第493回:大矢アキオのジュネーブショー2017
オペル買収決定! プジョー・シトロエンは燃えていた!
2017.03.17
マッキナ あらモーダ!
アジアや中東にも向かうDS
第87回ジュネーブモーターショーが2017年3月7日に開幕した。近年のジュネーブ同様、今回もエクスクルーシブなスーパースポーツカーが多数披露された。
同時に関係者から注目されたのは、前日の3月6日にゼネラルモーターズの欧州事業買収を発表した(関連ニュース)、PSAグループの各ブランド(プジョー、シトロエン、DS)だった。
その中のひとつ、DSのブースを訪れると、話題の新型車「DS 7クロスバック」が展示されていた。欧州では「DS 5」の上位に位置づけられる、DSブランドの新たなフラッグシップである。
今回は、そのDSのマネジメントのトップにいろいろと話を聞くことができた。世界セールス&マーケティング担当のアルノー・リボー副社長は、DS 7クロスバックのセリングポイントついて「高いスタビリティーと、全長4.57mの中で実現した、優れた居住性です」と教えてくれた。
サイズ的にはCセグメントに属するということだが、ライバルはどのクルマなのか? その質問に対しては、「BMW X1」「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」「アウディQ3」と即座に答えた。さらに、メイン市場にヨーロッパ、中国、日本を挙げたうえで、イランにも近日、パリや上海同様、DS専用ショールームをオープンする予定であることも明かしてくれた。
イランと聞いて唐突な話だと思う読者も多いだろう。だが、現地のイラン・ホドロ社は、これまでもPSAと合弁で「405」や「206」の現地版を手がけ、2012年にイラン制裁発動でプジョーが撤退したあとも生産を続けていた。昨2016年には、PSAはイラン・ホドロ社と新たな提携契約を結んでいる。PSAとは縁の深い国なのである。
20年かけて取り組む覚悟
次に製品・ビジネス開発担当のエリック・アポード副社長にも話を聞くことができた。
まず、DS 7投入のポイントはどこにあるのだろうか?
「DSはフランス自動車メーカーで唯一のプレミアムブランド。DS 7クロスバックは、フランス唯一のプレミアムSUVであると言えます」
では、SUV市場における存在意義は?
「ドイツブランドとの違いが挙げられます。とくにインテリアには、ジャーマンとの違いを実感してほしい。そこにさらに、ハイテクノロジーを加えました」
たしかにDS 7クロスバックのインテリアは、2016年のジュネーブショーで発表したコンセプトカー「DS E-Tense」のモチーフを踏襲した、モダンかつゴージャスなものだ。
「アクティブLEDビジョン」と名付けられたDS 7クロスバックの3連ヘッドランプユニットは、照射角を最大180度変化させる。「DSアクティブスキャンサスペンション」は、カメラを介して路面コンディションを解析。瞬時にサスペンションの減衰力を調節できる。DSブランドは、ハイドロニューマティックを搭載した初代「シトロエンDS」の系譜を暗示している。
せっかくなので、DSブランド全体についても聞くことにした。DSは、中国市場で果敢に市場開拓を続けている。米国やドイツの合弁車が圧倒的なシェアを誇る中、若い世代をターゲットとして売るつもりなのだろうか?
「2016年は、中国で1万6000台のDSを販売しました。新世代の中国人ユーザーも、当然視野に入れています。世界の他の地域でDSの顧客の平均年齢は45~55歳なのに対して、中国市場は35歳と若いのです」
アポード氏は、販売方法についても語ってくれた。
「ライバルとの価格競争や値引き競争に参戦するつもりはありません。レクサスや、プレミアムブランドとしてのアウディを考えてみてください。これらのブランドも、認知されるまでに最低20年が必要でした。DSもまた、じっくりと取り組んでいきたいと考えています」
そして、日本においてもDS専売ショールームを2都市で開店予定であることを明かした。
うわさの社長も登場!
インタビューのあと、前述のリボー氏は、DSブースの一角に設置されたタッチスクリーンを誇らしげに見せてくれた。オプションを選んでページを繰ってゆくと、最後に予約ができる仕組みだ。
ハイテクノロジーを掲げるDSは、こんなかたちでも表現されている。そのうち、アマゾンが“日用品の繰り返し購入”をねらって導入したような「ダッシュボタン」がDSブースにも導入され、申し込んでしまう人が増えるのではないか? などと予想するのは筆者だけだろうか。
やがて、PSAグループのカルロス・タバレスCEO(58歳)がブースを訪れ、記者たちとの一問一答が始まった。質問の内容は、冒頭で記したゼネラルモーターズ欧州事業(オペルおよびヴォクスホール)の買収決定に終始した。
赤字体質が続いた欧州GMの買収に関して、「メアリー(筆者注:ゼネラルモーターズのメアリー・バーラCEO)とは以前から面識がありました。ただ、今回の件で話し合いを始めたのは数カ月前からです」などと経緯を語った。
そのうえで、「ゼネラルモーターズを否定することはない。生産性を向上し、別の次元のプロフィタビリティー(profitability:収益性)を目指します」と述べた。
今のオペル/ヴォクスホールの状態については「4年前のPSAと同じ」と定義。その裏に、ルノーから瀕死(ひんし)の状態だったPSAに移籍し、2015年に4年ぶりの黒字転換を実現した自らの手腕への自信がうかがえた。
組織に関しては、「すでにオペルのディーラー協会の会長にも会い、1.生産計画の順守 2.フルEV化も含むクリーンエネルギー車の開発推進 3.ブランドポジションを変えないことを明言しました」とも語った。PSAとオペル/ヴォクスホールのエンジンを共用することに関しては、「さまざまな要素を考えなければならない」と答えた。
ちなみにタバレス氏は、統合によって大きな問題となる、PSAおよび欧州GM事業の従業員年金の調整にも取り組んでいくとのことだ。
Go,Go,Go!
加えてタバレス氏は、「有能な人材をふさわしい場所に配置し、若者も積極的に起用します」と発言した。従来のオペル/ヴォクスホールのブランディングを踏襲するとしつつも、「セグメントに関しては、私はリミットを設けない」とも語った。
リミットを設けないというポリシーに関連して、会見の最後をこう結んだ。「スタッフにはこう言いたいのです。まずはビジネスプランを提案しなさい。そして、それがプロフィタブル(profitable:収益性が高い)なら、Go,Go,Go! だ、と」。
フランスで泣く子も黙る高等教育機関グランゼコール出身。かつ自動車業界では、現場中の現場であるテスト・エンジニアからスタートしたタバレス氏。会見の間、プロフィタビリティー/プロフィタブルという言葉を繰り返し用いた。その一方で、自身が「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」に出場した際、とてもナイスな「オペル・カデットGT/E」を見た様子を語った。そして「将来オペルのヒストリックカーでラリーに出るのか?」という記者の質問に「Why not!」と即答するなど、エンスージアスティックな一面が垣間見えたのが印象的だった。
その彼が病めるオペル/ヴォクスホールをどのように復活させるのか、そして既存のPSA 3ブランドとどのような差別化を打ち出していくのか、お手並み拝見といこうではないか。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、大矢麻里<Mari OYA>、ゼネラルモーターズ、webCG/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの 2025.10.16 イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。
-
第931回:幻ですカー 主要ブランド製なのにめったに見ないあのクルマ 2025.10.9 確かにラインナップされているはずなのに、路上でほとんど見かけない! そんな不思議な「幻ですカー」を、イタリア在住の大矢アキオ氏が紹介。幻のクルマが誕生する背景を考察しつつ、人気車種にはない風情に思いをはせた。
-
第930回:日本未上陸ブランドも見逃すな! 追報「IAAモビリティー2025」 2025.10.2 コラムニストの大矢アキオが、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」をリポート。そこで感じた、欧州の、世界の自動車マーケットの趨勢(すうせい)とは? 新興の電気自動車メーカーの勢いを肌で感じ、日本の自動車メーカーに警鐘を鳴らす。
-
第929回:販売終了後も大人気! 「あのアルファ・ロメオ」が暗示するもの 2025.9.25 何年も前に生産を終えているのに、今でも人気は健在! ちょっと古い“あのアルファ・ロメオ”が、依然イタリアで愛されている理由とは? ちょっと不思議な人気の理由と、それが暗示する今日のクルマづくりの難しさを、イタリア在住の大矢アキオが考察する。
-
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー― 2025.9.18 ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。