新型「日産リーフ」をカーデザインの識者はどう見たか? ―「技術の日産」の残照とその功罪―
2025.06.27 デイリーコラムこの車形は空力が理由か
3代目にあたる新型「日産リーフ」が発表されましたね。さっそくそのデザインを見ていきましょう。
初代、2代目はいずれもハッチバックだったの対し、3代目はなだらかなルーフラインを持つクーペ風クロスオーバーです。これまでと全く異なるボディー形状で、しかも全長が先代より120mmも短くなったのにもかかわらす、明らかに車格が上がったように思います。これは凸凹の少ないシームレスで力強いデザインもさることながら、「クロスオーバーとしての付加価値」が加わったおかげでしょう。現状、電気自動車(EV)は基本的に高額商品なので、高く見せたかったことがボディー形状を変えた最大の理由かもしれません。それにしても、全高は先代とほぼ同じだというのに、これだけ異なった見え方を実現していることが、まず素晴らしいですね。
クーペ風のシルエットになった要因は、主に空力でしょう。兄貴分ともいえる「アリア」と同じように、ルーフのシルエットは大きな弧を描いているのですが、アリアではルーフスポイラーが付いているので、ルーフが後方に“抜けた”ような見え方になっています。これにより、リアゲートガラスはかなり寝てますがクーペには見えません。それに対しリーフでは、ルーフスポイラーをなくしています。その代わり、リアコンビランプの上をダックテール状の意匠とすることで、空気を整流しているのでしょう。このやり方はポルシェの新型「マカン」でも同様なので、できるだけ空気抵抗をなくし、航続距離を稼ぎたいEVのトレンドなのかもしれません。しかし、これにより『クーペライクなクロスオーバー』という、ニッチな商品に見えている気がします。
全体にただようドライなイメージ
このように、基本的な立体構成はアリアに準ずるものですが、面質はもっとドライになっています。アリアではドアパネルに曲率の強い面をつくり、それによるリフレクションの変化でサイドビューの表情を見せていたのに対し、リーフでは曲率が弱く、サッパリした表情になっています。この辺りは日産が掲げるデザイン言語『タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム』の進化としてみるべきでしょう。同時に、こちらも空力を意識すると、特に下まわりの“しまい込み(ボディーの裾を内側へ絞って収束させること)”などを弱める方向になるのだと思うので、必然とドライな見た目になるのかもしれません。
フロントはシームレスなカタマリ感が魅力です。特にオーバーハングが先代からグッと短くなったので、EVらしい次世代感が出ていると思います。ランプは、メーカーの言い分はどうあれ、なんとVモーションから離れたデザインになりました。新しいヘッドランプのデザインは、トヨタやスバルでもみられる、いわゆるコの字型(またはCシェイプ)といえるものに近く、狙いは各社と同じでワイド感の表現だと思います。Vモーションの欠点はここだったので理解できるのですが、やはり既視感は、なくはありませんね。
リアも基本的にシームレスな形状です。バンパーサイドの黒色部はもっと削ったほうがプロポーション的にうれしいのですが、ここも空力を考慮した部位でしょう。リアコンビランプまわりの黒色部のボリュームが大きいのですが、ここは先進性や迫力重視で薄く見せていたアリアに対し、もっと親しみを感じさせるためにこうしているのでしょう。ランプのグラフィックを含め、好みが分かれるところかもしれません。
ターゲット層が見えづらい印象も
さて、報道資料によると新型リーフは、電費や一充電走行距離の改善のために、空力に徹底してこだわったとのことですが、前述のとおり、それがデザインにも大きく影響しています。特にルーフラインはプロポーションへの影響度が高く、これが『クーペライクなクロスオーバー』という新型リーフのキャラクターを決定づけているところでもあります。
いっぽうで、そのクロスオーバーデザインが、どのようなお客さまを想定して描かれたものなのかが、少し見えづらい印象も覚えました。EVであることがリーフ最大の個性であり、EVとしての性能を最大限引き上げたことは理解できるのですが、デザインの成り立ちが“ユーザー目線”というよりも“技術中心”な感じもしました。デザインの完成度はすごく高いのですが、国内の他メーカーは、もっと明確にユーザーをターゲティングして開発している感があります。
私が子供の頃、日産は『技術の日産』というフレーズでCMを流していましたが、今回、新型リーフを見て、ふとそれを思い出しました。
(文=渕野健太郎/写真=日産自動車/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
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