BMW X1 M35i xDrive(4WD/7AT)
これまでのMとはちがう 2024.08.17 試乗記 BMWが擁するSUV製品群の末弟「X1」をベースに、動力性能を磨き上げた「M35i xDrive」。BMW M社の手になる300PSオーバーの快速SUVは、同時にこれまでのMモデルとは趣を異にする走りの持ち主だった。新しい潮流を感じさせるそのドライブフィールを報告する。実はあのクルマの兄弟車
「M35i xDrive」のように、“M+2~3ケタ数字”のモデル名を冠するBMWは、“M+1ケタ数字”もしくは車種名に単純に“M”だけが追加される「Mハイパフォーマンスモデル」のちょい下の、ハイのつかない「Mパフォーマンスモデル」と位置づけられる。常設サーキット走行を正面から想定しているわけではなく、日常的な快適性は犠牲にしないが、市販カタログモデルとしてはライバルのトップエンドに匹敵する……というのが、このMパフォーマンスモデルのココロだろう。
BMWは今のところ、X1を含むFF系レイアウトの車種にMハイパフォーマンスモデルは用意していない。また、Mパフォーマンスモデルが初めて用意されたFF系レイアウトの車種は先代「X2」で、その後に「1シリーズ」や「2シリーズ グランクーペ」にも用意されてきたが、X1では今回が初である。
X1は、基本骨格やその他の基本ハードウエアを、先ごろ日本でも発売された「MINIカントリーマン」と共有している。となると、M35i xDrive(以下、M35i)はお察しのとおり、カントリーマンの最速モデル「ジョンクーパーワークスALL4」との共通点が多い。
全長はジョンクーパーワークスよりM35iのほうが55mm長く、全高は逆に15mm低いが、全幅は同寸。2690mmというホイールベースも共通なので、体格はほぼ同じ。また最高出力317PS、最大トルク400N・mという2リッター4気筒直噴ターボのチューニングも共通で、7段デュアルクラッチトランスミッションや電子制御油圧多板クラッチによる4WDシステムも、基本構造はもちろん同じだ。
いっぽうで、サスペンションなどの味つけは専用だという。標準装備のタイヤサイズの設定にしても、ジョンクーパーワークスの245/40R20に対して、M35iはタイヤ幅はそのままだが、ホイール径は小さい245/45R19となる。
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外装・内装・走りに宿るMの調律
M35iの内外装には、お約束のアイテムがそろう。バンパーは前後とも立体的な大開口デザインとなり、キドニーを全面ブラック化して左右一体の巨大グリルに見せるのも、最近のM系モデルに共通する手法である。インテリアもダッシュボードが豪華な合皮張りとなり、さらにステアリングホイールの“12時”を示す赤いアクセント、大型のカーボン製シフトパドルなどがスポーツ風味をかもす。
とくに感心したのはバケット風の専用「Mスポーツシート」だ。本国ではオプションあつかいらしいが、日本仕様は標準装備となる。なにはともあれ、体を包み込むような座り心地とホールド性が素晴らしい。スライドやリクライニングのほか、サイドサポートの幅も電動調整可能。個人的には、電動調整サイドサポートをありがたいと思ったことはほとんどなかったが、今回はサイドサポートを微調整するとさらに具合がよかった。それはシートそのもののフィット感がすこぶる高いからだろう。
乗り心地は、素直にハードだ。最近は本格的なスポーツモデルでも、じわりと自然に荷重移動させてしなやかさを感じさせるタイプが主流だが、M35iはよくも悪くもビシッと引き締まったフットワークで、水平姿勢を強固にくずさない。コイルとスタビライザー、タイヤのすべてがハードに締まった印象で、高速でも、路面が荒れると素直に強めの上下動が出がちだ。
そういえば、別の機会に乗ったMINIカントリーマンのジョンクーパーワークスも、細かなチューニングはX1とちがっていたが、基本的には同じ傾向にあった。となると、この味わいは、プラットフォームそのものの素性によるところも大きいのかもしれない。
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クルマと一緒にドライバーの気分も変える
ところで、このクルマのベースであるX1は、“BMW iスタイルの電動モビリティー”の入門機種と定義される一台でもある。
そんなX1は、同じくBMWの最新鋭モデルである「7シリーズ」や「5シリーズ」、そしてX2などと同様に、エンジン車と電気自動車(BEV)がごく普通に共存するラインナップが構築される。さらに、ツマミ型シフトセレクターや、従来のドライブモードにかわる「My Modes(マイモーズ)」ボタンが配されたアイランド型センターコンソールも、最新鋭BMWに共通するお約束である。
BMWのマイモーズには、従来のノーマルあるいはコンフォートにあたる「パーソナル」に加えて、「スポーツ」「エフィシエント」「エクスプレッション」「リラックス」といったモードが用意される。それらは単に走行メカの設定が変わるだけでなく、ディスプレイやアンビエントライト(もっと上級車種ではパノラマルーフの開閉やフレグランス)まで含めて、乗り手が感じるオーラというか概念(笑)というか、トータルで世界観が切り替わる。
BMWスポーツモデルの頂点となるMハイパフォーマンスモデルでは、この種のモードシステムも専用になるが、今回のM35iのようなハイのつかないMパフォーマンスモデルでは、マイモーズも標準のX1とほぼ同じまま残される。
マイモーズでスポーツモードを選択すれば、エンジンはレスポンシブになり、パワステは重くなる。さらにこのモードでは、エンジンやパワステ、さらには横滑り防止装置のセッティングも好みで変えられる。標準装備の「アダプティブMダンパー」はいわゆる周波数感応式である。
なんとなくBEVを思わせる
2リッター屈指の高性能エンジンの出力やトルクに不足があろうはずもなく、4WDのおかげもあって、それをあますところなく路面にたたきつけることも容易だ。シャシーもフラット感には欠けるが、グリップ性能そのものは高い。つまり、M35iはお世辞ぬきに高性能で速く、そして安心感にあふれるクルマなのだが、いっぽうで、筆者のような中高年がイメージする古典的なスポーツテイストとは趣を異にするところもいくつかある。
たとえば、エンジンはパワフルだが、サウンドや吹け上がりは軽やかで、威圧感はまるでない。中低回転トルクは強力だが、高回転域ではさほどさく裂はしない。ディスプレイで「アイコニックサウンド」をオンにすると、とくにスポーツモードではスピーカーで加音された派手なエンジン音が響きわたる。スピーカー加音は今やめずらしいものではないが、その音質は内燃機関らしい咆哮というより、電気的な反響音が目立つチューニングである。
また、シフトパドルではマニュアル変速のほかに、長引きで作動する「ブーストモード」も追加される。これを作動させるとパワートレインその他すべてが10秒間だけ、過激なセッティングになる。ブーストモードはBMW製BEVのお約束アイテムでもある。いっぽうで、スポーツモードでマニュアル変速を駆使しても、かつてのようにダウンシフトで盛大にブリッピングしたりはしてくれない。
このように、最新のM35iは純粋な内燃機関のモデルでありつつも、その味つけはどこかBEVっぽさを目指しているように感じられなくもない。そういえば、しなやかさより水平姿勢重視のフットワークも、プラットフォーム自体のクセもあろうが、同時に低重心のBEVっぽい動きといえなくもない。
エンジン車とBEVを平等にあつかう二刀流を目指すBMWは、M印のスポーツモデルでも、エンジン車とBEVに共通する新しい味わいを模索しているのかもしれない。いずれにしても、X1初のMパフォーマンスモデルは、これまでのMとはちょっとちがう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW X1 M35i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1845×1625mm
ホイールベース:2690mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:317PS(233kW)/5750rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y XL/(後)245/45R19 102Y XL(ハンコック・ヴェンタスS1エボ3)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:786万円/テスト車=811万7000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズン・ピュア・グレー>(25万7000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3562km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:355.1km
使用燃料:29.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.2km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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