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第298回:ヤバいもんを見ちまった

2024.12.02 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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高回転域の快楽度はフェラーリの上をいく

マセラティ……。その名を聞いただけで妊娠しそうな、究極の伊達(だて)男。色男、カネと力はなかりけりで、信頼性に超絶な弱点を抱えた没落貴族。信頼性最悪と誤解されていたフェラーリからみても、マセラティは最恐ブランドだった(全部昔話です)。

そのマセラティが紆余(うよ)曲折の末、新型3リッターV6ターボエンジン「ネットゥーノ」を開発したと聞いた時から、死ぬまでに一度は乗らなければならぬと思っていた。

ところがまったく試乗・原稿の依頼がこない。担当サクライ君にはわざわざ「ネットゥーノエンジンに乗りたいの~」とリクエストしておいたのに、サッパリお呼びがかからない。仕方なく自力で広報車を予約した。最初から自力でやればいいのだが。

それにしてもネットゥーノエンジンは謎だ。現代F1エンジンのキー技術である「プレチャンバー」を採用し、「100%マセラティ、100%メイド・イン・モデナ」とのことだが、アルファ・ロメオの2.9リッターV6ターボとは、バンク角(90度)やストローク等、類似点が少なくない。

アルファ・ロメオV6ターボの元ネタは、「フェラーリ・カリフォルニアT」用のV8ターボといわれているが、高回転域の快楽度に関しては、カリフォルニアTを大きく上回る(私見です)。2気筒少ないぶん、排気管が細いので高音が出るからだろうか? とにかく大変気持ちイイ。特に「ジュリア クアドリフォリオ」の6段MTモデル(並行輸入モノ)にはシビレた。首都高じゃ2速までしか入らないのが残念だったけど。

前から気になっていた、マセラティの新型3リッターV6ターボエンジン「ネットゥーノ」を搭載する「グラントゥーリズモ」に試乗することができた。かつての愛車「マセラティ430」では、最高に濃いカーライフを味わうことができたが、最新モデルの走りはどうか。
前から気になっていた、マセラティの新型3リッターV6ターボエンジン「ネットゥーノ」を搭載する「グラントゥーリズモ」に試乗することができた。かつての愛車「マセラティ430」では、最高に濃いカーライフを味わうことができたが、最新モデルの走りはどうか。拡大
「グラントゥーリズモ」は、マセラティ伝統のエレガントなフォルムを特徴とする2ドアクーペ。グラントゥーリズモという車名では第2世代にあたる。
「グラントゥーリズモ」は、マセラティ伝統のエレガントなフォルムを特徴とする2ドアクーペ。グラントゥーリズモという車名では第2世代にあたる。拡大
3リッターV6ツインターボの「ネットゥーノ」エンジンには、最高出力490PSバージョンと同550PSバージョンの2種類が設定される。前者は「モデナ」グレードに、後者は今回試乗した「トロフェオ」に積まれる。
3リッターV6ツインターボの「ネットゥーノ」エンジンには、最高出力490PSバージョンと同550PSバージョンの2種類が設定される。前者は「モデナ」グレードに、後者は今回試乗した「トロフェオ」に積まれる。拡大
フロントフェンダーにはマセラティ伝統の3連エアベントが配置されている。今回試乗した「グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー」の車両本体価格は3660万円。
フロントフェンダーにはマセラティ伝統の3連エアベントが配置されている。今回試乗した「グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー」の車両本体価格は3660万円。拡大
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カーマニアにとって重要なのは?

私はアルファ・ロメオのV6ターボが大好きで、その元ネタはフェラーリのV8ターボで、さらにその元ネタは「マセラティ・クアトロポルテGTS」用のV8ターボみたいだが、マセラティのネットゥーノエンジンは、それらとは関係なく、「マセラティのオリジナル」となっている。エンジン開発みたいなカネがかかることを親戚同士で別々にやるのはナゼ? ベースくらいは共有してもいいと思うが、親戚間にもいろいろあるのだろうか。

いや、そんな事情はどうでもいい。こんなご時世に、ピュアガソリンエンジンのハイパワーV6ターボが登場したというだけで涙が出る。「グラントゥーリズモ」の古典的にカッコマンなクーペフォルムにも涙が出る。これぞ中高年カーマニアの夢!

で、どんなエンジンフィールだったか。

とても素晴らしかったです。

適度に古典的で適度に現代的で、適度な絶頂感に満ちていました。

適度に古典的とは、低い回転ではそれほどトルクが太くないことを指す。低い回転から死ぬほどトルクがあると、わざわざ回す理由がなくなっちゃうでしょ! ネットゥーノエンジンの本領は4000rpmから上なので、ずーっとマニュアルモードのまま、シフトパドルを使い倒したくなる。これ、カーマニアにとってものすごく重要!

それでいて、低い回転でも必要最低限のトルクはあり、Dレンジの「コンフォート」モードでは「グルグルグ~」と呻(うめ)きながら、1500rpmくらいで一生懸命加速しようとするのがいとしい。出来杉君じゃないので守ってあげたくなる! これもカーマニアにとってすごく重要。

「ネットゥーノ」エンジンは、適度に古典的で適度に現代的で、適度な絶頂感に満ちていた。そのフィーリングは素晴らしいのひとことである。
「ネットゥーノ」エンジンは、適度に古典的で適度に現代的で、適度な絶頂感に満ちていた。そのフィーリングは素晴らしいのひとことである。拡大
新世代マセラティに共通するデザインが採用された「グラントゥーリズモ」。「MC20」に似たフロントマスクや長さを強調したボンネット、ボリューミーなフェンダーがとてもセクシーだ。
新世代マセラティに共通するデザインが採用された「グラントゥーリズモ」。「MC20」に似たフロントマスクや長さを強調したボンネット、ボリューミーなフェンダーがとてもセクシーだ。拡大
ドライビングモードは「COMFORT」「GT」「SPORT」「CORSA」の4種類から選択できる。モードの切り替えは、ステアリングホイールの右側にあるダイヤル式のスイッチで行う。
ドライビングモードは「COMFORT」「GT」「SPORT」「CORSA」の4種類から選択できる。モードの切り替えは、ステアリングホイールの右側にあるダイヤル式のスイッチで行う。拡大
荷室容量は310リッターで、長尺物を収容できるスキートンネルも採用されている。トランクリッドは小さめだが電動開閉機構が備わる。さすがイタリアを代表する高級スポーツクーペである。
荷室容量は310リッターで、長尺物を収容できるスキートンネルも採用されている。トランクリッドは小さめだが電動開閉機構が備わる。さすがイタリアを代表する高級スポーツクーペである。拡大

もう一段陶酔できた先代「クアトロポルテ」

上までブチ回したときの絶叫感はもう一歩だけど、「フェラーリ・ローマ」のV8ターボと比べても、官能性は上と断言できる。ローマはトルクがありすぎて3000rpm以上回すシーンなんてほとんどないし、回してもパワーが出るだけでオクターブは低い。カーマニア的にはネットゥーノエンジンの勝利!

グランツゥーリズモのライバルはフェラーリ・ローマと「アストンマーティン・ヴァンテージ」だが、最もいとしく感じるのはグランツゥーリズモだ!

前述のように、ローマのエンジンは官能性が足りない。ヴァンテージのAMG製V8ターボは豪快に炸裂(さくれつ)するものの、やっぱAMG製。ネットゥーノエンジンは100%マセラティのオリジナルですから(たぶん)! カーマニアが守ってあげなきゃ!

とはいうものの、その3台のなかでは、「グラントゥーリズモ トロフェオ」が一番お高いんですね。試乗した「グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー」に至っては3660万円! フェラーリやアストンよりマセラティのほうがぜんぜん高いんだから、ビジネス的には大変キビシイです。

逆に言うと、グラントゥーリズモをお買いになる方は真のカーマニア! フェラーリという無敵のブランド&無敵の下取りを捨て、あえてマセを買うなんて男の中の男! 心から尊敬申し上げます。

個人的には、フェラーリ製4.2リッターV8自然吸気エンジン搭載の先代「クアトロポルテ」を回想し、「遅かったけどさらにもう一段陶酔できたよなぁ」なんて思いがよみがえったので、中古車を検索してみた。

うおおおお! 最安79万円!! マジかよ!? オレには断然こっちが合いそうじゃん!

う~ん、ヤバいもんを見ちまった。79万円のクアトロポルテ、憧れるぅ~。これぞ正真正銘の没落貴族。

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一/車両協力=マセラティ ジャパン)

「グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4965×1955×1410mmで、ホイールベースは2930mm。
「グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4965×1955×1410mmで、ホイールベースは2930mm。拡大
シフトセレクターはプッシュスイッチ式で、12.3インチと8.8インチのタッチ式液晶パネルの間に配置される。液晶パネルは上段が主にナビゲーションやオーディオなどの操作、下段が空調やシートの調整などを担当する。
シフトセレクターはプッシュスイッチ式で、12.3インチと8.8インチのタッチ式液晶パネルの間に配置される。液晶パネルは上段が主にナビゲーションやオーディオなどの操作、下段が空調やシートの調整などを担当する。拡大
リアピラーにレッドのトライデントエンブレムが備わる「トロフェオ75thアニバーサリー」。今回試乗した車両のボディーカラーは「グリージョラミエラマット」と呼ばれるもの。
リアピラーにレッドのトライデントエンブレムが備わる「トロフェオ75thアニバーサリー」。今回試乗した車両のボディーカラーは「グリージョラミエラマット」と呼ばれるもの。拡大
「グラントゥーリズモ」は2+2の4人乗り。後席は広いとはいえないものの、大人が乗れるスペースが確保されている。サイドサポートがしっかりとしたシートデザインのおかげで、意外と収まりはいい。
「グラントゥーリズモ」は2+2の4人乗り。後席は広いとはいえないものの、大人が乗れるスペースが確保されている。サイドサポートがしっかりとしたシートデザインのおかげで、意外と収まりはいい。拡大
2004年に登場した4代目「クアトロポルテ」(写真はデビュー当時のもの)。フェラーリ製4.2リッターV8自然吸気エンジンに思いをはせて中古車を検索してみると、なんと79万円の車両を発見。憧れるぅ~。
2004年に登場した4代目「クアトロポルテ」(写真はデビュー当時のもの)。フェラーリ製4.2リッターV8自然吸気エンジンに思いをはせて中古車を検索してみると、なんと79万円の車両を発見。憧れるぅ~。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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