マツダ・ロードスターRF VS(FR/6MT)
広く愛されるために 2018.11.02 試乗記 パワートレインの出力向上や運転支援システムの強化など、大幅な改良を受けた「マツダ・ロードスターRF」。雨雲の下でのドライブを通し、ハードトップを備えた“快適仕様”なロードスターの意義について考えた。いいトコ取りか、どっちつかずか
2018年6月に行われたマイナーチェンジから少し間が空いてしまったので、おさらいをしておこう。最大の変更点はパワーユニットである。ソフトトップ用の1.5リッター直4自然吸気エンジン「SKYACTIV-G 1.5」は、環境・燃費性能を高めながら最高出力を1psアップの132ps、最大トルクを2Nmアップの152Nmとした。リトラクタブルハードトップのロードスターRF用2リッター直4自然吸気エンジン「SKYACTIV-G 2.0」のスペック向上は、さらに目を引く。最高出力は26psアップの184ps、最大トルクは5Nmアップの205Nmとなり、最高回転数は700rpmアップの7500rpmに達する。
ほかにも先進安全装備のアップデートや内装色の追加などがあるが、装備面でうれしいのは歴代ロードスター初となるテレスコピック機構の採用だろう。走りを楽しむには、正しいドライビングポジションをとることが第一歩となる。
走りのよさを打ち出しているロードスターだから、スポーティーグレードの「RS」が注目されるのは当然だ。ビルシュタイン製ダンパーやフロントサスタワーバーが標準装備されるなど、足まわりが強化されたモデルである。ただし、試乗したのはRFの「VS」というグレード。足まわりには手が入っていないものの、上質な装備が与えられている。MTのみのRSと違ってATも選べるが、用意されたのはMTモデルだった。パワートレインは全グレード共通なのでパワーアップの恩恵は等しく享受できる。強力なエンジンと充実した装備にメタルトップの高い居住性が加わったいいトコ取りのお得モデルだ。ネガティブな考え方をすれば中途半端でどっちつかずということになるが、実際はどちらだろうか。
街なかでも高速道路でも快適
試乗日は朝から小雨がぱらつく天気で、ルーフを閉めたままスタート。外から見ると、知らない人はミドシップだと勘違いしてしまいそうだ。構造上の理由からフルオープンを諦めたことで、この美しいファストバックのスタイルが生まれた。やむを得ない選択だったわけだが、結果的には魅力的なエクステリアデザインを得たのだからOKである。念入りにワックスをかけてあったようで、雨粒がきれいな水玉になって光るのがきれいだった。
運転席に収まって前を眺めると、見慣れた光景が広がる。インテリアはソフトトップ版と何も変わらない。ただし、顔を上げるとしっかりとした屋根が目に入る。クーペそのものだ。クラッチをミートして走りだせば、明らかな違いに気づかざるを得ない。ロードスターの1.5リッターユニットは高回転を好む仕様で、日常領域ではあまり力強いとは言い難いのだ。0.5リッターアップのアドバンテージはすぐに実感できる。加速にもどかしさを感じることはないし、十分なトルクを生かしてズボラ運転を決め込むことも可能だ。
だからといって、スポーティーさが増したということでもない。回転はストレスなく上がっていくが、聞いていて気分が高揚するタイプのエンジン音ではなかった。実直にパワーを供給してくれるから、街なかでも高速道路でもストレスなく走れる。雨を気にする必要はないし、すこぶる快適だ。ダイレクトなシフトフィールを感じながら走るのを楽しめる上に、実用性だってある。
もちろん、2シーターオープンだから一定の不便さはガマンする必要がある。脱着式のカップホルダーは、どこにセットしても使いにくいことこの上ない。グローブボックスすらないくらいで、荷物の置き場には困る。1人乗車ならいいが、2人乗るとカバンはシートの後ろに置くことを強いられる。救いは、トランク容量にソフトトップモデルとほぼ同じ127リッターが確保されていることだ。
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スポーティネスより安心感
ハードトップを備えた上にエンジンも大きくなっているのだから、ソフトトップより車両重量は増加している。軽快感が薄まっているのは仕方がない。山道を走っていても、ひらりひらりという身のこなしではないと感じる。非力なエンジンのパワーを懸命に引き出そうと汗をかきながら走るソフトトップモデルとは異なる運転感覚だ。速さでは上回っているのかもしれないが、スポーティーさよりは安心感が優先されているように思えた。
ロードスターは久しぶりだと思っていたのだが、そういえば半年ほど前にちょっとした変わり種に乗っていた。ホイールベースを600mm延長した超ロングノーズバージョンである。不確かなステアリングフィールと落ち着かない乗り心地に戸惑ったことを思い出す。VSはノーマルの足まわりだが、しっかりしたロードホールディングとステアリングに感じる正確なインフォメーションは格別だ。ロードスターはショートノーズに限る。当たり前だが。
雨が上がったので、屋根を下ろすことにした。ダッシュボードのボタンを押すと、ハードトップは3分割されて後方に収納される。10秒と少しで変身は完了。フルオープン形状にはならないものの、開放感は上々である。安楽で実用的なクーペと爽快感のあるオープンをわずかな時間で切り替えることができるというのはありがたい。
雨が降ったりやんだりで何度も開け閉めを繰り返したが、さして面倒とも感じなかった。路肩に寄せて停車したら短時間で作業は完了する。10km/h以内ならば動いていても開閉可能ということで、試してみたら問題なく作動した。昔のオープンカーでは雨が降るたびに後方からホロを引っ張ろうとして肩を痛めそうになっていたのだから、テクノロジーの力は偉大だ。
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美質を受け継ぎ、ゆるさも備える
1989年にデビューしたロードスターは、しばらく途絶えてしまっていたライトウェイトスポーツの系譜を復活させたことで世界的な反響を呼んだ。わざわざFRのプラットフォームを新設計し、走りの楽しさを徹底的に追求した意欲作である。高い評価を受けたのは当然だが、技術オタクや走り屋だけに支持されたわけではない。モデルチェンジを繰り返して4代目となり、2016年には累計販売台数100万台を達成している。広範なユーザーから愛されていなければ、モデル寿命は短かったはずだ。
軽量化よりも居住性が重視されたロードスターRF VSは、走りを極めたスポーティーカーとはいえないだろう。そもそも、ロードスターのメインのお客さんが求めるのはそんなハードなクルマではない。十分なパワーがあって快適に走れることが大切なのだ。ソフトトップをやめた訳ではないのだし、頑丈なハードトップで耐候性を高めたモデルの設定は、プラスの意味しかない。重量増で失われた軽快さの分を埋めてなお、お釣りがくる。
シャシーを共用する「アバルト124スパイダー」のATモデルに乗ったことがある。豪快で突き抜けたキャラクターはイージードライブのATと相性がよかった。今回のロードスターRFは、スペック上はその124スパイダーよりさらにパワフルな心臓を持つ。ならばやはりATが最適なのかというと、そうともいえない。パワーでは上回っても、イメージはおとなしめである。
ATでもよさそうな気がするが、ロードスターはマニュアルで乗りたいという気分のユーザーも多いのだろう。カリカリのチューンで乗りこなすのに高度なテクニックを要するのなら話は別だが、ロードスターRF VSはズボラな運転も許容してくれる。試乗の帰りにうっかり渋滞にハマったが、それほど苦には感じなかった。ロードスターの伝統的な美質を受け継ぎながら、ゆるさも備えている。中途半端というのは悪口ではない。VSは全方位に目を向けて作られたモデルなのである。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダ・ロードスターRF VS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車重:1100kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:184ps(135kW)/7000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:15.8km/リッター(WLTCモード)
価格:365万0400円/テスト車=357万4800円
オプション装備:6スピーカー(-7万5600円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:2346km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:816.2km
使用燃料:59.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.4km/リッター(満タン法)/13.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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