ロータス・エキシージ スポーツ380(MR/6MT)
リアルな怪物 2018.02.01 試乗記 ロータスの製品群の中でも、より走りを突き詰めた「エキシージ」が“380”に進化。より強力になった3.5リッターV6スーパーチャージドエンジンと、さらなる軽量化が図られたボディー、それに合わせて最適化の図られた足まわりが織り成す走りに触れた。タイヤサイズからクルマの特性を読み解く
ミドシップもふくめて、リアエンジンのロードカーはまず例外なく後ろのほうが重たい。かつ、駆動輪は(4WDの場合は主駆動輪は)リア2輪。ということで、リアタイヤのサイズ≒キャパシティーをデカくするのが基本、お約束である。駆動トルク(往々にしてキョーレツ)とバネ上質量とを受け止め支えながら、かつ旋回時にフロントより先にグリップが限界に達してはいけない……とすると、それは当然そうなる。タイヤにおけるデカさは、まずもって幅のデカさ。あと外径も。リアエンジン車はリアタイヤをデカく。それが一番わかりやすいのは、例えば70年代のF1カー。ロードカーではないけれど。
ゲンカイうんぬんのはるか以前に、リアエンジン車においては旋回時、後輪の横グリップがグッと強まるタイミングをできるだけ、フロントエンジン車の場合よりもさらに早くしておきたいというのもある。ということで、タイヤサイズ的には偏平率をヨリ偏平に。専門的にいうと、CP(コーナリングパワーの頭文字)をヨリ高く。縦軸がCF(コーナリングフォースの頭文字)、横軸がスリップアングルのグラフを作ったとき、線の傾きがヨリ“立っている”ように。
あえていってしまえば、これらは向きを変えにくくするのとだいたいイコールである。せっかくのリアエンジン車でなぜそんなことをするかというと、そうしておかないとマジで危ないから。速さのためにはそうする必要が、ともいえる。
今回のエキシージ スポーツ380のタイヤサイズは、フロントとリアがそれぞれ215/45ZR17と265/35ZR18である。幅でいうと、フロントに対してリアは5サイズのアップ。偏平率は、もちろん数字の額面的にはマイナスになっているわけだけど、45→35は2サイズのアップとカウントする。あと、内径の17→18は1サイズのアップ。合計すると、5+2+1=8サイズ。筆者の試乗記によく出てくる某サスペンションのプロフェッショナルに教えてもらった数えかたである。「厳密なやりかたではないですが、目安にはなりますよ」(談)。
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これだけの“サイズアップ”には理由がある
ということで参考までに紹介すると、出てからしばらくそうだった「ポルシェ・ボクスター」の素のモデルのタイヤの標準サイズは205/55R16と225/50R16で、前後格差は3サイズ。リアが3サイズのアップ。いまのリアエンジン車界においてはこれがたぶん最低ラインで、じゃあ現行モデル=「718ボクスター」の素のやつはというと235/45ZR18と265/45ZR18で、ということはやはり3サイズ違い。再びじゃあ同「S」はどうかというと、235/40ZR19と265/40ZR19でまたもや3サイズ……しか違わない。へぇ~。
これらがどう目安かというと、ごくわかりやすいところで、ひとつには前後重量配分。簡単にいうと、ボクスターは(リアエンジン車にしては)50:50に近い。それと、最近もそういってるかどうかアレだけど、同車がポルシェ的には「プロムナードカー」であること。プロムナードカー。雑に訳すと、お散歩グルマ? 「だからこの程度のサイズ格差でいいのです」ということになろうか。
同じボクスター系でも「リアルスポーツカー」の度合いがググッと高い、例えば「ケイマンGT4」は、245/35ZR20と295/30ZR20で6サイズ違い。ついでに調べたら、911のGT2 RS(700psのリア2輪駆動車)は265/35ZR20と325/30ZR21でリアが8サイズのアップ。ただしというか、後輪操舵機構つき。旋回時等においてリアタイヤの向きをグイッとトーインにすると、車両運動力学の教科書的にはそれは「リアタイヤの幅を拡大したのと同等かそれに近い効果が……」とかナンとかいうことになる。なっている。
今回のエキシージ スポーツ380も、GT2 RSと同じくリアタイヤが8サイズのアップ(ただしもちろん、後輪操舵機構はついてない)。同じエキシージの「カップ380」はリアがさらに3サイズだけアップする(285/30ZR18)。ということは、フロントに対して都合11サイズのアップ。筆者が調べたなかでこれは最高記録。一番近いところで「ランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4」(縦置きリアエンジンで700psで4WDの頭文字)の10サイズ違いというのがあった(255/35ZR19と335/30ZR20)。ロータスのテストコースのサーキットのラップタイムがスポーツとカップとで1周あたり何秒違うのか知らないけれど、タイヤ(というかシャシー側)で明らかに速くするためにはそれだけのサイズアップがリアにおいて必要だったということである。
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エンジンの違いは公道ではわからない
エキシージ380のガチ競合車というかロータスがガン見しているのは、フツーに考えて、ケイマンGT4を筆頭とするボクスター系の一番速い(あるいはトクベツに速い)ヤツらであろう。同じエキシージの350系とはOE装着タイヤの銘柄というかメーカーが違って、これはフツーに考えて、サスペンションのチューニングもあらためて380用にやったということである(もっというと、エキシージが出た当初といまとではチーフテストドライバーが別の人間になっている)。
車名の違いでもある350と380。エンジン最高出力における30psの違いや同最大トルクの10Nmの違いは、フツーに運転しているとわからない。350と380の2台を同じ日に乗り比べたり速度や加速タイムを計測したりすれば違いは明白かもしれないけれど、筆者としては「誤差の範囲」としか書きようがない。というか、おんなじ。スポーツモードとか、やってないし。ハードウエア的な一番の違いは、過給器を駆動するプーリーのレシオの違い。もちろん、380のほうがギュンギュン回す。
350と380。車重1.2t未満に対して3.5リッター+メカニカルスーパーチャージャー、ということではどっちもまあ同じ。これが例えば「スバル・ヴィヴィオ」(車重600数十kg)のエンジン違い、ヨリ具体的には0.66リッター自然吸気のキャブレター仕様と電子制御フューエルインジェクション仕様との比較であれば、速さの違いはすぐわかる。誰でもわかる。スーチャー付いていないどうし、額面上はホンの数psの差であっても。
車重1.2t未満に対して3.5リッター+スーチャーだから動力性能はヨユーありまくり。それは大筋そのとおりアタリマエで、ただし街なかでキレイにコロがすには少しテクがいる……かもしれない。エンジン回転をロクに上げずに次のギアへ、みたいな運転をしていると(動力性能的にはそれで楽々だからそうしていると)、ギアチェンジの際にギクッとしがち。もっというと、特に1→2のアップがそう。こんなかっこいいクルマをコロがしていてそういうことだと、隣に座っている人の手前、かっこわるい。1人で乗っていても、うれしくない。
マニュアル変速の正しい取り扱い方法をここで詳しく説明することはしませんが、コツはアクセルペダルの操作。調整。クラッチのつながりが切れてからのアクセルペダルの踏み込みの戻し量を控えめにすることを意識しながらやると、スムーズにいきます。
ホンモノの速さを体験できる
ついつい、イタズラゴコロでベチャッと踏み込む。料金所の出口とか機会を見つけては、これ幸いと猛ダッシュ。弱い犬ほどよく吠(ほ)える。そういうチャラいことをしたい気持ちにさせないのはエキシージのいいところ。「アンタ、ホントに踏むのか?」とクルマがいってくる感じ。踏む、ということで踏むと、ちょっと血の気が引くくらいの加速をする(もちろん、どのギアで踏むかにもよりますが)。オドカシ系じゃないマジな速さがヌーッと顔を出す。鳴門の渦潮にのみ込まれていくかのような。なお、この380も始動直後の一発はすごく吠える。ガロオォン!! あまりにけたたましくて、そのガロオォン!! がおさまった直後は「エンストか!?」と疑うくらい静かに思える。タコメーターをみると、エンストしてない。
運転席からの眺めはほとんどまんま「エリーゼ」で、ただし後ろにはそういうどう猛そうなヤツがいる。エリーゼのメインフレームにエヴォーラのリアまわりというと少しかもっと正確さを欠くことになるかまたは説明不十分ではあるけれど、エキシージとはごくザックリ、そういうクルマである。少なくとも、「エヴォーラのショートホイールベース版がエキシージである」というよりはずっと正しい。
だからやはりというか、乗った感じもふくめて、これはバケモノっぽい。あるいはモンスターっぽい。そういうかっこよさというか、フツーじゃないスゴみがある。エリーゼを起点に考えたら、エンジン排気量は約2倍。しかもスーチャーつき。たとえとして妥当かどうかちょっとアレだけど、プリンス-日産の「R380」が「日産R381」に進化(?)した……みたいなイメージを筆者はエキシージに対してもっている。そんな物件をフツーに公道上で運転できちゃうのがこのクルマの萌えどころだし、そう考えると値段もごく安い(はっはっは)。
今回の試乗は、いわばバケモノでお散歩したのに等しい。血の気の引くような加速を体験した何秒間か以外は、スピード的にもGフォース的にも、「スズキ・ジムニー」を運転したときと大して違わなかった。ジムニーじゃなくてもいいけど、要はほぼいつもどおりフツーに運転したということである。途中ホッタ君が運転した100kmぐらい(かもっと?)もコミで、借りてから返却するまでに372.7km走って満タン給油33.53リッター。割り算すると、約11.1km/リッター。
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ダンパーがきちんと役目を果たしている
乗り心地に関しては、いいニュースと悪いニュースとがある。悪いニュースのことから先に書くと、微振動というか細かい震えが気になるときがあった。半ばかもっとあてずっぽうで、20Hzぐらいだったろうか。原因は路面なのか速度なのか車体なのか、とにかくそれが出るとせっかくの快適さが残念なことになる。出ていないときは、かなり気持ちイイ。高速道路を巡航しているだけでウットリできる。タイヤのクッションやダンパーのダンピングがバッチリ効いてくれているのがすごくナマっぽくリアルにわかるというのが、その気持ちよさのありよう、中身である。
ダンパーのことをショックと呼ぶ人もフツーにいて、その「ショック」は「ショックアブソーバー」の省略形。エキシージに乗っていると、ダンパーがショックアブソーバーであることがよくわかる……ような気がする。モノチューブダンパーならではの減衰の応答のよさ。場合によってはそれがガツガツしたカタさとして気になることも一般的にはあるのだけれど、今回のエキシージに関しては主にかもっぱらか、アブソーバーな感じだった。サスペンションのストロークに対してスッと、あるいはギュッと、ブレーキをかける。たしかにというか、これだったらシートにはクッションなどロクすっぽなくていい。人間の体がもっているクッション性能のよさもよくわかるし。
エキシージの乗り心地が気持ちイイなあと思いながら、筆者は野球のグローブ(で野球のボールをキャッチするときのこと)を想像していた。思いだしていた。特に硬式だとそうであることに、痛いときは痛い(それはもうハンパなく)。でも考えてみたらあれはすごいことで、なぜかというと、まだしもわかりやすくそれらしいショックアブソーバーは2枚貼り合わせのレザーぐらいしかないから。もちろん人間の手のひらのクッション性能や腕の動きもあってなんとかなってはいるのだけれど、天然素材の偉大さよ。すごく痛いときだって、それで手のひらがどうにかなってしまうわけではない。十分、効いている。ショックがアブソーブされている。野球のグローブの内部にスポンジかゴムかのクッション材を詰め込んだら痛みは減るだろうけれど、でもそれと引き換えに補球プレジャーやキャッチングインフォメーションはかなり残念なことになると思われる。余談でした。
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大事なのはどれだけ正確にハンドルを操れるか
ただしエキシージ、あるいはエリーゼもふくめてなのか、シートの取り付けにガタ(動きとしてはピッチング方向)があるのは減点要素。乗っている間じゅう常に気になるわけではないけれど、少なくとも発進のときは気になる。個体の問題ではないとしたら、なにか対策を考えたい。自分が買ったクルマなら、スライド機構をナシにしてボルトで固定してしまうというテも……あんまりないな。それをやると、低くない確率で乗り降りがジゴクなことになる。そういうクルマだから、ステアリングホイールの径がちっちゃいのはファッションではない。
ステアリングホイールが小径であることにくわえてエキシージは重ステである。フツーに運転しているぶんには、それで別に困らない。これが重すぎて困るという人は、ひとつには据え切りを多用していると思われる。そうではなくて「ハンドルが重たい!!」の場合、その人はもしかしてフロントのタイヤに性能の上限かそれに近いところまで仕事をさせてのコーナリングをやりまくったのかもしれない(どれだけハードに旋回したかによってハンドルの重さに対するコメントが違ってくるクルマとしては、かつての「ホンダNSX-R」あたりがちょっと有名みたいである)。
腕力……というよりは、操作力。ハンドルが重くても、重くなっても、どれだけ正確に、かつ必要なときにはちゃんと素早く回すことができるか。それで速さの上限が決まってしまうクルマもある。たかが“AE86”のノーマル物件(のしかもロック・トゥ・ロックが3.5回転とかの、つまりギア比がスローなほう)程度であっても、重ステだと走らせるペースがゆっくりになる。少なくとも筆者はそうである。ハンドルを正確に回せる速さの上限がペースを決めている。またちょっと余談でした。
よりディープに楽しみたい人向けのオプションも
エキシージの曲がり方面。いわゆるゲンカイはすごく高いのであろうけど、さっきも書いたとおり、そんなのは試していない。あくまでフツーに運転しただけで、でもその範囲の印象でいうと、ロータス感はある、と思う。ハンドル操作に対するハナ先の動きの感じは、いわゆるレーンチェンジスペシャル系(ちょっときっただけでピッとスルドく反応するけれど、でも、そこから先は……なタイプ)の反対っぽかった。釣りざおのしなりかたでいう、先調子と胴調子。英語だと、ファストテーパーとスローテーパー。それになぞらえると、エキシージの曲がりの感じは胴調子=スローテーパーっぽかった。
要は、「これ、曲がんねえよ!!」といわれにくいタイプ、ということである。というかむしろ、たぶん、すごく曲がる。ヒラヒラと、ではないかもしれないけれど、グイーンとは曲がる。その意味で「ロータス感はある」。もし今回、筆者のためにエンジニアがついてくれていて「このセッティング、どう?」とそのエンジニアに聞かれたら、「こんなにグイーンと曲がってくれなくていいです」と答える。それに応えてエンジニアがサスペンションのセッティングをどう変えてくれるか。フロントの車高を上げるとか? フロントの低速の圧側の減衰を高くするとか? あるいは、フロントのバンプタッチのタイミングを早めにするとか? いかにも詳しぶって書いているけど、わかりません(笑)。わかりませんが、ココロとしては「もっとハンドルをいっぱいきって曲がる感じがいい」ということで。あるいは、「クルマがもっと積極的に真っすぐ状態に戻りたがる感じがいい」ということで。
そういうことをやって楽しみたい場合、手っとり早いテとしてはオプションの「トラックパック」(税込み64万2600円、カップには標準)を選ぶ。と、「ナイトロン製2ウェイアジャスタブルダンパー」と「フロント/リア アイバッハ製アジャスタブルアンチロールバー」がつく。で、その場でいろいろやれる。たぶん車高調整も(いわゆるネジ式のタイプだろうから)。スタンダードの仕様だとダンパーはビルシュタインの減衰力固定タイプで、前後のスタビもノット調整式。それでも、やろうと思えばやれることはある(その場でチャチャッとはムリなこともふくめて)。ただしもちろん、その場合はその方面のプロの人に仕事をお願いすることになるわけですが。
(文=森 慶太/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ロータス・エキシージ スポーツ380
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4080×1800×1130mm
ホイールベース:2370mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:380ps(280kW)/6700rpm
最大トルク:410Nm(41.8kgm)/5000rpm
タイヤ:(前)215/45ZR17 91Y/(後)265/35ZR18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:1123万2000円/テスト車=1233万9000円
オプション装備:メタリックペイント<メタリックシルバー>(17万2800円)/エクステリアカラーパック(60万4800円)/インテリアカラーパック<レッド>(10万2600円)/アルカンタラステアリングホイール(6万4800円)/フロアマット(3万2400円)/クラリオン製CD/MP3/WMAオーディオ(2万1600円)/アルカンタラシルカバー(4万3200円)/アルカンタラベントサラウンド(6万4800円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3464km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:372.7km
使用燃料:33.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)
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