スバル・フォレスターX-BREAK(4WD/CVT)
大黒柱は目立たない 2018.09.19 試乗記 5代目「スバル・フォレスター」に試乗。パッと見は「どこが新しくなったの?」という感じのキープコンセプトだが、中身はさにあらず! 派手さはなくてもユーザーの使い勝手を徹底的に考慮した、真摯(しんし)なクルマに仕上がっているのだ。販売の初動はちょっと鈍め
今回は、先日の『webCG』のコラムでも「どこかパッとしない」なんて書かれてしまった新型フォレスターに試乗した。
webCG的にいうと、新型フォレスターはなぜか、反響が「パッとしない」のだという。ネット界隈(かいわい)では、スバル車は総じて人気の高いコンテンツであり、フォレスターは同社の世界販売のじつに3分の1を占める超大黒柱。そんなフォレスターが5年半ぶりに刷新されたというのに、ネット記事の閲覧数がいまひとつ伸びないのだそうだ。同コラムでは、その理由を渡辺陽一郎さんが考察しておられた。
では、ネット記事の閲覧数ではなく、新型フォレスターの実体の売り上げはどうなのか。スバルの発表によると、この9月13日までの国内受注累計は1万3282台だった。同車の国内月販計画が2500台だから、この数字は「月販販売計画の5倍超え……で、大変好調なスタート」というのがスバルの公式見解である。ただ、新型フォレスターの国内受注は5月18日に先行予約を開始しており、今回の9月13日時点までには約4カ月が経過している。まあ、その受注期間と販売店への実車配備のタイミングがずれたこと、さらには、現時点でいちばん人気というハイブリッドの発売はさらに遅く、この期間にお客が実車を確認できなかった……といった点を差し引く必要はあるにしても、4カ月での累計を1カ月にならせば約3320台。計算上は“月販計画の1.3倍強”ということになる。
それに対して、2016年秋にデビューした「インプレッサ」の場合、発表1カ月時点で早くも月販目標の4倍以上の1万1000台超(月販目標は2500台)を受注した。さらに、新型フォレスターの競合車となりそうな例でみても、2017年2月発売の2代目「マツダCX-5」のそれは約7倍(月販目標2400台に対して1カ月で1万6000台以上)、2016年末発売の「トヨタC-HR」にいたっては8倍(同じく6000台に対して約4万8000台)を記録している。
さらにいうと、実質的な発売初月となった今年8月における新型フォレスターの登録台数はC-HRはおろか「日産エクストレイル」にも僅差で及ばなかった。ネット界隈での注目度うんぬんを横に置いても、国内市場における新型フォレスターの初動が鈍いのは事実のようだ。
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買い得感のある入門グレードがない
新型フォレスターの初動が鈍かった理由は複数あるだろう。一般メディアがいちばんに指摘しそうなのが、昨年10月に発覚して以降、まるで新型フォレスターの発売に合わせるかのように次々と明るみに出た「完成検査問題」である。ただ、それは新型フォレスターの登録台数が発売初月から、同じスバルのインプレッサにも負けている理由にはならない。
さらに、渡辺さんが指摘した「新旧でデザインの変化が乏しい」や「事前情報の小出し作戦が裏目に出た」、あるいは、「ターボエンジンの用意がない」といった点も、多少は不利に働いたのも事実だろう。ただ、個人的にはターボの有無というよりも、純粋な2リッター車の用意がないことの影響が大きいのではないかと推察する。
新型フォレスターの国内仕様には4つのグレードがあるが、現時点で全体の4割を「アドバンス」が占めているという。新型フォレスターのパワートレインは、このアドバンスだけが2リッターハイブリッドで、ほかの3グレードはすべて2.5リッターとなっている。
ご承知のように、日本ではハイブリッド以前に2.5リッターより2リッターのほうが税負担が少なく買い得感がある。新型フォレスターのアドバンスは2リッターではあるが、そこにハイブリッドだけでなく、安全装備その他の付加価値を上乗せして、意図的に最高価格グレードという位置づけとしてある。
つまり、国産CセグメントSUVの大半が手頃なエントリー商品として2リッターを用意するのに、新型フォレスターには、それに相当する入門グレードが存在しないのだ(先代にはあった)。こうした「日本で直感的に選びやすいバリエーションがない」のも、このクルマの初動を鈍くした一因かもしれない。
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キープコンセプトには理由あり
前置きが長くなったが、今回の試乗車は、そんな新型フォレスターの「X-BREAK」である。
アドバンスではないのでパワートレインは必然的に2.5リッターとなり、ご覧のように内外装は昨今ハヤリの“エクストリームスポーツ”系の若々しいセンスでまとめられる。そして、4グレード中で価格は下から2番目という設定からも想像されるように、スバルとしても、このX-BREAKを日本での最大の売れ筋に……という思惑がうかがえなくもない。
さて、新型フォレスターのスタイリングは、なるほど写真では先代と区別しづらいが、ある意味では、それも当然である。
直近でこそ少し鈍化したが、ここ数年のスバルの業績は絶好調で、その最大要因が北米市場にあるのは有名だ。今のスバルは全販売台数の6割以上(!)を北米に依存する。
もっというと、スバルの売上高が明確な回復基調に転じたのは2012年のことだが、この年にデビューしたのがほかでもない先代フォレスターである。以降、フォレスターはスバルの生命線たる北米販売の4割を占める屋台骨となり、モデル末期でも北米での販売台数はほとんど落ちなかった。つまり「現在のスバルの好業績の源泉は先代フォレスターである」といっても過言ではない。
新型フォレスターはそんな歴史的成功作の後継機種。キープコンセプトこそ常道であり、下手にイメチェンするほうがリスキーだ。
すでにお気づきの人もおられるだろうが、新型フォレスターの実物は、写真で見るより明確に新しい。とくにドーンと幅広く四角いヒップラインは先代とは明らかにちがう。
それこそが開発陣が新型フォレスターで最重視したキモである。「好評だったデザインテイストや車体サイズはできるだけ変えずに、しかし室内空間や使い勝手を大幅改善して、それをデザイン的な視覚効果でも色濃く匂わせる」のが今回の商品企画の意図。その是非はともかく、そのねらいはかなりのレベルで達成されているように思う。
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走りのよさはカテゴリー屈指
荷室は新型フォレスターの技術ハイライトのひとつで、1300mmという驚異の開口幅が売り。これもまた開発陣のねらいどおり、ひと目で想像力をかき立てる商品性で、便利で使い倒せるSUVを望む向きには、これだけで決意させるキラーアイテムにもなりえる。
ほかにも後席空間は先代比でハッキリと広くなって、「レガシィ アウトバック」と同様のリアドア開口部のステップも、ルーフレールを使い倒したい派には目からウロコだろう。さらに、ベルトラインの低いサイドウィンドウやボンネットの峰が見やすいスタイリングなど、スバル伝統の視界や車両感覚のよさにもぬかりはない。こうした使い勝手への真摯さは、地味ではあるが新型フォレスター最大の美点である。
新型フォレスターの走りは、インプレッサに続いて、いかにもSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)らしいものがある。高速でもコーナーでも上屋はフラットに安定して、前後Gや路面の凹凸をバネ下だけで吸収して、しかもステアリングはぴたり正確……という自動車ダイナミクスの理想像に、国産SUVではもっとも近づいた一台といってもいい。
ただ、そのぶん、グリップ感などは少し希薄になってもいるが、(まだ試乗できていない新型「ホンダCR-V」をのぞけば)同クラスSUVでは、あらゆる場面でもっとも姿勢の乱れにくいクルマだろう。競合車ではちょっと気合を入れざるをえない荒れたコーナーも、フォレスターは「今なんかありました?」的な涼しい顔でシレッとやっつけてしまう。そこにはSGPの基本能力に加えて、緻密な4WDトルク制御の恩恵もありそうだ。また、普段はロードノイズが気になるザラついた高速路面でも、新型フォレスターは静かに滑るようにクルージングする。
走りの違いはオールシーズンタイヤにあり
このX-BREAKを含む2.5リッターの3グレードのハードウエアは、サスペンションのチューニングも含めて共通という。そのうえで、X-BREAKは室内でははっ水ファブリックのシート表皮、外装では17インチのオールシーズンタイヤ……など、よりアウトドア志向の専用装備が与えられる。
ちなみに、国内仕様のフォレスターでオールシーズンを履くのはX-BREAKのみで、ほかの3グレードはすべてサマータイヤだ。
別の機会でのクローズドコースでの試乗経験も合わせると、今回のような舗装路の試乗でも、乗り心地、静粛性、俊敏性、グリップ感、直進性……のすべてで、個人的にもっともバランスがよく、高い完成度を感じたのはX-BREAKである。低速域の衝撃あるいは特定のコーナーでの限界性能など、ピンポイントでは他グレードのほうが好印象のケースもなくはないが、総合力ではやはりX-BREAKが一歩抜きんでている気がしてならない。
この点については開発担当氏も「好みにもよるでしょうが、そう感じられる人がいても不思議ではありません」とおおむね賛同してくれた。氏によれば、開発当初は要求性能を満たすオールシーズンタイヤがなかなか見つからなかったが、最終的にブリヂストンでも比較的新しい「エコピアH/L422プラス」にたどり着いた。「試してみたら、これが期待以上のいいタイヤでした」と開発担当氏は笑う。
まあ、正式な市販モデルを同じ条件で比較したわけではないので断定はしづらい。しかし、専用のはっ水シートの肌ざわりもいいし、前記のとおり内外装の仕立てがもっとも今っぽいX-BREAKは、現時点ではもっとも魅力が分かりやすいフォレスターだとは思う。
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販売テコ入れ用の隠し玉(?)も
今回から日本でも2.5リッターを主力に据えた理由を、開発陣は「フォレスターの車格と動力性能、そして燃費をバランスさせると2.5リッターがベストだから」と説明する。
その主張は、なるほど乗れば納得である。そもそも乗用車は余裕あるトルクでゆるゆると走らせるほうが疲れにくく、背高で重いSUVはさらにその傾向が強い。
実際、北米で売られる同クラスのSUVは2.4~2.5リッターが当たり前で、国内では同種エンジンの設定のないエクストレイルやCR-Vも、北米では2.4~2.5リッターを主力とする。
それに、新型フォレスターはシャシーも“どんな仕事もシレッと涼しい顔でこなす系”なので、あらゆる負荷を小さめのアクセル開度でこなせる大排気量自然吸気と、そもそもマッチングがいい。また、この「FB25」エンジンは過給を想定しないショートストローク型で、今回は初めて直噴化された。余裕の排気量によるトルクと軽快な吹け上がりが両立しており、単体でも味わい深い。これで燃費性能も先代2リッターと遜色ないのだから、少なくとも理屈としては、日本でも2.5リッターを否定する要素はほとんどない。
唯一注文をつけるとすれば、多くのドライバーが常用するはずの「Iモード」における加減速が、もう少しリニアであってほしいとは思う。そっち方面で優秀な競合車に対して、新型フォレスターは街中や都市高速でのフットブレーキを使う頻度が少し高い。これはある意味で重箱のスミだが、シャシーや4WD、パッケージレイアウトなど、ほかの部分の完成度がやけに高いゆえに、こういう細かすぎる不統一感がよけいに気になってしまうのだ。
いずれにしても、新型フォレスターはスバルにとってはとてつもなく重要な基幹商品であり、その性能や設計のひとつひとつが開発陣がねらったところにピタリと落とし込まれている。前記のとおり実物は写真以上に新しいし、日本で人気のアドバンスの納車が本格化して口コミが出回りはじめれば、国内販売がさらに加速する可能性はある。いずれにしても、新型フォレスターは「パッとしない」と断ずるには、あまり惜しいクルマだ。
あと、北米では2.5リッターのみ、国内でも現時点ではそれに2リッターハイブリッドが加わるだけの新型フォレスターだが、グローバルでは(純粋な)2リッターが存在しないわけではないらしい。日本でのテコ入れの最終手段もまだ残されてる?
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
スバル・フォレスターX-BREAK
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4625×1815×1730mm
ホイールベース:2670mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:184ps(136kW)/5800rpm
最大トルク:239Nm(24.4kgm)/4400rpm
タイヤ:(前)225/60R17 99H/(後)225/60R17 99H(ブリヂストン・エコピアH/L422プラス)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)、13.2km/リッター(WLTCモード)/9.6km/リッター(市街地モード:WLTC-L)/14.6km/リッター(郊外モード:WLTC-M)/16.4km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:291万6000円/テスト車=322万9200円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(3万2400円)/キーレスアクセス&プッシュスタート<暗証コード式キーレスエントリー付き>+運転席&助手席8ウェイパワーシート+運転席シートポジションメモリー機能+リバース連動ドアミラー+ドアミラーメモリー&オート格納機能(10万8000円)/アイサイトセイフティプラス<運転支援>(5万4000円)/アイサイトセイフティプラス<視界拡張>(6万4800円)/パワーリアゲート(5万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1764km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:239.7km
使用燃料:23.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。