第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦
2025.11.13 マッキナ あらモーダ!2ブランドで目指す相乗効果
『webCG』でも2025年11月7日のニュースで報じているとおり(参照)、ステランティスはアルファ・ロメオとマセラティの新プロジェクト「BOTTEGAFUORISERIE(ボッテガ フォリセリエ。以下イタリア語発音に近いボッテーガ・フォーリセーリエと記す)」を発足した。両ブランドにおける技術・知財の相乗効果を狙うとともに、カスタマイズ仕様車のあり方を模索するのが目的で、以下の4業務を柱とする。
【ボッテーガ:工房】
顧客の意をくんだ少量限定生産車の開発部門。設計から製造までをイタリア国内で完結させる。
【フォーリセーリエ:特別仕様】
量産車をもとに、専任デザインチームがユーザーの好みを反映した仕様を提案する。
【ラ・ストーリア:歴史】
両ブランドの歴史的資産を保存・活用するヘリテージ関連の取り組み。古い車両の修復や認証業務に加え、アーカイブの整備も行う。
【コルセ:競技】
モータースポーツで培った技術を市販車開発に適用させる部門。国内サプライヤーと連携しながら、高性能車両の技術革新を進める。
責任者は、「アルファ・ロメオ33ストラダーレ」や数々のモータースポーツ関連プロジェクトを手がけたクリスティアーノ・フィオーリオ氏が務める。
ビジネス視点からとらえたプロジェクト
カストマイズドプログラムに関していえば、独プレミアム系の各社やフェラーリ、ランボルギーニといったイタリアの超高性能車ブランドが、すでに手がけてきた。ステランティスでも、アルファ・ロメオのヘリテージ部門、そしてマセラティの「クラシケ」の両部門は、上述の一部の活動をすでに行ってきた。今回は2ブランドのシナジー効果で、ライバルたちに匹敵する体制を目指すものといえよう。
bottegaはイタリア語で商店を指す言葉であるが、同じ意味で一般的なnegozio(ネゴーツィオ)よりも、より職人工房的な雰囲気が強い。また、fuoriserieは自動車愛好家の間では、いわずと知れた一品製作車を指す言葉である。なかなかいいネーミングだ。
2025年11月4日にモデナとつないで実施されたオンライン記者発表会に登壇したのは、マセラティCEOのジャン=フィリップ・アンパラート氏、アルファ・ロメオCEO兼マセラティCOOのサント・フィチリ氏、そして前述のクリスティアーノ・フィオーリオ氏の3名だった。
参加ジャーナリストとのQ&Aセッションでは、よりビジネス視点でのやり取りが展開された。
プロジェクトについてアンパラート氏は、マセラティの顧客のうち25%がパーソナライズのオーダーをしていると説明。今回のプロジェクトでそれを40%まで高めることで、利益を向上させたいと語った。
また2005年「MC12ストラダーレ」が、2025年夏の米・ペブルビーチにおけるブロードアロー社のオークションで、モダン・マセラティとして過去最高の520万ドル(約7億9840万円)で落札されたことを挙げながら、ブランドのポテンシャルを示した。
あるイタリア人記者は、プロジェクトの拠点について質問。筆者が補足すれば、アルファ・ロメオとマセラティのデザイン拠点はトリノ、生産拠点はトリノとモデナ、そしてサプライヤーは“モーターヴァレー”といわる北部エミリア・ロマーニャ州に点在している。
それに対してフィオーリオ氏は、モーターヴァレーを中心とした多拠点体制で臨むことを明らかにした。
筆者が質問したのは、顧客のオーダーに基づいたカスタムメイド車両のほかに、メーカーが主導してワンオフを製作し、オークション等で販売する可能性である。かつてイタリアの高級車メーカーやカロッツェリアがショーで公開したあと、そのまま上顧客に販売したのと同じイメージである。
フィオーリオ氏はその可能性を否定しなかった。アンパラート氏は台数に関して言及。2023年に33台限定でリリースした33ストラダーレを、さらに追加生産するような手法はけっして使わないと断言した。
「スタンダールになるクルマ」を見せてほしい
その後、話題は別のイタリア人記者の質問をきっかけに、さらなる展開をみた。それはプラットフォーム「ジョルジョ」に関することだ。復習しておくと、ジョルジョとはマセラティ主導で開発された縦置きエンジン・RWDもしくは4WD用の車台である。現在ステランティスのイタリア系ブランドでは、アルファ・ロメオの「ジュリア」と「ステルヴィオ」、マセラティの「グレカーレ」「グラントゥーリズモ」「グランカブリオ」に使われている。
アンパラート氏は「ジョルジョは欧州の自動車環境基準『ユーロ7』に適合可能であり、ハイブリッド化しながら最低でも2032年まで、もしくは2035年まで使用できる」と明言した。
後日、イタリアの多くの自動車メディアでは、ボッテーガ・フォーリセーリエとともに、このジョルジョの延命に関しても報じられた。熟成されたエンジンや車台を改良しながら使っていくのは、旧フィアット・グループ時代からのお家芸である。過去と異なり、法制度と市場環境のいずれもがめまぐるしく変化する今日の自動車業界で、この戦略がどのような結果となるか注目される。
ボッテーガ・フォーリセーリエに話を戻せば、アンパラート氏は「リコネクション」すなわち再接続という言葉も用いた。一例として、これまでの優良顧客へのコンタクトをすでに開始しているという。同時にそれは「イタリアらしさ」と「ビジネス」の再接続でもあると説明する。
イタリアらしさに関していえば、筆者は2025年10月にマセラティCEOに就任したばかりのアンパラート氏に期待している。なぜかといえば、「外国人の目でないとわからないイタリアらしさ」があるからだ。彼はフランス人で、2016年から2021年まで旧グループPSAでプジョーの最高責任者を務めた人物である。また、今回のプロジェクトでは名前は挙げられていないが、マセラティのデザイン部門を率いるクラウス・ブッセ氏はドイツ人。アルファ・ロメオのデザイン開発を主導するアレハンドロ-メソネーロ・ロマノス氏は、スペイン出身である。
フランスでルイ14世によって創設されたローマ賞は、さまざまな画家や彫刻家を永遠の都に送り込み、結果として彼らが現地で培った感性をもとに手掛けた作品には名作が少なくない。18~19世紀のドイツの詩人ゲーテは、イタリアの芸術、風景そして人々に心酔し、『イタリア紀行』を著した。19世紀フランスの作家スタンダールは、フィレンツェでフレスコ画に接した途端、心臓の鼓動が激しくなり転倒しかけて、のちに「スタンダール症候群」という言葉が生まれるきっかけとなった。第2次世界大戦後の米国人によるイタリア観光ブームのきっかけのひとつは、1953年のパラマウント映画『ローマの休日』が果たした役割が大きかった。
もちろん彼らや観光客の感動は、イタリアという国の光の面だけを見て、負の部分に目をつぶる行為をともなっているのも事実だろう。しかしながら、外からの目で見た素晴らしさは、ときとして、大きな実を結ぶということだ。ボッテーガ・フォーリセーリエも、スタンダール症候群を引き起こすようなクルマを見せてほしいものである。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=ステランティス、Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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