 新社会人はどんなクルマを買うべきか!?
2024.03.27 デイリーコラム若者には時間がある
2024年春。大卒平均初任給22万円の新社会人はどんなクルマを買うべきか? というお題を編集部からいただいたので、私なりに考えてみたい。まずもって、欲しいクルマがある若者はそれを買うべきである。カーライフはカーがあって初めて幕が開く。
何事かを成し遂げたわけでもない私がこんなことを申し上げても説得力はないけれど、それでもせっかくこういうお題をいただいたのだから、言っておくべきだろうと思う。
新社会人、すなわち若者の特権とは時間があることである。人生100年時代だとすると、まだ75年以上もある。振り返るとあっという間だった気もするけれど、ま、振り返ってもしようがないので筆者は振り返らないのですけれど、あえて振り返ってみると、このことば、私も若いときにはピンとこなかった。そう言われてもね……と思っていた。エライひとはみんな年上で、早く年をとりたいと思っていた。だけど、若者は知っておくべきだ。君はなんでもできるようになるし、なんにでもなれる、ということを。ま、何事かを成し遂げるようなタイプのひとは、たいていの場合、根拠のない自信を持っているものだからして、余計なお世話かもしれない……。
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自動車に乗るには儀式が必要だ
で、肝心のどんなクルマを買うべきか? ふたつ申し上げたい。
その1は、マニュアルを買うべし。ということである。マニュアル。というのはもちろん取扱説明書のことではない。マニュアルギアボックス、またはマニュアルトランスミッション、MTを買いなさい。なんとまあ時代遅れな!? ネットに出てくるデータだと、日本の自動車免許はオートマチック限定が70%強を占めている。逆に言えば、30%近くの方がMT免許をお持ちだ。意外と多いではないか。最近の新車販売におけるAT車の比率は99%に達しているというのに……。
やっぱり自動車をマニュアルで運転したい。という欲望がクルマ離れといわれるニッポンの若者にもあるのだ。もしもあなたがそのひとりだとすれば、ますますもってMT車を買うべきである。それというのもATなんてのは自動車の運転の面白さの半分以上を最初から捨てているからだ。それは自動車の運転にとって大切な儀式までもを省略していることになる。近ごろの電気自動車にはキーを持って乗り込むと自動的にオンになる仕掛けもあるけれど、あんなのは言語道断。そういうことでよいのか? 自動車というのは、凶器にもなりうる鉄の箱だからだ。そういう乗り物に接するときには、ある種、宗教的な儀式が必要だと筆者は思うのである。
運転席に着座してシートベルトを締め、寒い日にはスターターを回す前にチョークを引っ張ったり、あるいはアクセルを2、3回パコパコっと踏んだりする。それからクラッチを切ってキーを軽く右に回す。電動ポンプが動き始める音を確認したら、さらにもう一段右にひねる。というのは話が古すぎるにしても、キュルキュルっというセルの音にブオンッという爆発音が重なり、内燃機関の振動を感じながらギアをローに入れ、クラッチをゆっくりリリースして発進する。視覚と聴覚、嗅覚、触覚、なめはしないにしても、四感と第六感を総動員し、体全体で感じてやろう。と走りだす前に決意する。ドライブをスタートする前にそう念じることで、あなたのドライブはいっそう充実するはずだ。
自動車の運転はある種のスポーツ、運動、娯楽、気晴らしである。そう信じられる新社会人諸君に申し上げたい。クルマはマニュアルを買うべし。
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フツウのクルマで十分楽しめる
その2、予算は250万円とすべし。
いまから40年前の1984年4月に新社会人となった筆者の初任給は13万円ほどだった。思い出すなぁ。自分名義の最初のクルマは、上司のスズキさんからもらった1971年(たぶん)の「シトロエンGS」、5MT、右ハンドルで、月決め駐車場代が確か1万8000円だった。自分が住んでいる木造5畳半、風呂なし、トイレ共同のアパートの部屋代は1万5000円で、13年落ちのGSの駐車場代のほうが屋根も畳もないのに高かった。
いまもむかしも、若者にお金がないのは当然のことだから、貧乏はちっとも恥ずかしいことではない。夢と希望と、ポケットにちょっぴりのお金があればいい。というようなことを言ったのはチャップリンである。
タダでもらえるものはタダでもらっておこう。新車で初めて買ったのは入社5年目の1989年、「Mini」の1リッターのキャブレターで、実はオートマチックだった。奥さんが乗りたいと言ったから、なのですけれど、オートマチックだって、自動車の運転は楽しい。マニュアルはもっと楽しい(ということなので、私のなかではその1とは矛盾しない)。
Miniは内装の一部にレザーが用いられているなどした30周年記念モデルで、当時200万ちょっとだったと記憶する。こんにちでも若いひとはそんなに高いクルマを買う必要はない。200万円ちょっとで買える新車はもはや軽自動車かリッターカーしかない。でも、それで十分。「GR」ではないフツウの「ヤリス」の1.5リッターのガソリン車(205万円)とか「マツダ2」の1.5リッター(213万8400円)、あるいは軽の「ホンダN-ONE RS」(206万2500円)とかのMTをオススメしたい。
自動車とはなんぞや? を学んでほしい
中古車サイトに目を向ければ、200万円も出せば、宝の山がゴロゴロしている。900cc、2気筒ターボの「フィアット・パンダ」とか「ルノー・ルーテシア」とか、私もそれらのMTの物件を眺めたりしている。ちなみに某サイトでパンダのMT、価格200万円、走行距離3万kmを検索してみたら、9台も出てきた。なかには、2気筒ではないけど、2007年の「パンダ100HP」なんてのもあって、興味がそそられる。ルーテシアでも同じ条件で検索してみたら2台出てきた。1台は2015年の「ゼン」、900ccの3気筒ターボで、走行距離3万km。支払総額98万円。もう1台は2011年の「ルノースポール」で、距離2.5万kmで、総額168万円。いいよなぁ……。
新社会人にはこういうヨーロッパのベーシックカーで、自動車とはなんぞや? ということを学んでほしい。国産の新車より夢が広がる……ような気がするのは、ま、筆者がそういう世代の、というか、そういうひとだから。ということですけれど、とはいえ、そういうひとであることは編集者もご存じのはずで、それでこのようなテーマの原稿を依頼しているわけだからして、ここでの私の回答はいつもと同じで新味もなければ、実用的でもない。役に立たない。としても、ホントにそう思っているのだから致し方ない。
もし自分の子どもがパンダとかルーテシアの10年落ちの中古車を買いたい。と言ったら、どうするか? 私もメチャクチャ心配するだろう。だけど、親というのはそれでいいのである。問題は、私の3人の息子たち、すでに30代半ばだけれど、彼らもまた世間の若者たちと同様、自動車にまったく関心がないことで、そっちにガッカリなんである。マニュアル車を買った新社会人の若者よ、編集部に連絡ください。迷惑かもしれんけど、会いに行きます。
(文=今尾直樹/写真=スズキ、ステランティス ジャパン、トヨタ自動車、ルノー・ジャポン、webCG/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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