第24回:300万円は出せません!!
2017.01.10 カーマニア人間国宝への道スカイアクティブDの衝撃
低回転域からモリモリ湧き上がるトルクで、街中から高速巡航まで日常走行がとっても楽しいディーゼル乗用車。2009年、ヨーロッパ5カ国をディーゼルのレンタカー「フォード・フォーカス エステート1.6ディーゼル 5MT」で走り回ったことで、その魅力のとりこになり、現在は「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」を愛機としている不肖ワタクシだが、300万円未満で買える他のディーゼル乗用車の選択肢はどうなのか!? というのを、今後しばらくテーマにさせていただきます。
2012年2月、スカイアクティブD 2.2を搭載した「マツダCX-5」が発売された。それはまさに衝撃であった。
当時日本でフツーに買えるディーゼル乗用車は、「日産エクストレイル20GT」系(先代)と「メルセデス・ベンツE350ブルーテック」(先代)くらいだった。ただしE350ブルーテックは800万円もしたのでまったく問題外。
エクストレイルもいいクルマだったが、当時はディーゼル乗用車がレアだったこともあり、中古価格がまったく下がっていなかった。これなら新車を買った方が――と思っても、新車価格は300万円オーバー。補助金をもらっても300万円は超えそうだ。
(このクルマに300万円は出せない……)
何が悪いというわけではない。四角いカッコは個性的な存在だったし、6MTをちょこちょこシフトして、ルノーが開発した2リッターディーゼルの一番おいしいゾーン(1400rpmから2000rpm)をキープしつつ走らせるのは、実にヨロコビが深かった。
しかしそれでも、このクルマに300万円はナイ! それは私のカーマニアとしての本能だった。本能というより趣味の問題ですか。
ニッポンのものづくりの神髄ここにあり!
なにせ私にはアウトドア趣味がなく、重心の高いSUVをわざわざ買う理由がない。カッコもよくいえば武骨で好ましいが、ウットリかといわれればそうではない。やっぱりクルマは見た目が9割。残り1割にもずいぶんこだわってるが。
ただ、現在のエクストレイルディーゼルの中古車相場を見ると、走行5万kmくらいのMT車が150万円前後になっている。ここまで下がれば、それなりにいい感じの選択肢ではあろう。
でも、でもでもでも、我がランチア・デルタ1.6マルチジェットは208万円(1年前)。今ならもうちょっと安いはず。約50万円の差でオシャレ感は数万倍だ。
そりゃまあ排気量が違うとか信頼性も違いそう(注/一般的な先入観)とかいろいろありますが、カーマニアとしては断然ランチアになる。全国にほとんど流通してないクルマを推しまくって申し訳ないですが。
そこに現れたCX-5は、まずなによりもスカイアクティブD 2.2のメカニズムの革新性でカーマニアの心を奪った。ディーゼルなのに後処理なしに排ガス規制をクリアという信じがたい快挙! ニッポンのものづくりの神髄ここにあり! トルクの太さはさすがの一言で、エクストレイルをかなり上回り、E350にも迫るかと感じさせた。ディーゼル初体験の若手編集者は、涙を流して感動していた。
組み合わされる6ATも、十分なレスポンスを持っていた。エクストレイルの場合、6MTならいいが6ATはトルコンスリップがデカすぎる印象で、それだけで購入対象外だったが、これはイイ!
本命はアテンザ!?
CX-5は、カタチもエクストレイルよりは自分の趣味に合う。これなら、と一瞬思ったが、やはり買うには至らなかった。
このエンジンは間もなく他のモデルにも展開される。本命は「アテンザ」だ! 東京モーターショー(2011年)で震撼(しんかん)した「雄(TAKERI)」。あれがほぼあのまま出るなら絶対買おう!
そして2012年の9月。初めて目にした新型アテンザは、“雄”のデザインをかなりヌルくして現れたのだった。ガックリ。
ヌルいといっても、国産セダン/ワゴンとしては十分スタイリッシュ。私は試乗車を求めて三多摩のマツダディーラーまで遠征した。
営業マンは、私が乗ってきた「シトロエンC5」(当時の愛車)を見て、「ステキなおクルマですね~。アテンザをご覧になるために、BMWやベンツなど、輸入車オーナーの方が続々とご来店くださってます!」と喜色満面だった。
だが、実車のアテンザは、やはりなにかひとつ物足りなかった。性能は十分。足がちょっと硬すぎて突っ張る面はあったが(現在は大幅に改良)、それは枝葉末節だ。
クルマを買う際に一番重要なのは、恋愛と同じで胸に突き刺さる何かだ。アテンザにはそれが足りなかった。一番物足りなかったのはインテリアだが(現在はかなり改良)。
これで300万円オーバーか。うーむ。買えない……。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。










































