わが世の春が到来? 勢いに乗るアメリカ勢【デトロイトショー2015】

2015.01.14 自動車ニュース 中村 孝仁
北米国際自動車ショーの会場となった「COBO CENTER(コボセンター)」の様子。
北米国際自動車ショーの会場となった「COBO CENTER(コボセンター)」の様子。
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【デトロイトショー2015】わが世の春が到来? 勢いに乗るアメリカ勢

上向きつつある景気と原油安を背景に、勢いに乗るデトロイトスリー。彼らの「地元」で開催された今回のショーの主役となったのは、突如として現れたアメリカンスーパーカーだった。

フィアットは2014年1月にクライスラーを完全子会社化。同年10月には、経営統合による新会社「フィアット クライスラー オートモービルズ」が誕生した。
フィアットは2014年1月にクライスラーを完全子会社化。同年10月には、経営統合による新会社「フィアット クライスラー オートモービルズ」が誕生した。
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「フォード・マスタング」の高性能モデルである「シェルビーGT350R」。よりパワフルな「シェルビーGT500」のデビューも控えている。
「フォード・マスタング」の高性能モデルである「シェルビーGT350R」。よりパワフルな「シェルビーGT500」のデビューも控えている。
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■デトロイトスリーを一文字で表すと……

2014年のデトロイトスリーを漢字一文字で表すとしたら、それは「新」ではないだろうか。GMは年初に業界初の女性CEOマリー・バーラ氏を迎え、新しいスタートをきった。一方フォードは、7月にそれまでのアラン・ムラーリー氏から、こちらも新しいCEOのマーク・フィールズ氏にバトンタッチ。そしてクライスラーはというと、10月にフィアットによる経営統合が完了し、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の一員として再出発。暮れにはクライスラー自体の名も新たに「FCA US」となって、まさしく新しいメーカーに生まれ変わったのだ。

製品の方を見ても、フォードからは革新的なアルミボディーのピックアップトラック、新型「F-150」が市場に送り出され、また50周年を迎えた「マスタング」がグローバルモデルに生まれ変わった。GMでは、最量販車種の一つであるフルサイズSUVシリーズ(「シボレー・タホ/サバーバン」「GMCユーコン/ユーコン デナリ」「キャデラック・エスカレード」)が新型となり、FCA USからも新しいコマーシャルバンの「プロマスター」および「プロマスター シティー」がデビューを飾っている。これらのモデル群はいずれも2015年モデルであり、つまり今年は、生まれ変わったメーカーやニューモデルが市場で試される年となるのだ。少し気が早いかもしれないが、2015年のデトロイトスリーを表す漢字は「試」だといえるかもしれない。

モーターショーの会期中に、デトロイトの街なかで見かけたガソリンスタンドの看板。1ガロンにつき、現金払いなら1.899ドル、カード払いなら1.999ドルとなっている。
モーターショーの会期中に、デトロイトの街なかで見かけたガソリンスタンドの看板。1ガロンにつき、現金払いなら1.899ドル、カード払いなら1.999ドルとなっている。
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■背景にある「景気回復」と「原油安」

さて、2015年最初のモーターショーである北米国際自動車ショー、通称デトロイトショーは実に活気のある内容となった。事前の情報では、ワールドプレミア(世界初公開)されるモデルはヨーロッパ系と日本系ばかりで、デトロイトスリーからはあまり期待の持てるモデルが登場するとはいわれていなかったのだ。ところがいざフタを開けてみると、新鮮なニューモデルが多数登場し、大いに盛り上がったのである。

地元の新聞にはかなり衝撃的な見出しが躍っていた。いわく、「Big and fast is back」 つまりデカいクルマや速いクルマが戻ってきたというのである。デトロイト周辺を走りまわっていれば、その背景にある事情は察せられる。いたるところに建設現場があり、景気が上向いていることが感じられたのだ。それにとにかくガソリンが安くなった。感覚的には、平均で1ガロンあたり1.89ドルというところ。日本円ではおおよそ227円である(1ドル=120円で換算)。1ガロンは約3.8リッターなので、リッターあたりに直すとわずか60円弱という安さだ。こうなれば以前ほどガソリン代を気にする必要がなくなるから、大きく速くパワフルなクルマがもてはやされて当然だろう。何しろアメリカ人はV8エンジンが大好きなのだ。ただ、そうはいっても排ガスに関してはシビアなものだから、それをクリアしてなお、速くてパワフルなクルマが台頭したということだ。

新型「キャデラックCTS-V」
新型「キャデラックCTS-V」
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新型「フォードF-150ラプター」
新型「フォードF-150ラプター」
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ディーゼルエンジンを搭載した「ラム1500」。写真では分かりづらいがフロントフェンダー付近に「ECO DIESEL」のバッジが装着されている。
ディーゼルエンジンを搭載した「ラム1500」。写真では分かりづらいがフロントフェンダー付近に「ECO DIESEL」のバッジが装着されている。
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「ラム1500レブル」
「ラム1500レブル」
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■さまざまなハイパフォーマンスカーの競演

その象徴的なモデルが、ダッジが送り込んだ「チャレンジャー」と「チャージャー」の高性能モデル「ヘルキャット」だ。どちらも巨大な6.2リッターV8にスーパーチャージャーを装着し、最高出力は707hpをうたっている。GMも負けてはおらず、今回のショーにおいてキャデラックからスーパーチャージャー付きの6.2リッターV8を搭載した「CTS-V」を発表。ヨーロッパのハイパフォーマンスカーを上回る動力性能を実現したという。

さらに、アメリカ人の好きなピックアップトラックにもこの波は波及している。フォードが投入した新型「フォードF-150ラプター」は、3.5リッターエコブーストV6を搭載する高性能スポーツトラックであり、V6ではあるが、その最高出力は従来モデルがV8で絞り出していた411hpよりもパワフルだという。何よりも、このクルマには10段ATが組み合わされているのだ。

一方で、エコ対策も怠っていない。意外かもしれないが、もともとピックアップトラックの世界では、車重が重いこともあって燃費にセンシティブな部分があったのだ。すでにフォードでは、自然吸気の大排気量V8に代わってターボエンジンが主流になっている。これに対抗してクライスラーが「ラム」に採用したのが、3リッタークリーンディーゼルエンジンである。日本ではガソリンに対して軽油が格安で手に入るが、アメリカでは全く逆。軽油の方がずっと割高なのだが、それでもこのディーゼルエンジン搭載車の人気は高いという。もちろん、ラムのラインナップはエコなモデルばかりではなく、今回のショーでも、オフロード走行を想定した高性能トラック「ラム レブル」が登場している。

新型「フォードGT」
新型「フォードGT」
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■会場の話題をさらった新型「フォードGT」

しかし、今回の主役はこれまでに挙げたようなハイパフォーマンスセダン/クーペでも、ピックアップトラックでもない。事前のアナウンスなど一切なしに登場した、新型「フォードGT」である。

フォードGTといえば、古くは60年代にレーシングカーとしてデビューした「GT40」が思い出される。2005年にはそのレジェンドを受け継ぐ、その名も「フォードGT」が少量生産モデルとして登場した。今回、突如として姿を現したニューモデルは、極めてモダンなフォルムのボディーに、オリジナルGT40の面影を残したエレメントを組み込み、最新のエコブーストV6ツインターボエンジンと7段デュアルクラッチ式ATを搭載したものである。V8を搭載しなくても、そのパワーは600hpに達するという。
このクルマがショーの人気を独り占めしていたことは間違いない。しかもディスプレイは過去2台のフォードGTを従えた「3台そろい踏み」だったのだから、メディアの食いつきは最高だった。

あるアメリカの情報筋では、2015年の北米自動車販売は空前の増加を見ると予測している。経済の好循環、ガソリン安が重なったアメリカ市場は、再びわが世の春を迎えようとしているように感じられた。

(文と写真=中村孝仁)
 

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