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ルノー・トゥインゴ インテンス キャンバストップ(RR/6AT)

おもてなしより合理主義 2016.09.14 試乗記 鈴木 真人 パリジャン&パリジェンヌはシンプルで合理的なクルマがお好き? ルノーのAセグメントコンパクト「トゥインゴ」が3代目にフルモデルチェンジ。RRの駆動方式がかなえる走りと、このクルマならではの魅力をリポートする。

パリのために仕立てられたモデル

新車の試乗会では、乗る前にクルマの説明が行われることが多い。技術説明会、略して技説と呼ばれている。ニューモデルに盛り込まれた新技術や、デザインのモチーフなどについてのレクチャーだ。しかし、ルノー・トゥインゴの技説はかなり風変わりなものだった。冒頭から5分ほどはクルマの話が出てこない。パリの歴史と町並みを紹介するビデオが流され、エッフェル塔に関するうんちくが披露された。説明を担当したルノー・ジャポンのブレンさんは、「私がパリで住んでいたのは300年前に建てられたアパートでした」と自分史まで語り始める……。

異例ではあるが、決して奇をてらったわけではない。新しいトゥインゴのコンセプトは「Tailored for Paris(パリのために仕立てられた)」というもの。デザインも走りも、パリがテーマなのだ。詳細なテクノロジー解説より、トゥインゴが誕生したバックグラウンドにある精神を説明することが重要である。エルメスやロンシャンにならって、PARISという文字を入れ込んだロゴまで作成した。パリブランドを前面に押し出し、女性に向けても積極的にアピールする。

日本では初代モデルが根強い人気を持っていたが、2代目はあまり存在感がなかった。3代目はルノー・ジャポンにとって「カングー」「ルーテシア」に並ぶ販売の柱になることが期待されている。200万円を切る価格に抑えたのは、意気込みの表れだろう。日本に導入されるラインナップはシンプルだ。パワートレインは0.9リッター直3 DOHC ターボに6段EDC(エフィシェントデュアルクラッチ)の組み合わせのみ。ボディータイプはクローズドの「インテンス」とルーフを開閉できる「インテンス キャンバストップ」の2種である。

2014年3月のジュネーブショーで世界初公開された3代目「ルノー・トゥインゴ」。RRの駆動レイアウトの採用が話題を呼んだ。
2014年3月のジュネーブショーで世界初公開された3代目「ルノー・トゥインゴ」。RRの駆動レイアウトの採用が話題を呼んだ。 拡大
シンプルな意匠が特徴のインテリア。外装色に合わせて3種類のカラーコーディネートが用意されており、外装色が「ジョン エクレール」の場合は、写真の「ブランインテリア」が組み合わされる。
シンプルな意匠が特徴のインテリア。外装色に合わせて3種類のカラーコーディネートが用意されており、外装色が「ジョン エクレール」の場合は、写真の「ブランインテリア」が組み合わされる。 拡大
トランスミッションは6段デュアルクラッチ式AT。ただし、自然吸気エンジンを搭載した特別仕様車の「サンクS」には、5段MTが採用されていた。
トランスミッションは6段デュアルクラッチ式AT。ただし、自然吸気エンジンを搭載した特別仕様車の「サンクS」には、5段MTが採用されていた。 拡大
グレードは「インテンス」と「インテンス キャンバストップ」の2種類だが、ルーフの仕様を除くと、両グレードに大きな違いはない。
グレードは「インテンス」と「インテンス キャンバストップ」の2種類だが、ルーフの仕様を除くと、両グレードに大きな違いはない。 拡大
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ホイールベースを延長して5ドアに

前2世代が3ドアだったのに対し、新モデルは5ドアである。2代目よりも全長が80mm短くなっているにもかかわらずホイールベースが125mm延ばされ、ドアの数を増やすことが可能になった。尋常ではない変化は、駆動方式を一変させたおかげである。現代コンパクトカーの常識であるFFから、正反対のRRに転換したのだ。

カタログには「エンジンをリアに据えるという大胆なイノベーション」と書かれているが、本来RRは旧世代の技術だ。フォルクスワーゲンがRRだった「ビートル」の後継モデルとしてFFの「ゴルフ」を投入したことはよく知られている。RRには直進安定性が低い、コーナーの後半でオーバーステアになりやすいという欠点があったからだが、現在では電子デバイスの進歩によってうまく対処できるようになった。

外観からはRRであることを示す特徴は見つけられない。初代に比べると大人っぽくなったが、愛らしさを感じさせる親しみやすいフォルムだ。フロントマスクは、ひと目でわかるルノー顔になった。プレスリリースには「美意識の高いパリに暮らす人々の審美眼に応える」デザインだと書かれている。パリは「歴史ある建築と現代アートが美しく融合」し「最新のモードを発信し続けるファッションの都」なのだそうで、広げた風呂敷は大きい。

初代トゥインゴだけでなく、「5(サンク)」からもデザインの発想を得ている。AピラーとCピラーの角度やヘッドランプの形状に表れていて、後ろから見たシルエットはミドシップの「サンクターボ」に範をとっているのだという。過去のデザインエッセンスを利用できるのは、人気モデルがあったからこその強みだ。

短いボンネットと大きく傾斜したテールゲート、長いホイールベースが特徴的なサイドビュー。初代と2代目が3ドアボディーだったのに対し、3代目は5ドアボディーとなった。
短いボンネットと大きく傾斜したテールゲート、長いホイールベースが特徴的なサイドビュー。初代と2代目が3ドアボディーだったのに対し、3代目は5ドアボディーとなった。 拡大
ヘッドレスト一体型のシンプルなフロントシート。オプションで小物入れ付きのセンターアームレストが用意されている。
ヘッドレスト一体型のシンプルなフロントシート。オプションで小物入れ付きのセンターアームレストが用意されている。 拡大
リアシートには左右独立式のリクライニングおよび可倒機構が備わる。
リアシートには左右独立式のリクライニングおよび可倒機構が備わる。 拡大
新型「トゥインゴ」のリアビュー。ショルダーラインが左右に大きく張り出したデザインは、世界ラリー選手権のために開発された、往年の「サンクターボ」をモチーフにしたという。
新型「トゥインゴ」のリアビュー。ショルダーラインが左右に大きく張り出したデザインは、世界ラリー選手権のために開発された、往年の「サンクターボ」をモチーフにしたという。 拡大

圧巻のUターン性能

駆動系をリアに集約したことで、フロントから邪魔な構造物が消えた。駆動と旋回の両方を前輪が受け持つFFより簡潔なのはもちろん、エンジンすらないのだから設計の自由度は格段に増す。前輪の切れ角は49度で、最小回転半径は4.3mとなった。パリの狭い路地や急な坂道をストレスなく走るには、小回りがきくクルマに仕立てなければならない。RRを採用したのは「スマート・フォーフォー」と同じ基本設計を持つからだが、結果としてパリ向きのクルマになった。

狭い道でテストするため、モンマルトルの裏路地にトゥインゴを乗り入れた。本当は新橋の飲み屋街だったが、路駐が多くて走りにくいところなどはパリの裏通りに似ているのではないか。パリジャン気分を抜きにしても、取り回しのよさは歴然としている。慣れない道でのすれ違いも苦にならない。アップライトな姿勢からの視界が広々として、クルマの位置をつかみやすいのだ。

圧巻だったのは、Uターンのしやすさだ。撮影のためには何度も同じ場所を走らねばならず、いつもは苦労する。トゥインゴは想像よりもはるかに手前で回れてしまう。2車線道路なら、2mほど余して方向転換できた。同じ場所で国産コンパクトカーが切り返していたのを見て、ひそかに優越感にひたる。

3人乗車で重い機材まで積んでいたが、意外なほど力強い走りを見せた。坂道でも息の長い加速が可能で、追い越しの際に安心感がある。ターボラグはほとんど感じない。スムーズに後ろから押される感覚が新鮮だ。EDCの変速には少々癖があるものの、コツをつかめばキビキビと走れる。街なかで走るだけでも、ハンドリングが明らかにほかのクルマと違うことに気づく。手応えが軽いだけではなく、軽快な手さばきがうれしくなってくる。ワインディングロードやサーキットで走るときっと楽しめるのだろう。

運転していると、エンジンの音が遠い。後席に乗ってみても、騒音に悩まされることはなかった。アクセルオフ時にバルブから空気が抜けてパシュという音が聞こえるのは「ホンダS660」と似ている。リアハッチを開けてもエンジンは見えない。FFコンパクトと同じようにラゲッジスペースがあるだけだ。遮音と遮熱を兼ねる分厚いマットをめくり、6つのネジを回してパネルを取り外すと、ようやくエンジンを拝むことができた。49度傾けることで高さを抑え、荷室スペースを確保している。

ボディーサイズは全長×全幅×全高=3620×1650×1545mm。運転席からの見晴らしのよさや、4.3mという最小回転半径により、狭い場所でもとり回しがしやすい。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3620×1650×1545mm。運転席からの見晴らしのよさや、4.3mという最小回転半径により、狭い場所でもとり回しがしやすい。 拡大
タイヤサイズは前が165/65R15、後ろが185/60R15。前輪については49度という大きな最大切れ角が特徴となっている。
タイヤサイズは前が165/65R15、後ろが185/60R15。前輪については49度という大きな最大切れ角が特徴となっている。 拡大
車体の前側に荷室は用意されておらず、ボンネットの下はバッテリーやウィンドウウオッシャー液、ブレーキフルードなどのスペースとなっている。
車体の前側に荷室は用意されておらず、ボンネットの下はバッテリーやウィンドウウオッシャー液、ブレーキフルードなどのスペースとなっている。 拡大
ラゲッジルームの下に搭載される0.9リッター直3ターボエンジン。最高出力90ps、最大トルク13.8kgmを発生する。
ラゲッジルームの下に搭載される0.9リッター直3ターボエンジン。最高出力90ps、最大トルク13.8kgmを発生する。 拡大
新型「トゥインゴ」のラゲッジルーム。後席をたためば1350mmの奥行きが得られるほか、助手席のシートバックも倒せば2200mmの長尺物も積めるという。
新型「トゥインゴ」のラゲッジルーム。後席をたためば1350mmの奥行きが得られるほか、助手席のシートバックも倒せば2200mmの長尺物も積めるという。 拡大

ミニマムでポップな室内

試乗車はキャンバストップを備えていたが、運転席では開放感を味わうことはできない。後席なら空を見上げることができるものの、走行中は顔の上半分が風にさらされる。オープンエアモータリングを楽しめるのは、もう少し季節が進んでからだ。キャンバストップを閉めてエアコンをつけていても、後席ではなかなか恩恵に与れない。アイドリングストップから再始動するときにエアコンが一瞬止まる仕様で、エコモードを選んでいると車内にはぬるい空気が充満する。

インテリアは簡素な設(しつら)えだ。ダッシュボードはミニマムな構成で、つるんとしている。余計なものがないから、ポップさが際立つ。今どきのクルマには必ず装備されているモニター画面もない。代わりにオーディオ操作スイッチの真ん中に専用クレードルが取り付けられていて、スマートフォンを固定するようになっている。USBの差し込み口も備わっているから、カーナビとして使うことができるのだ。

日本車であればユーザーが求める装備をてんこ盛りにするが、トゥインゴは正反対の道を行く。クルマには必要最小限のものだけがあればいいという考え方だ。フロントシートの下に収納場所があれば便利だとか、着せ替えシートクロスがあるとうれしいといった発想はしない。リリースには「パリの人々は、シンプルで自分らしい暮らしを大事にします」とも書かれていた。『フランス人は10着しか服を持たない』という本がベストセラーになったが、もともと彼らは徹底した合理主義者なのだ。輸入車に乗るのは異文化に触れる経験だということを、久しぶりに思い出した。

トゥインゴは、他のモデルと比較検討して買うクルマではないような気がする。見た目も乗り味も唯一無二で、「コレください!」と決め買いするクルマだ。日本的なおもてなしを求める人には向かないが、パリジャン、あるいはパリジェンヌの心を持つ人にとっては魅力的だろう。クルマも印象で即決する女子人気は期待できる。フランスは最近オシャレの本場という地位をイタリアに脅かされているが、トゥインゴが流れを変えてくれるかもしれない。

(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

燃費はJC08モード計測で21.7km/リッターと公称されている。
燃費はJC08モード計測で21.7km/リッターと公称されている。 拡大
キャンバストップの開閉は電動式で、開口部の広さを自由に調整できる。
キャンバストップの開閉は電動式で、開口部の広さを自由に調整できる。 拡大
オプションで用意されるスマートフォンクレードルを装着すれば、インストゥルメントパネルの中央にスマートフォンを固定することができる。
オプションで用意されるスマートフォンクレードルを装着すれば、インストゥルメントパネルの中央にスマートフォンを固定することができる。 拡大
リアウィンドウは上下巻き上げ式ではなく、「フォルクスワーゲンup!」などと同じく後端が外側に開くタイプとなっている。
リアウィンドウは上下巻き上げ式ではなく、「フォルクスワーゲンup!」などと同じく後端が外側に開くタイプとなっている。 拡大
ボディーカラーにはテスト車の「ジョン エクレール」を含め、全6色が用意されている。
ボディーカラーにはテスト車の「ジョン エクレール」を含め、全6色が用意されている。 拡大

テスト車のデータ

ルノー・トゥインゴ インテンス キャンバストップ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3620×1650×1545mm
ホイールベース:2490mm
車重:1030kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ 
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81H/(後)185/60R15 84H(ダンロップ・スポーツブルーレスポンス)
燃費:21.7km/リッター(JC08モード)
価格:199万円/テスト車=202万7800円
オプション装備:フロアマット(1万9440円)/スマートフォンクレドル(5400円)/ETC車載器(1万2960円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:523km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

ルノー・トゥインゴ インテンス キャンバストップ
ルノー・トゥインゴ インテンス キャンバストップ 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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