ルノー・ルーテシア ルノースポール トロフィー(FF/6AT)/プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT(FF/6MT)/MINIジョンクーパーワークス(FF/6MT)
乗り手を選ばぬ高性能 2016.07.30 試乗記 走行性能に磨きをかけたルノーのホットハッチ「ルーテシアR.S.トロフィー」。その実力を探るべく、レーシングドライバーの谷口信輝が筑波サーキットで試乗した。ライバル車との乗り比べを交え、走りの特徴を報告する。走り自慢の三つどもえ
じりじりと日が照りつけ、早朝にも関わらず気温計が30度に達しようかという筑波サーキット。レーシングドライバーの谷口信輝さんの前に、3台のホットハッチが並んだ。
ルノー・ルーテシアR.S.トロフィー、「プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT」、そして「MINIジョンクーパーワークス」。いずれも各社のハイパフォーマンス車を担当する部門が開発に関与した最高性能版で、合法的なチューニングカーだと表現しても差し支えないだろう。
各社の秘伝のタレで味付けされた高性能車のパフォーマンスをフルに発揮するには、やはりサーキットがふさわしい。
谷口さんについては説明不要かもしれないが、あらためて紹介すると、国内ツーリングカーレースの最高峰であるSUPER GTに参戦するトップドライバー。86/BRZ Raceでは2年連続でシリーズチャンピオンに輝く、“ハコのスペシャリスト”だ。
間もなくオリンピックが開幕するけれど、今回は谷口さんの力をお借りして「ホットハッチの金メダル」を決めようという企画だ。といっても、タイムが速ければ金メダルというわけではない。技術点、芸術点、技の難易度(?)その他もろもろを勘案して、それぞれのモデルの特徴を浮き彫りにしようというのが企画の趣旨である。
では、谷口さんがストレッチを済ませてレーシングスーツに着替えるまでの時間を利用して、3台のスペックを簡単におさらいしておこう。
ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーの1.6リッターターボは、最高出力220ps/6050rpm、最大トルク26.5kgm/2000rpm。2ペダルで操る6段デュアルクラッチのトランスミッションと組み合わされる。車重は1290kg。
プジョー208GTi by PEUGEOT SPORTも同じく1.6リッターターボを積み、こちらは最高出力208ps/6000rpm、最大トルク30.6kgm/2000rpm。ルーテシアよりも最高出力は低いがトルクが厚いというエンジン特性が、タイムやドライブフィールにどう影響するのかが見ものだ。6段MTが組み合わされ、車重は1200kgとなる。
MINIジョンクーパーワークスのエンジンは2リッターターボと、他の2台より排気量が大きい。最高出力231ps/5000rpm、最大トルク32.6kgm(オーバーブースト時は35.7kgm)/1250-4800rpmはともにライバル2台を凌(しの)ぐものの、排気量の差ほどの違いはないともいえる。このパワーを6段MTで操る。車重は1250kgである。
準備のできた谷口さんは、コース状況のチェックも兼ねて、ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーでコースインした。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
プジョーは「パワー感」と「軽さ」に注目
ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーは、抜けのいい乾いた排気音とともにホームストレートを2回通過した。パドックから1コーナーへの進入を見ていると、コースコンディションの確認ということもあってか、それほど攻めてはいないようにも見える。
それでも、タイムを見て驚いた。1分9秒220は、いきなりの周回にしては十分に速い。しかもこの気温はターボエンジンにとってはかなり不利なはずなのに、なかなかの好ラップだ。
ルーテシアから降りた谷口さんがヘルメットを脱ぎ、汗をぬぐいながら白い歯を見せる。
「すごく乗りやすいですね。コースインしても、いきなりアタックできる感じ。だからといって遅いわけではなくて、フロントの食いつき感、接地感がわかりやすくてよく曲がるし、安定して速い。ターボのパワーもいい感じで出るので、ものすごく乗りやすい。パドルシフトのシフトアップもシフトダウンも素早いから、サーキットでもスポーツドライビングが楽しめます」
続いて乗り込んだのは、プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT。谷口さんは、「外観もインテリアも、デザインはこっちのほうがカッコいいと思うなぁ」とツブやきながら、シートポジションを合わせる。
そしてコースイン。外から聞く208の排気音は、ルーテシアに比べてややワイルドだ。ホームストレートを通過する時の速さは、パドックから見る限りルーテシアと大差ない。ただし、ラップタイムは1分8秒999。ルーテシアを上回った!
ピットインしてヘルメットを脱ぐと、谷口さんはスタッフに運転席に座るよう促した。
「自分でレースに出るくらいのつもりでシートポジションを合わせてみてください。ペダルを踏んでみて、どう? このペダルレイアウトじゃ、ヒール&トウができないでしょ?」
スタッフによれば、確かにブレーキペダルが高く、反対にアクセルペダルが低いので、ブレーキペダルにつま先をのせるとカカトはアクセルペダルに届かなかったという。
「このクルマは、ペダルの位置がちょっとヘン。強くブレーキをかける時には、なんとかカカトがアクセルペダルに届いてヒール&トウができるけれど、筑波の最終コーナーのようにデリケートなブレーキングが必要になるところではできない。だから最終コーナーの進入ではぎくしゃくしちゃって(苦笑)」
それでも、先ほどのルーテシアよりタイムがよかったのはなぜだろうか?
「エンジンはすごくいい。パワーバンドにすぐ入るし、パワー感も伝わってくる。最高出力はプジョーのほうが低いけれど、トルクが太いせいか、ストレートではルーテシアよりこっちのほうが速い感じがします。車重がちょっと軽いのも効いているかな。細かいことを言うと、少しフライホイールが重い感じがして、例えばシフトアップの時の回転落ちが遅くて、スパッとクラッチをつなぐと前につんのめることがある。フライホイールをもう少し軽くすると、フィーリングはすごくよくなると思います」
ハンドリングの印象を尋ねると、「あまり好みじゃないですね」と即答した。
「コーナーではフロントがイン側にぐいぐい入ろうとするんだけど、足まわりはソフト目で、限界付近でふらふらするんです。決してイージードライブという感じじゃなくて、乗り手を選びます。ブレーキはすごくいいけどね」
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
タイヤのチョイスが惜しいMINI
続いて谷口さんは、「やっぱりMINIはかわいいよね」と言いながらMINIジョンクーパーワークスに乗り込む。MINIは、他の2台とは明らかに異なる、重低音の効いた排気音を残してコースに飛び出していった。
2リッターのターボを積むことから、直線はMINIが速いと予測した。けれど、ホームストレートを駆けぬけるMINIは、ルーテシアや208と比べてスピードが乗っているようには見えない。実際、タイムは1分11秒238。伸びない。
ピットに戻った谷口さんは、首をかしげながらヘルメットを脱いだ。
「クルマの性能以前に、タイヤに問題がありますね。止まらない、曲がらない、立ち上がらないの三重苦。アクセルを踏むと外に出ていっちゃうし、最終コーナーなんてメタメタに遅い。グリップしなくてすぐABSが介入するから、ブレーキが利くのかどうかもわからない」
ちなみにMINIの装着タイヤはピレリの「チントゥラートP7」。他の2台は「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」だ。
「エンジンもトルク感はあるんだけど、上まで回すという感じじゃなくて、まったり回る。コーナーではデフももう少し利かせたいかな。だから買った後の伸びしろはあるかもしれない。タイヤを替えたりエンジンに手を入れたり、チューンする楽しみは残されていますね。でも、サスペンションにもホイールにもインテリアにも、あんなにお金をかけているのに、なぜこのタイヤを選ぶのか、僕にはまったく理解できません」
MINIジョンクーパーワークスには厳しい評価となってしまったけれど、スタッフ一同、現代のハイパフォーマンス車においていかにタイヤが重要であるかを、あらためて認識する機会となった。
そして谷口さんは、最後にルノー・ルーテシアR.S.トロフィーで本格的なタイムアタックに挑む。
「荷重の移動」が走りの決め手
ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーがホームストレートを通り過ぎると、タイムをチェックしていたスタッフが「おっ」という声をあげた。1分8秒976。この日の参加車両のなかで、ベストタイムを記録したのだ。
谷口さんによれば、最初のアタックはコースコンディションの確認という意味もあってブレーキングに“のりしろ”を残していたけれど、2度目ではそこを詰めたという。谷口さんは、身ぶりをまじえてルーテシアが速かった理由を解説してくれた。
「このクルマのいいところは、荷重のコントロールがしやすいところですね。レーシングカーの世界では“荷重を回す”という言い方をしますが、まずブレーキングすると荷重が前にかかる。そこでステアリングを切ると、フロントの外側に(荷重が)のる。さらに本格的なコーナリング体勢に入ってステアリングを切り増すと、今度は外側のリアにも荷重がかかってほしいわけです。このクルマは、前、フロント外輪、リア外輪、という荷重の移動がすごくスムーズ。だから乗りやすいんです。コーナー入り口でブレーキを離してステアリングを切り増すと、すーっと曲がっていく。とってもいい」
そして谷口さんは、もう一度「とってもいい」と繰り返した。
タイムがさほど違わない208との違いはどこにあるのか、という質問にはこう答えた。
「プジョーも足はよく動いて、ステアリングを切るとフロントが入っていくという動きはとてもよくわかります。でも、クルマの姿勢がばたばた動くから、ある意味、それをうまく使えば武器になるけれど、安定感はない。だから、ちょっと古典的な感じがするかな。一方、ルーテシアは誰でも高いレベルで乗れます」
“フレンチロケット”の2台は、タイムの差以上に乗り味の違いがあることがわかった。残念ながら、MINIはタイヤがサーキット向きではなく、谷口さんの評価も「街乗りではいいかもしれないけれど」というものだった。
というわけで、もし谷口さんがこの3台から1台を選ぶとしたら……。
「操縦性でルーテシア、カッコで208。迷いますね」
ちなみにこの気温でこのタイム、冬だったら2秒近くは縮められるとのことだった。大変に興味深い結果となったので、いずれ“冬季オリンピック”も開催したい。
(語り=谷口信輝/まとめ=サトータケシ/写真=田村 弥/取材協力=筑波サーキット)
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ルノー・ルーテシア ルノースポール トロフィー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1750×1435mm
ホイールベース:2600mm
車重:1290kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:220ps(162kW)/6050rpm
最大トルク:26.5kgm(260Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)205/40ZR18 86Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:329万5000円/テスト車=337万960円
オプション装備:フロアマット(3万240円)/ETC車載器(1万4400円)/エマージェンシーキット(3万1320円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2458km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
![]() |
![]() |
プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3975×1740×1460mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:208ps(153kW)/6000rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)205/40ZR18 86Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:15.6km/リッター(JC08モード)
価格:368万6600円/テスト車=395万1860円
オプション装備:208専用SDカードメモリーナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)/テクスチャーペイント(7万1400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:5560km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
![]() |
![]() |
MINIジョンクーパーワークス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1725×1430mm
ホイールベース:2495mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:231ps(170kW)/5200rpm
最大トルク:32.6kgm(320Nm)/1250-4800rpm ※オーバーブースト時:35.7kgm(350Nm)
タイヤ:(前)205/40R18 86W/(後)205/40R18 86W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:415万円/テスト車=515万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ミッドナイトブラックメタリック>(5万9000円)/ダイナミカ・レザーコンビネーション カーボンブラック(30万7000円)/TRACK STYLEパッケージ<18インチアロイホイール JCWカップ スポーク 2トーン<7.5J×18>+ランフラットタイヤ+コックピットクロノパッケージ+カーボンエアインテーク+カーボンミラーキャップ>(17万8000円)/リアビューカメラ(4万6000円)/John Cooper Worksボンネットストライプ(1万9000円)/インテリアサーフェス<ピアノブラック>(1万5000円)/カラーライン グローイングレッド(1万5000円)/アームレスト<フロント>(2万4000円)/ドライビングアシスト アクティブクルーズコントロール(11万4000円)/アダプティブLEDヘッドライト(2万7000円)/パーキングアシストパッケージ<PDCフロント&リア含む>(12万3000円)/Bluetoothハンズフリーテレフォンシステム<Bluetooth拡張機能>(2万2000円)/harman/kardon製HiFiラウドスピーカーシステム(12万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1224km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。