スバルXVハイブリッドtS(4WD/CVT)
エコと安全だけでは満足できない人に 2017.01.20 試乗記 クロスオーバーモデルの「スバルXVハイブリッド」をベースに、STIが独自の改良を施したコンプリートカー「XVハイブリッドtS」。ちょいワル&ポップなスタイリングとSTIならではのチューニングが織り成す魅力をリポートする。見た目の派手さに衝撃を受ける
4年ほど前、「ホンダCR-Z MUGEN RZ」に試乗した。ハイブリッドスポーツカーを無限(M-TEC)がチューニングしたモデルである。スーパーチャージャーを装着してノーマルより約30%パワーアップしていた。リアには大仰なウイングが取り付けられ、いかにも走り屋向けというルックスである。足まわりも固められていて、走ってみるとゴーカート感覚。ワインディングロードではついつい飛ばしてしまったが、思いのほか燃費はよかった。
その後「ホンダNSX」も発売され、ハイブリッドカーが高いスポーツ性能を持つことに意外性はない。ごく当たり前のパワーユニットとして認識されているのだから、エコカーとしての性能を維持したまま走りを追求するのは自然である。スバルXVハイブリッドtSは、ハイブリッド、SUV、走りの楽しさという3要素を併せ持つ欲張りなクルマだ。スバルのモータースポーツ部門を担うSTIがチューニングを手がけているというのは、ファンにとってうれしいアピールポイントになる。
ただし、パワーユニットには手が加えられていない。エンジンのパワーやトルクの値は通常のモデルと一緒で、モーターアシストも同じである。コンセプトは「Enjoy Driving Hybrid」なのだ。「誰がどこで乗っても気持ちがよく、運転が上手くなるクルマ」だという。要するに、ライトチューンの気軽なクルマなのだろう。そう思い込んでいたから、実車を見て衝撃を受けた。見た目が恐ろしく派手なのだ。
試乗車のボディーカラーは目の覚めるような明るいブルーである。たまたま駐車場で横に止められていたボルボのポールスターカラーとほぼ同じ色だった。いかにもスポーティーな特別仕様車というオーラを発揮していて、選ぶのに勇気がいるカラーだ。しかも、ボディー下端にはこれまた鮮やかなオレンジのラインがあしらわれている。アルミホイールまでオレンジ塗装で、コントラストの強烈さに目がくらむ。
野太い排気音を奏でるマフラー
ドアを開けると、さらなるオレンジショックに見舞われた。シートは4種の表皮からなる凝ったもので、ブラックの本革とウルトラスエードにアイボリーのトリコット、オレンジの合成皮革が組み合わされている。黒い部分にはオレンジのステッチも施されていて、ウルトラマンの科特隊を思わせるレトロな未来感のセンスだ。この色彩感覚はスポーティーなのかポップなのか、どう解釈するのが正しいのかよくわからない。
ステアリングホイールの真ん中には、本来のコーポレートカラーであるチェリーピンクに彩られたSTIロゴが輝く。メーターパネルはくっきりとした濃いブルーの照明だ。センターのエアコン操作スイッチは、オレンジの3連リング。色彩の百花繚乱(りょうらん)で、コックピットはにぎやかな装いだ。
エンジンを始動させると、カラフルワールドとは別の表情をのぞかせた。クルマの後方から野太い音が響いてくる。外で聞いてみると、威嚇するような音色だ。運転席にいても、エコカーに乗っているという気分にはまったくならない。エンジンは同じでも、STIのスポーツマフラーが装着されていることで音質が変わっているようだ。大径の迫力あるデザインだが、見た目以上に音が印象的である。
走りだしても常に排気音が聞こえている。少しアクセルを踏み込んだだけで、重低音はさらにボリュームを増した。まわりの誰もこのクルマがハイブリッドだとは思わないだろう。調子に乗ってさらに踏んでいくが、劇的な加速が得られるわけではない。パワーユニットに変更はないのだから当然なのだが、音のわりには速くないと感じてしまう。街なかではマイルドな乗り味で、ジェントルにしつけられている。
専用パーツがもたらすリニアな運転感覚
STIが目指したのは、操舵に対する車両の挙動が遅れないようにし、リニアな運転感覚をもたらすことなのだ。ボンネットを開けると、STIのロゴが入ったフレキシブルタワーバーが目に入る。これが操縦性を高めているのだな、と得心する。ほかにも専用のダンパーやスプリングを採用するなど、きめ細かいチューニングが施されている。その結果、操舵に対する遅れを約15%、ロールレートを約6%、ピッチレートを約8%低減しているのだという。入念な調整は、運動性能と危険回避性能、さらに乗り心地も向上させるためだ。
数値をそのまま実感することはできないが、高速道路での高い安定性がSUVらしからぬレベルなのは確かだ。わずかなステアリング操作で気持ちよくコーナーを抜けることができ、下半身がしっかり路面をとらえる感覚がスポーティーだ。飛び抜けた加速性能はなくても、身のこなしのよさでドライバーを高揚させる。
困ったのは、カラーリングのせいで悪目立ちすることである。バックミラーにブルーとオレンジが迫ってくるのが映ると、とてつもない高性能車が追いかけられていると思ってしまうのだろう。普通におとなしく走っているのに、何度も道を譲られたのには閉口した。
山道を走っている時は、実際よりボディーが小さく感じられる。大きなロールもなくキビキビとした動きを見せるので、背の高さは忘れてしまう。試乗した河口湖付近には路面に大小の穴が開いている部分があり、うっかり上を通ってしまうとかなりの衝撃を感じた。路面の悪いところでは、特に後席の乗員は多少の我慢が必要かもしれない。
ハイブリッド<STI
スバルの看板である「アイサイト」はもちろん装備されている。今では各社とも先進安全装備を取り入れているから珍しくはなくなったが、久しぶりに本家のシステムに触れると熟成の深さを感じた。先行車に追随する動きに無駄がなく、加速の遅れは最小限だ。トロい制御でイライラさせられることも多いので、アイサイトの完成度が高いことを感じる。渋滞時には0km/hから機能する全車速対応型であることがありがたかった。
スバルXVハイブリッドtSは、普通のスバル車が持っている美点はすべて備えている。水平対向エンジンと4WDの組み合わせだから少々の雪や悪路でも走れるし、重心の低さを生かした安定したコーナリングを楽しめる。トータルの燃費が11.7km/リッターだったのはちょっと期待はずれではあったが、重いSUVなのだからまあこんなところだ。基本はエコで安全なクルマである。そこに特別感とちょいワル&ポップなエッセンスをまぶしたのがこのクルマだ。
エクステリアには、前に3つ、サイドに2つ、リアに1つSTIバッジが付けられている。対して、HYBRIDのバッジはサイド2つリア1つの計3つだけ。よく見たらマフラーやサイドステップにもSTIロゴが刻まれているし、運転席にはステアリングホイールとシートにもSTIの文字がある。ハイブリッドカーというよりも、STIカーなのだ。
エコカーだというエクスキューズを担保しつつ、モータースポーツのイメージを色濃くまとったモデルに乗れる。STIの開発したオリジナルパーツを使って細心のチューニングが行われているのだから、走りの性能は折り紙付きだ。ノーマルモデルに40万円強をプラスして特別なモデルが手に入るなら、生粋のスバルファン、STIファンはバーゲン価格だと感じるのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/撮影協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
スバルXVハイブリッドtS
ディーサイズ:全長×全幅×全高=4485×1780×1550mm
ホイールベース:2640mm
車重:1530kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4200rpm
モーター最高出力:13.6ps(10kW)
モーター最大トルク:6.6kgm(65Nm)
タイヤ:(前)225/55R17 97V/(後)225/55R17 97V(ヨコハマ・ブルーアースE70)
燃費:--km/リッター
価格:332万6400円/テスト車=390万6360円
オプション装備:ブラックルーフレール(4万3200円)/アドバンスドセイフティパッケージ<SRVD&HBA>(5万4000円) ※以下、販売店オプション STIスポーツマフラー(12万8520円)/ベースキット<ナンバープレートベース[2枚]+ナンバープレートロック+ドアバイザー+スプラッシュボード+フロアカーペット>(7万5060円)/パナソニックビルトインSDナビ(25万7040円)/ETC車載器(2万2140円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:416km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:402.8km
使用燃料:34.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/11.7 km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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