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フェラーリ488GTB(MR/7AT)

新時代の幕開け 2015.06.25 試乗記 竹下 元太郎 フェラーリの新しいV8エンジン搭載モデル「488GTB」に試乗。ターボエンジンにくら替えし、最新の空力コスチュームでかためた新型の実力は? フェラーリのホームグラウンド、フィオラーノ・サーキットからの第一報。

自然吸気からターボへ

6月某日のフィオラーノ・サーキットは意外や、488GTBの国際試乗会の会場にしては拍子抜けするほど穏やかでのどかだった。マラネロはもう初夏といった感じ、日差しはそれなりに鋭いが、木陰に入ればとても爽やかである。おまけにどこからともなくチチチ……なんて鳥のさえずりまで聞こえてくる。これから330km/hもの最高速を誇るスーパースポーツカーをテストするとは思えぬほどのんびりしていたそのとき、今回の主役が現れた。

なにやら聞き慣れぬ咆哮(ほうこう)が、われわれの方に向かってくる。「458イタリア」に比べたらトーンは低く太い。しかしそのエンジン音には、前へ前へと貪欲に進みたがる意志のようなものが感じ取れる。これはまちがいなくフェラーリの音だ。次の瞬間、われわれのすぐ横に伸びるフィオラーノのメインストレートを、赤い488GTBが250km/hは出ているか? という高速でビュンと駆け抜けていった。のどかな雰囲気が一気に引き締まった。

488GTBはプロジェクトネームで「F142M」と呼ばれる。458シリーズの型式名がF142で、末尾のMはフェラーリの伝統で「モディファイ」(イタリア語でmodificata)を意味しているのだろうから、平たくいえばこのクルマは458イタリアの改良進化モデルに当たる。確かに見た目もそうである。しかし488GTBにはMと呼ぶにはあまりに大掛かりな新機軸がいくつも投入されているのである。

まずエンジンがそうだ。従来の4.5リッターの自然吸気V8(F136型)が、3.9リッターのV8ツインターボ(F154型)に置き換わった。“フェラーリサウンド”のニュアンスが変わったのは、言うまでもなくそれが理由だ。このエンジンはすでにターボ化されている「カリフォルニアT」の3.9リッターユニットとエンジンブロックは共用とのことだが、488GTB用としてよりハイパワー、かつハイレスポンスな味付けがなされており、カリフォルニアTより110psと0.5kgm強力な670ps/8000rpmと77.5kgm/3000rpmを発生する。スーパースポーツカーの世界は、もはやラインナップの中核に位置するモデルですら600psオーバーを豪語するようになった。まったくすごい時代になったものだ。

フィオラーノ・サーキットのメインストレートを行く「488GTB」。ちなみにこのストレートの長さは782mあり、ストレートエンドで488GTBは220km/hを優に超える。
フィオラーノ・サーキットのメインストレートを行く「488GTB」。ちなみにこのストレートの長さは782mあり、ストレートエンドで488GTBは220km/hを優に超える。 拡大
フィオラーノ・サーキット(正式名はピスタ・ディ・フィオラーノ)の全長は約2.98km。途中に立体交差があるテクニカルなコースで、12のコーナーからなる。
フィオラーノ・サーキット(正式名はピスタ・ディ・フィオラーノ)の全長は約2.98km。途中に立体交差があるテクニカルなコースで、12のコーナーからなる。
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「488GTB」のインテリア。エアコンの吹き出し口の形状やセンターコンソールなど、細かく見るとさまざまな箇所のデザインが変更されているが、基本的なレイアウトは「458」シリーズのものを継承している。
「488GTB」のインテリア。エアコンの吹き出し口の形状やセンターコンソールなど、細かく見るとさまざまな箇所のデザインが変更されているが、基本的なレイアウトは「458」シリーズのものを継承している。 拡大
従来の4.5リッター自然吸気ユニットと比べ、3.9リッターツインターボユニットはエンジン高が見るからに低い。エンジン単体の重心は5mm低められている。
従来の4.5リッター自然吸気ユニットと比べ、3.9リッターツインターボユニットはエンジン高が見るからに低い。エンジン単体の重心は5mm低められている。 拡大
車名の「488」とは1気筒当たりの排気量を示している。
車名の「488」とは1気筒当たりの排気量を示している。 拡大
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似て非なるエクステリアデザイン

フェラーリのスタイリングセンターが手がけた488GTBのエクステリアは、458シリーズの面影をよく残している。デザイナー氏に聞くと、ルーフパネルとウインドシールド、およびサイドウィンドウは共通で、クオーターウィンドウと、エンジンフードの役割も果たしているリアウィンドウについては新規パーツなのだという。ボディーのサイズは全長4568×全幅1952×全高1213mm。458のハイパフォーマンスモデル「スペチアーレ」と比較すると、全長と全幅が数ミリのレベルで違うだけだから、事実上、同じサイズと考えていい。ホイールベースも変わらぬ2650mmである。

しかしウエストラインから下は458シリーズから少なからず変わっている。おそらく、まずはボディーサイドに設けられた大きなエアインテークに目が行くのではないだろうか。458という希代の傑作に大胆に開けられたこの勇気あるエアインテーク(少なくとも筆者の目にはそう映る)は、よく見ると仕切り板で上下2段構造になっている。上段はエンジンの吸気用、下段はターボのインタークーラーの冷却用である。上段については、吸入された空気の一部はボディーの後端から排出され、ドラッグ(空気抵抗)の軽減にも役立てられている。

ちなみに、このエアインテークの前方にちょこっと立っているウイングレットのようなものは、ドア開閉用ノブである。フェラーリのドアノブといえば、ボディーパネルに沿わせたりBピラーの根元にさらりと添えたりして、どちらかといえば存在感を消す方向でデザインされてきたものだが、ここにきていよいよその“作法”を変えた。下段のインタークーラー冷却口へより多くの空気を送り込むフィンの役目も負うという。

また目新しい試みとしては、テールエンドに設けられた「ブロウンスポイラー(Blown Spoiler)」がある。写真だとちょっとわかりにくいかもしれないが、リアウィンドウの基部にスリット状の穴が開けられている。前方から流れてくる空気はここでスポイラーによって跳ね上げられるぶんと、スリットから中に入って車両の後端に抜けるぶんとに分けられる。458スペチアーレに近いダウンフォースを確保しつつ、一部を後方に抜くことによってドラッグを軽減させるようになっているのだ。デザインが改められたフロントバンパーや、アンダーボディー、リアディフューザーなどとの相乗効果により、250km/h走行時のダウンフォースは325kgに達するそうだ。

ヘッドランプの形状とノーズのデザインが大きく変わった。ノーズ中央のセンタースロットは気流をアンダーボディーに導く。一方、2本の垂直フィン(エアロピラー)は気流をノーズ両端に位置するラジエーター方向に流す役割を負う。
ヘッドランプの形状とノーズのデザインが大きく変わった。ノーズ中央のセンタースロットは気流をアンダーボディーに導く。一方、2本の垂直フィン(エアロピラー)は気流をノーズ両端に位置するラジエーター方向に流す役割を負う。 拡大
サイドインテークはフラップで上下2段に分割されている。
サイドインテークはフラップで上下2段に分割されている。 拡大
ノーズの下部には、F1マシンに似た形状のダブルスポイラーが装着されている。
ノーズの下部には、F1マシンに似た形状のダブルスポイラーが装着されている。 拡大
リアウィンドウの基部に開いたスロット状のインテークはブロウンスポイラーと呼ばれる。ここに入った気流は車両の後方に排出され、ドラッグを軽減するよう工夫されている。
リアウィンドウの基部に開いたスロット状のインテークはブロウンスポイラーと呼ばれる。ここに入った気流は車両の後方に排出され、ドラッグを軽減するよう工夫されている。 拡大

フェラーリ488GTB(MR/7AT)【海外試乗記】の画像 拡大

速さもレスポンスもある

フェラーリが3.9リッターのV8ツインターボユニットを488GTBに搭載するに当たり、まず重視したのが言うまでもなく動力性能の改善だ。その加速力は0-400m:10.45秒、0-1000m:18.7秒、0-100km/h:3.0秒と、とんでもない数値が並ぶ。ちょっと前までフェラーリV8史上最強というタイトルをほしいままにしていた458スペチアーレをしのぐ俊足ぶりである。そればかりかフィオラーノでのラップタイムは1分23秒00と、あの「エンツォ・フェラーリ」の記録である1分24秒9を打ち破っている。

フェラーリが重視したのはもちろん速さだけではない。前述したとおりハイパワーなターボユニットが苦手とする俊敏なエンジンレスポンスの獲得も重要なテーマだった。フェラーリが傑出したドライビングマシンであり続けるためには、これは避けられない課題だ。具体的には、ターボチャージャーのツインスクロール化とTiAl(チタンアルミ)合金タービンホイールならびにボールベアリングの採用、そして排気系の見直しなど比較的オーソドックスな手法がとられている。ちなみにターボユニットはIHI製である。

実際、スロットルペダルの操作に対するレスポンスは素晴らしい。加えて、3000rpmで早くも760Nm(77.5kgm)のピークに達し、そこから6000rpm台の半ばまで700Nm(71.4kgm)以上のトルクが維持されるおかげで、幅広い領域で分厚いトルクの“ツキ”が期待できる。ドライバビリティーの良さは特筆に値する。例えばフィオラーノには2速で回り込むヘアピンコーナーがあるが、仮にそこに3速のまま入ったとしても、それなりに立ち上がれてしまうだけの柔軟性がある。

フィオラーノのメインストレートに入り、スロットルを全開にすると、リミットの8000rpmまでターボユニットらしからぬシャープさで吹け上がった。シフトアップとダウンの双方向で変速スピードが改善されたF1デュアルクラッチ・トランスミッションのテンポのよさも相まって、あれよあれよという間にペースが増していく。高速域でもグイグイと容赦なくスピードがのっていき、気付くとすでに200km/hを超えていたという感じだ。あえて指摘するなら、鋭く甲高いエンジン音を響かせる自然吸気ユニットに比べると、ドラマ性という点が欠けるかもしれない。しかしまあ、物足りなさを感じるところがあるとすれば、それくらいのものである。

サーキットでこの3.9リッターV8ツインターボユニットを高らかに歌わせていると、スロットルオフとともにキャビンの背後からプシューッというブローオフバルブの息づかいらしきものが聞こえてくるのだが、そういえばこういう音は「F40」でもしていたなと、ふと思い出した。

今回の試乗会は、フィオラーノ・サーキットのほか、ワインディングロードやアウトストラーダを含め、マラネロの周辺をぐるっと回る一般道も設定されていた。
今回の試乗会は、フィオラーノ・サーキットのほか、ワインディングロードやアウトストラーダを含め、マラネロの周辺をぐるっと回る一般道も設定されていた。 拡大
試乗車には「458スペチアーレ」のものに似た、スポーティーな形状のレザーシートが装着されていた。
試乗車には「458スペチアーレ」のものに似た、スポーティーな形状のレザーシートが装着されていた。 拡大
レッドゾーンは8000rpmから。目盛りは1万rpmまで振られている。
レッドゾーンは8000rpmから。目盛りは1万rpmまで振られている。
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タコメーター左脇のインフォメーションディスプレイにはブースト計など、ターボユニットならではの情報も表示される。
タコメーター左脇のインフォメーションディスプレイにはブースト計など、ターボユニットならではの情報も表示される。 拡大

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優れた制御があるからこそ

フェラーリ伝統の油圧アシストのステアリングは、これだけの動力性能を誇るクルマにしては操舵(そうだ)力が軽めに思えるが、それゆえ正確に操作でき、ステアリングフィールも文句ない。ロックトゥロックは2回転で、ノーズは相変わらずのシャープさで向きを変えるが、フィオラーノだとクイックすぎる気がまったくせず、これがちょうどいいと思えるのだから面白いものである。クルマは道が作るものということを、あらためて思い知らされた次第である。458シリーズでもそうだったが、488GTBもまた基本的にリアのスタビリティーが高い。それが確保されているからこそ、このシャープな回頭性も生きてくるのだろう。

それに加えて今回は、さらに進化したサイドスリップアングルコントロール(SSC)と呼ばれる車両の挙動をつかさどる電子制御デバイスの出来のよさにも感銘を受けた。従来のSSCは電子制御LSDの「E-Diff」のロック率を変えることによりドライバーを望むサイドスリップアングルを維持していたが、488GTBではSSC2に進化して、E-Diffに加えて磁性流体ダンパーのダンピングレードも併せて制御するようになった。

その作動は実に絶妙、かつ巧妙である。ドライバーにそれとは気付かせぬほど自然に介入してきて、しかもドライバーには自らが車両を操っているのだという実感もしっかり残る。某タイヤメーカーのコピーではないが、コントロールできないようではパワーがあっても意味はない。こういった電子制御の優れた黒子がいるからこそ、F40のころとは比べものにならないほど気軽に670psという途方もないパワーを解き放つことができるようになったのである。

そんな488GTBにとっての最大の問題は、おそらくここまで極まったパワーを存分に楽しめる道など、サーキットの外には事実上、どこにもないということである。しかし心配はいらない。優れたドライバビリティーを備えた488GTBは、グランツーリスモとしての実力も上げているからだ。参考までに100km/h走行時のエンジン回転数は7速で2200rpm、6速だと3000rpm。オーバーオールのギアリングは458スペチアーレ(7速:2600rpm、6速:3200rpm)より高められ、巡航時における室内へのエンジン透過音も穏やかになっていた。あるいは燃費だって改善されているかもしれない。このテストの続きは今年の9月に予定されている日本上陸の後まで持ち越しとしたい。まずはなにはともあれ、フェラーリの新時代を切り開こうとする気概と勇気に拍手を送りたい。

(文=webCG 竹下元太郎/写真=フェラーリ)

フィオラーノ・サーキットを行く「488GTB」。
フィオラーノ・サーキットを行く「488GTB」。 拡大
サーキット走行では、マネッティーノの走行モードは「レース」を使用した。
サーキット走行では、マネッティーノの走行モードは「レース」を使用した。 拡大
左コーナーでファイティングポーズを決める「488GTB」。
左コーナーでファイティングポーズを決める「488GTB」。 拡大
カーボンディスクブレーキはオプションとして用意される。
カーボンディスクブレーキはオプションとして用意される。
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テスト車のデータ

フェラーリ488GTB

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4568×1952×1213mm
ホイールベース:2650mm
車重:1370kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:670ps(492kW)/8000rpm
最大トルク:77.5kgm(760Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR20 103Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター ECE+EUDC複合サイクル)
価格:3070万円/テスト車=--円
※諸元は欧州仕様車のもの。価格は日本市場でのもの。

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラック&ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

フェラーリ488GTB
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