シンプルゆえに奥深い! 新型「ホンダ・フリード」のデザインを元カーデザイナーはどう見たか?
2024.05.24 デイリーコラム最近のホンダはプロポーションがいい!
「ホンダ・フリード」が、実に8年ぶりにフルモデルチェンジされますね。コンパクトミニバン市場はフリードと「トヨタ・シエンタ」のガチンコ対決状態にあり、そのどちらもが人気車種です。小さな寸法なのに最大で7人が乗れ、さらに電動スライドドアなど装備も充実しているとあれば、日本で売れる理由がわかります。
シエンタがどこか動物のようなカジュアル路線のデザインなのに対し、新型フリードは最近のホンダ車に共通する、シンプル路線でデザインされています。ファストファッションでいうと、シエンタがGAPやH&Mなのに対し、フリードはユニクロやMUJIといったところでしょうか? どちらも優れたデザインなので、消費者としては好みで選ぶことができますね。とにかく、さっそくフリードのデザインを掘り下げていこうと思います。
まず、ここ数年のホンダデザインは、とにかくシンプルで、デザインの本質を表現しているように思います。過度なモチーフは省き、カーデザインの本質であるプロポーションのよさで勝負しようという感じですね。
その、プロポーションのよさの核となるもののひとつが、踏ん張り感(スタンス)のよさといえますが、このクルマはボディーサイズ、特に全幅を5ナンバーサイズの寸法内に抑えつつも(後述する「クロスター」はちょっとはみ出ていますが……)、どのビューから見てもしっかりしたスタンスが感じられます。これを実現するには、特にタイヤと車体の前後コーナーの位置関係が重要なのですが、このクルマは大きく見せようとかいう邪念がなく、ただいいカタチをつくろうとしているのが見て取れますね。
顔まわりは強い面構成で堂々として見えます。グリルなどに頼らなくても強く見せられる見本だと思いますね。薄い目のようなシグネチャーランプは今のトレンドのひとつですが、これもすごく効果的に顔を引き締めています。
それに比べてリアまわりは、やや物足りないと感じてしまいました。3列目の居住スペースを考えた箱型のシルエットはよいのですが、リアを構成するさまざまなものの比率や仕立てが従来的すぎて、新規性が感じられないのが惜しいところです。同じホンダのミニバンでも、「ステップワゴン」は魅力的なリアデザインだと思うんですけどね。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
最近のホンダで一番いいと思ったインテリア
新型フリードは、インテリアのデザインも秀逸だと思いました。住宅の調度類のような柔らかい断面や素材感と、収納やトレイ、インフォテインメント系などの機能がうまく組み合わされており、大変気持ちのいい空間ですね。
他のホンダ車では、「N-BOX」は新型でデザインが洗練された代わりに収納が少なくなったり、ステップワゴンはパッと見のイメージがやや従来的で新鮮味に乏しかったりと、エクステリア同様にシンプル志向なのはわかるのですが、一長一短があるデザインだなと思っていたんです。でもこのフリードのインテリアは、「快適さ」「高い洗練度」「機能の充実」と、全部かなえてくれるデザインだと思います。2列目はもちろん快適。3列目は狭いのですが、頭上は余裕があり、窓もしっかり大きいので圧迫感はないですね。やはり優れたデザイン、パッケージだと思います。
余談ですが、私は2代目「ホンダ・トゥディ」が最初に手にしたクルマでした。実家にあったクルマをもらったんです。偶然かもしれませんが、このクルマのインパネが、まさにこのフリードのインパネと構成が同じなんですね。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
このデザインが受け入れられる世の中であってほしい
ホンダにはクロスターという、ややアウトドア的なイメージのグレードがあります。フリードのほか、「フィット」にも展開しているのですが、他メーカーのモデルと比べると表現がおとなしい印象でした。これは意図的に、シンプルを志向するホンダの範疇(はんちゅう)でデザインしていたと思うのですが、消費者から見るともう少しわかりやすい仕立てにしたほうが魅力が増すかな? と思っていたんですね。
しかしこの新型フリードには、黒色部を増やしたクラッディングやアンダーガード的なシルバー加飾などで、ノーマルとの明確な差別化をやろうという意識を感じます。ただ、私は前に勤めていた会社でこのようなアウトドアフィールのデザインもたくさんしてきたのですが、その視点でいうと、顔まわりはもう少しノーマルからバランスを変えるとより魅力が増すかな? とか、シルバー加飾の多用は今のトレンドにそぐわないかな? とか、アーチクラッディングの幅や断面が大きすぎて、かえってタイヤを小さく見せているかな? とか、いろいろ考えてしまいました(笑)。
このような企画の場合、与えられた条件で印象を変えるデザインをするのは大変なんです。車高やタイヤ外径を大きく変えられたら一番いいのですが、通常だとそれどころかライト類すら変えられないので、バンパーなどの樹脂部だけでデザインしなければならず、大変難しいんですよね……。
……と、最後はクロスターについてモヤモヤしたことを言ってしまいましたが、総じて新型フリードは、プロポーションのいいエクステリアデザイン、ルーミーで使い勝手に優れたインテリアデザインと、大変魅力的な一台に仕上がっています。デザイン面においては、ライバルのシエンタもすごく魅力的だと思っているのですが、このフリードも8年待ったかいがあるのではないでしょうか?
今のホンダデザインは、ある意味すごく「挑戦的」です。売れ筋であるカジュアル路線や高級路線とは違う、シンプルを追求しようとする姿勢が見られます。こうしたメーカーは、よそでいうとフォルクスワーゲンくらいでしょうか? 意外とこのようなシンプルなデザインを志向しているメーカーは少ないんです。私的にはすごく応援したいところですね。
(文=渕野健太郎/写真=webCG/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【ニュース】「ホンダ・フリード」がフルモデルチェンジ オフィシャルサイトで先行公開
◆【画像・写真】新型「ホンダ・フリード」のより詳しい写真はこちら(84枚)
◆【ホンダ・フリード 開発者インタビュー】“ちょうどいい”は変わらない
◆【デイリーコラム】新型「ホンダ・フリード」vs.「トヨタ・シエンタ」 そのバトルの行方は?

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
-
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括するNEW 2025.9.24 2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。
-
世界中で人気上昇中! 名車を生かしたクルマ趣味「レストモッド」の今を知る 2025.9.22 名車として知られるクラシックカーを、現代的に進化させつつ再生する「レストモッド」。それが今、世界的に流行しているのはなぜか? アメリカの自動車イベントで盛況を目にした西川 淳が、思いを語る。
-
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか? 2025.9.19 中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか?
-
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる? 2025.9.18 本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
NEW
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2025.9.24試乗記ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。 -
NEW
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括する
2025.9.24デイリーコラム2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。 -
“いいシート”はどう選べばいい?
2025.9.23あの多田哲哉のクルマQ&A運転している間、座り続けることになるシートは、ドライバーの快適性や操縦性を左右する重要な装備のひとつ。では“いいシート”を選ぶにはどうしたらいいのか? 自身がその開発に苦労したという、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】
2025.9.23試乗記晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。 -
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.22試乗記世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。 -
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.9.22カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?