第301回:カーマニアの昭和100周年
2025.01.13 カーマニア人間国宝への道セダンはオッサンが乗るものだった
カーマニアの皆さま、あけましておめでとうございます。もう2025年なんですね。昭和元年から100周年か。感慨無量。そんなに生きてないけど。
個人的には、免許を取って45周年。クルマの嗜好(しこう)は最初の15年間くらいでほぼ固まり、いまさら変わる必要も感じない頑迷な高齢者になりつつあります。
ただ、自分が若い頃は、セダンはオッサンが乗るものということで嫌っていました。そんな自分がいま喜んでセダン(正確には5ドアハッチバックだけど)に乗り、古き良きオッサンの王道に合流しているのは、小さな変化です。ただのマイナー志向かもですけど。
そして「トヨタ・クラウン」。昔はオッサンのなかのオッサン、古きあしきニッポンの凝縮と認識していましたが、そのクラウンが3年前にSUVになった。まだSUVを1台も買ったことがない私は、あのクラウンにすら置き去りにされました。涙が出ます。
そんな「クラウン クロスオーバー」に、久しぶりに乗ってみました。
駐車場で“ちょいワル特急”こと愛車のセダン「プジョー508」と並べると、サイズやファストバック系のスタイルはかなり近い。「こりゃ仲間だな」と思いつつドアを開くと、明確にシート位置が高い! 高齢者が乗りやすい! 思わず、「うわ、ラク~」と口走ってしまいました。涙。
![]() |
![]() |
![]() |
カーマニア心理は乙女心並み
今回乗ったのは、スポーティーな「RS」系ではなく、普通の2.5リッター直4のオッサンハイブリッドで、駆動方式は4WDの「E-Four」。3年前に試乗したときは「意外と眠くてカムリみたいだな」と思いましたが、この3年間で地味に改良されたのか、それとも自分が老化したのか、まったく問題なく軽快に走りました。
首都高に乗り入れても、ハンドリングは適度にシャープでパワーも十分。乗り心地もイイ。コーナーをクリアしながら、「これでなんの不満もない……」とつぶやいていました。
確かになんの不満もない。でも、周囲のクルマには、いや周囲のカーマニアたちには、グラサンかけてクラウン クロスオーバーのオッサンハイブリッドに乗ってるオレって、どんなふうに見えるんだろう。
そんなことを思いながらレインボーブリッジを渡っていたら、「パオーン」という快音を響かせて突っ走るクーペにブチ抜かれました。「レクサスLC」でした。
さすがトヨタの5リッターV8はいい音するな。
でもLCか。なんかオッサンくさいな。これが「レクサスIS500」ならオッサンくさいとは微塵(みじん)も思わず、「おお、カーマニアの王道!」ってなるんだけど、LCだとオッサン扱いになる。カーマニア心理は乙女心並みにフクザツ。
LCがオッサンなんだから、クラウン クロスオーバーのオッサンハイブリッドに乗ってる自分は、間違いなくオッサンのなかのオッサンに見えるはず。そのことを確信した。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
地味なマニアックカーがベスト
辰巳PAに到着すると、日曜日のせいか、カーマニアたちがたくさん集まっていた。
実を言うと私、辰巳PAにクルマを止めるのが気恥ずかしいんです。カーマニアの聖地に、カーマニアっぽいクルマで立ち寄るのって、「見て見て、オレのクルマ!」って感じじゃないですか。プジョー508みたいな地味なマニアックカーならいいけど、フェラーリだと自意識過剰っぽくて、辰巳PAに駐車するだけで、動悸(どうき)が激しくなってしまいます。
その点、オッサンのなかのオッサンカー、クラウン クロスオーバーなら、なんのためらいもなく止められる。だってカーマニアたちはオレを、オッサンのなかのオッサンとしか見ないから! それは存在しないも同じ。眼中に入らないはずだ。
とは思ったものの、マニアっぽいクルマを見るとついうれしくなり、わざわざその間に止めました。
右に赤い「アルファ・ロメオ・ジュリア」(2リッター直4ガソリン)、左は黄色い「ホンダN-ONE RS」。どっちもいい感じに地味なマニアックカーだ。どっちもマニアど真ん中じゃなく、微妙に外してるところがイイ!
でも、この2台のオーナーにすれば、「うわ、隣にオッサンが入っちゃったよ」だろうな。それはやっぱりちょっと寂しいかも……。
考えてみると、最近の自分は「地味なマニアックカー」が最大の好物。パンピーじゃないけどマニアど真ん中でもない、辰巳PAに自然体で駐車できるクルマに乗っていたいと思っている。見ず知らずのマニアから、「真ん中外しててシブイ」と思ってもらえそうなクルマがイイ。過去の愛車でいうと、「ランチア・デルタ」(第3世代)あたりがベスト!
そんなややこしいこと考えてるのは私だけでしょうか。今年もよろしくお願いします。
(文=清水草一/写真=清水草一、トヨタ自動車/編集=櫻井健一/車両協力=トヨタ自動車)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
-
第314回:カーマニアの奇遇 2025.7.14 清水草一の話題の連載。ある夏の休日、「アウディA5」の試乗をしつつ首都高・辰巳PAに向かうと、そこには愛車「フェラーリ328」を車両火災から救ってくれた恩人の姿が! 再会の奇跡を喜びつつ、あらためて感謝を伝えることができた。
-
第313回:最高の敵役 2025.6.30 清水草一の話題の連載。間もなく生産終了となるR35型「日産GT-R」のフェアウェル試乗を行った。進化し、熟成された「GT-RプレミアムエディションT-spec」の走りを味わいながら、18年に及ぶその歴史に思いをはせた。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。