第538回:ロサンゼルスモーターショーを現地リポート
カリフォルニアで戦う日本とドイツの意気込み
2018.12.09
エディターから一言
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アメリカの中でも特に巨大な市場規模を誇るカリフォルニア。そこで毎年開催されるのがロサンゼルスモーターショーだ。さまざまな自動車文化を受け入れる“懐の深い”大都市で催される自動車ショーの様子を、日本やドイツのメーカーの取り組みを交えて紹介する。
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実際に街を走って知識と実感をすり合わせる
2018年11月26日から12月9日にかけて開催されるロサンゼルスモーターショー(以下、LAショー)を取材した。いきなり私事で恐縮だが、実のところLAショーの取材は初めてだ。それどころかカリフォルニアも初めて。それもあって、正直、なめていた。「LAはしょせんローカルショー。今回、見るべきものは『マツダ3(日本名:アクセラ)』くらいだろうな」と思っていたのだ。ところがフタを開けてみれば、ドイツや日系のブランドが意外なほどに力を入れており、見どころ満載のショーだったのだ。
今回、人生初のカリフォルニア&LAということで、クルマを借りてあちこちを走り回ってみた。街中だけでなく、海沿いのハイウェイから、ワインディングロード、そしてメキシコとの国境までのロングドライブなどをこなし、そこでようやく頭の中の情報と実感とをすり合わせることができた。
まず、カリフォルニアだ。南北に1200kmあり、東西にも400kmほどある。カリフォルニア州ひとつで、日本の国土面積を上回っている。そこに4000万人弱の人が住む。ロサンゼルスという町ひとつで、東京23区の2倍ほどのサイズ。ただし人口は400万人にすぎない。それでもアメリカの中では人が密集する大都会だ。
国土が広いものだから、道路だって余裕のサイズ。だからクルマだって大きい。フォードの看板モデルであるピックアップトラックに「F-150」がある。日本人目線で言えば、巨大なピックアップトラックである。それが過去数十年、アメリカで常に一番売れているクルマなのだ。アメリカの中央部に行けば、そうしたピックアップトラックだらけになるという。
さまざまなクルマを受け入れる“懐の深さ”
しかし、大都市がひしめくカリフォルニアではバカでかいピックアップトラックばかりではない。小さなクルマも走っている。トヨタの「ヴィッツ」も見た。また、韓国ブランドのコンパクトカーもたくさん走っていた。テスラもどっさり。上海や北京と同じくらいという印象だ。「日産リーフ」や、燃料電池車の「トヨタ・ミライ」までいた。
また、セダンが意外に多い。そこで健闘するのが日系モデルだ。ただし、メルセデス・ベンツやBMWといったプレミアムブランドの存在感も大きい。お金持ちエリアに行けば、ポルシェやランボルギーニといった、スーパースポーツを驚くほどたくさん見ることができた。「MINI」や「フィアット500」、マツダの「MX-5(日本名:ロードスター)」といった趣味性を感じさせるクルマもけっこう走っていた。
とにかく、高いものから安いものまで、大排気量ピックアップトラックから電気自動車まで、大衆コンパクトからスーパーカーまで、なんでもあるのだ。ただし、ここまで多様性が高いのはアメリカでもカリフォルニアだけだという。つまり、他のエリアは、ピックアップトラックや普通のSUVやセダンばかり。電気自動車や欧州プレミアムカー、スーパースポーツカーなどは、やはりカリフォルニアが最も多く売れるエリアだというのだ。
カリフォルニアひとつの州だけでも市場が大きく、これだけ多様なクルマを受け入れる懐の深さもある。そんな地で開催されるのがLAショーというわけだ。
かの地で気を吐くドイツ勢と日本勢
正直、規模はそれほど大きくはない。ジュネーブや東京と同じほどであろうか。出展の主な顔ぶれは、アメリカに日本、ドイツ、そしてイタリアなどだ。
その中で、今回特に気合が入っていたのがドイツ勢だろう。その筆頭がポルシェだ。今回彼らは、フルモデルチェンジした「911」をLAに持ち込んだ。サーフボードを載せた初代モデルを一緒に展示するのがカリフォルニアならでは。世界で最も911がたくさん売れるのがカリフォルニアで、そこで新型をお披露目するというのだから力が入って当然のことだろう。他にも、BMWは新型車「X7」とコンセプトカー「ビジョンiNEXT」を、アウディは「e-tron GTコンセプト」を、メルセデス・ベンツは「AMG GT」のマイナーチェンジ版を世界初披露。ドイツ勢だけでいえば、先だってのパリモーターショーよりも、よほど見ごたえのある内容だった。
日系メーカーの目玉は、やはり新型マツダ3だ。マツダのラインナップ全体が新世代に切り替わる、そのトップバッターとなるモデルだけあって注目度は抜群である。ちなみに、マツダからのリリースには、どこにも「アクセラ」の文字がない。マツダ広報に日本名のことをたずねてみれば「適切な時期に発表します」とのこと。否定しないということは、日本導入時にはマツダ3と呼ばれることになるのかもしれない。
他の日本勢の話題といえば、「トヨタ・プリウス」のマイナーチェンジと「カローラ ハイブリッド」のデビューだ。デザインに変更が加えられたプリウスは、4WDモデルの市場投入も現地向けのアピールらしい。ミニバンの「シエナ」とあわせて4WDをそろえることを、誇らしげにうたっていた。
“アメリカ化”を受け入れることで市場に受け入れられる
また、日本勢は新型モデルというよりも、日本にないアメリカ専用のピックアップトラックやSUVが数多く存在するのが見どころだ。トヨタでいえば展示スペースの3分の1が、そうしたピックアップトラック&SUVのコーナーとなっていた。「タコマ」や「4ランナー」といった北米向けモデルを見てみれば、そうしたラインナップの末席に新型「RAV4」があるのがよく理解できる。デザインテイストが一緒になっているからだ。
同じように日産ブースも北米向けの専用車が数多く並ぶ。高級ブランド、インフィニティの軸足は今もって北米だし、同じような存在としてホンダにもアキュラがある。これは、いわば日本車のアメリカ化だ。頑固なまでに自己のスタンスを守り押し通そうという欧州ブランドとは異なるアプローチだが、こうした柔軟性があるからこそ、日本ブランドはアメリカで成功できたのだろう。
ちなみに地元アメリカブランドは「元気がないな」という印象だった。フォードやゼネラルモーターズは、展示スペースは広いものの目新しいものがないし、テスラは驚くほどブースが小さい。FCAが発表した「ジープ・ラングラー」のピックアップトラック版「グラディエーター」が最大の目玉だったのではなかろうか。個人的には、ベンチャーであるRIVIANに心引かれた。大型SUVの電気自動車で、2020年には市販したいとか。テスラに続く存在になるのか、今後に注目していきたいと思った。
こぢんまりとしつつも、日本勢やドイツ勢が力を入れたLAショー。「世界へ発信!」ではなく、「カリフォルニアで勝負」というスタンスだが、それはそれで、なかなかに興味深い内容であった。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。