内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?

2025.09.16 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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エンジンが搭載されていない電気自動車(EV)でも、冷却のメカニズムが必要だと聞きました。それはなぜでしょうか? また、どんなところをどのような仕組みで冷やすのでしょうか? エンジン車のラジエーターとの違いも含め、教えてください。

おっしゃるとおり、EVはエンジンを持たないのでラジエーターが要りません。したがって、フロントまわりにラジエーター冷却用の大きな開口部を設ける必要もなく、自動車の世界で長年にわたり当たり前だった(前方に穴があるという)デザインを変えた、というのは大きな特徴のひとつです。

そんなEVで何を冷やすのかといえば、モーターとバッテリーです。とくにバッテリーは、皆さんも日ごろスマホを使っていておわかりのとおり、急激な電気の出し入れがあると熱くなり、充電効率が悪化することもある。そうならないよう、いろんなやり方で冷やすわけですね。

エンジンが空冷から水冷へと推移したように、電池の大容量化でにともない小型のラジエーターでバッテリーを冷却するものも増えてはいますが、今のところ最も効率的なのはエアコンです。冷やすだけなく、冷間時などにバッテリーを温める場合も必要になります。エンジンも、触媒をうまく働かせるために、ある程度早く温めなければならないときはあるのですが、EVについては、一定の温度を保つようにするのが理想とされています。

それをコントロールするのに最も良い手段がエアコンなのです。現状では、バッテリーをはじめさまざまなレイアウト上の制約は受けるものの、キャビン用(乗員用)のエアコンシステムと連携した冷却システムが使われていて、それが主流になっています。

その冷やし方とか温め方には、バッテリーメーカー各社のさまざまなノウハウがあるようですね。いかにバッテリーを冷却しやすい搭載方法にするか。そして、どういう冷暖房をバッテリーまわりに配置するか。かのBYDはもともとバッテリーメーカーであり、そうしたノウハウを持っていたおかげで急速に伸びてきたという面があります。

近年は、そうした冷却の面倒から解放される全固体電池にずっと注目が集まっていますが、その実用化については、特にコスト面でなかなか決定打がないようですね。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。