BYDシーライオン7(RWD)/シーライオン7 AWD(4WD)
新時代の覇者 2025.04.15 試乗記 いま勢いに乗っている中国BYDから、新型電気自動車(BEV)「シーライオン7」が登場。他を圧倒するコストパフォーマンスを実現する電動クロスオーバーは、乗っても文句ナシの仕上がりなのか? BEVマーケットの覇権を握りつつある彼らの、今日の実力に触れた。日欧系は相手にならない
日本経済新聞を購読しているが(旧世代なので紙です)、BYDの記事が載らない日はない。これだけ記事が載るってことは、読者の関心が大変高いに違いない。実際BYDは、飛ぶ鳥を落とす勢いで進撃を続けており、いつのまにか世界販売でホンダも日産もブチ抜き、あのテスラすら追い落とした。関心が高いのも当然か。
しかしここ日本で、実際にBYD車の購入を検討している人は、まだ多くはない。BYD車を買ったのは、ある意味「怖いもの知らずの勇者」だけ。今後欲しいと思っている人もごく一部にとどまる。それでも、BYDが自動車業界の超新星であることを否定する人はいまい。
日本におけるBYDのラインナップは、SUVの「ATTO 3」と、コンパクトカーの「ドルフィン」、そしてセダンの「シール」の3本立てだったが、今回そこに、シーライオン7が加わった。シールをクーペSUV化したスタイリッシュなモデルで、バッテリーは安全性や耐久性が高い、BYD得意のリン酸鉄リチウムイオン。総電力量は82.56kWh、カタログ航続距離は590km(RWDモデル)となっている。
この数字は、「日産アリアB6」の66kWh・470kmと比較して、明確に1クラス上だ。それでいて価格は495万円と、アリアB6 FWDの659万円より約25%安い。航続距離が20%長くて、価格が25%安いんだから、コスパの差は圧倒的。補助金はアリアのほうが多いけれど、それくらいじゃこの差は埋められない。乗る前から勝負はついている。アリアがボロ負けなのだから、欧州勢も当然ボロ負け。対抗可能なのは、テスラとヒョンデくらいだ。
テスラは独自の専用充電ネットワーク「スーパーチャージャー」のアドバンテージが非常に大きい。いっぽうのBYDはCHAdeMO頼み。2024年の販売台数(テスラが恐らく約5600台、BYDが2383台)は、コスパ+急速充電インフラ+ブランド力を合計すると、順当に思える。
乗る前から勝負はついている
私は、BEVの評価は、主にコスパで決まると思っている。乗り味は、どれもそれほど変わらないからだ。内燃エンジン車と比べれば、静かで速くて重心が低いので明確な差があるけれど、BEV同士で比較すると大きな違いはない。このモーターは一味違うね、みたいに感じたことはないし、極論すればどれも味は一緒。だから勝負はコスパなのだ。
そのコスパで、シーライオン7はほぼトップ。デザインや使い勝手に関しても、かなりいいセンいっている。真横から見たシルエットは、シュッとしていてカッコいい。リアウィンドウの天地幅が極端に狭いので、ルームミラー越しの後方視界はミニマムだけど、そこは最新のBEVらしい飛び道具でカバーできる。顔はごくフツーに先進的で、まぁ十人並みですかね。
インテリアの質感も高い。ATTO 3のギター弦みたいなとっぴな装飾はなく、手堅く先進的にまとまっている。ダッシュボードのツヤ消し感はなかなかステキだ。シートのヴィトン風ステッチだけは、ややこれ見よがしだなぁと思ったけれど、わかりやすい高級感ではある。
操作系に関しては、テスラと違って、フツーにスイッチがたくさんついている。ウインカーレバーも右側だ。国産内燃エンジン車から乗り換えても、あまり違和感はない。日本国内の法規もあって、ADAS(先進運転支援システム)もごく標準的な内容になっている。
ということで、クルマだけで比較すれば、シーライオン7は国内で売られているこのクラスのBEVのナンバー1。それは乗る前に決まっていた。でも、これは試乗記なので、一応乗ってみることにします。まずはスタンダードなRWDモデルから。
フツーによかったです。メーターに見る満充電状態からの航続距離は、カタログ値どおりに590kmと表示された。実際にこの距離を走れるかどうかは条件次第だが、過去、いきなりカタログ値を大きく下回る数値が出るBEVもあったので、とりあえず気分はいい。まだ気分だけで、ちゃんと確かめてはないですけど。
現代のBEVなので、走りは当然スムーズだった。リアを駆動するモーターの最大トルクは380N・m。加速感は、BEVとしてごく標準的かつちょうどいい。
足まわりも実にちょうどいいしなやかさで、とっても快適。試乗会場に設けられたパイロンスラロームを試したが、さすがBEV。重心の低さや重量配分のよさがさく裂し、気持ちよ~くスイスイ曲がった。ただ、このあたりは他のBEVも同様なので、特段のアドバンテージはない。
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世界制覇は決まったようなもの
続いてハイパフォーマンスなAWDモデルに乗る。こちらは先述のリアモーター(380N・m)に加えて、フロントに310N・mのモーターがついている。合計690N・m! かつて私が「宇宙戦艦」と呼んだ「フェラーリ458イタリア」の540N・mを大きく上回る。さぞやものすごい加速なのだろうと予感させるが、実際には「あ、こっちのほうが速いな」程度だった。
BEVの加速は、スペックがこれほど違っても、その程度にしか感じなかったりする。最初のひと踏みはビックリするけれど、加速が無機質なせいか、すぐに飽きてどうでもよくなり、時間がたつにつれ、過剰な加速がただの無駄にしか思えなくなってくる。シーライオン7のAWDモデルも、「これで77万円高くて航続距離が50km短くなるのは、あんまりうれしくないな」だった。いろいろな意味でRWDモデルのほうがバランスもコスパも上だ。
といってもこれは、あくまで個人的な嗜好(しこう)。BEVはUFO並みの加速がないと! という方もいるだろう。AWDで安定性抜群なので、スーパーカー以上の加速を、いつでもどこでもさく裂させることができる。でも、RWDモデルの加速も十分すぎるし、ハーフスロットルならまったく一緒。フル加速しない限り、差はわかりませんでした(晴天時です)。
BYDは2025年3月、最大1000kWでの超急速充電を実現する「スーパーeプラットフォーム」技術を発表した。それは、国産メーカーが開発中の全固体電池が、木っ端みじんに吹っ飛ぶ内容だった。日本国内にはまだ最大で150kWの急速充電器しか存在しないし、BYDが日本国内に独自の超超急速充電ネットワークを構築する予定もない。だからわれわれには当面無関係だけど、こういう発表を目にしつつ、シーライオン7に乗ると、すでにBYDのBEV世界制覇は決まったように思える。個人的には今のところ欲しくはないですが。これからも日経新聞で記事を拝見します!
(文=清水草一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BYDシーライオン7
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1925×1620mm
ホイールベース:2930mm
車重:2230kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
モーター最高出力:312PS(230kW)
モーター最大トルク:380N・m(38.7kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R19 103V XL/(後)255/45R19 104VXL(コンチネンタル・エココンタクト6)
一充電走行距離:590km(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:495万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年
テスト開始時の走行距離:341km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--
BYDシーライオン7 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1925×1620mm
ホイールベース:2930mm
車重:2340kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:217PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
リアモーター最高出力:312PS(230kW)
リアモーター最大トルク:380N・m(38.7kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R20 103V XL/(後)245/45R20 103V XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
一充電走行距離:540km(WLTCモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:572万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年
テスト開始時の走行距離:831km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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