最大トルク4800N・mの電動ミニスーパーカー「ルノー5ターボ3E」登場 その詳細を報告する
2025.04.10 デイリーコラム元祖「5ターボ」の精神的な後継車
ルノーはかねて公表していたとおり、後輪駆動のハイパフォーマンス電気自動車(BEV)となる「5(サンク)ターボ3E」を正式発表した。全長わずか4.08mの車体のリアに2基のインホイールモーターを搭載して、0-100km/h加速3.5秒以下、最高速度270km/hをうたう超ハイパフォーマンスBEVである。そのサイズや性能を考えると直接的なライバルは存在せず、ルノーはこれを「ミニスーパーカー」なる独自の新カテゴリーだと主張する。
そんな5ターボ3Eの正式発表の日となった2025年3月17日、じつはパリ郊外のフラン工場(かつては「ルノー5」や「ルノー・ルーテシア」を生産。現在は部品リサイクル拠点)でメディア発表会が開催され、筆者も参加させていただいた。というわけで、今回はその発表会の雰囲気と、そこで耳にした5ターボ3Eにまつわるエピソードをいくつかご紹介したい。
そもそも「5ターボ」とは、1980年に発売された、ルノー5のカタチをしたミドシップスポーツカーである。1.4リッター直4ターボエンジンを運転席直後に縦置きし、世界ラリー選手権でも活躍した。
初代5ターボは1980年から1982年にかけて881台が生産されて、グループ4とグループBのホモロゲーションを取得。その好調な売れ行きに気をよくしたルノーは、デザインやエンジンはそのままに、一部の素材をグレードダウンしたり、専用だったインテリアを量産型ルノー5と共有化したりするなどの生産性向上対策を施した「5ターボ2」を発売。より手ごろな価格となった5ターボ2はさらなる人気車となり、1986年の生産終了までに3976台がつくられたという。
それから約40年の年月を経て登場した新型5ターボ3Eは、初代5ターボと5ターボ2に続く正統後継機種ともいうべき車名を冠する。それもあって、今回の発表会には、ルノーが保存する元祖5ターボが多数持ち込まれた。とはいえ、新しい5ターボ3Eと初代に、技術的な継続性はほぼない。BEVなので当然ながらターボエンジンも搭載されないし、世界選手権への参戦を期したクルマでもない。いわば精神的な後継車ということだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
最大トルクは4800N・m!
新型5ターボ3Eの原型は、2022年のパリモーターショーに出展された「R5ターボ3Eコンセプト」だ。それは同ショーで初公開されたBEVの新型「ルノー5 E-TECHエレクトリック」(のプロトタイプ)を盛り立てるための、純然たるショーカーだった。コンセプトはテレビゲームから着想したドリフトマシンで、商品化の意図も皆無だったとか。
しかし、その姿にひと目ぼれしたルノートップのルカ・デメオCEOの「これを商品化しよう」との鶴のひと声で、市販化が決まった。「ルカはわれわれにチャレンジさせるのが好きなんだ」と開発担当氏は笑う。
コンセプトカーは鋼管スペースフレーム+カーボンシェル構造だったが、この市販版は専用アルミプラットフォームに、カーボンのアッパーボディーを組み合わせている。床下に電池を置くBEVは低重心が売りだが、上屋が超軽量カーボン製となる5ターボ3Eは、さらに超低重心だと開発担当氏は胸を張る。
エクステリアにおける量産BEVの新型5 E-TECHエレクトリックとの共通部品はフロントウインドスクリーンとドアミラーくらいで、あとはすべて専用デザインだ。また、新型ルノー5と共通のメーターディスプレイや新型「アルピーヌA290」から流用されたステアリングホイールを含めたインテリアデザインも公開となったが、発表会に持ち込まれた車両には、内装がまだあつらえられていなかった。
実際の車両開発はアルピーヌカーズ(旧ルノー・スポール)が担当して、駆動系にはルノーのBEV子会社である「アンペア」の知見と技術がフル投入されるという5ターボ3Eについて、開発担当氏は「正真正銘のインホイールモーターカーの市販車は、おそらくこれが世界初になるでしょう」とも語る。写真にもあるように、200kW≒272PSのモーターが左右のリアホイール内に1基ずつ配されて、ギアもいっさい介さずダイレクトに駆動する。最高出力は左右合計で544PS。発表時のプレスリリースには4800N・m(2400N・m×2)という最大トルクも記されているのだが、このあまり見たことのない数字を誤植と思ったのか、日本では最大トルク値を紹介していない記事も多い。webCGの第一報もそうだった(笑)。
しかし、現地で開発担当氏に確認したところ、左右合計の最大トルクは4800N・mで間違いなく、「オーバーテイク」モードを作動させるとこの最大トルクを発生するという。減速ギアをもたないので、路面に伝わるトルクは数値からイメージするほど途方もないものではないが、スーパーな性能であることには変わりない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
インホイールモーターに合わせて車両を設計
そんな5ターボ3Eは、総電力量70kWhの電池で、車重1450kg(目標値)を最大400km(WLTPモード)走らせる。急速充電性能は最大350kWで、残量15%から最速15分の充電で80%まで復帰させられるという。いずれにしても、必要以上の航続距離は目指しておらず、開発担当氏も「リアルな航続距離目標は、独ニュルブルクリンク北コース2周分」と笑う。このコメントからも、このクルマがなにをしようしているのか容易に想像できる。
市販型5ターボ3Eの実際の設計開発は、まず動力性能ありきでスタートした。最初に必要な性能を確保したモーターを用意して、それを内蔵できるリアタイヤサイズ=275/35R20が導き出された(ちなみにフロントタイヤサイズは245/35R20)。開発担当氏によると、モーターというのは、直径でトルクが、長さで出力がだいたい決まるのだという。そうして決まったタイヤサイズに合わせて、可能なかぎりショート&ワイドなホイールベース・トレッド比で導き出されたのが、この5ターボ3Eのディメンションだという。
5ターボ3EはBEVなので、ターボチャージャー=過給機が備わるはずもない。なのに、あえて「ターボ」を名乗る理由というか、カーマニアを納得させるこじつけ(?)として、開発担当者は0-100km/h加速3.5秒以下という強烈な加速力に加えて、インホイールモーターならではの加速レスポンスをあげる。電動モーター駆動のBEVはエンジン車とは比較にならないアクセルレスポンスが売りだが、減速ギアもドライブシャフトも介在せずにタイヤを直接駆動する正真正銘インホイールモーターの「ラグタイムがほぼゼロの加速レスポンスは、普通のBEVとも次元がちがう」というのだ!
5ターボ3Eはニュルでのタイムとならんで、それと同等か、それ以上に2022年のコンセプトカー由来のドリフトマシンとしての能力も追求しているという。「ドリフトモード」を作動させて、ラリーカーのごとく垂直に立った電子制御サイドブレーキレバーと組み合わせれば、姿勢コントロールはまさに自由自在らしい。ただ、47:53とされた前後重量配分はニュルでのスピードを意識したもので、加速性能だけなら理想は40:60、またドリフトに特化するならリアはさらに軽いほうがいいのだそうだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ベースの車両本体価格は2400万円?
こうして、クルマの基本スペックと確定デザインが公開された5ターボ3Eだが、逆にいえば、現時点ではそれらが決まった段階にすぎない。2027年という発売スケジュールを考えても、アルピーヌカーズによる開発作業はこれからが本番なのだろう。
生産予定台数は元祖5ターボのデビュー年にちなんだ1980台で、欧州各国のほか、オーストラリア、トルコ、サウジアラビア、オマーン、そしてわが日本で販売予定という。価格は未定だが、企画担当者はそのヒントとして「初代5ターボはルノーの歴代量産車でもっとも高価なクルマでした。その価格を現在の貨幣価値に換算すると15万ユーロ(=約2400万円)になるんです」と、なんとも含みのある表現をした。欧州メディアの報道を見ても、どうやらベースの車両本体価格で15万ユーロ付近……というのが、現時点での有力な予想価格のようだ。
ところで、ルノーのモータースポーツ活動や市販スポーツモデル開発は、2021年5月付でルノースポールからアルピーヌブランドに統一された。なのに、今回の5ターボ3Eはルノーブランドである。なるほど、1980年代の歴史を振り返れば、このクルマをアルピーヌと呼ぶほうに違和感をおぼえる。だからといって、今回の5ターボ3Eのリアクオーターウィンドウに、あれだけ大々的に終結宣言したルノースポールのロゴがしれっと貼られていると、さすがにツッコミを入れざるをえない。
これを手がけた担当デザイナーは「カラーバリエーションやアクセサリーも、すでにいろいろ検討しています。このロゴにしても、単純にデザイン的に締まるので貼ってみただけで、他意はないです」と笑う。と同時に、5ターボ3Eの登場とともにルノースポール復活について問われたルカ・デメオCEOも、それについて否定も肯定もしていないのがまた、なんとも怪しい(笑)。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー、佐野弘宗/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。