BMW M340i xDrive(4WD/8AT)
機は熟した 2025.03.25 試乗記 「BMW 3シリーズ」のMパフォーマンスモデル「M340i xDrive」の小規模改良型が日本に上陸。改良内容自体は本当に小さいのだが、よ~く目を凝らして資料を読み込むと、実は重大な仕様変更が施されている。その内容は試乗インプレッションの最後に。M340iは夢の架け橋である
BMWのファンはすでにお気づきかもしれない。いま最も注目すべきはM340i xDriveであることを! それはなぜかと尋ねたら(ベンベン)、答えを書いてしまうと最後まで読んでもらえないのでもったいぶることにして、まずは極東のガラパゴスに残る、この名品をあらためてご紹介しよう。
M340iは「M」の文字をいただく3シリーズの最高峰であると同時に、その最高峰の上にさんぜんと輝き奉る「M3」と、フツウの3シリーズとをつなぐ夢の架け橋である。M3セダンの日本仕様は「コンペティションM xDrive」のみで、2992cc直6 DOHCツインターボのS58B30Aユニットは最高出力530PS/6250rpm、最大トルク650N・m/2750-5730rpmという圧倒的なパフォーマンスを誇る。車両本体価格は1453万円と高価ではあるけれど、「ポルシェ911カレラ」の1694万円よりはグッとお求めやすい。
本題のM340iは同じ2992cc直6でも、エンジンの型式はB58B30Aとなり、Sの文字がつく真正Mモデル用とはチューンのレベルが異なる。分かりやすいのはターボチャージャーの数で、S58がツインなのに対して、B58はシングルにとどめられている。とはいえB58だって387PS/5800rpmの最高出力と500N・m/1800-5000rpmもの最大トルクを発生するのだからして、スポーツセダンとして第一級であることに疑いはない。価格は、2024年10月末に一部改良を受けて、948万円。ステキなグリーンのスペシャルカラーをまとった試乗車は、ボディー色に合わせて内装の一部にステキなウッドのパネルがオプション装着されている。英国紳士仕立て、といえるかもしれない。
本国仕様とはエンジンが違う
一部改良は、M340iの場合は文字どおりの一部改良で、ブラックのキドニーグリル、LEDヘッドライトのシャドウライン、赤く塗装されたブレーキキャリパー、それに赤と青と濃紺のMラインが入ったシートベルトの生地を採用した程度にすぎない。筆者的に謎なのは、本国仕様のM340iは2022年のマイナーチェンジの際にマイルドハイブリッド化されているのに、日本仕様はピュア内燃機関のまま放置してあることだ。本国仕様は最高出力が10PS落ちとなっているけれど、代わりにより低回転域で幅広く、すなわち5500-6500rpmで発生する。500N・mの最大トルクは逆に1900-5000rpmと、100rpm高い回転数から発生する。12PSのモーターアシストの有無がエンジンのスペックの違いにあらわれているのだ。
マイルドハイブリッド化されていないから、日本仕様は遅れている。と申し上げたいのではない。なぜなのか、その理由は不明ながら、極東のガラパゴスにバイエルンのエンジン屋のピュア直列6気筒が残されている奇跡をことほぎたいのである。
ドラマは、センターコンソールの「START ENGINE STOP」と書かれた小さな黒くて丸いボタンを押した瞬間から始まる。B58B30Aユニットがグオンッ! と387PSの高性能ユニットにふさわしいサウンドを発して瞬時に目覚めるからだ。なんとなくクリスタル、ではなくてホントウにクリスタルなシフトのスイッチをDに入れ、アクセルをゆっくり踏み込めば、M340i xDriveはしずしずと走り始める。
乗り心地はしなやかで、Mスポーツサスペンションと前が225/40、後ろが255/35の、ともに19インチというタイヤサイズから想像されるハードコアなスポーティネスとは別次元の快適さを提供してくれる。標準装備のアダプティブMサスペンションなる電子制御の可変ダンピングと、「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」が三つ星級のいい仕事をしている。
前後重量配分が車検証記載値で前920kg:後ろ810kg、すなわち53:47と、直6搭載でフロントがやや重めだとはいえ、ホイールベース内になるべく重量物をおさめたパッケージングによって、BMWの理想である50:50に近い数値になっている。前後重量配分がよければ、ボディーの動きも抑えられるだろうし、xDrive、すなわち電子制御の4WDだから前後トルク配分を自在に変えられる。つまり姿勢変化も制御できることになり、サスペンションをやたらに固めなくてもよいことになる。
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M3とは違うから面白い
そしてなにより、M340iにはこの上にBMWスポーツカーの頂点、BMW信者が仰ぎ見るM3がある。いわばM3の存在がM340iをリラックスさせてくれる。M3ほどスポーティネスを演出する必要がないからだ。むしろ、してはいけない。M3はひとつでいい。M3とは異なる、Mパフォーマンスの流儀、存在意義を確立すべきである。とバイエルンのエンジニアは考えたのではあるまいか。あくまで筆者の勝手な推測ですけれど。
乗り心地は「コンフォート」から「スポーツ」「スポーツ+」モードに切り替えてもガチガチにはならない。スポーツとセダンが対立事項だとすると、M340iの場合はセダンの快適性が優先されている。スポーツの度合いがマイルドで、最新モデルは未確認ながら、これまでのサスペンションだけ固めた「318i」や「320i」の「Mスポーツ」仕様ほどコツコツしない。
でもってBMWの伝家の宝刀、直6エンジンがやっぱり感動モノだ。こう申してはなんですけれど、M3よりちょっとナマクラなところに味わいがある。“ビッグシックス”と呼ばれた、往年の3リッター直6 SOHCのような、と書いてもごく一部の方にしか分からないだろうし、実は私も運転したのは10年近く前のことで、やや当てずっぽうなところはあるものの、申し上げたいのはちょっとのどかなムードがある。ゼブラゾーンの始まる6500rpmあたりまで回しても、まろやかさが感じられて、M3のS58とは異なる魅力を放っている。
4WDとはいえ、筆者程度のウデでは後輪駆動とさっぱり区別がつかない。とにかくオンザレールでよく曲がる。その範囲でドライブし、コーナーを出てステアリングを戻したらアクセルをガバチョと踏み込む。河口湖近くのカントリーロードをしばし、ストレートシックスの男性バス、低めのサウンドに聴きほれながらドライブする。それは誠に心地のよい時間であった。
一時は1040万円だったはずが……
ガラパゴスに残されたM340i xDriveになぜいま注目すべきなのか、その理由を最後に。お金の話で恐縮ながら、このインフレ真っただ中の世界にあって、値下げされているから、である。私には買えないけど……なんてやぼな話はやめて、夢と事実のみを語る。
現行型の3シリーズは2019年のデビューで、3年後の2022年にマイナーチェンジを受けて後期型に移行している。このとき、M340i xDriveも含めて、エクステリアではフロントのLEDライトとかグリルのデザインがお色直しされている。インテリアでは、BMWの他車同様、12.3インチのメーターパネルと14.9インチのコントロールディスプレイが採用されて、グッとモダンになった。シフトは大きなレバー型から小さなスイッチ型となり、パドルシフトが全モデルに標準装備されてもいる。運転支援システムが高速道路の渋滞時に使える「ハンズオフ機能付き」にアップデートされてもいる。
この時点で、M340i xDriveの希望小売価格は1040万円。導入された2019年5月の時点は962万円。2022年1月の価格改定で999万円に値上げされ、さらに同じ年の9月の再値上げで1000万円を超えたのだ。
ちなみに、2020年に登場したエントリーモデルの318iは489万円、318i Mスポーツは559万円だった。それが2024年10月の一部改良で318iは落とされ、318i Mスポーツのみになっていて、その価格は644万円と、318i Mスポーツ同士の比較だと85万円高くなっている。318iがなくなり、3シリーズの入り口価格ということでいえば、155万円も値上がりしている。悲しむべきは円安という名の災禍だ。
ところが、M340i xDriveは(ベンベン)、登場時の2019年に962万円、2022年の小改良で1040万円に値上げされ、2024年の一部改良で948万円と、3年前より92万円、6年前と比べても14万円安くなっている! バーゲンであることは間違いない。注目でしょ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
テスト車のデータ
BMW M340i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1825×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y XL/(後)225/40R19 93Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:10.6km/リッター(WLTCモード)
価格:948万円/テスト車=1046万5000円
オプション装備:BMWインディビジュアル スペシャルボディーカラー<ブリュースターグリーン>(68万円)/ヴァーネスカレザーインテリア<ブラック×ブラック>(0円)/Mスポーツシート<運転席&助手席>(14万5000円)/Mライトアロイホイール<ダブルスポーク、スタイリング995M>(2万6000円)/ステアリングホイールヒーティング(4万円)/クラフテッドクリスタルフィニッシュ(6万9000円)/ファインラインライトファインウッドトリム<オープンポアード>(2万5000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1236km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:432.6km
使用燃料:45.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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