レクサスRX270アートワークス(FF/6AT)【試乗記】
ダウンサイザー必見 2010.11.11 試乗記 レクサスRX270アートワークス(FF/6AT)……455万9750円
これまで“V6”のみだった「レクサスRX」に、2.7リッターの直4モデルが追加された。新エンジンとプレミアムSUVの相性は? 市街地からワインディングまで、400km走った印象をリポートする。
デフレ日本仕様
「レクサスRX」に4気筒モデルが追加された。厳密な排気量は2671ccで、車名は“RX270”という。RXでは唯一の……レクサス全体でも「HS250h」に続く2例目のレギュラーガソリン仕様。燃費と価格を重視したモデルなので、複雑で重い4WDはなくてFFのみ。正式発売は2010年8月下旬だから(9月末日を待たずに前倒し終了となった)エコカー補助金狙いではもともとないのだろうが、現在も継続中のエコカー減税(RX270では50%)の恩恵は当然のごとく受けられる仕立てである。
新旧2世代のレクサスRX(国際的には現行RXは3代目、2代目までは日本でだけ「ハリアー」名だった)を並行販売している日本では、これまで「高級車のレクサスRXはV6、従来型継続のハリアーは4気筒」というすみ分け(ハイブリッドだけは両車にあるが)をわざわざしていたわけだが、今のデフレニッポンでは“経済的でお得”であることがすべてに優先される前提条件となってしまっている。それは高級車だろうがSUVだろうが関係なく、レクサスとてそういう風潮にあらがうことができなかったということだろう。
さて、RX270に積まれる2.7リッターエンジンは“1AR-FE”型という。これは昨年初頭に市場投入された最新鋭の大型4気筒エンジンで、これまでは2代目「ハイランダー」や「ヴェンザ」などの北米用モデルに使われているが、国内向けには今回初搭載。「ランクルプラド」や「ハイエース」に使われる縦置き用2.7リッター(2TR-FE型)とも、日本で超おなじみの2AZ-FE(2.4リッター)ともまったく別物のユニットだ。
マニュアルモードが欲しい
RX270は当たり前のようによく走る。標準装備類も静粛性対策も充実したレクサスだから、車重は「ハリアー」や「日産ムラーノ」(の2.5リッター)より重いものの、それを大きめの排気量が補っている。ただ、上りこう配などではさすがに余裕たっぷりとはいかない。いや、エントリーモデルが全域でバカッ速である必要はまったくない……のだが、4500rpmあたりからグッと力感とレスポンスを上積みする1AR-FE型の意外にエンスーな特性を、6ATが生かしきれていないのがちょっと歯がゆい。
マニュアル的に操れるSモードでも瞬間的に6000rpm、ほとんど場合は5500rpm前後で自動的にシフトアップしてしまうものだから、上りこう配の高速追い越しや山走りなどで本来のパワーバンドを味わえる領域が非常に狭い。レッドゾーンの始まる6200rpmまできちんと使える完全マニュアルモードは、「RX350」ではあまり必要性を感じなかったが、このRX270ではぜひとも欲しいところだ。
RX270ではエアサスやアクティブスタビライザーなどのフットワーク関連ハイテクの用意はなく、「バージョンS」にのみハードな専用チューンサスがあるだけだ。ちなみに、今回の試乗車は内外装をモード系に仕立てた特別仕様「アートワークス」で、これはノーマルサスに本来はオプションサイズの19インチホイールという組み合わせとなる。
その19インチホイールの影響もあるのか、バネ下が少しゴトゴトする感はあって、高速などでの上下動も小さくはない。ただし、動きそのものはゆったりとしていて、人工的に押さえつけたような感触がないのは個人的には逆に心地いいくらい。
軽快なフットワーク
重量級ハイパワーの「RX450h」でさえFFで十分にこなせるように設計されたレクサスRXは、シャシーの基本フィジカル性能がもとから高い。とくに静粛性とリアの盤石スタビリティがRXシャシー本来の特色であり、そこに軽量でパワーも控えめの4気筒を載せて、しかもチューニングが難しいハイテクを省いているわけだから、RX270がナチュラルで素直な走りになるのは当然といえば当然かも。
とくにノーズの軽さは明らかで、安定しきったリアサスを軸にして、Cセグメント車なみに軽快で素直に曲がるハンドリングはちょっとしたサプライズですらある。4気筒のノイズは高回転でそれなりに存在感を示すが、ムラーノと比較しても静かである。
RX270は事前の予想どおり、絶対性能に不足があるわけでもなく、4気筒ならではの軽快さもあり、ナチュラルでさわやかなクルマだった。当たり前だがRXでは最も安い。ただ、それでも価格は似たようなハードウェア構成のムラーノの2.5リッターより約100万円も高く、3.7リッターの「スカイラインクロスオーバー」とほぼ同等。そういうなかでのレクサスRX270の売りは、やはり内外装の質感……とくにまるで陶器のように平滑なボディパネルとそれを生かすデザインが醸し出すエクステリアの高級感だろう。
ところで、市街地から高速、ワインディングまで400kmほど走った今回のRX270の燃費は7.2km/リッターだった。遠慮なく踏みまくった結果とはいえ、最新鋭の欧州製SUVと比較すると意外に伸びない……というのが率直な印象だ。そこには「燃費を売りにするのにハイオク指定なんて本末転倒!」という日本特有の事情も無関係ではない。現在の日本のレギュラーガソリン規格はたしか89オクタン以上だが、欧州と同等の95オクタンくらいを想定しないと、日本の(国内向け)エンジンを劇的に高効率化させるのは難しいという。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」発表イベントの会場から
2025.10.6画像・写真マツダは2025年10月4日、「MAZDA FAN FESTA 2025 at FUJI SPEEDWAY」において、限定車「マツダ スピリット レーシング・ロードスター」と「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」を正式発表した。同イベントに展示された車両を写真で紹介する。 -
NEW
第320回:脳内デートカー
2025.10.6カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。 -
NEW
いでよ新型「三菱パジェロ」! 期待高まる5代目の実像に迫る
2025.10.6デイリーコラムNHKなどの一部報道によれば、三菱自動車は2026年12月に新型「パジェロ」を出すという。うわさがうわさでなくなりつつある今、どんなクルマになると予想できるか? 三菱、そしてパジェロに詳しい工藤貴宏が熱く語る。 -
NEW
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.6試乗記「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。 -
マツダ・ロードスターS(前編)
2025.10.5ミスター・スバル 辰己英治の目利き長きにわたりスバルの走りを鍛えてきた辰己英治氏が、話題の新車を批評。今回題材となるのは、「ND型」こと4代目「マツダ・ロードスター」だ。車重およそ1tという軽さで好評を得ているライトウェイトスポーツカーを、辰己氏はどう評価するのだろうか? -
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。