ニッポンのモーターショーはまだまだやれるはず!
幕張の熱気の中から 東京モーターショーの未来を思う
2019.01.21
デイリーコラム
活況だった東京オートサロンの陰で……
展示車両は906台、3日間の総来場者数は33万0666人と、ともに過去最多を記録したという東京オートサロン2019。webCG編集部も、金曜のプレスデー、土曜の一般公開日と、2日にわたって会場を取材。来場者にもまれてその熱気を満喫した。「自動車趣味はすっかり斜陽」なんていわれているご時勢に、これだけ人を集められるのだから、いやはやたいしたイベントである。いや、「すっかり斜陽」なんて評価自体が部外者の思い込みだったのかも? こりゃあ4月の「オートモビル カウンシル」が楽しみだわい。
展示の内容については、すでに沼田 亨氏による詳細なリポート(その1・その2)が公開されているので割愛するとして、現場で記者が一番感じたのは、“イベント”としてのオートサロンの破壊力だった。人混みの中を押し合いへしあいしながら、人の欲望をむき出しにしたようなカスタムカーや、目のやり場に困るお姉さま方にばんばんカメラを向ける。真面目な人からしたら目を背けたくなるようなイベントかもしれないが、規制や規範の逸脱なくして、この恍惚(こうこつ)や解放感は得られまい。要するにお祭りなのだ。かつて、同じようなカーショーながら、イベント性を排し、お姉さんとも距離をおいたスペシャルインポートカーショーなる催しがあったものの、人が集まらずについえてしまった。ただ“見る”だけでは、もはや人は飽き足らないのだ。
もちろん、記者は展示されるカスタムカーの魅力を否定するものではない。近所のショールームでは触れられない、インターネットをいくらあさっても知ることができない、チューニングカーやドレスアップカーの生のスゴみ。これこそがオートサロンのご本尊であり、多くの来場者に会場まで足を運ばせる原動力。“おみこし”なくして祭りはありえないのである。
……と、なんでイベント終了から1週間も過ぎてこんなコラムをしたためているかというと、オートサロンの活況を見るにつけ、どうしても心配になってしまうイベントがあるからだ。そう、東京モーターショーである。皆さん覚えてます? 今年は東京モーターショーの開催年ですよ。
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“新しい取り組み”が見えてこない
個人的に、日本のジドーシャ業界は、良い面でも悪い面でも、世界的に一歩先を行っていると思う。90年代以降の東京モーターショーで見られた来場者&展示規模の縮小は、ひところは中国の伸長と日本の衰退の象徴みたいに言われていたが、いまやパリやデトロイト、フランクフルトなどでも見られるようになった。結果として、各国のショーはおのおのに独自の試みや新しい役割を模索するようになっている。一方で、われらが東京モーターショーはどうだろう?
前回の東京モーターショーにおいて、いまや時の人である日産自動車の西川廣人氏(当時は日本自動車工業会=自工会の会長だった)は、開催前の記者会見で「数字上の規模ではなく、展示の質を上げることでイベントのイメージを向上させたい」と語り、終了後の定例会見で「クルマ離れが進む中、できるだけクルマに興味を持ってもらう取り組みに力を入れた」と述べたそうな。実際に会場に足を運んだ皆さんは、どの辺にその“取り組み”を、“質の向上”を感じただろう?
……こんな風に問うていることからもお察しの通り、記者は別段それを感じなかった。別にヒドいショーだなんて思わなかったけど、2011年、2013年、2015年とは違うものを発見できなかったのだ。最も心を奪われたのが(脇役であるはずの)二輪関連の展示だったという取材の記憶に、自動車メディアの端くれとして、一抹の寂しさを感じてしまう。
自工会は東京モーターショーのために各メーカーの社員で構成されるクロスカンパニーチームを組織しており、そこには顔見知りの広報さんが少なからず在籍している。ので、こういうことを言うのは非常に心苦しいのだが、言わせてください。実感できない、記憶に残らない取り組みなんて、やってないのと一緒だよ!
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2017年のお台場で感じた寂しさ
2017年の東京モーターショーの開幕に際し、ジャーナリストの山口京一氏はコラムにおいて「高邁(こうまい)な理念の前に、ショービジネスに徹することが存続の道だと思う」と述べている。僭越(せんえつ)ながら、記者もホントにその通りだと思う。
趣旨の違いとか主催団体の性格とかを理解した上で言わせていただきますが、東京オートサロンと東京モーターショーの一番の違いは、“イベントとしての面白さ”だ。オートサロンのようなお祭りにはできない以上、東京モーターショーのそれは、運営側や展示者サイドの“仕掛け”にかかっている。かつて年かさの先生方は、2011年のトヨタの“ドラえもんブース”をバカにし、2017年のヤマハの告知ページ“ニャマハ”を、「展示で勝負しろよ」と鼻で笑っていたが、来場者を楽しませる試みって、そんな風に軽んじられていいものなの?
もちろん、展示内容で勝負するのは大事……というかそれが本筋だし、近年来場者数が右肩上がりの東京モーターサイクルショーのように、それで成功している例もある。過去に取材したロサンゼルスモーターショーでは、「ジープ・ラングラー」の圧倒的なパワーにそれを思い知らされた。軍服のおっさんから年端もいかない子供まで、皆がラングラーを取り囲んでいたのだ。「日産GT-R」に「トヨタ86」「スバルBRZ」「ホンダS660」など、日本にだってパワフルなクルマがなかった訳ではない。が、2017年のモーターショーではそうした目玉が確かに見られなかった。……いや、あったな。「カワサキZ900RS」とか、「ホンダ・モンキー125」とか。
日本の自動車産業のパワーはこんなもんじゃないはず
結局のところ、“魅力的な展示を集める”というショーの本分についても、イマイチ主催者の本気を感じられないのが東京モーターショーの現状なのだと思う。
なにせ、日系メーカーの中ですら「なんで○○の発表を東京モーターショーにしてくれなかったの?」という例が少なくない。コネクテッドでオートノマスでエレクトリックなコンセプトカーも結構だけど、それだけじゃおなかがすくわ。世界初公開のニューモデルや、市販化前提のガチのコンセプトカーなど、ワタシたちが身銭を切れる(かもしれない)夢を、もっともっと見せておくれ。自分たちが見せたいものをお仕着せ的に見せるのでなく、来場者が見たいと思うものを用意してほしい。海外のメーカーから集められないのなら、自前でやるしかない。そもそも皆、来場者の目を奪えるブツを持っているじゃないの。
2017年の東京モーターショーに「ジムニー」のプロトタイプを持ってこなかったスズキさん(ベアシャシーだけでもよかったのに……)、今年こそデカい花火を期待してますよ。そして、ホンダさんにはぜひ「ホンダジェット」を持ってきてほしい。なに? ホンダジェットはクルマじゃない? 細かいことは言いっこなしよ。海外のモーターショーでも“空飛ぶ自動車”がバンバン出展されてるじゃない。それに、「アジア圏を舞台にした、広範なモビリティーがテーマのモーターショー」、そんな未来像を夢見るのも悪くはないでしょう?
大事なのはアナタのやる気
ここまで、およそ2800文字にわたってひとり勝手に怪気炎を吐かせていただいたが、いまさら頭を冷やしてみると、そもそも“メーカー主体の自動車ショー”が世界的に岐路に立つ中で、主催団体の自工会は東京モーターショーをどうしたいのだろう? 現状でホントに納得してんのかね?
トヨタ、日産、ホンダ……と巨大メーカーが軒を連ねる日本の自動車産業は、世界的にも決してプレゼンスが低い訳ではない。海外サプライヤーの動向を見ても、ボッシュやミシュランなどの古株は言うまでもなく、近年ではネクセンやコンチネンタルタイヤといった面々も“おひざ元・ニッポン”での売り込みに力を入れている。2年に1度、そうした方面に自らの指針を発信する場として、東京モーターショーの役割は小さくないはずだ。また、日本車が非常に高いシェアを占め、現地生産も進んでいるインドや東南アジアの人も、日系メーカーの動向には興味があるはず。そうした地域の来場者に、より門戸を開くのもアリかもしれない。日本のショーではなく、東南アジアや南アジアのショーになればいいと思う。
いずれにしても、重要なのは畢竟(ひっきょう)自工会のビジョンと根性だ。最後にまた山口氏のコラムを引用させていただくと、「意志をもって行動できる旗振り役が、ショーの存在を高める上でいかに重要か。それは、デトロイトでも東京でも変わらない」である。
最後まで偉大なる先達(せんだつ)の言葉を借りてしまい、申し訳ありません。
(文=webCG ほった/写真=webCG、本田技研工業/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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