MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)
守られるべき遺産 2025.09.08 試乗記 「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス(JCW)」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。残してくれたことに感謝
第4世代のMINI、改め「MINIクーパー」に高性能版のJCWが追加される。と発表されたのは2024年10月である。果報は寝て待て。と申しますけれど、そのMINI JCWの納車が始まっている。3ドアとコンバーチブル、先代同様、ふたつのボディーがあって、ここにご紹介するのはコンバーチブルである。価格は3ドアのJCWより50万円ほどお高い585万円と、プレミアムコンパクトにふさわしい。
第4世代のMINIクーパーの内燃機関モデルは、基本的に第3世代のボディーに、「カントリーマン」で先に導入されたインストゥルメントパネルを移植したものである。直径240mmの円形有機ELディスプレイをダッシュボード中央に配置するそれは、鏡よ鏡、鏡さん。主に運転支援やコネクト等、日進月歩のデジタル関連の技術をアップデートしたものと考えられるけれど、筆者的にはよくぞこの制約だらけの時代に純ガソリンエンジンのオープンを残してくだすった。ありがたや~。と、そのことに感謝したい。なんてプレミアムでオシャレで粋なんでしょう! ここはひとつ、みなさまがたのお手を拝借して、一本締めといきたい。イヨオッ。パンッ!
屋根開きモデルがめっきり減ったのは、ひとつには市場の変化によるものであろう。ではなぜ、MINIはつくり続けるのか? 私見によれば、プレミアムでオシャレで粋なブランドだから、である。そういうブランドであるという矜持(きょうじ)、意地と張り、ある種のやせ我慢、ダンディズムが彼らをして、そうさせる。自動車界のアイコンだから続けられている、のではない。アイコンたらむとして続けてきた。だからアイコンになった。大事なのはハート、意志である。と思いたい。
先代比でトルクが大幅にアップ
その最新のJCWコンバーチブル、見た目は見慣れたMINIである。ボディーは先代のキャリーオーバーだからして、そりゃそうだ。ユニオンジャックが織り込まれたグレーのホロも、いまやおなじみではあるまいか。こちらはMINIユアーズソフトトップという名前の11万円のオプションである。
30km/h以下なら開閉可能な完全自動式のホロは開くのにも閉めるのにも20秒しかかからない。作動はスムーズで、サンルーフ状態にすることもできる。というのは初代のコンバーチブル以来のアイデアである。都会の喧騒(けんそう)を離れたロケ地は外気温23℃。高原の空気はお肌にひんやり、さらりとして、高いところにある青い空には秋の気配がちょっぴり含まれている。
円形ディスプレイのすぐ下、ダッシュボード中央のトグルスイッチをひねるとエンジンがスタートする。この有機ELディスプレイを含む計器盤は別にして、それ以外ではどこが変わったのか? 2021年4月に発表された先代JCWコンバーチブルのスペックと比べてみよう。2リッター直列4気筒ターボは最高出力231PS、最大トルク320N・mで、0-100km/h加速は6段MTが6.6秒、8段ATが6.5秒とある。6MTが本国にはあった、ということと、トルクコンバーター式のATだったことに注意したい。ちなみに80kgほど軽い3ドアはそれぞれ6.3秒と6.1秒を主張していた(いずれも欧州仕様の値)。
これに対して新型は、エンジンは基本を同じくする2リッター直4ターボで、231PSの最高出力も同じ。ところが最大トルクは380N・mと、軽自動車一台分弱の60N・mも分厚くなっている。トランスミッションは7段のDCTのみとなり、0-100km/h加速は6.4秒とコンマ1秒速くなっている。2リッター直4ターボ、265PSの「ポルシェ・マカン」(4WD)と同タイムだ。先代ではオプションでアダプティブダンパーが選べたけれど、新型には設定がない。
跳ねる、だからよく曲がる
いざ、アクセルペダルを踏んで走りだす。エクスペリエンスモードは全8モードもある。動力性能に関わるのは、「コア」と「ゴーカート」と「グリーン」の3つで、あとは室内の雰囲気を変えるためのモードである(「タイムレス」等のモードでは動力性能はコア=ノーマルと同じ設定)。コアがノーマル、ゴーカートはスポーツ、グリーンはエコである。可変ダンピングは備えていないから、それと分かる変化は駆動系、アクセルのレスポンスとステアリングの重さということになる。
まずもって印象的なのは乗り心地だ。ロケ地周辺の一般道の一部は凸凹だらけで、そういう路面をJCW専用にキリリと引き締めた足まわりで通過すると、ガツンと胃にくる。電気信号ではなくて、ナチュラルにおなかを刺激するシックスパッドみたいな感じ、といえるかもしれない。タイヤは215/40R18サイズの「ピレリ・チントゥラートP7」で、たいへん薄い。本国では17インチが標準である。輸入元のBMWジャパンはむかしからファットでビッグなタイヤ&ホイールがお好みである。日本人がお好みだからなのか、ニワトリが先かたまごが先か、いずれにしても、一種のアンファン・テリブル、MINI JCWは「恐るべき子ども」であり続けるというつくり手の強い意志を感じさせる。
バリカタの乗り心地は、ゴーカートフィーリングと称されるBMW MINI独特のクイックなハンドリングを実現するためだとされる。ホントにそうなの? ハイドラスティックの時代が短期間ながらあったのに……と思わないでもないけれど、これがラバーコーンのクラシックMini以来の伝統ということになっている。
とはいえ、筆者もラバーコーンのクラシックMiniを愛用していた時期があるので、MINIのガチガチの乗り心地を愛さずにはいられない。俊敏なステアリングレスポンスは、イシゴニスが生み出したMini以来の重要なキャラクターであることに異論の余地はない。そこは最新JCWコンバーチブルにもしっかり受け継がれている。
一方にガマンの限界の3歩手前ほどのハードな乗り心地がある。高速走行時は明らかに跳ねる。そういう負の側面があるからこそ、もう一方にあるクイックなステアリングを楽しむことができる。乗り心地とハンドリングは表裏一体。この乗り心地とともにMINIの楽しみはある。
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速い遅いは関係ない
380N・mに増強された2リッター直4ターボは、ターボに乗ってヒューッと加速する。さながらジェット風船のイメージ。筆者の記憶によれば、2024年に試乗した「JCWカントリーマンALL4」よりエンジン音が控えめになっている。新型MINI JCWも高回転まで回せば、ぶおおおおんっ、と快音を発することは確かだ。でも、ちょっと遠い。エンジン音は人工的につくり出されているもので、音量の大小切り替えができる。これを大に切り替えても、JCWだったら、もっと騒々しくてよいのではあるまいか。もしかして、江戸川コナンのように外見は子どものままだけれど、中身はちょっぴり大人になっている……のかもしれない。冷静に考えれば、静かなことはよきことである。中央高速で試したところによれば、ファブリックのホロでも会話ができる程度の静粛性がある。
情けないことに、新型MINI JCWの最大の特徴である円形ディスプレイの8つのモードの使い方が、私にはよく分からなかった。ダッシュボードのモードを切り替えるトグルスイッチをかちゃかちゃやっていたら、「ビビッド」というモードが出てきて、シートのマッサージ機能が動きだし、モゾモゾモゾモゾし続ける。今回の試乗車はアクティブシートを含む「Lパッケージ」、18万1000円のオプションを装備している。そのアクティブシートの止め方が分からん。ゴーカートモードでタコメーターの出し方も分からなかった……。若い世代、デジタルネイティブなら直感的に造作もなく操作できるのかもしれない。うらやましいぞ。いや、年齢は関係ない。一見さんには分からないことを知っている。というのはオーナーの楽しみであるからして、つまり、新型MINIではオーナーになってからの楽しみが増えている。
でありながら、BMW MINIコンバーチブルの万国共通、永遠不変の楽しみはしっかり守られている。青空の下、オールウェイズオープンの気概でもってMINI JCWコンバーチブルを走らせる。サイドウィンドウを上げていれば、一般道だとパナマ帽が飛ばない程度の、そよそよとした風が心地よい。コンパクトなサイズに、立ち気味のウインドスクリーンからの眺め。これぞ、守られるべき遺産である。JCWの高性能はオマケみたいなものだ。思い切って申し上げれば、なくてもいい。でも、あるから、よりプレミアムでオシャレで粋なんである。
(文=今尾直樹/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)
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テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3880×1745×1435mm
ホイールベース:2495mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:231PS(170kW)/5000rpm
最大トルク:380N・m(38.8kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)215/40R18 89Y XL/(後)215/40R18 89Y XL(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:585万円/テスト車=622万3000円
オプション装備:ボディーカラー<レジェンドグレー>(8万2000円)/ベスキン×コードコンビネーションインテリア<ジョンクーパーワークスブラック>(0円)/Lパッケージ(18万1000円)/ジョンクーパーワークストリム(0円)/MINIユアーズソフトトップ(11万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2195km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:257.4km
使用燃料:28.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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