トヨタ・ランドクルーザー“70”AX(4WD/6AT)/ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)
信頼される理由がある 2024.05.28 試乗記 「トヨタ・ランドクルーザー」ファミリーのなかでも、フラッグシップモデルにあたる“300”と、究極のワークホースである“70”に試乗。オフロードコースでのチャレンジを通して両モデルの実力に触れ、世界中で信頼される理由を垣間見た。兄弟そろって質実剛健
みんな大好き、ランドクルーザー! 「さなげアドベンチャーフィールド」で開催されたオフロードチャレンジは、いよいよ後編に突入だ。前半ではランクル3兄弟の中核モデル“250”を試したが(参照)、ここでは長兄“300”と、ナンバリング的には末弟にあたる“70”の走りを確認しながら、シリーズの全容をつかんでみよう。……ん? その歴史から考えると“70”が長兄で“300”が次男か? もしかしたら“70”はお父さんかも。
とにもかくにも2021年にフルモデルチェンジを果たしたランクル“300”は、シリーズのトップレンジモデルだ。トヨタも“300”が属する「ステーションワゴン」系を「ランクルを象徴する存在」と位置づけており、常に最新・最高の技術を投入するモデルだとしている。
ちなみに“250”は生活に根ざした「ライトデューティー」で、“70”は普遍的な「ヘビーデューティー」。そしてなにより大切なのは、これらすべてのモデルが、おしゃれSUVではなく生粋のオフローダーだということだ。タフだからこそ世界中の人たちの生活を支えられるわけで、その質実剛健さから、ユーザーとの間に信頼が生まれている。
トヨタもそれがわかっているから、高級路線へとシフトし、SUVブームの波に乗った「200系」や「プラド」から原点回帰するため、今回ブランディングを刷新したのだろう。そしてそのテストフィールドに、素人にはちょっとタフな“さなげ”を選んだのだ。
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まさに王者の貫禄
そんなさなげでランクル“300”は、素晴らしい走りを見せた。特に今回はサスペンションを超ロングストローク化した「GRスポーツ」仕様だったから、岩場やモーグルでの足つきのよさが、“250”とは言葉どおりに段違いだった。
専用に仕立てられたスプリングとスタビライザー。特にスタビは前後で独立制御され、今回のようなオフロードではフリー(締結を解除)とすることでホイールストロークを稼ぐ。4WDのモードはローギアードの「L4」に設定。マルチテレインセレクトを使えば適宜路面に応じたモードを選択可能だが、オフロードビギナーの筆者は「オート」で固定。ナビゲーターの指示に従いハンドルを切って、言われたとおりにアクセル開度を合わせて悪路をクリアした。
ランクル“300”は、その都度電子制御ブレーキを利かせながらトラクションを稼ぎ、トルクを上手に伝えて急斜面を登って行く。車体がどんなに傾いても4つのタイヤが路面を離さない。可変ダンパー「AVS」がゆっくりとそのロールを制御する走りは快適を通り越して包容力に満ち、王者の貫禄。ランクル“250”ではその高い走破能力に喜ぶ筆者だったが、“300”の走りには圧倒された。
さなげのインストラクター、熟練のおじちゃんいわく、昔はラインを考えて、必要があればいったんクルマから降りて様子を見たりしたという。「ハンドルをグリグリこじって路面を探りながら、頭を使って走るのが面白いんだけどねぇ!」と笑っていたが、こちらとしてはこの岩場をこともなげに走り切ったランクル“300”の走破性にすごみを感じた。
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パワートレインに感じる上位モデルの説得力
ご存じランクル“300”は2種類のエンジンを持つが、このロック/モーグルセクションをガソリン仕様の3.4リッターV型6気筒ツインターボエンジン(415PS/650N・m)で走れたのはよかった。結局のところ、オートモードやクロールコントロールのおかげで繊細なアクセルワークは必要とされなかったが、「レクサスLS」由来のV6ユニットに、約2.5tの車重を急斜面で支えながら、滑る岩場をジワジワと登り切れるだけのタフさもあるとわかったからだ。これが3.3リッターディーゼルターボ(309PS/700N・m)だったら、「さすがのトルクだ!」で終わってしまっただろう。
もちろん、林道で走らせたディーゼルは素晴らしかった。ローギアードでの“すり足”に合わせて、遠鳴りにフワーッと響くサウンドは耳に心地よく、こういう場所だとノイジーどころかむしろ頼もしい。ぬかるんだ急な坂道を一気に駆け上るときの瞬発力はもちろん、その後のアクセルコントロールもガソリンエンジン並みに上々なのは、Vバンク内にタービンを備えるターボチャージャーのレスポンスゆえか。その力強さと制御のスムーズさに触れると、やはりこちらが上級機種なのだと実感する。
……とランクル“300”をベタ褒めするいっぽうで、同じプラットフォームを持ち、100kgほど軽く見切りもよい“250”にGRスポーツの足まわりを与えたらどうなるのだろう? とも感じた。もっとも“300”が見切りが悪いわけではないし、最小回転半径はむしろこちらのほうが10cm小さいくらいだから、ニーズがない限りはそれをあえて試す必要はないだろう。トヨタの言い分どおり、ランクル“300”は先進技術を率先して試す機体であり、“250”は民生機なのだ。レースでいえば開発タイヤとカスタマータイヤの関係に似ていて、すなわちランクル“300”で得た知見が、“250”に安定供給されるという構図が成り立つのではないかと思う。
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ファッションで乗るにはいささか本気すぎる
そしていよいよ、お待ちかね。筆者も大好き、アナタも大好き、クルマ好きが愛してやまないランクル“70”のインプレだ。2014~2015年に行われた期間限定販売の終了から数え、約9年ぶりにカタログモデルとして日本国内で“再”復活となった。
その“70”が、熱心なファン以外の間でも注目されている。理由はものすごく乱暴に言って、まずは500万円を切る価格設定だろう。ランクル“300”もベースグレードは510万円と現実的だが、フラッグシップモデルの魅力に憧れるなら、770万円からのGRスポーツにどうしても目がいく。価格設定は“250”もほぼ同じで、ベースグレードの「GX」は520万円だが、「ZX」のディーゼルまで積み上げれば735万円が必要になる。対して“70”は「AX」のモノグレードで480万円。選択肢がなく、迷いようがない。今日のラインナップで車両価格が500万円を切る、唯一のランクルだ。
次いで理由に挙げられるのが、1984年以来、大きくその姿を変えていないルックスだろう。ツウな感じもするし、今どきむしろレトロな趣が新しい。だがしかし、ランクル“70”はファッションで乗ることが恥ずかしくなってしまうほど、ガチでピュアなオフローダーだった。
走りだして真っ先にうれしくなるのは、そのコンパクトさだ。1440mmしかない室内幅。アイポイントは高く車体は四角く、フロントガラス越しにボンネットの両端がハッキリと確認できる。
“300”から乗り換えると、乗り心地は笑えるほどに対照的だ。路面の凹凸を長足でいなす“70”だが、その入力は当たりこそ丸いものの遠慮なくコックピットを上下左右に揺さぶってくる。リサーキュレーティングボール式ステアリングの作動はマイルドだが、パワーステアリングは油圧式だから、コツコツと入力が伝わる。キックバックでハンドルもとられる。
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運転の主役はドライバー
駆動モードがローレンジだと、停車中はエンジンの振動がブルンブルンと伝わってくる。ただしそれは悪路をゆっくり走るために、あえてアイドリング付近の回転を落としたマッピングを採用しているからだ。だから平地の岩場では、ゾウの歩み並みにゆっくりと歩を進めることができる。オンロードでは少し緩慢なフロントのリジッドアクスルが、モーグルでもタイヤをきちんと接地させる。
ちなみに“250”や“300”に装備される、車両下の路面を可視化するような多機能カメラの設定は、“70”にはない。おっちゃんが言ったように、必要なら外に出て自分の目で確認しなければならないというわけだ。面白いのはそんな“70”にも、タイヤの空転を抑えるブレーキ制御(アクティブトラクションコントロール)が付いたことだった。とはいえ“250”や“300”のように緻密な制御ではないから、ドライバーへの依存度は高い。
ということでロッククライミングでは、兄弟たちよりはるかに積極的にドライブする必要があった。激しく揺さぶられるコックピット。上り勾配がさらに厳しさを増す最終セクションでは、トラクションを途切れさせない運転がより強く求められた。
「止まらないように、止まらないように」
インストラクターの声に従いながら、左に右に暴れるステアリングを適度に押さえ込み、アクセルをグイグイと入れていく。そして頂きを乗り越えた後は、“250”のときよりも強い感動が得られた。その爽快感や達成感に「ハチロクみたいだ」とつぶやいたら、「確かにデビューした時期は近いから、それはあるかもしれないですね」とエンジニア氏に真顔で言われた。
だがそれと同時に、これがひとりでできるかな? とも感じた。大災害でもなければこうした場面に出くわすことはまずないが、仮に近い場面に遭遇したとして、筆者レベルであれば“250”のほうがはるかに安全だ。
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変わったことにも、変わらないことにも理由がある
ランクル“70”がいまだにこうしたプリミティブさを保っているのは、これを本当に必要とする国の人たちがいるからである。実際、日本仕様のリアのリーフスプリングは2枚と少なく、乗り心地を重視したものだ。対して海外には、荷物をオーバーロードする荒っぽい使い方を考えて、これを11枚に増やしている仕様もある。
全幅が長らく変わらないのも、現地から「変えないでくれ」という強い要望があるからだ。これは軽トラックでもよく聞く話だが、車幅が広がれば今まで通っていた道が通れなくなる可能性がある。彼らにとって、それは死活問題なのだ。初期のモデルに比べて現行“70”はボンネットが浮き上がっており、かつてを知るユーザーからはアグリーだと評されることもある。しかし、これも全幅を増やしたくなかったからだ。“70”は待望の2.8リッター直列4気筒ディーゼルターボ(204PS/500N・m)を搭載したことでエンジンの熱量が増えており、より大きなラジエーターを搭載する必要があった。それでもエンジンコンパートメントの拡大は避けたいので、ラジエーターをエンジンルーム内に斜めに積み、その影響でボンネットが膨らんだのだ。またこのボンネット形状は、歩行者保護基準への対応という役割も負っている。
つくりがシンプルなのも、直しやすいからだ。たとえ近くにディーラーがなくとも、最低限の知識と道具があれば修理ができ、いつまでも使い続けられるクルマである必要がある。開発陣のリサーチでは、走行距離が10万kmを超える頃にようやく純正部品の交換サイクルが始まる。40万kmは当たり前で、知り得るところではもう少しで100万kmに届くというオーナーがいたという。
「マツダ・ロードスター」が現行モデルになって原点回帰したと言われているが、その洗練っぷりは初代とは比較にならない。ひるがってランクル“70”は、言ってみればユーノスのまま現代に生き残り続けている、シーラカンスのような存在である。しかし、それがかたくなに守られているのは、生活に密着しているから。そんなリアリティーも含めてカッコよさだと思えるなら、ランクル“70”をファッションで乗るのも悪くない。月間販売台数は400台程度で、あっという間に2年分が売れてしまったということだが、ランクル“250”と同じ理由で、手に入るまでしぶとく待てばいいと思う。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1990×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.4リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:415PS(305kW)/5200rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2000-3600rpm
タイヤ:(前)265/65R18 114V M+S/(後)265/65R18 114V M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:7.9km/リッター(WLTCモード)
価格:770万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3万3190km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1990×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:309PS(227kW)/4000rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1600-2600rpm
タイヤ:(前)265/65R18 114V M+S/(後)265/65R18 114V M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:9.7km/リッター(WLTCモード)
価格:800万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
トヨタ・ランドクルーザー“70”AX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4890×1870×1920mm
ホイールベース:2730mm
車重:2300kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:204PS(150kW)/3000-3400rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)265/70R16 112S M+S/(後)265/70R16 112S M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:10.1km/リッター(WLTCモード)
価格:480万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:720km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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