スバル・フォレスター プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)/フォレスター スポーツEX(4WD/CVT)
いいクルマなんだけど 2025.07.01 試乗記 すでに、多方面で好評を得ている新型「スバル・フォレスター」。そのターボ車とハイブリッド車に試乗し、悪路も試せる機会を得た。乗れば納得の完成度を誇る同車に、リポーターが感じたモヤモヤとは? スバルの未来を担う“旗艦車種”の実力に触れた。操作系にガサツなところは皆無
2025年6月某日、千葉・鋸山の一帯で、スバル・フォレスターの試乗会が催された。ハイブリッド車の「S:HEV」と純ガソリンターボ車の両方に試乗でき、しかもオフロードも走れるというぜいたくな内容だ。webCGでは、当初は佐野弘宗さんの試乗記だけで済ませる予定だったが、せっかくなので記者も参加。こうして記事をしたためている次第である。出せばアクセスが稼げるスバル車の試乗記なんて、こんなん、なんぼあってもいいですからね。
さっそく、ハイブリッドの最上級モデル「プレミアムS:HEV EX」で出発。まず感じたのは、過日取材したターボ車(参照)と同じ美点で、視界の広さと見切りのよさ、そして操作系の自然な応答である。ハイブリッド車ってことで心配していたスロットル/ブレーキも、ぎくしゃくしたり、つんのめったりといった不作法とは無縁。ペダルを踏み込む最中に、意図せぬ加減速Gの変化に見舞われることもなかった。ハンドリングも、手ごたえ、クルマの反応ともに理にかなった感覚だが……ターボ車よりちょっと舵が重いかな? もっとも、この点についてはプラシーボ効果の可能性もなきにしもあらず。また仮に、本当にターボ車より重かったとしても、絶対的にはハンドルは軽い部類なので無問題でしょう。
いっぽう、ターボ車と明確に違うのが乗り心地で、あちらがたくましさ優先なのに対して、こちらは優しさが前面に出ている印象。ロールやピッチをほどほどに許し、段差などではかなり大きめに衝撃の角を丸めていなす。「北米での走行試験を踏まえ、日本やその他の地域でも安定して走れるよう調律した」(質問メールへの返答より)というその足は、なるほどちょっと、よくできたアメリカのSUVに通じるものがある気がした。
総じて、普段使いの道路環境や速度域では非常に好印象。コワモテなのに優しくて気が利く、ナイスガイである。
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日常系SUVのかがみ
こうした印象は高速道路に乗っても変わらずで、普通に走るぶんには、2.5リッターエンジン+モーターのゆとりは十分だ。ペダル操作に対する加速の応答もよく、極端なことをしなければトランスミッション(厳密には動力分割機構)のスリップ感も顔を出さないので、気分よくクルージングを楽しめる。普段は優しいサスペンションも、コーナーではしっかりふんばって粘るし……イカン、イカン。あまりの好青年ぶりに、書いてて腹が立ってきた(笑)。
かように有智高才、高材疾足なフォレスターS:HEVだが、イジワルに見れば欠点がないわけではない。それは、要は“飛ばし屋”的な運転をしたときだ。賢明なる読者諸氏にそんな方はいらしゃらないと知りつつ語らせていただくと、スロットルをズドンと踏むと、パワートレインは高回転域で空転感を示し、加速が伸びなやむのだ。0-100km/h加速はターボ車から1秒落ちの9.6秒と、絶対的な動力性能に不満はないが、この反応はちょっとキモチワルイ。サスペンションも、ハイスピードで舗装の赤いしま模様を突破したりすると、さすがに収束が間に合わず、揺れ残りがおさまらないことがあった。こうしたあたり、せっかちな運転をする人にはS:HEVは向かないかもしれない。
ただ、そんなのは極端な人の極端な用例であり、記者にしても、試乗モード(アラ探しモードともいう)から普段のお出かけモードに意識を戻せば、「やっぱりいいクルマだなぁ」とため息なのだ。特に「おお」と思ったのが、撮影でちょこまかクルマを動かしたとき。走っているときはソツがなくとも、こうしたシーンでフラストレーションがたまるクルマはあるものだが(笑)、フォレスターS:HEVは切り返し時も舵やシフト、スロットルをテンポよく操れ、微細なペダル操作に対する反応も緻密だった。
これならスーパーの狭い駐車場でも、反応のじれったさやデリカシーのなさに「もー!」と牛にならなくて済みそう。ささくれが丁寧に取り除かれたフォレスターS:HEVは、すごくいい日常系SUVなのではないでしょうか。
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先代とは違う「超飽和バルブ付きダンパー」の設定
いっぽうのターボ車はどうかというと、こちらについてはすでに拙評を開陳しており(参照)、今回も印象はおおむね同じだった(当たり前だ)。レスポンスがよく、伸びもいいエンジン。S:HEVを上回る高い動力性能。そして上級SUVとしては、ちょっとスポーティーかな……と個人的に思う足まわり(笑)。ただ、今回は山坂道を走り、相対的に市街地をゆく時間が短かったこともあって、以前よりその良点が際立って感じられた。コーナーで横Gがかかったときのふんばり感が、実にイイのである。
読者諸氏ならご存じと思うが、新型フォレスターのターボ車には、先代に続いて「超飽和バルブ付きダンパー」が採用されている。これは、一定の伸縮速度を境に、減衰力の上昇をなだらかにするというもので、実車の挙動としては、
(1)操舵や加減速によるダンパーの伸縮(ダンパーの動きは遅い)に対しては、高い減衰力を生じさせて余分な動きを抑制する。
(2)路面のうねりやつなぎ目、マンホールなどを乗り越える際(ダンパーの動きが速い)には、減衰力の高まりを抑えて衝撃を緩和する。
……という。ただ、先代フォレスターの超飽和バルブ付きダンパーと比べると、(2)の領域でもそこまで減衰力を抑えてはいない様子。これは“伸び切り”に伴う打音を低減するためだそうだ。2度の試乗での印象を思い起こすと、その説明には「ああ、なるほど」と非常に納得。納得したうえで、衝撃緩和の領域についてはもっと広く、そしてもうちょっと柔らかくてもいいかな……と個人的に思いました(笑)。
しかし、撮影のため同乗したKカメラマンはというと、記者よりずっとクルマの乗り心地にウルサイにもかかわらず、「最初はウッと思ったけど、すぐ慣れた」「昔の『レガシィGT-B』とかも、こんな感じだったよ」とコメント。腰高な実用車に優しさを求める記者はさておき、それ以外の人……特にかつてのスバル車のキャラクターを知る人からしたら、これは納得感のあるものなのだろう。読者諸氏におかれては、「スポーツ/スポーツEX」の乗り味は“その程度のあんばい”とご理解ください。
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電磁クラッチ付きの4WDでも走りは文句なし
最後は、待ちに待った特設コースでのオフロード試乗。場所は鋸山山麓の石切り場跡。斜度は車載計読みで最大10°。路面はこぶし大の石も転がる荒いダートで、しかも前日の雨でそこら中がぬかるみ、溝が掘られ、いい具合に仕上がっていた。まぁそれでも、過去のフォレスターの走破性を知る御仁なら「稚戯だな」と思う程度で、実際、新型フォレスターも比較用に用意された先代も、終始涼しい顔であった。登坂でわざと停車して乱暴な再発進を試みても、泥地に前輪だけ突っ込んでフルスロットルをくれても、まったくムズがらない。
今回、悪路試乗に供された新型フォレスターは、舗装路と同じくプレミアムS:HEV EXだったのだが、同車を含め、S:HEV車の4WD機構はカップリングに電磁クラッチが付いている(低負荷走行時にFWDになる)。取材前は「走破性に影響があるのでは?」と思っていたのだが、スバルいわく「クラッチが解放されるのは平たん路を直進巡行するときのみ。前後Gや舵角、車速、駆動力車輪速差などのパラメーターを見て、必要とあらば瞬時にクラッチを締結する」とのこと。実際、先代のフルタイム4WD車と比べても、後輪の蹴り出しに不満を覚えることはなかった。いやはや、記者が浅はかでした。
いっぽうで、S:HEVが繰り出すリニアでトルクフルな駆動力は、こうした場面でも非常に有効。悪条件下でのスロットルの操作量は明らかに少なく、そこは従来型のマイルドハイブリッド車に対する、わかりやすいアドバンテージだ。加えて、操舵感や操舵応答性もこちらのほうが良好に感じられた……のだが、そこについては、新型の試乗車のほうがワイドで低偏平なタイヤを履いていたので、ちょっと確信をもっては言えません。逆に、乗り心地は新型のほうがややトガって感じられたが、それもタイヤによるものか、あるいは試乗車のダンパー/スプリングがまだなじんでいなかったのか……といった感じで、条件をそろえて新旧比較をしたら、また違う感想になりそうな気がした。
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もうちょっと威厳が欲しいというか……
それにしても、やっぱりフォレスターの四駆性能はスゴい。トルクベクタリングなどの複雑な駆動制御が入っているわけではないので、「すげえ、こんなに曲がるの!?」的な感動はないが、ぐいぐいと車速を上げてもその中庸な操作性が保たれるし、そうそう千鳥足になることもない。他のジャーナリストさんのなかには、ダートラよろしくコースを爆走している人もいたが、性能的に余裕があるのか、スタッフさんが止めにすっとんでくることはなかった。フォレスターの悪路での走りは、この手のSUVとしては最上位の部類だと思う。
加えて、先述した普段使いでの扱いやすさに、乗り心地、動力性能。燃費だって、ハイブリッド車ならカタログ値は「日産エクストレイル」の四駆とどっこいなのだ。世のミドル級SUVのスパイダーチャートを並べたら、いちばん面積が広くてきれいな多角形を描くのは、このクルマじゃないかと思われた。さすがはフォレスター、スバルの良心が詰まった、いいクルマである。
……とハッピーな感じで終わらせたいところだが、そうもいかないのが新型の難しいところ。なにせこの6代目、ラインナップの全仕様が400万円オーバーなのだ。その価格帯は、このほど日本で終売となった上級モデル「レガシィ アウトバック」と完全にオーバーラップ。今回の試乗車を見ても、ハイブリッド車のほうはオプション込みでお値段521万4000円(!)である。
そんな高級車を、日常系SUVとしてスバラシイってだけで拍手喝采していいものか。キャビンのデカいそのスタイルは、ちょっとファミリーカーに寄りすぎてないか? CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)の演出は、この方向性で本当によかったの? もし次期型アウトバックが日本に来ないとなれば、このフォレスターが国内におけるSUV商品群の最上級車種となるのだが……(電気自動車の「ソルテラ」は除く)。
試乗車のスペックシートと実車を見比べながら、未来の大統領に「票が欲しけりゃひげを生やせ」と手紙を書いた女の子の気持ちになってしまった。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバル・フォレスター プレミアムS:HEV EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1830×1730mm
ホイールベース:2670mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:160PS(118kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:209N・m(21.3kgf・m)/4000-4400rpm
モーター最高出力:119.6PS(88kW)
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R19 99V M+S/(後)235/50R19 99V M+S(ブリヂストン・トランザEL450)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:459万8000円/テスト車=521万4000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルブラック・シリカ/リバーロック・パール>(8万8000円)/ハーマンカードンサウンドシステム+本革シート+アクセサリーコンセント<AC100V・1500W>+サンルーフ(52万8000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1097km
テスト形態:ロード&オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
スバル・フォレスター スポーツEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1830×1730mm
ホイールベース:2670mm
車重:1660kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:177PS(130kW)/5200-5600rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1600-3600rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(ファルケン・ジークスZE001A A/S)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:419万1000円/テスト車=445万5000円
オプション装備:ハーマンカードンサウンドシステム+サンルーフ(26万4000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1961km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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