フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントTDIハイライン
ディーゼル戦線異状あり 2018.03.05 試乗記 クリーンディーゼルエンジンを搭載する「フォルクスワーゲン・パサート」が、いよいよ日本上陸。その乗り味にはどんな特徴があるのか、ワゴンの上級モデル「パサートヴァリアントTDIハイライン」に試乗して確かめた。メーカーの気合が伝わってくる
これはかなりスポーティーカーである。というのが、走り始めての第一印象だった。正直、ビックリした。意外の元凶は、こう申し上げてはフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)にケンカを売るようだけれど、ま、お買いにならないとは思いますが、ならないでほしいのですけれど、ボディーサイドにドーンと貼られたTDIのステッカーにも一因があった。カッコ悪くないですか。
もちろん担当者の心情はわかります。排ガスの浄化システムの不正ソフトウエアをめぐる「ディーゼルゲート」の危機を乗り越え、待望久しいTDIがついにやってきた! 日本市場における輸入車のディーゼル比率はここのところ2割を超えている。モデルによっては半数以上だ。販売の現場としてはまさに「待ってました!」だったろう。
しかるに本国から送られてきたTDIは、ガソリン1.4リッターのTSIと外見上、なんにも変わらなかった。なぜ変わらないかといえば、TSIとTDIはガソリンとディーゼル、違うのは燃料だけの、同じ1枚のカードの裏表、あるいは色違い、みたいなモノであることに意味があるからである、お互いにとって。21世紀のクリーンディーゼルと、ガソリン直噴ターボはそういうイメージづくりがなされている。
されど、少なくともキャンペーン用のクルマにTDIと書いておかなければ、いったいどうしてこのクルマがTDIだと知らせることができましょうぞ、と時代劇みたいなセリフまわしではいわないだろうけれど、VGJの担当者は憤慨されるに違いない。もし、おことが担当者であったら、いかに対処しましょうぞ。それに、である。売り物には貼ってないのであるから、気にする必要はみじんもござらん、TDIのステッカーは。というようなやりとりを書いていると長くなるだけですけれど、申し上げたかったのは、繰り返しになるけれど、パサートTDIはスポーティーな仕立てである、ということである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
見た目は意外に控えめ
さる2018年2月14日のバレンタインデーに発売になったTDIの日本仕様は、パサートのセダンと同ヴァリアント(ワゴン)の2ボディーで、「エレガンスライン」と「ハイライン」の2種のグレードが設定されている。
今回webCGが借りたTDIはヴァリアントのハイラインで、車両価格は509万9000円。ガソリンの1.4 TSIにもヴァリアントのハイラインはあって、そちらは474万9000円。ということは、35万円お高くなっている。しかし、そのことは外見からは判断がつかない。TDIのバッジすらない。だからTDIと大書したステッカーを貼りたくなっちゃったのですねー。しつこくて、すいません。
例えば、リアスポイラーは「Rライン」や「GTE」と同じ形状で、スポーティヴネスを強調している。のだけれど、このスポイラー、いまどきにあっては控えめで、筆者の目は留まらなかった。
気になったのは、同じリアでも、ルーフではなくて、下の方だった。エキゾーストはデュアルパイプになっているのだけれど、ごく控えめで、むしろ隠しているようにも見える。新世代ディーゼルのEA288型ユニットは、190ps/3500-4000rpm、400Nm/1900-3300rpmという強力な最高出力&最大トルクをディーゼルにしては高めの回転域で生み出すというのに……。これが環境という名の重い十字架を背負っている宿命なのでありましょうか。
筆者の目は次に、235/45R18の大径偏平タイヤとホイールに照準が合った。400Nmという、自然吸気のガソリンエンジンだったら4リッターV8並みのトルクをフロントのタイヤは路面に伝えねばならない。間違いなく重責である。銘柄は「ピレリP7」ならぬ「チントゥラートP7」。これはピレリ初の“グリーンパフォーマンスタイヤ”であるという。ちなみに「Cinturato」とはイタリア語で「ラジアル」を意味する。
2つの性格が交じりあう
でもって、ドアを開けてハッとしたのは、ウッドがダッシュボードに貼りめぐらされていることであった。これぞハイラインの証しだ。シートはナッパレザーで、サイドのサポートが、乗り降りに不便なことはまったくないけれど、かなり張り出していて、見た目はスポーティーである。そのくせ、このシートにはヒーターやベンチレーション、マッサージ機能までついている。
じつのところ筆者は迷っていた。ハイラインはラグジュアリー&スポーティー仕様だとして、いったい旦那仕様なのか、走り屋仕様なのか? エンジンもかけていないのだから、わからんのは当たり前である。
で、シフトレバーの横の控えめなシルバーの丸型ボタンを押してエンジンを目覚めさせると、ドカンと駆動系が微妙にひと揺れする。燃料をスパークプラグではなくて、圧縮によって自然着火させるディーゼルの爆発力=トルクの大きさを予感させる。
Dレンジに入れて走り始めると、軽くアクセルを踏んだところで、いきなりグワッと前に出る。乗り心地は硬めだ。パサートはエレガンスライン以上のグレードには「ドライビングプロファイル機能」が標準装備される。つまりTDIを選ぶと標準で付いてくる。ノーマルからスポーツにモードを切り替えるとエンジンと6段DSGはメリハリをくっきりとさせ、乗り心地が若干硬くなるような気すらする。アダプティブシャシーコントロール“DCC”は、テスト車のハイラインには付いていないというのに。
頼もしい相棒
EA288型はディーゼルにしては回りたがる。さすが新世代である。タコメーターのレッドゾーンは4000rpmの半ば以上から始まっている。「可動式ガイドベーン付きターボ」という過給機が組み合わされている。これはエンジンの回転数に応じてターボチャージャーのタービンのガイドベーンを制御し、低速では開口面積を小さくして排ガスの流速を上げ、高速では開口面積を大きくして抵抗を減らすことで過給効果を高める。図で見ると、可変ジオメトリーターボのことのようである。ターボラグを減らすのに効果的で、ドライバビリティーと燃費を向上させる。
得意なのは街中での加速だ。ごく低回転、EA288型は1900-3300rpmのあいだで2リッターの排気量から前述400Nmもの大トルクを発生するわけだけれど、むしろアイドリングの750rpmぐらいから1900rpmに達するまでのトルクの盛り上がり感のほうがスゴイ。イッキに駆け上がる。龍(りゅう)が天に昇るがごとし。見たことありませんけど、ビュワッといく。一瞬、フロントが持ち上がる。
100km/h巡航は6速トップで1600rpmと、近頃の多段化を鑑みると、ちょっとギアが低めかもしれない、いまどき。扱いで肝心なことはガバチョと踏まないことだ。中間加速時のレスポンスではガソリンエンジンに軍配が上がる。街中でも高速でも、ゆったりした気分でドライブする。ディーゼルに乗っていると、おのずとそういう気分になることもまた確かである。今回は試していないけれど、ハイスピードで延々と走り続けるとき、ディーゼルほど頼もしい相棒はない。
居住空間も荷室も広い。こういうクルマを目一杯使い倒すようなライフスタイルを送りたいものである。いずこかに隠れ家があって、というような……。
というわけで、フォルクスワーゲンによき実用車がまた加わった。輸入車のディーゼル戦線はますます熾烈(しれつ)になるに違いない。こうなると、日本のメーカーはどうするんだろう……。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントTDIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1830×1510mm
ホイールベース:2790mm
車重:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/3500-4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:20.6km/リッター(JC08モード)
価格:509万9000円/テスト車=529万3400円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<ダイナミックライトアシスト+アラウンドビューカメラ“Area View”+駐車支援システム“Park Assist”+デジタルメータークラスター“Active Info Display”>(14万0400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(5万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:238.6km
使用燃料:16.3リッター(軽油)
参考燃費:14.6km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?